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支払われない有給休暇分未払い給与の請求方法、徹底解説!

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『誰でも可能!有給休暇を全部消化し退職するための7ステップ『退職時に有給休暇消化を拒否された場合の実戦的反撃法!のプロセスを経たならば、おおよそ会社側は請求された有給休暇分の賃金を払うことでしょう。

しかし中には、そのプロセスを経ても支払いに応じない会社もあります。その場合は、自ら行動して支払うように求めないとなりません。

有給休暇の賃金を支払わないことは、労働基準法違反であるため、労働基準監督署に申告することが一般的な行動だと考えられています。しかし監督署が必ず動いてくれる保証などなく、その場合は自ら司法手続き等を駆使して請求していくことになります。

「なんだか難しそう・・」と考えるあなたのために、このページで請求の流れと具体的方法を紹介していきたいと思います。簡単・手軽ではありませんが、決して不可能なことではありません。

「会社に催促→労働基準監督署に相談→内容証明郵便で請求→労働基準監督署に申告」という、一般的な流れについて、自身の幾度かの経験をもとに、流れに沿って説明します。

会社に催促のあと、労働基準監督署に相談

会社に督促する

支払われているかの確認作業

 給与支払日に有給休暇取得分の賃金が払われているかを確認します。賃金締切日をまたいで有給休暇を取得消化した場合は、支払いが、当月と翌月に分かれるのが一般的です。

 在職中の労働者であれば、給料明細表を持参して給料計算を担当する部署(総務課・経理課など)に尋ねてみるといいでしょう。手違いがあっただけの可能性が高いからです。在職中の労働者に対する意図的な有給休暇未払い行為は、取得申請の際のトラブルがない限り頻繁に行われることではありません。

 支払いが翌月に渡る可能性がある場合は、当月分締切日までの有給休暇分が支払われているかを確認します。しっかりと支払われているならば、翌月の支払日まで待って、そこで残りの雄休暇分が支払われているかを再度確認します。最初の支払月に支払われているならば、おおよそ支払ってくれるでしょう。

督促

 もし給与支払日に有給休暇分が支払われていない場合は会社に問い合わせをします。問い合わせ方法は電話でもいいですが、通話内容は録音をしておきます。そこでの会社側の対応・態度によって、以後の請求手続きが平和的であるかそうでないかが予想できます。

 退職時に有給休暇を消化取得した場合を前提に、質問内容を説明しましょう。

 『給料日を迎えましたが、〇月○日に取得請求した○○日分相当の有給休暇賃金が支払われていません。』

 『速やかに支払いをお願いします。』

 このような通話だけで支払ってくれることはまずありませんが、監督署での相談事実を作り、かつとプレッシャーを与えるために当準備はしておきます。

労働基準監督署の総合相談センターに相談する

労働基準監督署に行き相談をし、相談した事実を作り、申告の布石を打つ

 有給休暇相当分の賃金が支払われていないことは、れっきとした労働基準法違反であります。よって、労働者の味方・労働基準監督官に助けてもらうことを多くの労働者は期待するでしょう。

 しかし監督官はそうやすやすと助けてくれません。会社の住所地の管轄労基署の窓口に行って監督官に相談しようとしても、監督官には相談させてくれません。まず受付窓口にいる総合労働相談員に相談することになります。

 監督官に助けてもらうためには、賃金未払いについて「申告書」を自ら作成し、それに必要記載事項を書いて監督官に提出する必要があります(これを「申告」という)。しかし相談員にかかると、申告することに待ったをかけられます。私は以下の言葉で水を差されました。

 『もう一度、会社側に支払いを促した方がいい。』

 『申告するということは、会社の経営者に刑事罰を与える重大なこと。できるだけ催促によって解決した方がいい。』

 このような言葉で待ったをかけられ申告を阻まれたらならば、『分かりました。もう一度、監督署に相談した事実を伝えて、期限を区切って催促します。しかし、今度こそ支払われなかったら、申告をします。』といってその場を後にします。そのようにしておけば、再度訪問した際に申告に難色を示されたら、『○月○日の相談時に、今度支払われなかったら申告します、といいましたよね。』と言って押し切りやすくなります。

