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有給休暇の「当日」申請を会社に認めさせるための4つの対策

有給休暇を始業開始直前に申請する行為(当日申請)は、労働者が体調不良や家族に関わるやむを得ない事情等で突発的に休む時によく行われます。

当日に突然休むことは、それぞれが家族を抱え、また生身の人間である以上、避けられないことです。そのような場合に有給休暇が取得できることは、収入の減少もなくなり、労働者にとって安心なことですね。

残念なことに、会社によっては当日請求を認めない場合もあり、トラブルに発展することもあるのが現状です。

しかし有給休暇を当日に申請する行為自体に、労働基準法をはじめとする労働関連法は明確な基準を示していません。それがゆえに当日申請に関する多くの裁判例が出ています。

このページでは、当日申請を会社に認めさせるための方法を、裁判例を参考に4つにまとめ、説明していきたいと思います。穏やかに、そしてしたたかに当日申請を認めさせましょう。

当日申請を実現させるために知っておきたい過去の裁判例と、4つのポイント

 Aさんは、出勤日の朝に突然体調不良となり、一か月前に発生した有給休暇の権利を利用して会社を休もうと電話をした。しかし会社は当日申請であることを理由にこの請求をただちに拒否した。結果、Aさんはその日は無給の欠勤扱いとなってしまった。そもそも当日請求は、ただちに拒否しうるものなのか?

 ・・・・労働者の方であれば、始業開始直前に急用や体調不良で会社に年次有給休暇を請求することは、一度くらいは経験があることかもしれません。

 しかし、当日請求が認められるか否かの結果は会社によって違うようです。ここではそもそも「当日申請」について、法律や裁判例がどのような判断をしているかを考えてみましょう。

「当日請求」という理由だけで、会社はただちに休暇の請求を退けることはできない

 結論から申しますと、会社は「当日申請」という事実だけを理由に当該有給休暇請求を拒否することはできません。拒否をするためには、正当な事由が必要となります。つまり「当日申請」は法律的に許されない行為では決してないのです。

 実はこの結論は、「会社が休暇日経過後に時季変更権を行使できるか否か」という争点の裁判の中で、最高裁判所が判断を下すことによって生まれたのです。

※時季変更権と時季指定権の詳細な内容については、会社の時季変更権の濫用に対抗するための「これだけ!」知識 参照

 会社が、労働者の指定した日に有給休暇を与えないためのよりどころは、会社側が持つ「時季変更権」という権利以外ありません。それは「当日請求」の場合であっても全く同じです。つまり、有給休暇の当日請求に対して、時季変更権を「正当な事由」で行使できることによってはじめて、この有給休暇請求を拒否できるのです。決して、「当日申請」だから当然に拒否できるということではありません。残念なことに、多くの会社が「当日に請求したこと」だけを理由に、当たり前のように有給休暇を拒否しているのが現状です。

 「正当な事由」にもとづいて時季変更権を行使しその日に有給休暇を認めなくとも、時季変更権を行使した以上は、労働者が新たに取得日を指定し請求した場合は当然に有給休暇を与えなければならないことは言うまでもありません。ここでも残念なことに、多くの会社が「時季変更権」を「有給休暇拒否権」だと都合よく解釈し、別の日に有給休暇を取得することすら拒否するケースが多々見受けられます。

「当日申請」にかかわる裁判例と、4つのポイント

 さきほども紹介したように、「当日請求」に対して会社が休暇日経過後に時季変更権を行使して有給休暇を認めなかったことが適法か否かを争った裁判例があります。有名な裁判例ですので、ここで検証していきましょう。

 労働者Aは、勤務が始める直前に、その日有給休暇を取ることを請求しました。そして労働者Aが休暇日の後ただちに上司Bから有給休暇を請求した理由を聞かれたが、労働者Aはその理由を話すことを拒否しました。上司Bは、理由を話してくれればその内容を考慮しつつ有給休暇を認めるつもりであったが、直前取得で代替要員確保も困難であった事情も考慮してその日の休暇を有給休暇と認めず欠勤とし、賃金を支払いませんでした。そこで労働者は、その仕打ちが会社側の時季変更権の権利の不当な行使だとして、有給休暇分の賃金と付加金を求めて会社を訴えました【最判昭和57・3・18】。

 この裁判、残念ながら最終的に労働者側の主張は認められませんでした。裁判所は会社側の事後の時季変更権を認め、有給休暇を認めずその日分の賃金を支払わなかったことを有効としました。

 なぜ裁判所はこのような判断を下したのでしょうか?

