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支払われない有給休暇分未払い給与の請求方法、徹底解説!

『支払われない有給休暇分賃金を払わせる!裁判訴状の作り方』のアイキャッチ画像

「本やネットにある情報をもとに、しっかりと会社に有給休暇の取得申請をした。それなのに支払日にお金が振り込まれなかった!」とあなたは混乱していることでしょう。

あなたは『誰でも可能!有給休暇を全部消化し退職するための7ステップ『退職時に有給休暇消化を拒否された場合の実戦的反撃法!の両ページを参考に行動してくれたかもしれません。

大丈夫です。会社に対し取得申請をしたあなたであれば、請求の証拠は手元にあるはず。ここで紹介する方法に沿って行動を起こせば、きっと会社はあなたに対し賃金を払ってくれることでしょう。「支払われない」有給休暇分賃金を支払わせてやりましょう。

時には裁判になることもあるでしょう。でも『支払われない有給休暇分賃金を払わせる!裁判訴状の作り方』のページ等でしっかりと本人訴訟の仕方も説明しますので、希望をもって読み進めてください。

このページでは、会社が指定日に有給休暇分の賃金を支払わなかった時点から回収までの期間の取るべき行動を説明していきます。

マニュアルの大きな内容を明かしましょう。あなたにはまず「会社に催促→労働基準監督署に相談→内容証明郵便で請求→労働基準監督署に申告」という行動を薦めます。その行動をしても支払われない場合に、裁判を含めた対応をしていくのです。

各行動の具体的な細かいマニュアルは、別途ページを設けマニュアル形式で説明していきます。さあ、一緒にもうひとふんばりしていきましょう!

会社に催促のあと、労働基準監督署に相談

 支払われない有給休暇分の賃金を請求するための第一歩を踏み出しましょう。準備さえしっかりと行えば、請求方法自体は難しくありません。まずは行動を始めましょう。

 大まかな手順は、督促→労働基準監督署へ相談→相談したことをほのめかして再度督促です。

作業(1)会社に督促する

支払われているかの確認作業

給与支払日に有給休暇取得分の賃金が払われているかを確認します。賃金締切日をまたいで有給休暇を取得消化した場合は、支払いが、当月と翌月に分かれるのが一般的です。

在職中の労働者であれば、給料明細表を持参して給料計算を担当する部署(総務課・経理課など)に尋ねてみるといいでしょう。手違いがあっただけの可能性が高いからです。在職中の労働者に対する意図的な有給休暇未払い行為は、取得申請の際のトラブルがない限り頻繁に行われることではありません(不当解雇などと違い、即、労働基準法違反となるため)。

 支払いが翌月に渡る可能性がある場合は、当月分締切日までの有給休暇分が支払われているかを確認します。しっかりと支払われているならば、翌月の支払日まで待って、そこで残りの有給休暇分が支払われているかを再度確認しましょう。最初の支払月に支払われているならば、おおよそ次の月、残りの分も支払ってくれるでしょう。

督促

もし給与支払日に有給休暇分が支払われていない場合は会社に問い合わせをします。問い合わせは必ず電話で行いましょう。例えば、書面で問い合わせしても、意図的に無視されたら、証拠として残すのが難しいためです。

もしどうしても、電話をするのが怖いならば、すでに消化に入って会社に出勤してないことを利用して、内容証明郵便で督促します。内容は簡素で構いませんが、内容証明郵便を利用することは守ってください。普通郵便ですと、請求したことの証拠として利用ができません

緊張のあまり、電話口で伝えたいことを伝え忘れる失敗を極力減らすため、事前に、伝える内容を紙に書いて、電話をかけます。棒読みでも構いません。この段階では、会社に目立った反抗をしていないため、激しい口調で反論をされることは少ないでしょう。よって必要以上に緊張することもありません。

しかし、通話内容は必ず録音をしておきます。支払請求をした事実を、監督者や司法手続きで、文字起こし(反訳・はんやく)し物的証拠化して証明するためです。そこでの会社側の対応・態度によって、以後の請求手続きが平和的であるかそうでないかが予想できます。

※固定電話から会社へ電話する場合、携帯電話から会社に電話する場合は、それぞれ専用の録音機器が販売されております。よって、事前にこのような機器をそろえておきます。価格は2,000円弱から販売されております。

退職時に有給休暇を消化取得した場合を前提に、質問内容を説明しましょう。

『○○さん(給料支払担当部署の担当者など)、給料日を迎えましたが、〇月○日に取得請求した○○日分相当の有給休暇賃金が支払われていません。』

『○○さん、速やかに支払いをお願いします。』

これは証拠集めの作業となります。このように電話をすると、相手もこちらの名前を呼んで応答することになりますので、簡単に言い逃れはできなくなります。この録音は、後の 反訳書作成作業 の際に必要となります。

払う意思がない会社の場合、このような督促電話だけで支払ってくれることはまずありません。そうなった場合、監督署への相談と申告が必要となるため、申告手続き・司法手続きにおける担当官や裁判官を動かすために、物的証拠になり得るもの(書証・しょしょう)を残していきます。

作業(2)労働基準監督署の総合相談センターに行き相談をし、相談した事実を作り、申告の布石を打つ

ほぼ確実に「もう一度請求してみたら?」と相談員に言われるので、割り切っておく

有給休暇相当分の賃金が支払われていないことは、れっきとした労働基準法違反であります。よって、労働者の味方・労働基準監督官に助けてもらうことを多くの労働者は期待するでしょう。

しかし監督官はそうやすやすと助けてくれません。会社の住所地の管轄労基署の窓口に行って監督官に相談しようとしても、監督官には相談させてくれません。まず受付窓口にいる総合労働相談員に相談することになります。

監督官に助けてもらうためには、賃金未払いについて「申告書」を自ら作成し、それに必要記載事項を書いて監督官に提出する必要があります(これを「申告」という)。しかし相談員にかかると、申告することに待ったをかけられます。私は以下の言葉で水を差されました。

『もう一度、会社側に支払いを促した方がいい。』

『申告するということは、会社の経営者に刑事罰を与える重大なこと。できるだけ催促によって解決した方がいい。』

このような言葉で待ったをかけられ申告を阻まれたらならば、『分かりました。もう一度、監督署に相談した事実を伝えて、期限を区切って催促します。しかし、今度こそ支払われなかったら、申告をします。』といってその場を後にします。