 未払い発覚後に監督署に行く意義は、相談した事実を作ることと、次回の訪問時に申告をしやすくすることの2点にあります。

労働基準監督署に相談した事実を盛り込んで、内容証明郵便で支払いを促す

 労基署に相談後、間髪を入れず内容証明郵便にて支払い請求をします。文面には以下の内容を盛り込みます。

  • 労基署に相談してきたこと
  • 労基署において、今回の賃金未払いは労働基準法違反であると指摘されたこと
  • 賃金の支払い期限(○○日までに支払ってください、という文言)
  • 指定期日までに支払われない場合、労働基準監督署に申告する、などの法的手段を採るということ

 支払い無き場合は法的手段を採る、等の表現は、刑法上の「脅迫罪」にならないか、という心配は不要です。「脅迫罪」とは、他人を畏怖させる目的で、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告げて人を脅した時に成立するものであります。この場合、労働者は正当な権利の行使を目的として内容証明郵便にて会社側に告知しているだけであり、脅迫罪には当たらないことになります。

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 有給休暇分賃金未払いの戦い場合は、サービス残業等の関わる割増賃金請求の戦いの場合と違い、労働基準監督署に相談したことをほのめかし、かつ未払い分請求の内容証明郵便の文中にも、申告する可能性を示します。サービス残業等の関わる割増賃金請求の戦いの場合は、監督署に相談した事実を知らせると、会社側が監督署の立ち入り検査に備えた証拠隠滅を行う可能性があるため、相談した事実も告げず、やむを得ない場合については「法的手段」としか書きません。

 有給休暇分未払いの戦いにおいて勝敗を決する最も大きな証拠は、有給休暇を請求したことの事実を証明する書類であり、おおかたその手の書類は労働者の手元にあるからです(言い換えれば、請求したことの事実を証明する書面が手元に無い場合は、監督署に行ったことを秘匿する)。

支払指定日までの間、現時点で取りうる訴訟に向けた準備を進めていく

 内容証明郵便において支払期日を定めた以上、その期間は会社側に新たな一手を仕掛けることはできません。しかしこの期間を利用して、しておきたいことがあります。それは、以下に挙げる作業です。

 順番についてですが、上に並べた順番には意味があります。

 請求金額の確定作業は、先にやっておくと、金額に見合った、労力の少ない解決手段を選ぶことができます。例えば、請求金額が60万円以下であることが分かったならば、民事訴訟ではなく少額訴訟を利用する選択肢も生まれるため、少ない労力で解決できる道筋が見えてきます。

 訴訟戦略を打ち立てるにしても、各司法手続きの長所・短所を把握しておかないと、戦略の立てようがありません。よって特徴の把握が(2)番目であり、把握した内容をもとに、やっと(3)の作業に取り組むことができます。

 裁判する際、必要となる証拠物を提出する必要があります。この時点で作成できる書面があったらそろえておきます。音声データをもって相手方の不正を証明する場合は、反訳書(音声データを文字起こししたものです。)

請求する金額をはっきりとさせる

 まず、未払いとなっている金額をはっきりとさせます。未払金額を算定の上、自分がいくら請求できるか(請求するか)を決定します。

 未払金額をはっきりとさせるためには、あなたが有給休暇を取得した際に支払われる一日当たりの金額を把握することが必要となります。その金額さえある程度正確に抑えたならば、あとは、あなたが請求時に持っていた有給休暇日数を金額に乗じます。

 一日当たりの金額を算出する方法を知りたい方は、未払い賃金請求の際にも役立つ!有給休暇の賃金計算方法を参照にしてください。

各司法手続きの長所・短所を把握する

 内容証明郵便で指定した日まで何もしないで待っていることはありません。請求する金額ははっきりとさせてあるため、ここでは司法手続きを利用するうえでの解決の道筋・戦略を考えていきます。そのためには、採りうる各司法手続きの特徴(長所・短所など)を把握する必要があります。

 把握した特徴をもとに、手続きの選択をしていきます。考えられる司法手続きは以下の手続きです。

調停(給料支払調停)

 調停員が労働者と会社の間に入り、互いの主張を聞きつつ双方が納得できるを案を見つけ、そこで和解することでトラブルを解決する司法手続きです。双方納得のうえの合意であるため、調停成立後の義務の履行(会社の支払い)がスムーズに行われることが期待できます(訴訟では、勝訴しても判決に不服な相手方が意地を張り支払わない事態も発生する)。訴訟などの手荒な手段を用いることに抵抗がある方に適した司法手続きです。

 調停の最大の欠点は、申立てを受けた相手方に参加義務が無いことです。参加しなくても相手方が不利になることはありません(訴訟や労働審判では出席しなければ原告・申立人の主張が通ってしまう)。応じなくても不利になることはないため、会社側が出席したくないと考えれば、話し合いもできないままに調停が終了する事態に陥ります。