 当日直前までに有給休暇の申請する可能性は、例え就業規則に「○○日前までに申請せよ」という制限があってもゼロではない、と判断したが、その代わりに会社側にも「有給休暇申請が直前すぎて時季変更権を行使するか否かの時間的余裕がない場合」には、事後に直前請求の事情を聞きその内容を考慮して有給休暇とする否か判断できる、という可能性も与えたのです。

 つまり裁判所はこう考えたのです。労働者に当日請求の可能性も残した反面、会社側にも、事後の時季変更権の行使の可能性も与えたのです。労働者の当日請求の権利だけを認め、会社側の事後の時季変更権は一切認めない、では、労働者に有利になりすぎる、両者の法律上の利益のバランスを失する、と考えたのですね。

 この裁判例では、会社が時季変更権を休暇日経過後に行使したことを認め有給休暇としなかったことを適法とした根拠として、以下の4つを考慮したことがわかります。

  • 労働者の有給休暇の請求から取得までの時間が短すぎて、時季変更権を行使するか否かの判断をする時間的余裕が無かったこと
  • 労働者が、休暇取得後会社(上司)から当日請求するに至った理由を聞かれたが、返答を一切拒否したこと
  • 会社において代替要員を確保することが困難で、事業の正常な運営に支障をきたす恐れがあったこと
  • 時季変更権が、休暇以後ただちに行われたこと

 私たち労働者は、急な体調不良等でも有給休暇をより有効に使うためにも、最高裁判所が「当日請求」に対して時季変更権の行使を認める根拠とした上の4点をしっかりと活かさないといけません。この4点を頭に入れて行動することで、事後の時季変更権行使をけん制し、当日請求成功の可能性を高めていくことができるのです。

 以下で、上の4点の考慮したうえでの現実的な対策を考えていきたいと思います。

裁判例に基づいた、当日申請を認めさせるための4つの対策!

裁判で考慮された各点を、あなたが「当日請求」をするときに応用しましょう。ここでは、うえで述べた4つのポイントごとに、当日申請を認めさせるための具体的な方策を述べていきましょう。

労働者の有給休暇の請求から取得までの時間が短すぎて、時季変更権を行使するか否かの判断をする時間的余裕が無かったこと

 この点については、「当日請求」であることが前提であることから、対策の立てようがありません。他の3点について対策を立てるしかありません。

 しかし「当日請求」になってしまったことも考慮して、会社には礼を尽くし、穏やかに頼み込むように申請をすると、後日の時季変更権行使を差し控えてもらえる可能性が高くなるのは事実です。

 あるワンマン会社での有給休暇のエピソードです。今まで「当日請求」の場合でも、請求する理由によっては有給休暇として認めてくれていたが、紛争発展を契機にことごとく認められなくなった、という実例もあります。人の感情は、現場での法の運用に大きく影響することがわかる事例ですね。

労働者が、休暇取得後会社(上司)から当日請求するに至った理由を聞かれたが、返答を一切拒否したこと

 当日請求をした理由が病気などの突発的な体調不良であった場合は、正直にその理由を述べ、有給休暇の申請を行います。上の裁判例では、休暇日経過後の上司の聞き取りに対して労働者が返答を拒否をしたことが、事後の変更権行使適法の根拠の一つされました。病欠以外の理由であったとしても、後日聞かれた場合は正直な理由もしくは「もっともらしい理由」を述べておくのが良いでしょう。

 ここで皆さんの誤解を防ぐために改めて書いておきます。有給休暇は理由の如何にかかわりなく取得できるのです。会社の承認も必要ありません。時季変更権を行使するか否かを決める参考材料の一つとして聞くことが許される、ただそれだけなのです。