そのようにしておけば、再度訪問した際に申告に難色を示されたら、『○月○日の相談時に、今度支払われなかったら申告します、といいましたよね。』と言って押し切りやすくなります。

未払い発覚後に監督署に行く意義は、相談した事実を作ることと、次回の訪問時に申告をしやすくすることの2点にあります。相談員に出鼻をくじかれる形となりますが、最初から「どうせ受け付けてくれない」と思って居れば、戦う意欲が削がれることはありません。

なゼ相談員は水を差すのか

監督官の仕事量増大に、一定の歯止めをかけるためです。総合労働相談員の設置理由について、建前ではいろいろな理由が挙げられていますが、本音は、人手不足が続く現場への配慮なのです。

監督官が動かない原因については、『「労働基準監督署が動かない」の原因』、動かないことの対策については、『「労働基準監督署が動かない」の対策』 参照。

総合労働相談所相談員となる人は、元会社人事総務課員・現役社会保険労務士である場合が多く、彼らは必ずしも労働者に寄り添うマインドを持っているわけではありません。

彼らも時給いくらであの場に座り、相談を受けているのです。監督署側の「仕事を増やさない」思惑に忠実にならざる得ないのは宿命であり、相談員らに期待はできません。事実、未払賃金・奴隷的拘束労働などの明確な労基法以外では、何らすることはありません。

※監督署によく持ち込まれるトラブル相談である「不当解雇」については、はなから「裁判で争う事例」として分類されているため、100%動くことはありません。

よって、この場のように、監督署は、「相談の事実を作ること」「未払賃金において申告した事実を作ること」の2点をもって、会社に心理的圧力をかける材料にのみ利用します。

作業(3)労働基準監督署に相談した事実を盛り込んで、内容証明郵便で支払いを促す

 労基署に相談後、間髪を入れず内容証明郵便にて支払い請求をします。文面には以下の内容を盛り込みます。

  • 労基署に相談してきたこと
  • 労基署において、今回の賃金未払いは労働基準法違反であると指摘されたこと
  • 賃金の支払い期限(○○日までに支払ってください、という文言)
  • 指定期日までに支払われない場合、労働基準監督署に申告する、などの法的手段を採るということ

 支払い無き場合は法的手段を採る、等の表現は、刑法上の「脅迫罪」にならないか、という心配は不要です。「脅迫罪」とは、他人を畏怖させる目的で、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告げて人を脅した時に成立するものであります。この場合、労働者は正当な権利の行使を目的として内容証明郵便にて会社側に告知しているだけであり、脅迫罪には当たらないことになります。

 PDFファイルはこちら。コピー等のうえご使用ください。

 有給休暇分賃金未払いの戦い場合は、サービス残業等の関わる割増賃金請求の戦いの場合と違い、労働基準監督署に相談したことをほのめかし、かつ未払い分請求の内容証明郵便の文中にも、申告する可能性を示します。サービス残業等の関わる割増賃金請求の戦いの場合は、監督署に相談した事実を知らせると、会社側が監督署の立ち入り検査に備えた証拠隠滅を行う可能性があるため、相談した事実も告げず、やむを得ない場合については「法的手段」としか書きません。

 有給休暇分未払いの戦いにおいて勝敗を決する最も大きな証拠は、有給休暇を請求したことの事実を証明する書類であり、おおかたその手の書類は労働者の手元にあるからです(言い換えれば、請求したことの事実を証明する書面が手元に無い場合は、監督署に行ったことを秘匿する)。

支払指定日までの間、現時点で取りうる訴訟に向けた準備を進めていく

 内容証明郵便において支払期日を定めた以上、その期間は会社側に新たな一手を仕掛けることはできません。しかしこの期間を利用して、しておきたいことがあります。それは、以下に挙げる作業です。

 これらの準備をしたうえで初めて、有効な訴訟戦略の構築をすることできます。

 請求金額の確定作業は、先にやっておくと、金額に見合った、労力の少ない解決手段を選ぶことができます。例えば、請求金額が60万円以下であることが分かったならば、民事訴訟ではなく少額訴訟を利用する選択肢も生まれるため、少ない労力で解決できる道筋が見えてきます。

 裁判する際、必要となる証拠物を提出する必要があります。この時点で作成できる書面があったらそろえておきます。音声データをもって相手方の不正を証明する場合は、反訳書(音声データを文字起こししたものです。)を作成しておきます。証拠書類を提出できるか否かは、司法手続きの結果を大きく作用する事項です。

 また、訴訟戦略を打ち立てるにしても、各司法手続きの長所・短所を把握しておかないと戦略の立てようがありません。把握した内容と上記の証拠書類の整理整頓を経て、やっと訴訟戦略の構築に進むことができます。

 それぞれの準備の仕方を詳しく説明していきましょう。

作業(1)請求する金額をはっきりとさせる

 まず、未払いとなっている金額をはっきりとさせます。未払金額を算定の上、自分がいくら請求できるか(請求するか)を決定します。

 未払金額をはっきりとさせるためには、あなたが有給休暇を取得した際に支払われる一日当たりの金額を把握することが必要となります。その金額さえある程度正確に抑えたならば、あとは、あなたが請求時に持っていた有給休暇日数を金額に乗じます。

 一日当たりの金額を算出する方法を知りたい方は、未払い賃金請求の際にも役立つ!有給休暇の賃金計算方法を参照にしてください。

作業(2)各司法手続きの長所・短所を把握する

 内容証明郵便で指定した日まで何もしないで待っていることはありません。請求する金額ははっきりとさせてあるため、ここでは司法手続きを利用するうえでの解決の道筋・戦略を考えていきます。そのためには、採りうる各司法手続きの特徴(長所・短所など)を把握する必要があります。

 把握した特徴をもとに、手続きの選択をしていきます。考えられる司法手続きは以下の手続きです。

調停(給料支払調停)