 有給休暇賃金未払いのトラブルにおける調停の場合、妥協点が見つけにくいことも、顕著な問題点となります。双方が納得しなければ調停は成立しないため、どちらか一方が納得しなければ、調停は成立しません。有給休暇賃金未払い事例では、労働者側に譲歩の余地はありません。支払ってもらうか否かであるからです。会社側が労働者から有給休暇の申請が無かったなどと反論して譲歩しなければ、話は平行線になってしまいます。よって調停においても事前の準備が重要となります。

支払督促

 会社が有給休暇分賃金を支払うことは認めてはいるが、何らかの理由で支払いが行われない場合に効果的な手続きです。

支払督促を使う場合のメリット

 支払督促手続きは、裁判所に出頭して弁論したり、訴状を書いたり、準備書面を用意したり、証拠を提出したり・・・の必要がありません。よって「勝算は極めて高いが、裁判をしてまで己の権利を実現させることは面倒だし気が引ける」と考える労働者に適した手続きでしょう。

 例えば、会社が「支払うから待ってくれ」と言ってはいるが一向に支払う気配のないケースにおいて、裁判をしないで支払を促す場合に使います。支払督促をすることで会社が支払ってくれるならば、最短で最小の労力で結果を出すことになり、これは当手続きを選ぶ大きな魅力となります。

支払督促を選んだ際のデメリット

 例えば、会社が有給休暇分賃金を支払うことに対し合理的な理由を挙げて支払いを拒否しているような場合、審理のされない手続であるがゆえに支払督促に対し異議を申し立てる可能性が高くなります。※会社側が支払督促に異議がある場合は、支払督促定本の送達後14日以内に申し立てることができ、その後は通常の訴訟に移行することになります。

 なぜなら「審理がされない」=「会社側は、支払をしないことの言い分を主張することすらできない」ため、自身の主張をするために審理の為される通常訴訟へ移行することを希望する訳です。労働者が督促する金額が大きければ大きいほど、異議申立てをされる可能性は高くなります。

 よって、会社側が「有給休暇請求自体を労働者からされていないため支払う必要がない」というような最もらしい理由で支払拒否をしているような場合は、通常訴訟へ移行するリスクを十分考慮しつつ当手続きを採用するかどうか考えることがよいでしょう。

少額訴訟

 「少額訴訟」とは、60万円以下の金銭支払請求に限る、迅速をモットーにした司法手続きです。有給休暇分賃金未払トラブルにおいて、最も使いやすい請求手段として挙げられます。

 有給休暇分賃金未払請求事件においては、有給休暇残日数・一日当たりの「通常の賃金」の兼ね合いから、請求金額が60万円以下になる事件が多いためです。

少額訴訟のメリット

 長所は、何と言っても解決までの早さです。審理は原則1回で終了し、即日判決が言い渡されます。労働裁判の平均所要期間が半年前後である(事件内容にもよる)ことを考えると、この早さは、経済的資力に乏しい労働者にとって大きなメリットとなります。

 訴状も、簡易裁判所に備え付けの定型用紙があるため、それに従って記入していけば訴えを提起することができます。訴訟である以上証拠書類を提出しなければならないのですが、提出する証拠を説明するための「証拠説明書」は、訴状の作成に比べれば容易であるため、心配することはありません。

少額訴訟のデメリット

 短所は、解決までの早さを重視したことから生じます。少額訴訟当事者は、その判決内容に不服がある場合でも控訴はできません。できるのは、同じ審理場所に対する異議申し立てのみであります。異議申し立てをしてもそこで審理するのは同じ裁判官であるため、判決内容が覆ることはほぼ期待できません。

 その点、通常訴訟であれば、第一審の裁判官と第二審(控訴審)の裁判官は変わるので、事実認定の審理に際して新たな証拠を提出できる・主張の方法について有効な主張手段がまだ残されている場合等においては、裁判官が違うゆえに第一審の判決を覆すこともできます。

 また、少額訴訟を提起された被告に反訴で応じるという選択肢はありません。よって、原告が起こした訴訟内容で争うだけでは納得いかない被告は、通常訴訟への移行を希望することになります。少額訴訟を利用して問題を早期解決させたかった原告の思惑は、被告が反訴できないがゆえの制度の特色によって、かえって裁判終結まで長い時間を要することになります。