 ですから、会社は請求理由について説教や厳しい尋問などすることは一切許されません。聞き取り対して理由を答える時は、こちらも最小限の内容を告げるだけで十分です。

会社において代替要員を確保することが困難で、事業の正常な運営に支障をきたす恐れがあったこと

 この根拠は、違法な労務管理が常態化している会社で、有給休暇を与えないための口実として頻繁に使われています。

 有給休暇を取らせないような違法な会社では、利益優先のための人件費抑制のためか常に少ない定員しか配置されておらず、その少ない定員に過重・過酷・理不尽な労働を強いることで業務を回しているケースが非常に多く見受けられます。そのような状況下では、労働者の一人が休みを取ればたちどころに仕事は回らなくなります。会社はその点を有給休暇申請を認めない最大の言い分、もしくは時季変更権を行使する最大の理由としているのです。そして「人員不足で事業の正常な運営に支障をきたす恐れがあるから認めない」と堂々と居直るのです。

 ・・・・ここで、もう一つの有名な裁判例を見てみましょう。【最判・昭和62・7・10】です。

 最高裁判所は、判決文の中で時季変更権について『同法(労働基準法)の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる』と言及しました。

 最少の人員で業務が行われている勤務割の職場では、代替要員となるべき人員がいなければ、「事業の正常な運営に支障をきたす・・・」と常に時季変更権を行使され、労働者は希望する時季に有給休暇を取得することはできなくなります。この状態は、労働基準法の趣旨に反します。そこでこの裁判例では、勤務割の職場において代替要員を確保するなどの日頃の努力を「通常の配慮」とし、その配慮をしないで時季変更権ばかりを行使するのは許されない、と判断したのです。

 そのうえ、就業規則に「前もって○日前までにしなければならない」と定めてある場合は、会社はその規程を根拠に時季変更権どころか、社内の手続きに反したとして、堂々と「当日請求」を拒否してくるでしょう。この場合、従業員としての地位を平穏に確保しながらの対抗は、非常に難しいものとなります。

 労働者が団結して、就業規則の規程を改善してもらうのも良いでしょう。規程の内容が、有給休暇の取得を抑制してしまうような内容であれば、大いに対抗の余地があります。しかし「労働組合を結成して闘う」などは非常に勇気のいる行動であり、会社の陰湿な嫌がらせにさらされる危険もあります。

 少しの勇気をもってできる対抗策として、「当日請求」に時季変更権を行使されたら、すぐさま、社内の規程を満たしかつあなたにとって最も都合のいい直近の日を指定するという行動をとります(労働者の時季指定権を行使するのです)。そしてそれでも会社が人員不足等を理由に拒否したら、【最判・昭和62・7・10】の裁判の判決の文言を借りつつ食い下がります。実現できなくてもいいのです。できれば、そのささやかな抵抗は、日ごろ有給休暇を取得できないことに不満を持っている仲間たちと、請求のたびごとに行うといいでしょう。時季変更権を行使して休暇を与えないことに、少しのとまどいが湧いてくるようになります。

 有給休暇がもらえないという悪しき習慣は、有給休暇付与を渋る会社の態度に、長年労働者が何も言わず黙って従ってきたことが原因で形成されたものがほとんどです。ささやかな反抗は確かに勇気のいる行為ですが、労働組合を結成して闘うよりは取り組みやすく、かつ未来に希望の持てる行動だと言えます。

時季変更権が、休暇以後ただちに行われたこと

 会社が休暇取得以後、時季変更権を行使してきた時間に注意します。裁判例では、「時季変更権が、休暇日経過以後ただちに行われたこと」が事後の時季変更権の行使を適法づける条件の一つとしているからです。ただちに行われず、知らされもせず、給料明細等を見て初めて申請した日が有給休暇になっていなかったことを知った場合は、裁判が示したこの条件を会社に告げ、毅然と抗議をするのが良いでしょう。

 できることならば、あなたの希望する日を有給休暇としてただちに申請します。拒否に対しては【最判・昭和62・7・10】の判決文を示し、時季変更権をただちに行使しなかった今回の会社の行為は違法であることを主張しつつ取得を請求します。これは非常に勇気のいる行動です。もし自信がなければ、有給休暇として認めなかったことをただちにこちらに伝えてくれなかった点に対してだけでも、抗議をしてください。会社のなすがままにさせることは、有給休暇を以後取得できるかどうかを左右する大変重要な要素となります。

 会社が就業規則・時季変更権にまつわる裁判をちらつかせて当日請求を拒否するならば、こちらも時季指定権・裁判例を材料に権利を主張するのです。その積み重ねをもってでしか、有給休暇の取得状況を改善させません。