 調停員が労働者と会社の間に入り、互いの主張を聞きつつ双方が納得できるを案を見つけ、そこで和解することでトラブルを解決する司法手続きです。双方納得のうえの合意であるため、調停成立後の義務の履行(会社の支払い)がスムーズに行われることが期待できます(訴訟では、勝訴しても判決に不服な相手方が意地を張り支払わない事態も発生する)。訴訟などの手荒な手段を用いることに抵抗がある方に適した司法手続きです。

 調停の最大の欠点は、申立てを受けた相手方に参加義務が無いことです。参加しなくても相手方が不利になることはありません(訴訟や労働審判では出席しなければ原告・申立人の主張が通ってしまう)。応じなくても不利になることはないため、会社側が出席したくないと考えれば、話し合いもできないままに調停が終了する事態に陥ります。

 有給休暇賃金未払いのトラブルにおける調停の場合、妥協点が見つけにくいことも、顕著な問題点となります。双方が納得しなければ調停は成立しないため、どちらか一方が納得しなければ、調停は成立しません。有給休暇賃金未払い事例では、労働者側に譲歩の余地はありません。支払ってもらうか否かであるからです。会社側が労働者から有給休暇の申請が無かったなどと反論して譲歩しなければ、話は平行線になってしまいます。よって調停においても事前の準備が重要となります。

支払督促

 会社が有給休暇分賃金を支払うことは認めてはいるが、何らかの理由で支払いが行われない場合に効果的な手続きです。

支払督促を使う場合のメリット

 支払督促手続きは、裁判所に出頭して弁論したり、訴状を書いたり、準備書面を用意したり、証拠を提出したり・・・の必要がありません。よって「勝算は極めて高いが、裁判をしてまで己の権利を実現させることは面倒だし気が引ける」と考える労働者に適した手続きでしょう。

 例えば、会社が「支払うから待ってくれ」と言ってはいるが一向に支払う気配のないケースにおいて、裁判をしないで支払を促す場合に使います。支払督促をすることで会社が支払ってくれるならば、最短で最小の労力で結果を出すことになり、これは当手続きを選ぶ大きな魅力となります。

支払督促を選んだ際のデメリット

 例えば、会社が有給休暇分賃金を支払うことに対し合理的な理由を挙げて支払いを拒否しているような場合、審理のされない手続であるがゆえに支払督促に対し異議を申し立てる可能性が高くなります。※会社側が支払督促に異議がある場合は、支払督促定本の送達後14日以内に申し立てることができ、その後は通常の訴訟に移行することになります。

 なぜなら「審理がされない」=「会社側は、支払をしないことの言い分を主張することすらできない」ため、自身の主張をするために審理の為される通常訴訟へ移行することを希望する訳です。労働者が督促する金額が大きければ大きいほど、異議申立てをされる可能性は高くなります。

 よって、会社側が「有給休暇請求自体を労働者からされていないため支払う必要がない」というような最もらしい理由で支払拒否をしているような場合は、通常訴訟へ移行するリスクを十分考慮しつつ当手続きを採用するかどうか考えることがよいでしょう。

少額訴訟

 「少額訴訟」とは、60万円以下の金銭支払請求に限る、迅速をモットーにした司法手続きです。有給休暇分賃金未払トラブルにおいて、最も使いやすい請求手段として挙げられます。

 有給休暇分賃金未払請求事件においては、有給休暇残日数・一日当たりの「通常の賃金」の兼ね合いから、請求金額が60万円以下になる事件が多いためです。

少額訴訟のメリット

 長所は、何と言っても解決までの早さです。審理は原則1回で終了し、即日判決が言い渡されます。労働裁判の平均所要期間が半年前後である(事件内容にもよる)ことを考えると、この早さは、経済的資力に乏しい労働者にとって大きなメリットとなります。

 訴状も、簡易裁判所に備え付けの定型用紙があるため、それに従って記入していけば訴えを提起することができます。訴訟である以上証拠書類を提出しなければならないのですが、提出する証拠を説明するための「証拠説明書」は、訴状の作成に比べれば容易であるため、心配することはありません。

少額訴訟のデメリット

 短所は、解決までの早さを重視したことから生じます。少額訴訟当事者は、その判決内容に不服がある場合でも控訴はできません。できるのは、同じ審理場所に対する異議申し立てのみであります。異議申し立てをしてもそこで審理するのは同じ裁判官であるため、判決内容が覆ることはほぼ期待できません。

 その点、通常訴訟であれば、第一審の裁判官と第二審(控訴審)の裁判官は変わるので、事実認定の審理に際して新たな証拠を提出できる・主張の方法について有効な主張手段がまだ残されている場合等においては、裁判官が違うゆえに第一審の判決を覆すこともできます。

 また、少額訴訟を提起された被告に反訴で応じるという選択肢はありません。よって、原告が起こした訴訟内容で争うだけでは納得いかない被告は、通常訴訟への移行を希望することになります。少額訴訟を利用して問題を早期解決させたかった原告の思惑は、被告が反訴できないがゆえの制度の特色によって、かえって裁判終結まで長い時間を要することになります。

 よって、有給休暇申請を行った事実を立証し得る確かな証拠が存在するような勝算が高いケースにおいては、少額訴訟で請求することが効果的です。逆に、立証しうる物的な証拠に乏しい場合は、裁判(もしくは労働審判)においてじっくりと主張・立証し、頃合いをみて有利な条件で和解等に持ち込むという手段が効果的であると思われます。

労働審判

 1名の労働審判官と2名の労働審判員で構成された労働審判委員会が、個人の労働紛争について、原則として3回以内の期日を使って審理する短期解決志向の制度です。労働審判には、請求額の上限がないため、例えば請求額が60万円を超えてしまい少額訴訟が利用できなくても、労働審判を選択利用することで短期解決を試みることができるのです。

 この制度の特徴は、3回の期日の中で何度も「調停」が行われ、まとまらないと「労働審判」が下されることになります。実は審判中における「調停」に力が注がれている制度なのです。

 労働審判には「異議申立て」を行うことができます。異議申立てが行われると出された審判は効果を失い、通常の裁判に移行します。

労働審判の流れを説明する図

労働審判を活用することのメリット

 短期でトラブルが解決することは大きなメリットとなります。そして、強制参加の制度の中で多くの場合複数回「調停」が行われることは、最大のメリットとなります。

 短期で解決する実績を後押ししているのが、労働審判期日中に複数回行われる「調停」なのです。「調停でまとまらなかったら、最終手段として労働審判を出す」と相談者に説明する専門家までいるくらい、労働審判は調停で解決することを重視します。