 よって、有給休暇申請を行った事実を立証し得る確かな証拠が存在するような勝算が高いケースにおいては、少額訴訟で請求することが効果的です。逆に、立証しうる物的な証拠に乏しい場合は、裁判(もしくは労働審判)においてじっくりと主張・立証し、頃合いをみて有利な条件で和解等に持ち込むという手段が効果的であると思われます。

労働審判

 1名の労働審判官と2名の労働審判員で構成された労働審判委員会が、個人の労働紛争について、原則として3回以内の期日を使って審理する短期解決志向の制度です。労働審判には、請求額の上限がないため、例えば請求額が60万円を超えてしまい少額訴訟が利用できなくても、労働審判を選択利用することで短期解決を試みることができるのです。

 この制度の特徴は、3回の期日の中で何度も「調停」が行われ、まとまらないと「労働審判」が下されることになります。実は審判中における「調停」に力が注がれている制度なのです。

 労働審判には「異議申立て」を行うことができます。異議申立てが行われると出された審判は効果を失い、通常の裁判に移行します。

労働審判の流れを説明する図

労働審判を活用することのメリット

 短期でトラブルが解決することは大きなメリットとなります。そして、強制参加の制度の中で多くの場合複数回「調停」が行われることは、最大のメリットとなります。

 短期で解決する実績を後押ししているのが、労働審判期日中に複数回行われる「調停」なのです。「調停でまとまらなかったら、最終手段として労働審判を出す」と相談者に説明する専門家までいるくらい、労働審判は調停で解決することを重視します。

 前掲の給料支払調停を申し立てても、会社側が参加してこない可能性があります(相手方が参加せずに打ち切りになる調停は多い)。その点、労働審判を申し立てすれば、会社側は労働審判期日に出席しなければ申立人の主張が通ってしまうため、参加せざるを得なくなります。

 多くの審判で、第一回目の期日で双方の主張を聞き、第2回目で調停による和解の試みをします(早い場合は、第一回期日の終了際に試みが行われることもある)。労働審判官と労働審判員は、双方が提出した主張書類と証拠を見ておおよその結果を判断し、それをもとに和解案を提示します。

 この第一回目の和解案は、この紛争において今後司法機関がどのような判断をするかを予想し得る資料となります。労働者に勝算がある事件であれば、労働者の主張を大幅に認めた和解案内容となり、そうでないならば会社側の主張に有利に働く和解案の内容となります。これは紛争における進退を決断するうえでの信頼できる材料となります。

労働審判を活用することのデメリット

 短期解決制度たる労働審判は、審理は原則3回まで、それも第一回目の審理に主張したいことすべてを主張・立証することが望まれるため、第一回目の審理に向けた準備を入念にしなければなりません。このように第一回目が極めて重要であるため、そこで失敗をすると通常訴訟のように後々の挽回が効きません。よって第一回目がうまくいくかどうか?の心理的重圧を味わうことになってしまいます。

 また、第一回目では、書面で分かりかねる事実に関して、審判官・審判員・相手方代理人および相手方から質問を受けたり、また労働者や労働者代理人が質問したりするため、通常訴訟よりも口頭でのやり取りが多くなってしまいます。口頭でのそういったやり取りが苦手な方には不安要素が強い手続きとなります。

 また、審判中の和解の試みが失敗した後の労働審判に対して、割と高い確率(全体の3~4割程度)で異議申し立てが行われることも大きな欠点であるといえます。これはどういうことかと言いますと、労働者側が審判内容で勝利しても会社側が異議申立てをして通常訴訟に移行したならば、結果的に解決まで時間がかかってしまう、ということです。よって長引かせたくないならば、ある程度の譲歩を要求される和解案に応じることになり、それゆえに不本意な合意が行われてしまう可能性が生じます。

民事訴訟(請求金額によって簡易裁判所か地方裁判所かに分かれる)

民事訴訟を活用することのメリット

 どのような内容を持つ労働事件でも、訴訟を最終手段として利用することができます。

 民事訴訟においては、本人尋問などの証拠調べを除いて、ほぼ書面(訴状・準備書面・証拠申出書・証拠説明書など)でやり取りすることになります。「書面で」となると難しそうですが、口頭で主張するのが苦手な人にとっては、じっくりと家で作成できる書面をもって戦うことができる民事訴訟の方が合っているケースもあるでしょう。

