トップページ年次有給休暇の労働基準法違反に対抗する!>就業規則中の「有給休暇繰越し禁止」規程と戦うための方法!

就業規則中の「有給休暇繰越し禁止」規程と戦うための方法!

有給休暇を翌年度へ繰り越すことは、労働基準法第115条で有給休暇の消滅時効が2年であると定められていることから、当然に認められる結果です。

しかし残念なことに、就業規則によって堂々と有給休暇の繰越しを禁止する無知な会社が数多く存在します。

繰越し禁止規程がいくら違法な定めだと訴えても、会社側が開き直ってしまえば、我々労働者はとりあえず従わざるを得ません。この違法な社内規程を止めさせるためには、知識と、計画だった戦いの手順が必要となります。

当ページではまず、繰越し禁止規程が違法であるとした過去の労働基準局・裁判所の判断例を説明します。そのうえで、それらの判断例を参考にした具体的な対策を考えていきます。

違法な社内規程を改めさせるための戦いは容易ではありませんが、少しでも皆さんの持つ権利が守られることを願います。

事例検証~就業規則による繰越し禁止規程は違法

有給休暇の消滅時効は2年。その定めに抵触する就業規則の規程は労働基準法違反であり無効となる。

【ケース事例】

 Aさんはちょうど2年務めた会社を退職することになった。この会社は労働条件が過酷で、この2年間一度も有給休暇を取得できなかった。退職する際に有給休暇の消化を申請したところ、就業規則の「年次有給休暇は翌年度へ繰越してはならない」という定めを理由に、全ての休暇の申請が認められなかった。このような定めは労働基準法に違反するものではないのか?

 最近は、専門家の積極的な関与による労務管理が進み、ここまで露骨な就業規則や、それに関連する対応は減ってきました。

 しかし一部の零細企業や一族ワンマン経営会社では、上記事例のような、明らかに労働者に不利な定めを持つ就業規則が存在し、それがまかり通っている場合が見受けられます。このような就業規則を持つ会社で働いている労働者の方は、ぜひとも当ページを熟読してください。当ページの知識は、退職時に有給休暇を全部消化する時にも役立つでしょう。

有給休暇発生から2年で、休暇を使う権利が消滅する。よって一年で権利は消滅しない。

 事例に見られるような就業規則の定めは、明確に違反だと言えます。ここで行政通達を見てましょう。労働基準局長名の通達【昭和22・12・15 基発第501号】です。以下をさっそく見てみましょう。

 ※通達とは、労働基準法などの条文の解釈について労働に関する行政官庁(労基署など)が職務を遂行するに当たって疑問を持った時、疑問解消のための解釈の指針となる回答を「通達」という形で発したものです。

★参考通達2: 労働基準局長名通達【昭和22・12・15 基発第501号】

 【問い】「年次有給休暇をその年度内に全部取らなかった場合、残りの休暇日数は権利の放棄とみなしてよいか、それとも次の年に繰り越して取り得るものなのか?」

 【回答】「労働基準法第115条の規定により2年の消滅時効が認められる」

 「2年」の起算点は、「有給休暇が付与され使うことが出来るようになった日」です。労働基準法では入社後6か月を経過した日に10労働日の有給休暇が与えられますが、その10労働日は全く行使しなければ、入社してから2年と6か月後に使うことができなくなる、ということになります。

 このように、通達で有給休暇は2年は権利が消滅しない、とはっきり示しているのです。裁判例の中には、次年度への繰越しを認めない判決もありましたが(【昭和48・3・23静岡地裁】)、監督署などではこの通達の通り2年の消滅時効として指導監督をしているようです。

就業規則に繰越し禁止の定めがあっても、構わず繰越しできる。

 よって就業規則に次年度への繰越し禁止の規程があっても、その規程の効力は法の前に効力を失い、あなたの権利も当然に存在することになります。

 与えられた年度内に休暇を全部消化させるために、あえて繰越し禁止の規程を設けるのはさしつかえない、と同じく通達で示されています。しかし現実的には、そのような規程を設ける会社の経営者の気持ちにそのような意図(年度内に全部有給休暇を消化してもらいたいという意図)があることは極めてまれなことです。ほとんどの場合、有給休暇をなるべく与えたくないからこのような定めを儲けるのです。休暇を取る際に会社がどのような反応を示すかを観察すればおよそ推測はできます。

 ここでもう一つ通達を紹介しましょう。労働基準局長名通達【昭和23・5・5 基発第686号】です。

★参考通達2: 労働基準局長名通達【昭和23・5・5 基発第686号】

 【問い】「就業規則で『年次有給休暇は翌年度に繰越してはならない』と定めても無効か?」

 【回答】「できるだけ年度内に年次有給休暇を取らせる趣旨の規定を設けることはさしつかえないが、かかる事項を就業規則に規定しても、年度経過後における年次有給休暇の権利は消滅しない。」

 ・・・・この二つの通達は、年次有給休暇の消滅時効に関する問題で最も重要なものの一つです。しっかりと覚えておいてください。

この事例に対する対策を考えてみよう

 冒頭の事例では、労働者Aさんは会社を退職することになっているため、ある程度強気な手段をとることができます。

 ここでは、労働基準監督署・少額訴訟を利用した一般的な対策を、順を追って詳しく説明します。皆さんの抱える事案ごとによる違いや相手側の人間的性質によって、紛争過程における対応・結果に違いが出るのは避けられませんが、目安や参考例として大いに役立ててください。