 前掲の給料支払調停を申し立てても、会社側が参加してこない可能性があります(相手方が参加せずに打ち切りになる調停は多い)。その点、労働審判を申し立てすれば、会社側は労働審判期日に出席しなければ申立人の主張が通ってしまうため、参加せざるを得なくなります。

 多くの審判で、第一回目の期日で双方の主張を聞き、第2回目で調停による和解の試みをします(早い場合は、第一回期日の終了際に試みが行われることもある)。労働審判官と労働審判員は、双方が提出した主張書類と証拠を見ておおよその結果を判断し、それをもとに和解案を提示します。

 この第一回目の和解案は、この紛争において今後司法機関がどのような判断をするかを予想し得る資料となります。労働者に勝算がある事件であれば、労働者の主張を大幅に認めた和解案内容となり、そうでないならば会社側の主張に有利に働く和解案の内容となります。これは紛争における進退を決断するうえでの信頼できる材料となります。

労働審判を活用することのデメリット

 短期解決制度たる労働審判は、審理は原則3回まで、それも第一回目の審理に主張したいことすべてを主張・立証することが望まれるため、第一回目の審理に向けた準備を入念にしなければなりません。このように第一回目が極めて重要であるため、そこで失敗をすると通常訴訟のように後々の挽回が効きません。よって第一回目がうまくいくかどうか?の心理的重圧を味わうことになってしまいます。

 また、第一回目では、書面で分かりかねる事実に関して、審判官・審判員・相手方代理人および相手方から質問を受けたり、また労働者や労働者代理人が質問したりするため、通常訴訟よりも口頭でのやり取りが多くなってしまいます。口頭でのそういったやり取りが苦手な方には不安要素が強い手続きとなります。

 また、審判中の和解の試みが失敗した後の労働審判に対して、割と高い確率(全体の3~4割程度)で異議申し立てが行われることも大きな欠点であるといえます。これはどういうことかと言いますと、労働者側が審判内容で勝利しても会社側が異議申立てをして通常訴訟に移行したならば、結果的に解決まで時間がかかってしまう、ということです。よって長引かせたくないならば、ある程度の譲歩を要求される和解案に応じることになり、それゆえに不本意な合意が行われてしまう可能性が生じます。

民事訴訟(請求金額によって簡易裁判所か地方裁判所かに分かれる)

民事訴訟を活用することのメリット

 どのような内容を持つ労働事件でも、訴訟を最終手段として利用することができます。また、有給休暇分賃金未払請求事件では、未払金額と同額の「付加金」も一緒に請求できます(※付加金については、請求の意義も含めて別途詳しく説明します)。

 民事訴訟においては、本人尋問などの証拠調べを除いて、ほぼ書面(訴状・準備書面・証拠申出書・証拠説明書など)でやり取りすることになります。「書面で」となると難しそうですが、口頭で主張するのが苦手な人にとっては、じっくりと家で作成できる書面をもって戦うことができる民事訴訟の方が合っているケースもあるでしょう。

 初回の口頭弁論期日において失敗をしてしまっても、その後も十分に勉強したり対策を立てることができため、第一回期日一発勝負の労働審判のような重圧を伴う手続きが苦手な人にも希望が持てます。。

 訴状や準備書面の書き方は、インターネットや市販の書籍を参考にすれば、十分に作成することができます。私たちは弁護士ではありませんので、作成する書類も、完璧である必要はありません。己の主張がしっかりと盛り込まれていればよいのです。よって、書類作成の不安もする必要がないことになります。

民事訴訟を活用することのデメリット

 「じっくり戦うことができる」は、裏を返せば解決までにそれなりの時間がかかることを意味します。訴えの提起から判決確定まで、半年~1年くらいかかるのが一般的です。高等裁判所までもつれると、その期間は2年以上の時間を要することもあります。

 労働者が有給休暇申請をした証拠をしっかりと所持しているならば、訴訟をしてもそれほど時間はかからないでしょう(そのようにしっかりと証拠がある場合は、少額訴訟のような簡便な手続きでも十分勝算がある)。しかし申請した事実について、それを裏付けする証拠がない場合は、会社側の反論を招き、長引きます。

作業(3)請求の際に必要となる証拠書類の整理をする

 支払い期限までに、法的手段決行時に必要となる書類を整理しておきましょう。有給休暇請求の場合の証拠は(1)有給休暇が発生していることを証明する書類、(2)取得申請したことを証明する書類、(3)有給休暇分の賃金が支払われていないことを証明する書類、(4)有給休暇取得時に支払われる賃金額を証明する書類、の4つに大きく分類されます。各種類ごとに、最低一つは証拠書類をそろえたいところです。各種類ごとに、複数枚あればなおよいのですが、そこまでそろえられるのは稀です。必要になると予想される証拠書類は以下のものが挙げられます。

 必要になると予想される証拠書類は以下のものが挙げられます。

  • 労働契約書
  • 採用通知書
  • 有給休暇取得申請書の労働者控
  • 有給休暇の取得を請求した内容証明郵便
  • 有給休暇の取得請求の際、上司と話した音声記録とその反訳書
  • 給料明細表
  • 在職中給与が振り込まれていた銀行通帳

 これらの証拠書類について、手元にあるものはファイル等に入れてしっかりと保管しておきます。手元にすぐに見当たらないものは、なるべく探してみます(上記書類がほとんどなくてもすぐにあきらめないこと)。

 証拠書類の中で、準備に最も時間がかかるものは、音声記録を文字起こしした反訳書です。もし訴訟を含めた法的手段をとることを考えている方は、反訳書の作成から取り組むのがよいでしょう。