 初回の口頭弁論期日において失敗をしてしまっても、その後も十分に勉強したり対策を立てることができため、第一回期日一発勝負の労働審判のような重圧を伴う手続きが苦手な人にも希望が持てます。。

 訴状や準備書面の書き方は、インターネットや市販の書籍を参考にすれば、十分に作成することができます。私たちは弁護士ではありませんので、作成する書類も、完璧である必要はありません。己の主張がしっかりと盛り込まれていればよいのです。よって、書類作成の不安もする必要がないことになります。

民事訴訟を活用することのデメリット

 「じっくり戦うことができる」は、裏を返せば解決までにそれなりの時間がかかることを意味します。訴えの提起から判決確定まで、半年~1年くらいかかるのが一般的です。高等裁判所までもつれると、その期間は2年以上の時間を要することもあります。

 労働者が有給休暇申請をした証拠をしっかりと所持しているならば、訴訟をしてもそれほど時間はかからないでしょう(そのようにしっかりと証拠がある場合は、少額訴訟のような簡便な手続きでも十分勝算がある)。しかし申請した事実について、それを裏付けする証拠がない場合は、会社側の反論を招き、長引きます。

司法手続きを駆使した解決戦略を考える

民事訴訟は万能の解決手段ではない。解決戦略はあなたの希望によって変わるもの。

 民事訴訟は、すべての法律トラブルに対応する解決手段ではありますが、この手続きですべてが丸く収まるものではないことをまず先に言っておきます。

 血気盛んな弁護士は、訴訟でケリをつければすべてを収めることができると考えています。しかしそれは思い違いであると言わざるを得ません。請求金額がどれだけ多くても少なくても、民事訴訟制度を利用することができますが、判決が出ただけで、不当な仕打ちを受けた人間の心は収まるでしょうか?そのようなことは決してありませんね。

 彼らは、訴訟の代理人を業として行うことができる唯一の業種であるため、訴訟というものを過信し、こだわり、ひいては「弁護士」という職業に過大なプライドを持つ傾向にあり、それを依頼人にも押し付けることがあります。しかし忘れないでください。訴訟の主役は紛れもなくあなたなのです。勝訴による利益、敗訴による不利益を受けるのもあなた自身です。もし弁護士があなたの本当の願いを軽視し、無視するようなことあったならば、委任解除することを忘れないでください。

 私は今までの経験からも、民事訴訟に踏み切る前に、その他の解決手段による道筋も一考してもらいたいのです。民事訴訟で全てが解決し丸く収まるならば、解決戦略など考える必要がありません。訴訟以外の解決手段が後年改めて創設されたということは、特定の人や特定の場合において、訴訟以外の解決手段の方が有効だと考えられたから創設されたのです。

最適な解決戦略を立てるための判断基準

 解決戦略の構築には、(1)労働紛争にかける時間が十分に確保できる(2)見本さえあれば、文章を作成することは可能だ(3)ある程度の口頭でのやり取りはなんとかこなすことができる(4)会社側の違反は明白であり、それを証明する文書の証拠が手元にある、という4つの「強み」があるか否かを把握することが必要となります。

 判断基準を示す前に誤解を避けるため触れておきますが、下記手続きの中から一つしか選ぶことができないなどということは決してありません。己の目的などに合わせて、複数の手続きを組み合わせるのが一般的です(もちろん1つだけの手続きで終わる労働紛争も多くあります)。

 例)調停に相手が出席してこなかった→相手が参加しないとこちらが有利となる少額訴訟を行う

(1)労働紛争にかける時間が十分に確保できる

 「時間がある」ということは、仕事をしないで労働紛争に没頭できる期間がたくさんある、ということだけを意味しません。そのような人はほとんどいないでしょうし、労働紛争だけに没頭することも精神的に健全とはいえないでしょう。

 私の今までの経験や仲間の戦いの軌跡の中で、「時間がある」と感じた紛争の実情例を挙げてみましょう。

  • 失業保険がもらえる期間が半年以上あり、支給額だけで当面生活できた
  • アルバイト先がすぐ見つかったので、アルバイトのない曜日に裁判出廷日(期日)を申請すればいいため、じっくりと戦うことができた
  • 会社側の違法は明らかであり証拠もあるため、次の就職までの期間が3カ月未満であっても、労働審判で和解できた
  • 新たな就職先は、有給休暇の取得に(当然であるが)理解があるため、有給休暇を「私用」で取得でき、裁判にも出廷できた
  • 会社側の違法性が明白で証拠があるため、未払いの金銭の支払いを受けることは期待できたため、弁護士に依頼して手続きの多くを代理してもらった

