未払い賃金請求の際にも役立つ!有給休暇の賃金計算方法
あなたの会社では、有給休暇を取得した際に支払われる賃金について、法にのっとりつつがなく支払われているのでしょうか?
多くの会社では、有給休暇を取得した場合「通常の賃金」が支払われています。しかし「通常の賃金」と言われても、私たち労働者は正確にその額を把握していません。残業代は?深夜手当は?交通費は?など、多くの疑問が残ります。会社によっては、通常の賃金ではなく、平均賃金や、健康保険における標準報酬月額で支払われている場合もあるのです。
よって、適正な賃金が支払われているかを知るためには、有給休暇賃金の計算方法・ルールの知識を知る必要があるのです。
計算方法とルールを知ることは、有給休暇分の賃金の未払請求時における訴額の計算作業の際にも役立ちます。
ここでは、有給休暇の賃金支払い方法の決定の際のルールと、賃金計算方法について説明していきましょう。
- 有給休暇の賃金、3種類の支払方法の知識
- 労働者が覚えておきたい有給休暇賃金の計算の際の要点
- 「通常の賃金」で支払われる場合の、一日あたり賃金額算出方法
- 「平均賃金」で支払われる場合の、一日あたり賃金額算出方法
3種類の有給休暇賃金の支払方法とは
労働者が有給休暇を取得した場合に支払われる賃金は、以下の3通りが認められています。
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 平均賃金
- 健康保険法第40条第1項に定める「標準報酬月額」の30分の1に相当する額
3種類とも事前に就業規則等で定めておく必要がある
労働基準法(以下「労基法」と呼ぶ)第39条第7項は、会社は、有給休暇の賃金について、上記3通りのいずれかによって賃金を支払わなければならないと定めています。そして事前に、いずれかで支払うかを就業規則・賃金規程等に明記しておくべし、とも定めています。
実務の現場においては、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」で支払われる場合がほとんどです。平均賃金によって支払う場合は賃金額の算定過程が面倒であり、「通常の賃金」で支払われる場合に比して額が少ない傾向があるためトラブルが発生することもあり、あまり採用されていません。
『健康保険法第40条第1項に定める「標準報酬月額」の30分の1に相当する額』においては、算定過程が煩雑なうえに標準報酬月額自体がほぼ知られておらず、支払方法としてほとんど採用されていません。就業規則等で支払方法を定めるのに加えて、会社内の労働者の過半数をしめる労働組合との書面による協定もしくは労働者の過半数を代表する者との書面による協定の締結が必要となります。
支払方法の意図的・恣意的な変更は認められない!
会社側は、支払う必要が生じた時のたびに、意図的・恣意的に支払方法を変更できません。事前に就業規則等で定めた支払方法に拘束されます。
いったん就業規則等で支払方法を定めた以上、手続きの簡便さへの考慮・就業規則の不利益変更の法理等もあって、会社は支払方法について変更できません(現実は勝手に変えられてしまうことが多い)。以下の通達を見てください。
『年次有給休暇中の賃金の選択は、手続簡素化の見地より認められたものであるから、労働者各人についてその都度使用者の恣意的選択を認めるものではなく・・・』【基発第675 昭和20年9月30日】
労働者が覚えておきたい有給休暇賃金の計算の際の要点
有給休暇の賃金支払方法については、個人としての戦いで焦点となることはほとんどありません。労働者が入社した際には、すでに定められている事柄であるからです。
賃金支払方法よりも知っておきたいことがあります。それは有給休暇賃金のある程度正確な計算方法であります。なぜかと言いますと、退職時の有給休暇賃金未払いにおいて内容証明郵便等を使って請求する際、もしくは司法手続きを使って請求する際、最も重要な記載内容の一つとなるからです。
具体的な賃金計算方法については各支払方法ごとに説明しますが、ここでは労働者が自ら計算する際の大きなルールを説明しましょう。この大きなルールと、後述の具体的計算方法の説明を参考に、請求する際は請求額を出しましょう。
労働者は賃金計算の際、計算精度に必要以上に過敏になる必要はない
労働者は有給休暇の賃金の計算の際、細部(例えば一円単位の誤差)について必要以上にこだわる必要はありません。今から示す計算上のルールを把握したうえで、そのルールに従い、正確な額に近いものを打ち出せばよいのです。
正確かわからない額を打ち出して会社に請求すると、様々な問題が起こるのでは?と不安になるかもしれません。しかしそのようなことを気にする必要はありません。労働者が算出した賃金額に異議があるならば、会社はそれを何らかの形で否定すればいいだけだからです。