 上記4種類の分類を用いて、考えられる証拠書類を仕訳けてみましょう。

(1)有給休暇が発生していることを証明する書類

  • 労働契約書
  • 採用通知書

(2)取得申請したことを証明する書類

  • 有給休暇取得申請書の労働者控
  • 有給休暇の取得を請求した内容証明郵便
  • 有給休暇の取得請求の際、上司と話した音声記録とその反訳書

(3)有給休暇分の賃金が支払われていないことを証明する書類

  • 労働契約書
  • 在職中給与が振り込まれていた銀行通帳

(4)有給休暇取得時に支払われる賃金額を証明する書類

  • 給料明細表
  • 労働条件通知書
  • 労働契約書

司法手続きの解決戦略構築~あなたの「強み」を最大限に活かすことできる戦略を練る

 各司法手続きは、それぞれが一日で終わる気軽なものではありません。時間と資力に乏しい労働者は、司法手続きを選択する際は「目的」に沿った最適なものを選び取る必要があります。

 まず「目的」を設定しましょう。「目的」を明確に設定したら、自身の能力や希望を考慮して、複数の手続きの中から主となるものを選ぶのです。戦略論的な言い方をすれば、「まず『目的』を設定し、それを実現させるための『方策』を決定する」ということです。

 この基本的な考え方をもとに、未払いとなっている有給休暇分賃金の取り戻しまでの道筋構築方法を説明しましょう。

民事訴訟は万能の解決手段ではない。解決戦略はあなたの希望によって変わるもの。

 民事訴訟は、すべての法律トラブルに対応する解決手段ではありますが、この手続きですべてが丸く収まるものではないことをまず先に言っておきます。

 血気盛んな弁護士は、訴訟でケリをつければすべてを収めることができると考えています。しかしそれは思い違いであると言わざるを得ません。請求金額がどれだけ多くても少なくても、民事訴訟制度を利用することができますが、判決が出ただけで、不当な仕打ちを受けた人間の心は収まるでしょうか?そのようなことは決してありませんね。

 彼らは、訴訟の代理人を業として行うことができる唯一の業種であるため、訴訟というものを過信し、こだわり、ひいては「弁護士」という職業に過大なプライドを持つ傾向にあり、それを依頼人にも押し付けることがあります。しかし忘れないでください。訴訟の主役は紛れもなくあなたなのです。勝訴による利益、敗訴による不利益を受けるのもあなた自身です。もし弁護士があなたの本当の願いを軽視し、無視するようなことあったならば、委任解除することを忘れないでください。

 私は今までの経験からも、民事訴訟に踏み切る前に、その他の解決手段による道筋も一考してもらいたいのです。民事訴訟で全てが解決し丸く収まるならば、解決戦略など考える必要がありません。訴訟以外の解決手段が後年改めて創設されたということは、特定の人や特定の場合において、訴訟以外の解決手段の方が有効だと考えられたから創設されたのです。

最適な解決戦略を立てるための判断基準として、あなたの「強み」を利用しよう

 解決戦略の構築には、(1)労働紛争にかける時間が十分に確保できる(2)見本さえあれば、文章を作成することは可能だ(3)ある程度の口頭でのやり取りはなんとかこなすことができる(4)会社側の違反は明白であり、それを証明する文書の証拠が手元にある、という4つの「強み」があるか否かを把握することが必要となります。

 判断基準を示す前に誤解を避けるため触れておきますが、下記手続きの中から一つしか選ぶことができないなどということは決してありません。己の目的などに合わせて、複数の手続きを組み合わせるのが一般的です(もちろん1つだけの手続きで終わる労働紛争も多くあります)。

 例)調停に相手が出席してこなかった→相手が参加しないとこちらが有利となる少額訴訟を行う

(1)労働紛争にかける時間が十分に確保できる

 「時間がある」ということは、仕事をしないで労働紛争に没頭できる期間がたくさんある、ということだけを意味しません。そのような人はほとんどいないでしょうし、労働紛争だけに没頭することも精神的に健全とはいえないでしょう。

 私の今までの経験や仲間の戦いの軌跡の中で、「時間がある」と感じた紛争の実情例を挙げてみましょう。

  • 失業保険がもらえる期間が半年以上あり、支給額だけで当面生活できた
  • アルバイト先がすぐ見つかったので、アルバイトのない曜日に裁判出廷日(期日)を申請すればいいため、じっくりと戦うことができた
  • 会社側の違法は明らかであり証拠もあるため、次の就職までの期間が3カ月未満であっても、労働審判で和解できた
  • 新たな就職先は、有給休暇の取得に(当然であるが)理解があるため、有給休暇を「私用」で取得でき、裁判にも出廷できた
  • 会社側の違法性が明白で証拠があるため、未払いの金銭の支払いを受けることは期待できたため、弁護士に依頼して手続きの多くを代理してもらった

 このように、仕事をしなくてもいい期間がたくさんあることだけが「時間がある」ということとはならないのです。選択した司法手続き・解決手段を自身で、もしくは何らかの手段で時間的に実行できるか否かが、「時間がある」ということなのです。

 時間がなくても、弁護士に依頼することできるならば、弁護士に依頼したり、打ちあわせしたりする時間さえあれば、「時間がある」ことになります。

 自分だけの力で裁判をする場合でも、初回の出廷日は裁判所が決めるのですが、それは3週間くらい前から分かるため、例え就職していても事前の了承を得て出廷できます。2回目以降は自身や相手方の都合を考慮して開催日(期日)を決めるため、ある程度の希望も通せますし、その決定期日も3~4週間先であるのが一般的なので、出廷のための調整も十分可能です。

 このように考えますと、労働紛争における時間の問題は、多くの場合でクリアできる問題であると言えるでしょう。訴訟戦略の構築において、最終手段であり、万能解決手段でもある民事訴訟が利用できるか否かは、大きな影響を与えます。「訴訟などできない」と考える理由が時間の問題であるならば、もう一度冷静になって考えてみることをお薦めします。

(2)見本さえあれば、文章を作成することは可能だ

 司法手続きを利用するうえで、文章を作成することは避けて通ることができません。しかし、支払督促・民事調停・少額訴訟においては、簡易裁判所に備え付けの定型書類があるため、文章作成の労力を最小限に抑えることも可能です。

 支払督促を利用するにあたっては、簡易裁判所においてある「支払督促申立書・当事者目録・請求の趣旨及び原因」の3点の書類に必要事項を記載し提出すればよいため、文章作成が苦手な人でも十分に利用できます。細かい書き方については、一通り記入した後これら3点の書類を持っていった時に、裁判所事務菅の指摘に応じて修正すればよいため、必要以上に気にすることはありません。