 このように、仕事をしなくてもいい期間がたくさんあることだけが「時間がある」ということとはならないのです。選択した司法手続き・解決手段を自身で、もしくは何らかの手段で時間的に実行できるか否かが、「時間がある」ということなのです。

 時間がなくても、弁護士に依頼することできるならば、弁護士に依頼したり、打ちあわせしたりする時間さえあれば、「時間がある」ことになります。

 自分だけの力で裁判をする場合でも、初回の出廷日は裁判所が決めるのですが、それは3週間くらい前から分かるため、例え就職していても事前の了承を得て出廷できます。2回目以降は自身や相手方の都合を考慮して開催日(期日)を決めるため、ある程度の希望も通せますし、その決定期日も3~4週間先であるのが一般的なので、出廷のための調整も十分可能です。

 このように考えますと、労働紛争における時間の問題は、多くの場合でクリアできる問題であると言えるでしょう。訴訟戦略の構築において、最終手段であり、万能解決手段でもある民事訴訟が利用できるか否かは、大きな影響を与えます。「訴訟などできない」と考える理由が時間の問題であるならば、もう一度冷静になって考えてみることをお薦めします。

(2)見本さえあれば、文章を作成することは可能だ

 司法手続きを利用するうえで、文章を作成することは避けて通ることができません。しかし、支払督促・民事調停・少額訴訟においては、簡易裁判所に備え付けの定型書類があるため、文章作成の労力を最小限に抑えることも可能です。

 支払督促を利用するにあたっては、簡易裁判所においてある「支払督促申立書・当事者目録・請求の趣旨及び原因」の3点の書類に必要事項を記載し提出すればよいため、文章作成が苦手な人でも十分に利用できます。細かい書き方については、一通り記入した後これら3点の書類を持っていった時に、裁判所事務菅の指摘に応じて修正すればよいため、必要以上に気にすることはありません。

 民事調停も、簡易裁判所に備えてある「調停申立書」を提出することで手続利用を開始できます。より詳しく調停員に事件の実情を伝えたいときは、「陳述書」なるものを添付することもできます。陳述書には決まった作成方法は定められていないため、文章作成に時間を取られることも少ないでしょう。

 少額訴訟は簡易的な手続きであるが訴訟であるため、「訴状」を提出しなければなりません。しかしその訴状も、簡易裁判所で備え付けられた定型の訴状(労働紛争における少額訴訟においては「給料支払請求事件」の訴状)があるため、作成の労力は大幅に省くことができます。少額訴訟は審理は1回であるため、通常の民事訴訟のように、諸回期日以降の期日に備えた「準備書面」なるものを作成することはないため、文章の作成に時間を取られることはほとんどありません。

 労働審判・民事訴訟を利用するにあたっては、訴状や審判申立書の記載例が載っている書籍を買うことをお薦めします。一つの事例しか載っていない書籍ではなく、事件ごとの記載例(例えば、解雇撤回を求める地位確認請求訴訟の記載例、賃金の支払いを求める未払賃金請求訴訟の記載例など)が載っている書籍が必要となります。

 記載例の元となった事件と同じ内容のものなど無いのですが、ひな形である記載例を見ることによって、書き方の大まかな部分はわかります。記載例が記された書籍を頼りに、実際の己の事件と違う部分を少しづつ、その都度編集して作成していきます。

 繰り返し言いますが、私たちは弁護士などの法曹職ではありません。訴状作成など、普段の生活では私たちは触れることがありません。よって裁判官や書記官は、ある程度の書き方の違いについては、特に注意するようなことはありません。胸を張って裁判所に提出すればよいのです。

(3)ある程度の口頭でのやり取りはなんとかこなすことができる
(4)会社側の違反は明白であり、それを証明する文書の証拠が手元にある

 会社側の違法性は誰が見ても明らかであり、また、違法であることを証明する文書がしっかりと労働者の手元にある場合には、どの司法手続きを利用してもそれなりの成果を挙げることができるでしょう。

 悪いのは明らかに会社側であるし、一切妥協したくない、許したくない、と考えるならば、いきなり民事訴訟を起こしてもよいでしょう。訴訟の勝利によって、まとまったお金が支払われることが見込まれる場合は、弁護士に依頼して訴訟にかかわる多くの手続きを代理してもらえば、訴訟運営に伴う多くの負担を軽減できます。