労働者が有給休暇取得相当分賃金50万円が未払となっているため、裁判所に提訴したとします。労働者が訴状に「50万円を支払え」の文言が入った訴状を書きます。会社側はその額について不満がある場合は、答弁書において額を否定する、もしくは有給休暇取得の有効性自体を否定すればよいのです。また、労働者が会社の打ち出した額や休暇の有効性に不満がある場合は、答弁書における会社側の主張に対し反論するために書く「準備書面」において会社の主張を否認します。
実費補償的性格の手当(通勤費等)は不支給となる場合がある
労働基準法の附則第136条においては、有給休暇を取得したことにより賃金の減額などの不利益な取り扱いをしてはならないと定められています。よって、通常の賃金に皆勤手当的性格を帯びる賃金加算制度がある場合において、有給休暇を取得したことに対するペナルティとして当該手当を不支給にすることは、許されないと解されます。
しかし、実費補償的性格を帯びる手当については、有給休暇の取得日には支払わない、とするルールを決めることは、労働基準法附則第136条に違反しないとされます。裁判例においてもそれは認められています。実費補償的性格を帯びる手当の例を挙げましょう。
- 通勤手当(各人の出勤の方法・出勤経路の距離に応じて出勤した日に際し支払われる手当)
- 食事手当(出勤した日に応じて支払われる食事代の補助手当)
- 工具材料手当(労働者が出勤した日に自弁で材料を持ち寄る際に対し支払われる補償的手当)
実費補償的性格を有する手当を不支給とする際は、その不支給が使用者の胸三寸で行われるのではなく、就業規則等に支払われないことが明確に記されることが必要となります。よって就業規則・賃金規程などでそのような不支給条項が見当たらない場合は、不支給は違法となります。
「通常の賃金」で支払われる場合の、一日あたり賃金額算出方法
「通常の賃金」で支払われる場合の具体的な計算を見ていきましょう。現在は様々な賃金形態があります。考えられるものとして、以下の7パターンが挙げられます。
- (1)時間によって定められた賃金
- (2)日によって定められた賃金
- (3)週によって定められた賃金
- (4)月によって定められた賃金
- (5)月・週以外の一定の期間によって定められた賃金
- (6)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
- (7)労働者の受ける賃金が上記(1)~(6)の中の2以上の賃金によりなる場合
計算する前に心得ておきたい注意事項
上記各形態ごとに以下で具体的事例にのっとり計算方法を示しますが、ここでいくつかの注意点があります。計算時、もらった賃金の中で、賃金計算に含めない賃金・含める賃金のことです。まず計算の前に、この注意事項を頭に入れておきましょう。
- 臨時に支払われた賃金
- 割増賃金の如く所定労働時間外の労働に対して支払われる賃金
- 通勤手当などの出勤日に応じて支払われる実費補償的賃金
この3つについては、もらった賃金総額から除外します。支払われた手当でよくわからないものがある場合は、毎月決まって支払われる手当(家族手当・職能給手当・特定部署課員に支払われる手当等)については計算総額に含み、そうでないものは総額から除外して計算しましょう。
しかし深夜勤務がある労働者の方は、深夜割増賃金については加算しておく必要があります。
例えば、三交代制が採用されている職場に勤務する労働者がいたとします。その労働者が三交代制における夜間勤務の日に有給休暇を取得したら深夜割増賃金を含めた有給休暇賃金を支払わなければなりません。
行政通達によると、所定労働時間労働した場合に支払われる「通常の賃金」には、臨時に支払われた賃金や、割増賃金のような所定時間外の労働に対して支払われる賃金は、含まれないとされています。
しかし例のような三交代制の労働者にとって、夜間勤務日は通常の所定労働時間であるため、有給休暇賃金に夜間割増賃金を含めるのです。
このことから、例えば夜間勤務専従者が有給休暇を取得した際には、その者にとっては夜間勤務時間が通常の所定労働時間であるため、夜間割増賃金を支払うことになります。
・・・上記「労働者が覚えておきたい有給休暇賃金の計算の際の要点」でも触れましたが、労働者が有給休暇時の賃金を計算する際は、一桁・二桁・三桁単位までは計算精度に過敏になることはありません。手持ちの給料明細を片手にまずは計算をしてみましょう。
(1)時間によって定められた賃金
時間によって定められた賃金の金額に、その日の所定労働時間数を乗じた金額
