有給休暇付与要件計算~産前6週間を超えて休んだ日の扱い方
出産の遅れで、産前6週間の休暇期間を超えて休んだ場合、超えて休んだ日はどのように扱われるのでしょうか?
結論から言いますと、「出勤日」として扱うのが正しいのです。
しかし実務の現場では、「欠勤」扱いとされることもあり、それが原因で有給休暇付与要件を満たすかどうかの計算(出勤率算定)において要件を満たさず、有給休暇が付与されない、という不利益を受ける労働者の方もおられるのです。
細かいと思われる点ですが、有給休暇が与えられないとなると放置しておくわけにはいきません。その点があいまいになっていたがゆえに有給休暇をもらうことができず、産後の何かと休日が必要となる時期に、有給休暇を利用できない労働者の方が多くいらっしゃいます。
このページでは、出勤扱いとされることの事実を説明し、実際に欠勤扱いとされた場合の対抗方法を説明します。出産したことに伴う不利益が少しでも減ること願います。
事例検証~産前休暇を超えて休んだ日も、出勤率算定に当たっては「出勤日」として扱われる
ケース事例
Aさんは、労働基準法に基づく産前産後の休業に入っていた。出産が予定日より遅れ、産前休業終了日から1週間と3日遅れてしまった。その後産後休業期間を経て職場に復帰したが、有給休暇付与の日になって、自分に有給休暇が付与されないことが分かった。Aさんはただちに総務に事の真相を確かめた。総務担当者は、休暇が付与されなかったことの理由として、Aさんが出産に関して頻繁に欠勤したため、前1年間の出勤率が8割に達していないことを挙げた。納得できないAさんがよくよく話を聞いてみると、産前6週間を超えて休んだ日数も欠勤扱いとなっており、そのためわずかに出勤率が8割に満たないことが分かった。Aさんは、産前休業は労働基準法上の権利であり、欠勤扱いはおかしいと反論したが、「自社ではそのように扱うようになっている」と断言され、結局有給休暇は与えられなかった。法律上問題はないのか?
・・・女性が労働基準法第65条により産前産後の休業をした期間は、年次有給休暇の出勤率に関しては、この期間を「出勤」として取り扱わなければならないことが労働基準法第39条8項に定められています。
事例では、労基法第39条の一般的なケースと少し違いがあります。出産が予定日より遅れて、産前休業期間たる6週間を超えて休業しつつ出産した場合、その超えた休業期間は「出勤」として扱われるか否か、が争点となっているのです。
この問題点については、昭和23年に行政通達として明確な回答が出されました。
「六週間以内に出産する予定の女性が、法第六十五条の規定により休業したところ、予定の出産日より遅れて分娩し、結果的には産前六週間を超える休業は、出勤したものとして取り扱う。」【基収昭23・7・31】
・・・よって本事例の場合、会社側は、Aさんの出産予定日から実際の出産日までの休業を「出勤」として扱わなければなりません。そしてその結果、本年度分の出勤率が8割以上到達したことによる年次有給休暇の付与をただちに行わねばなりません。
本事例に対する具体的な対策
まずは腰を低くして、「出勤」と認めてもらうことを目指す
繰り返しますが、本事例で会社は、出産予定日から実際の予定日までの間に休んだ期間を「出勤」として当然に扱わなければなりません。よって、こちらが腰を低くして頼む必要性などないのです。
しかしAさんにとっては、「出産予定日を超えて休んだ期間が『出勤』と認められ、本年度分の有給休暇が付与され」れば、それ以上何の問題もないのです。よって、まず最初は腰を低くして穏やかに間違いを指摘し、争いを避けつつ解決を図ります。
その際に有効なのは、以下の点を強調することです。
- (1)今回の事例(出産予定日を超えて休んだことで出勤率が8割を下回ること)は、滅多に起こらない事例であるので、ここだけの話として「出勤」として扱って欲しい、と頼む
- (2)出産後は何かと突発的な用事で休むことも多く、かつ様々な出費で経済的にも厳しいため、有給休暇を与えて欲しい、と頼む
- (3)今回交渉しているのは、有給休暇を認めてもらいたいから交渉しているだけであり、会社の方針に立てつくつもりなど一切ない、と伝える