 勝訴によるリターンが少なく、着手金などの弁護士費用を支払う余裕も乏しい場合は、訴状の書き方関連の書籍を参考にして、自分で訴状・証拠説明書を作成し、必要に応じて準備書面も自作して訴訟を運営していきます。大変そうでありますが、コツコツと作成していけば、提出しても問題にならない程度の訴状は作成できます。私たちは法律家ではないので、作成内容に多少の不備があっても、その都度指摘されるだけであり、問題ありません。

 ある程度の譲歩が求められる調停・労働審判においても、高い勝算と文書証拠は、有利に事を進めてくれることでしょう。

請求の際に必要となる証拠書類の整理

 支払い期限までに、法的手段決行時に必要となる書類を整理しておきましょう。有給休暇請求の場合の証拠は(1)有給休暇が発生していることを証明する書類、(2)取得申請したことを証明する書類、(3)有給休暇分の賃金が支払われていないことを証明する書類、(4)有給休暇取得時に支払われる賃金額を証明する書類、の4つに大きく分類されます。各種類ごとに、最低一つは証拠書類をそろえたいところです。各種類ごとに、複数枚あればなおよいのですが、そこまでそろえられるのは稀です。必要になると予想される証拠書類は以下のものが挙げられます。

 必要になると予想される証拠書類は以下のものが挙げられます。

  • 労働契約書
  • 採用通知書
  • 有給休暇取得申請書の労働者控
  • 有給休暇の取得を請求した内容証明郵便
  • 有給休暇の取得請求の際、上司と話した音声記録とその反訳書
  • 給料明細表
  • 在職中給与が振り込まれていた銀行通帳

 これらの証拠書類について、手元にあるものはファイル等に入れてしっかりと保管しておきます。手元にすぐに見当たらないものは、なるべく探してみます(上記書類がほとんどなくてもすぐにあきらめないこと)。

 証拠書類の中で、準備に最も時間がかかるものは、音声記録を文字起こしした反訳書です。もし訴訟を含めた法的手段をとることを考えている方は、反訳書の作成から取り組むのがよいでしょう。

 上記4種類の分類を用いて、考えられる証拠書類を仕訳けてみましょう。

(1)有給休暇が発生していることを証明する書類

  • 労働契約書
  • 採用通知書

(2)取得申請したことを証明する書類

  • 有給休暇取得申請書の労働者控
  • 有給休暇の取得を請求した内容証明郵便
  • 有給休暇の取得請求の際、上司と話した音声記録とその反訳書

(3)有給休暇分の賃金が支払われていないことを証明する書類

  • 労働契約書
  • 在職中給与が振り込まれていた銀行通帳

(4)有給休暇取得時に支払われる賃金額を証明する書類

  • 給料明細表
  • 労働条件通知書
  • 労働契約書

労働基準監督署に申告する

「申告書」の作成~自分で申告書を作る

 申告書の作成は、一般的にパソコンを使って行います。以前のように手書きで作成するよりも、便利で作りやすくなりました。

 決められた書き方が定められているわけではありませんが、一定の書き方に沿って作成した方が楽に作ることができます。下の画像とPDFファイルは、以前私が未払いの有給休暇賃金を請求したときのものです。

是正申告書の作成例の図

 PDFファイルはこちら。コピー等のうえご使用ください。

冒頭において書くこと

申告者

 ここでは、申告者の氏名・郵便番号・住所を記載します。

違反者

 ここでは、違反者の経営している会社の商号・郵便番号・住所と、違反者の氏名・会社における地位を記載します。

 有給休暇分賃金未払いの場合、例え有給休暇を拒否した直接の実行者が総務・人事・経理部署の人間であっても、支払わなかったことについての最終的な責任者は、その会社の責任者たる代表取締役であるため、その氏名を書くのです。

冒頭の序文

 ここの文章にも、決まった形式はありません。しかし、誰が、労働基準法第104条に基づき、誰の労働基準法第39条・21条違反について申告するのか、については必ず記載します。

「申告者」・「違反者」の欄

 冒頭において、氏名・住所は記載した為、ここでは申告者・違反者の簡単な肩書きなどを記載します。

 申告者については、入社時期・職種・月額給与を、違反者については、経営している会社名・何を業としている会社か、について触れておきます。両者とも、軽く触れる程度でいいでしょう。