 民事調停も、簡易裁判所に備えてある「調停申立書」を提出することで手続利用を開始できます。より詳しく調停員に事件の実情を伝えたいときは、「陳述書」なるものを添付することもできます。陳述書には決まった作成方法は定められていないため、文章作成に時間を取られることも少ないでしょう。

 少額訴訟は簡易的な手続きであるが訴訟であるため、「訴状」を提出しなければなりません。しかしその訴状も、簡易裁判所で備え付けられた定型の訴状(労働紛争における少額訴訟においては「給料支払請求事件」の訴状)があるため、作成の労力は大幅に省くことができます。少額訴訟は審理は1回であるため、通常の民事訴訟のように、諸回期日以降の期日に備えた「準備書面」なるものを作成することはないため、文章の作成に時間を取られることはほとんどありません。

 労働審判・民事訴訟を利用するにあたっては、訴状や審判申立書の記載例が載っている書籍を買うことをお薦めします。一つの事例しか載っていない書籍ではなく、事件ごとの記載例(例えば、解雇撤回を求める地位確認請求訴訟の記載例、賃金の支払いを求める未払賃金請求訴訟の記載例など)が載っている書籍が必要となります。

 記載例の元となった事件と同じ内容のものなど無いのですが、ひな形である記載例を見ることによって、書き方の大まかな部分はわかります。記載例が記された書籍を頼りに、実際の己の事件と違う部分を少しづつ、その都度編集して作成していきます。

 繰り返し言いますが、私たちは弁護士などの法曹職ではありません。訴状作成など、普段の生活では私たちは触れることがありません。裁判官や書記官は、ある程度の書き方の違いについては、特に注意してくるようなことはありません。胸を張って裁判所に提出すればよいのです。

(3)ある程度の口頭でのやり取りはなんとかこなすことができる

 口頭でのやり取りについてそれ相応の自信がある場合は、その強みを活かしていきましょう。ここでの「口頭でのやり取りが問題ない」ということは、「相手方と直接顔を合わせ、かつ主張したりするやり取りも問題ない」ことを意味します。

 口頭でのやり取りをこなすことができる自信があるならば、第一回期日で口頭での質疑応答が多い労働審判手続や、裁判官や相手方代理人弁護士から質問をうける「本人尋問」がある民事訴訟手続を選択肢に含めることができます。あとは、労働者が紛争にどのくらい時間を割くことができるか?じっくり戦いたいか?譲歩は可能か?等の判断材料を頼みに、解決手段を選びます。

 いざ手続きが開始された時、相手方が直接来る場合もありますし、代理人たる弁護士が来る場合もあります。必要以上に心配してもらいたくないため先に言っておきますが、テレビドラマに出てくるような人を小馬鹿にした傲慢な弁護士はほとんどいません。そのような態度は、こちら側(原告)の態度を硬化させ、依頼人たる会社(被告)の利益を損なうことを知っているからです。

 口頭でのやり取りをこなす自信はあるが相手方に弁護士が付いて不安を感じている場合は、むしろ相手方に弁護士が付いてくれた方が冷静で合理的な話し合いができるかもしれない、と前向きに考えていきましょう。かえって相手方に弁護士が付いてない場合の方が双方感情的になりやすいため、相手方の無意味な人格否定行為に過剰に反応しないように冷静に対応していきましょう。

(4)会社側の違反は明白であり、それを証明する文書の証拠が手元にある

 会社側の違法性は誰が見ても明らかであり、また、違法であることを証明する文書がしっかりと労働者の手元にある場合には、どの司法手続きを利用してもそれなりの成果を挙げることができるでしょう。

 悪いのは明らかに会社側であるし、一切妥協したくない、許したくない、と考えるならば、いきなり民事訴訟を起こしてもよいでしょう。訴訟の勝利によって、まとまったお金が支払われることが見込まれる場合は、弁護士に依頼して訴訟にかかわる多くの手続きを代理してもらえば、訴訟運営に伴う多くの負担を軽減できます。

 勝訴によるリターンが少なく、着手金などの弁護士費用を支払う余裕も乏しい場合は、訴状の書き方関連の書籍を参考にして、自分で訴状・証拠説明書を作成し、必要に応じて準備書面も自作して訴訟を運営していきます。大変そうでありますが、コツコツと作成していけば、提出しても問題にならない程度の訴状は作成できます。私たちは法律家ではないので、作成内容に多少の不備があっても、その都度指摘されるだけであり、問題ありません。

 ある程度の譲歩が求められる調停・労働審判においても、高い勝算と文書証拠は、有利に事を進めてくれることでしょう。

労働基準監督署に申告する

 支払期日に有給休暇分の賃金が支払われなかったら、いよいよ労働基準監督署に申告をします。

 しかし、申告したことで監督官が会社に何らかの行動を移すことを過度に期待しないことです。これは幾度かの経験から得たことです。では、申告行為自体が意味のない行為ではないか?と思うでしょう。実は、申告することの最大の意義は、「申告しました(申告する)ので、早急にお支払いください」という文書を会社に送り自発的な支払いを促すことなのです。

 監督署への申告後、申告した事実を伝えることについては、敢えてする必要はありません。しかし監督署への申告以後の手続きを採る予定のない人は、申告事実を伝えて圧力をかけることはひとつの手段として考えるのが普通です。

 ※私の経験では、申告した事実を伝えて会社側が支払ったケースは、全紛争中3割でした。司法手続きを念頭に置いていたため、申告後間髪入れず司法手続き(少額訴訟など)を申立て、それによって圧力をかけてきました。

 この過程の一連の作業方法を、詳しく紹介していきましょう。

作業1:「申告書」の作成~自分で申告書を作る

 申告書の作成は、一般的にパソコンを使って行います。以前のように手書きで作成するよりも、便利で作りやすくなりました。

 決められた書き方が定められているわけではありませんが、一定の書き方に沿って作成した方が楽に作ることができます。下の画像とPDFファイルは、以前私が未払いの有給休暇賃金を請求したときのものです。