計算例
パートタイム労働契約において、時間給900円、一日の労働時間が6時間の場合は、その日の通常賃金は、5,400円。
計算例:日によって所定労働時間が異なる労働者の場合
時間給労働者の中には、週・曜日によって所定労働時間が変わる人もたくさんいます。その場合は、各日の所定労働時間に時間給を乗じて額を出します。
月・水・金の所定労働時間が5時間、火・木の所定労働時間が6時間の時給1,000円のパートタイム労働者が、木曜日に有給休暇を取得した場合、「通常の賃金」として支払われる額は、6,000円。
(2)日によって定められた賃金
日によって定められた賃金の金額
計算例
日給8,000円の労働契約を結んで働いている労働者の場合、「通常の賃金」は8,000円。
(3)週によって定められた賃金
週によって定められた賃金の金額を、その週の所定労働日数で除した金額
計算例
週給45,000円・週所定労働日数5日の労働契約を結んで働いている労働者の場合、「通常の賃金」は、45,000円÷5で、9,000円。
(4)月によって定められた賃金
月によって定められた賃金の金額を、その月の所定労働日数で除した金額
計算例
月給240,000円・月所定労働日数21日の労働契約を結んで働いている労働者の場合、「通常の賃金」は、240,000円÷21で計算。
240,000円÷21=11428.57142・・・・。通達【昭和63年3月14日基発150号】に基づき、1円未満を四捨五入。よって「通常の賃金」は11,429円。
(5)月・週以外の一定の期間によって定められた賃金
月・週以外の一定の期間によって定められた賃金を、その一定の期間中の所定労働日数で除した金額
計算例:年俸制の場合
年俸額 366万円
年俸額の算定期間 4月1日~次年度3月31日
年俸額の算定期間における所定労働日数 121日
366万円÷121日=30247.93388・・・・。【昭和63年3月14日基発150号】に基づき、1円未満を四捨五入。よって「通常の賃金」は30,248円。
(6)出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額に、当該賃金算定期間における一日平均所定労働時間数を乗じた金額
計算例
10月(賃金算定期間)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額 300,000万円
10月(賃金算定期間)における総労働時間数 21日×8時間=168時間
300,000万円÷168時間=1,785.714285・・・。通達【昭和63年3月14日基発150号】に基づき、1円未満を四捨五入して、1,786円。
10月(賃金算定期間)における一日平均所定労働時間数は8時間。1,786円×8時間=14,288円
(7)労働者の受ける賃金が上記(1)~(6)の中の2以上の賃金によりなる場合
労働者の受ける賃金が上記の賃金中の2以上の賃金によりなる場合は、その部分について、上記(1)~(6)によってそれぞれ算定した金額の合計額
計算例:出来高払制+月給制の混合給与体制の労働者の賃金計算例
出来高払制の方の計算
6月(賃金算定期間)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額 150,000万円
6月(賃金算定期間)における総労働時間数 21日×8時間=168時間
300,000万円÷168時間=892.8571428・・・。通達【昭和63年3月14日基発150号】に基づき、1円未満を四捨五入して、893円。
6月(賃金算定期間)における一日平均所定労働時間数は8時間。よって出来高払制部分の通常の賃金は、893円×8時間=7,144円
月給制の方の計算
月給部分給120,000円・月所定労働日数21日の労働契約を結んで働いている労働者の場合、「通常の賃金」は、120,000円÷21で計算。
120,000円÷21=5714.285714・・・・。通達【昭和63年3月14日基発150号】に基づき、1円未満を四捨五入。よって月給制部分の通常の賃金は、は5,714円。
最終的な賃金額
それぞれ算定した金額の合計額なので、7,144円+5,714円=12,858円
「平均賃金」で支払われる場合の、一日あたり賃金額算出方法
平均賃金を算出してその額を有給休暇賃金とする方法は、あまり一般的ではありません。
平均賃金の額で有給休暇賃金とする場合は、先ほども申しましたがあらかじめ就業規則にて、の旨伝えておく必要があります。
平均賃金を求める方法(原則)~日給制・時給制・出来高払制以外の労働者の平均賃金計算法