「違反事実」の欄

 ここには、違反の事実について詳しく書きます。裁判を起こす際に提出する訴状おいて、「請求の原因(理由)」に該当する部分です。

 申告書の冒頭において労働基準法第39条違反があったと書いたので、事の経緯を書いていきます。

「申し立てる内容について」の欄

 ここには、監督官に対する要望(何をしてもらいたいか)を書きます。

 例では、「一連の違反者の行為は、労働基準法第39条に違反する。よって指導・是正勧告等の必要な措置をとっていただくことを申し立てる。」と書いてあります。一般的に「○○条違反だから、○○等の必要な措置をしていただきたく申し立てる」という形が多いようです。

 インターネット上の文例では、より具体的で細かい要望を盛り込んであるものも見受けられます。しかし申告後に監督署に問い合わせをすることもできるため(具体的なことはあまり教えてくれない)、ここで細かい要望を書くことは必ずしも必要ではないでしょう。

「添付書類(証拠書類)」の欄

 先ほど触れましたが、今手元にある証拠となりうる書類を出し惜しみなく提出します。

 裁判や労働審判においては、証拠として添付する書類や物については「証拠説明書」という書面を別途作成して提出しますが、労基署に申告する場合は不要です。それは、中立な立場で双方の主張・立証をもとに法的判断をする裁判所と、監督官庁として調査・指導等をする労基署という立場の違いによるものです。

 労基署は、当書面と添付書類を資料として、自ら会社に調査に赴き、もしくは提出書類を示してそれを調査するなどして、必要な措置(指導・是正勧告・逮捕等)をします。ですから、裁判の際に提出する「証拠説明書」のように、一書面ごとに立証の趣旨や作成者などを説明するようなことはしないのです。

強い申告の意思をもって臨む

 内容証明郵便で指定した期限までに支払われなかったら、いよいよ法的手段の開始です。会社は、有給休暇分の賃金を支払わなかったのです。労働基準法違反です。一切の遠慮は無用です。

 まず、指定期限日までの間に用意した証拠書類を持って、以前に相談した会社の住所地を管轄する労働基準監督署へ「申告」をしに行きます。

 そこで相談員に、『以前こちらで相談したときにアドバイスを受けた通り、もう一度内容証明郵便で会社に支払いを請求しました。しかし指定した期日になっても支払ってくれませんでした。よって今日は「申告」の手続きをするためにやって来ました。これは申告用紙です。』

 そこですんなりと受け取ってくれる場合もあれば、水を差すようなことを言ってくる相談員もいます。『申告する、ということは、会社の経営者が法律違反で捜査されたりする重要なこと。もう一度請求してみては?』などの反論がなされます。私や私の知人においては、そのような内容でした。

 しかし、もう私たちは内容証明郵便まで使って正式に会社側に支払いを要求したのです。そのような反論に構わず申告の意思を断固貫き通しましょう。

 『繰り返しますが、私はそちらのアドバイス通り、内容証明郵便まで使って支払いを再度求めました。しかしそれでも払わなかったのです。○月○日の相談時に、今度支払われなかったら申告します、といいました。そして今も申告する意思は変わりません。申告用紙をお受け取り下さい。』

 ここまで食い下がられることは多くありませんが、もし申告することを渋られた場合は、この応戦の仕方を覚えておいてください。申告することは、労働者の正当な権利です。監督官や相談員に心無いことを言われても、毅然と、『会社が労働基準法違反をしたとき、労働者が労働基準監督官に申告することは労働基準法104条に定められた正当な権利です。』と決意を述べましょう。

申告には、そろえた証拠書類を持参する

 事前に集めた証拠書類は、監督署での申告においても、その効果を発揮します。この時点で手元にある、証拠書類になりうると思われる書類は、監督署訪問の際に必ず持っていきましょう。

 作成した「申告書」とともに、それらの証拠書類も提出します。

 「申告書」には、文中で依頼した調査と指導についての結果の報告を求めたので、提出した後はその結果を待つことになります。おおよその期間を聞いておきましょう。

 申告から結果連絡まで、おおよそ1~2カ月を考えておきましょう。その期間中は、裁判に向けた準備をする、心身の休息を図る、(在職者であれば)自分に合った合同労組(外部労働組合)を探す、などの行動をすると効果的です。

 裁判に向けた準備ですが、監督署に申告した際に未払いとなっている請求金額が、本当に性格であるか再度調べることを勧めます。なぜなら、裁判では請求訴額によって、申し立てをする場所が変わるからです。