是正申告書の作成例の図

 PDFファイルはこちら。コピー等のうえご使用ください。

冒頭において書くこと

申告者

 ここでは、申告者の氏名・郵便番号・住所を記載します。

違反者

 ここでは、違反者の経営している会社の商号・郵便番号・住所と、違反者の氏名・会社における地位を記載します。

 有給休暇分賃金未払いの場合、例え有給休暇を拒否した直接の実行者が総務・人事・経理部署の人間であっても、支払わなかったことについての最終的な責任者は、その会社の責任者たる代表取締役であるため、その氏名を書くのです。

冒頭の序文

 ここの文章にも、決まった形式はありません。しかし、誰が、労働基準法第104条に基づき、誰の労働基準法第39条・21条違反について申告するのか、については必ず記載します。

「申告者」・「違反者」の欄

 冒頭において、氏名・住所は記載した為、ここでは申告者・違反者の簡単な肩書きなどを記載します。

 申告者については、入社時期・職種・月額給与を、違反者については、経営している会社名・何を業としている会社か、について触れておきます。両者とも、軽く触れる程度でいいでしょう。

「違反事実」の欄

 ここには、違反の事実について詳しく書きます。裁判を起こす際に提出する訴状おいて、「請求の原因(理由)」に該当する部分です。

 申告書の冒頭において労働基準法第39条違反があったと書いたので、事の経緯を書いていきます。

「申し立てる内容について」の欄

 ここには、監督官に対する要望(何をしてもらいたいか)を書きます。

 例では、「一連の違反者の行為は、労働基準法第39条に違反する。よって指導・是正勧告等の必要な措置をとっていただくことを申し立てる。」と書いてあります。一般的に「○○条違反だから、○○等の必要な措置をしていただきたく申し立てる」という形が多いようです。

 インターネット上の文例では、より具体的で細かい要望を盛り込んであるものも見受けられます。しかし申告後に監督署に問い合わせをすることもできるため(具体的なことはあまり教えてくれない)、ここで細かい要望を書くことは必ずしも必要ではないでしょう。

「添付書類(証拠書類)」の欄

 先ほど触れましたが、今手元にある証拠となりうる書類を出し惜しみなく提出します。

 裁判や労働審判においては、証拠として添付する書類や物については「証拠説明書」という書面を別途作成して提出しますが、労基署に申告する場合は不要です。それは、中立な立場で双方の主張・立証をもとに法的判断をする裁判所と、監督官庁として調査・指導等をする労基署という立場の違いによるものです。

 労基署は、当書面と添付書類を資料として、自ら会社に調査に赴き、もしくは提出書類を示してそれを調査するなどして、必要な措置(指導・是正勧告・逮捕等)をします。ですから、裁判の際に提出する「証拠説明書」のように、一書面ごとに立証の趣旨や作成者などを説明するようなことはしないのです。

作業2:申告書類の提出~強い申告の意思をもって臨む

何を言われようとも申告書類を受理してもらう

 内容証明郵便で指定した期限までに支払われなかったら、いよいよ法的手段の開始です。会社は、有給休暇分の賃金を支払わなかったのです。労働基準法違反です。一切の遠慮は無用です。

 まず、指定期限日までの間に用意した証拠書類を持って、以前に相談した会社の住所地を管轄する労働基準監督署へ「申告」をしに行きます。

 そこで相談員に、『以前こちらで相談したときにアドバイスを受けた通り、もう一度内容証明郵便で会社に支払いを請求しました。しかし指定した期日になっても支払ってくれませんでした。よって今日は「申告」の手続きをするためにやって来ました。これは申告用紙です。』

 そこですんなりと受け取ってくれる場合もあれば、水を差すようなことを言ってくる相談員もいます。『申告する、ということは、会社の経営者が法律違反で捜査されたりする重要なこと。もう一度請求してみては?』などの反論がなされます。私や私の知人においては、そのような内容でした。

 しかし、もう私たちは内容証明郵便まで使って正式に会社側に支払いを要求したのです。そのような反論に構わず申告の意思を断固貫き通しましょう。

 『繰り返しますが、私はそちらのアドバイス通り、内容証明郵便まで使って支払いを再度求めました。しかしそれでも払わなかったのです。○月○日の相談時に、今度支払われなかったら申告します、といいました。そして今も申告する意思は変わりません。申告用紙をお受け取り下さい。』

 ここまで食い下がられることは多くありませんが、もし申告することを渋られた場合は、この応戦の仕方を覚えておいてください。申告することは、労働者の正当な権利です。監督官や相談員に心無いことを言われても、毅然と、『会社が労働基準法違反をしたとき、労働者が労働基準監督官に申告することは労働基準法104条に定められた正当な権利です。』と決意を述べましょう。

申告には、そろえた証拠書類を持参する

 事前に集めた証拠書類は、監督署での申告においても、その効果を発揮します。この時点で手元にある、証拠書類になりうると思われる書類は、監督署訪問の際に必ず持っていきましょう。

 作成した「申告書」とともに、それらの証拠書類も提出します。

 「申告書」には、文中で依頼した調査と指導についての結果の報告を求めたので、提出した後はその結果を待つことになります。おおよその期間を聞いておきましょう。

 申告から結果連絡まで、おおよそ1~2カ月を考えておきましょう。その期間中は、裁判に向けた準備をする、心身の休息を図る、(在職者であれば)自分に合った合同労組(外部労働組合)を探す、などの行動をすると効果的です。

 裁判に向けた準備ですが、監督署に申告した際に未払いとなっている請求金額が、本当に性格であるか再度調べることを勧めます。なぜなら、裁判では請求訴額によって、申し立てをする場所が変わるからです。

作業3:会社に申告した事実を告げ、再度自発的支払いの請求をする

 先ほども触れましたが、申告した事実の会社への報告は、当該紛争の独特の事情や労働者の紛争解決プランによって、報告する場合としない場合に分かれます。

 司法手続きなどしたくない、労働基準監督署に申告すれば気持ちは済む、という考えの労働者の方には、申告後の最後の詰めの作業として、この作業を選び取ることが賢明だと考えます。