平均賃金とは、「算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」です。
平均賃金を求める手順は・・・
- (1)まず起算日(算定すべき事由の発生した日)をはっきりとさせる
- (2)「賃金の総額」に含めない賃金を分別し、その金額を総額から差し引く
- (3)「期間の総日数」に含めない期間をはっきりさせ、その日数を総日数から差し引く
(1)まず起算日(算定すべき事由の発生した日)をはっきりとさせる
原則は、算定すべき事由の発生した日が起算日となりますが、賃金締切日(俗にいう「締め日」のこと)がある場合においては、算定事由の発生した日の直前の賃金締切日から起算します(労基法12条2項)。
現在の企業においては、賃金締切日があるケースがほとんどですので、原則のまま計算する場合はごく稀です。計画的付与において休業手当を支払う場合には、計画的付与によって有給休暇の権利がない労働者が休ませられる日の初日が「算定事由の発生した日」となります。その日の直前の賃金締切日が「起算日」となります。
賃金締切日が異なる賃金が並存するケースでは、各賃金において「算定事由の発生した日」の直前の締切日が起算日となります【基収5926号:昭和26年12月27日】。
(2)「賃金の総額」に含めない賃金を分別し、その金額を総額から差し引く
- 臨時に支払われる賃金
- 3か月をこえる期間ごとに支払われる賃金
- 現物給付
「臨時に支払われる賃金」とは、定期的に支払われることがない賃金のことです。「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの、及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が未確定でありかつ非常に稀に発生するもの」【基発17号 昭和22年9月13日】と行政は解釈をしています。例として、私傷病手当・結婚手当・弔事手当・見舞手当などが挙げられます。
直下で挙げる『「期間の総日数」に含めない期間』の間に、休業期間の理由に基づき支払われたような賃金については、「臨時に支払われた賃金」の性格を有するため、これもまた「支払われた賃金総額」から差し引きます。【※例】「業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間」に支払われた見舞手当など。
「3か月をこえる期間ごとに支払われる賃金」の代表例はボーナス・賞与です。
「現物給付」は、支給されたのものの市場での価値が算出困難であるため、除きます。
(3)「期間の総日数」に含めない期間をはっきりさせ、その日数を総日数から差し引く
以下の期間は、その期間も計算式の分母に含めてしまうと平均賃金額が不公平に低くなってしまうため、総日数から差し引いたうえで計算をします。
- 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
- 産前産後の女性が労働基準法65条の規定によって休業した期間
- 育児・介護休業法の定めるところにより休業した期間
- 試みの試用期間
- 使用者の責に帰すべき事由により休業した期間
平均賃金を求める方法(例外)~日給制・時給制・出来高払制の労働者の平均賃金計算法
賃金が時給制・日給制・出来高払制の場合は、暦日数たる総日数で割ってしまうと不当に平均賃金が低くなる可能性があるため、実際に働いた日数で計算をします。
例外における算出の手順は以下の通りです。原則の計算手順に、「(4)原則の計算式で算出した額と、例外の計算式で算出した額を比べる」の作業が加わります。
- (1)まず起算日(算定すべき事由の発生した日)をはっきりとさせる
- (2)「賃金の総額」に含めない賃金を分別し、その金額を総額から差し引く
- (3)「期間の総日数」に含めない期間をはっきりさせ、その日数を総日数から差し引く
- (4)原則の計算式で算出した額と、例外の計算式で算出した額を比べる
ここでは「(4)原則の計算式で算出した額と、例外の計算式で算出した額を比べる」の作業について説明しましょう。
(4)原則の計算式で算出した額と、例外の計算式で算出した額を比べる
日給制・時給制・出来高払制の労働者の場合、最初に原則の計算式で計算します。その後、例外の計算式で計算をします。
例外の計算式で導かれた金額は、日給制・時給制・出来高払制の労働者の平均賃金の最低基準額となります。多くの場合、例外の計算式で計算した額の方が金額が上である場合が多いものです。少ないケースですが、原則の計算式で計算した額が例外の計算式で計算した金額を上回る場合は、当然に、原則計算の金額がこの労働者の平均賃金となります。