(1)・(2)を伝え会社側の温情にすがることで、相手の自尊心をくすぐり、情に流させることができます。(3)のように「立てつくつもりがない」と伝えることで、会社側の警戒心をほどき、相手の心の中に「例外を認める柔軟さ」を引き出すことができます。
交渉にあたっては、ボイスレコーダーを使って話し合いの内容を録音します。そして交渉後、ボイスレコーダーの録音内容を聴きつつ、議事録形式で交渉内容を詳細に再現しておきます(反訳する、ともいう)。拒否されたのちに、次の行動段階で使うためです。
ここまで辞を低くして頼み込むことは、権利意識や自尊心が強く、誇り高い人には辛い事かもしれません。しかし、最も望ましい結果(速やかに、かつ労力をほとんど使わずに、本年度分の有給休暇をもらう)を得るためと割り切って、淡々とこなしてください。もし「勝利」というものがあるならば、それこそが最大の勝利でしょう。
腰を低くして交渉しても拒否された場合は、水面下での計画と準備をし、時機の到来とともに選択した手段を実行する
冷静になって「かかる労力」と「得る利益」を分析し、判断材料とする
上記の交渉で拒否された場合は、まずはゆっくりと考えましょう。決して交渉決裂の場で行動しないことです。何を考えるのかといいますと、「これ以後どう行動するか?」です。考える際には「必要な労力とそれによって得る利益」を念頭に入れて、どのように行動するかを決めると良いでしょう。
紙でもノートでもいいので、「○○の行動したら、△△の結果を得る。かかる費用と期間はこれくらい。人間関係はこうなる・・・。」と具体的に想像し書き出します。以下のように思いつくままに書いていきましょう。
書き出しの例
- 【利益】 有給休暇12日分(賃金換算にして約14万円分)
- 【手段】 外部労働組合に加入し、社員としての地位を守りつつ有給休暇を獲得する
- 【労力】 外部労働組合費用:月額2,000円
- 【代償】 ごう慢社長に目を付けられる。ひょっとしたら職場内でイジメに遭うかも
・・・このような感じで、様々な行動パターンを考えていきます。
もらえるはずだった有給休暇の日数が10日ちょっとであり、今年我慢すれば来年からはまた普通に有給休暇がもらえるから構わない、と考えるならば、あえて我慢する道を選ぶでしょう。
2年以内の近い未来に会社を辞めるつもりであれば、退職に際して会社側に今回もらえなかった分も併せて請求するのも一つの手段です。退職するのだから、かなり強気な手段を採ることができます。
労働法を守る意識の低い会社には最大限の警戒をする。突然収入の手段を奪われてしまうような危険な行動に決して走らない
会社の経営者が報復的で陰湿であるならば、一人の力で戦うのは大変危険です。有給休暇の付与を要求した瞬間から、会社ぐるみでの嫌がらせが始まるでしょう。外部労働組合に加入して我が身を守りつつ戦うか、水面下で有志を募って労働組合を結成し、実績のある外部労働組合の支部になった後に結成通知をして、最初の団体交渉で今回のことを併せて要求することです。
会社に残ることを前提に権利の実現を目指すならば、第三者を介しての話し合いをお勧めします。労働局のあっせん、もしくは簡易裁判所の調停を利用しましょう。話合いを選択することで、会社側との関係が悪くなる可能性が低くなります(残念ながら、悪化してしまう場合の方が多い)。少額訴訟等の本格的な司法手続きは、話し合いによる解決が絶たれた後から取り組んでも遅くはありません。
通達を示しても拒否してくるような会社は、労働法を守る意識が低い会社であると推測できます。
組合等の強力な後ろ盾がない場合は、とにかく孤立になることを避けます。突然解雇されたり、突然休職に追い込まれ、収入の頼みを一気に失うという最悪な事態を避けるためです。例えばの話ですが、有給休暇がもらえなくて20日欠勤となってお金が少なくなったとしても、収入源を突然絶たれるよりは格段に被害が少ないのです。
もし労働者にとって明確な敗北があるとすれば、それは収入源が突然奪われ、労働者の家族に経済的な打撃が及ぶことです。残念ながら身勝手な経営者という人種は、労働者に家族がいようが、子供が進学等で大事な時期であると推測できようが、お構いなしに不当な行為を浴びせてきます。これは、今までの私自身の経験や相談をしてきた人の経験から言っても、間違いありません。
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