 「申告したことを会社に教えたら、証拠を隠滅するんじゃないか?」と危惧する方もおられるでしょう。しかし監督署の調査(臨検)がひとたび行われると、公的機関の強制力を持って多くの証拠書類が押収されます。応じない場合でも、保存義務を課された書類の保存懈怠を理由にお咎めを受けるため、安易に隠蔽もできません。動くまでの腰が重いのは事実ですが、動き始めた後の監督署は、会社にとって脅威そのものです。

 会社に送り付ける文書の内容については、それほど細部にこだわる必要もありません。当然でありますが、人格攻撃・不要な誹謗中傷・脅迫は文中に記載しないようにします。申告した事実を告げ、再度自発的に支払ってくれることを求めるだけでよいでしょう。また、内容証明郵便であることも必要ないでしょう。

監督署に申告したことを告げる文の作成例

 PDFファイルはこちら

 労働基準監督署への申告を紛争解決の最終手段と考えている人は、この手段が最後であるため、申告後の監督署の対応と進捗状況について問い合わせをするのもいいでしょう。その時の電話口(窓口)での問い合わせに対する態度も、以後の解決の見通しを知る材料となります。

 私の経験を言います。ある監督署に申告後、しばらく経っても事態がまったく動かないため、監督署の窓口に出向き進捗状況を伺いに出向きました。対応内容は煩わしそうであり、紛争内容が精査を要する難解案件であることばかりを告げられたため、解決のアテにできないと判断、すぐに司法手続きを開始しました。

 会社側に自らが作成した少額訴訟の訴状が届く日辺りに再度確認したが、やはり腰を上げていなかったため、判断は正しかったと思いました。時間の限られた労働者にとっては、そのような直感を信じてみることも早期解決の助けとなるでしょう。

司法手続きの開始~譲歩限界ラインの設定と訴状(申立書)の作成・提出

 労働基準監督署への申告が終ったら、いよいよ司法手続きを利用します。ここでいう「司法手続き」とは、前掲の「支払督促」・「民事調停」・「少額訴訟」・「労働審判」・「民事訴訟(請求額によっては簡裁訴訟)」を指します。

 この段階まで来たら、皆さんの中ではどの手続きを利用するか、ある程度の目安を付けていると思います。しかしいきなり訴状や申立書を提出するのは待ってください。

 選んだ手続きが「民事調停」・「労働審判」・「民事訴訟」である方は、これらの手続き中に直面する裁判所主導の「和解の試み」に備えて、最低譲歩ラインを策定しておきます。「支払督促」・「少額訴訟」を選んだ方は、いきなり申立書・訴状の作成に取り掛かってもよいでしょう。

作業1:譲歩限界ラインの設定

 「民事調停」・「労働審判」・「民事訴訟」では、手続きの途中で、裁判官(民事調停では調停員)が和解ができるかどうかの働きかけをしてきます。この「和解の試み」は、何十と事件を抱える裁判官にとって事件を効率よく解決していくための重要な手段であるため、頻繁にかつ熱心に行われます。

 民事調停では、双方の話を聞いた後に調停員によって和解の試みがなされます。労働審判では第2回目の出頭時に行われることが多いです。民事調停では、双方が訴状・答弁書・準備書面で主張を尽くし、本人尋問などの証拠調べの過程を終えたタイミングで行われることが多いでしょう。

 よって私たちは、事前に譲歩するうえでの限界ラインを明確に定めておく必要があります。また、請求し得る最大限の金額も知っておきます。

作業2:訴状(申立書)・証拠説明書その他の必要書類の作成・提出

 ここからは、私や所属組合仲間の経験を中心として説明していきましょう。

 このページは、司法手続きを利用する際も、自分独りで行うことを念頭に置いているため、弁護士に委任しないことを想定として説明します(強制執行手続きは除く)。

有給休暇分賃金の請求は、「未払賃金等請求訴訟」。もう一度証拠を整理する。

 有給休暇分の賃金が支払われない場合、それは紛れもなく「賃金未払い」であるため、未払賃金請求訴訟となります。

 割増賃金請求訴訟に比べ、時間外労働の有無の立証作業がないため、比較的容易に行うことができます。有給休暇分賃金の未払請求については、有給休暇の取得請求をした事実と、入社年月日がいつであったかの2つ事実を立証できれば、有利な戦いをすることできます。

 よって、訴状・労働審判申立書・民事調停申立書を作成するために、この2点を立証する書類があるかどうかを把握します。※支払指定日までの間、現時点で取りうる訴訟に向けた準備を進めていくの、作業(3)請求の際に必要となる証拠書類の整理をする参照のこと。

訴状(申立書)の作成

 少額訴訟・民事調停においては、最寄りの簡易裁判所に出向けば、誰もが容易に作成しうる定型の申立書・訴状が常備してあります。一般的には、その用紙の記載例に従って空欄を埋めていくこととなります。

 民事訴訟・労働審判においては、訴状や申立書は自分でゼロから作成しなければなりません。しかし必要以上に不安になることはありません。大型書店に行けば、訴状や労働審判申立書の詳しい書き方が説明された書籍はたくさん出ています。

 その中で私がお薦めするものは、「労働事件審理ノート」【判例タイムズ社】です。労働事件に直接かかわっている現役裁判官の方が執筆したものであるため、説明内容がやや固い傾向はありますが、わからない単語などはインターネットで調べながら進めばきっと理解できます。

 私たちは弁護士ではないため、作成内容に不備があっても大丈夫なのです。実際に裁判や労働審判の過程で裁判官に指摘されたら、その都度修正するなどの対応をすればよいのです。裁判官も私たちに過度の要求はしてきません。私たちの主張が裁判官に伝わればよいのです。そのことを念頭に置き労働事件審理ノート等の書式解説本を参考にすれば、きっとあなたは自力で訴状を作成できるでしょう。

証拠説明書の作成

 裁判や労働審判を始める際に作成する書類は、訴状だけではありません。訴状以外でほぼ必ず作成することになるのが「証拠説明書」です。

 裁判・労働審判においては、こちらが主張する内容が事実であることを証明するために、主張内容を裏付ける証拠(多くの場合文書で提出する。「書証」ともいわれる)を提出する必要があります。

 労働裁判の場合、提出する証拠は複数にわたるのが普通です。各証拠物が誰によって作成され、何の事実を立証するか、証拠説明書を作成して訴状とともに提出し、裁判官に説明するのです。