権利の存在を明確にする

 まず今の自分に、会社に当然に請求できる有給休暇の日数はどれくらいあるのかを正確に把握します。あいまいなままで権利を主張していざ紛争の場で相手に反論されると、戦う意欲に深刻なダメージを与えるからです。

 しっかりと事前の調査を行い的を得た請求をすることで、会社に対してこちらの本気度と手ごわさを示すことができます。逆にそれをせずに請求をしてしまうと、会社側に畳み掛けられ、精神的なダメージを受けてしまいます。

 Aさんは入社以降常に全労働日の8割以上は出勤しているため、入社日の半年後に10労働日、そして入社日の1年と半年後に11労働日の有給休暇が当然に与えられていることになります。そしてAさんは入社日以降、有給休暇を一度も使ったことはありませんでした。よってAさんには21労働日の有給休暇を請求する権利が存在します。

有給休暇の権利を行使するための知識を仕入れる

退職日前の有給休暇消化に対しては、会社側の時季変更権は行使できない。

 有給休暇は、会社側の時季変更権が行使されない限り、当然に与えられるものです。会社側の承認は一切必要ありません。

 そして事例は、「退職に際しての有給休暇全部消化」です。時季変更権は、指定した日以後に有給休暇を与えることが可能である場合に初めて行使できるものです。しかしAさんは退職日に退職してしまうため、その日以後に有給休暇を与えることはできません。よって、会社側は時季変更権を行使できないのです。

 ですから、会社側に今回の休暇の請求について口出しをする余地は無いことになります。

※会社側の時季変更権についての詳細は、会社の時季変更権の濫用に対抗するための「これだけ!」知識 を参照。

※退職時の有給休暇の消化についての詳細は、誰でも可能!有給休暇を全部消化し退職するための7ステップ を参照。

有給休暇の権利は、その権利が使用することができるようになってから2年経たないと消滅しない。

 今回の事例で会社側は、就業規則の繰越し禁止規程を根拠に、有給休暇の申請を認めませんでした。しかし前掲の二つの通達を見ていただければわかる通り、有給休暇の権利は、権利行使が可能になった後2年をしないと消滅しません。

 Aさんが有給休暇を申請した時は、1回目の有給休暇付与の日から1年6か月、2回目の有給休暇付与から6か月が経過した時でもあり、いまだ両方で付与された有給休暇の権利は消滅していません。よってAさんに法律上存在している21労働日の権利は、当然に請求できることになります。

 繰越し禁止規程を理由に、2回目にもらった11労働日の有給休暇の権利すら否定することは、もはや的はずれのどさくさにまぎれた行為としか言いようがありません。

労働基準監督署で相談をし、以後の「申告」の可能性に備えて相談の実績を残しておく。

 次に、会社の住所地を管轄する労働基準監督署に行き、今回の事案の詳細を正確にありのままに伝え、相談にのってもらいます。

 この時点で監督署が動くことはほとんど期待できません。なぜなら、窓口で相談を受ける相談員は監督官ではなく、かつ、彼らは高い確率で「もう一度会社側に交渉してください。」と持ち掛けてくるからです。監督署への申告は「交渉しても応じてもらえなかった場合に改めて」という業務方針だからです。

 では何のために相談に行くのか?それはあなたの調べた権利が正当であることを確認することと、相談実績を作っておくためです。

 「申告」するときに、「もう一度交渉してきてください」という相談員に対し、「こちらで相談をした時もう一度交渉してこい、と言われたから交渉したが、それでも駄目だったから申告しに来た」と強い姿勢で言うためです。

もう一度会社側に請求をする。それでも拒否されたら、内容証明郵便でおおやけに請求。そして行動するための資料集め。

 監督署相談後、相談員の言われたとおりもう一度会社側に請求をします。電話でも対面でもよいでしょう。しかししっかりと記録(録音・ノート)を取っておくべきです。そして支払い希望日を明確に示して請求しましょう。

 そして来るべき公的手段に備え、複数の書類を整理しておきます。

  • 有給休暇の権利が存在することを証明するための資料・・・雇用契約書
  • 有給休暇を請求した事実を証明するための資料・・・最初に有給休暇を請求したときに使用した請求書の写し・内容証明郵便の本人控え・交渉した時に記録したノートやボイスレコーダーで録音した電子記録
  • 有給休暇分の賃金が支払われなかったことを証明するための資料・・・毎月給与が支払われる銀行通帳
  • 平均賃金算定のための資料・・・退職前三か月分の給料明細表・離職票

 これらの資料を全部そろえることは大変ですが、可能な限り集めましょう。そして会社から郵送されてきたり、手渡される書類は例外なく保管しておくことです。

有給休暇分の賃金が支払われないことを確認したら、監督署に行き強い意志で「申告」をする。

 有給休暇分の賃金が支払われないことを確認したら、いよいよ監督署に行き「申告」をします。その時さきほど述べた資料を、持てるだけ持っていきます。監督署によって提出を要求される資料に違いがあるからです。

 ここで「もう一度交渉を・・・」と言われたら、「以前この場所でそう言われたので再度交渉しましたが駄目でした。ですから今日は申告します。」ときっぱりと告げます。監督署に申告する権利は、我々国民に当然に存在する権利であり、受けられるべき行政サービスでもあります。堂々と申告手続きを要求します。

 申告をしたら、果たして監督署は是正勧告・行政指導なりの行動を起こしてくれるでしょうか?それについては、信頼しない方がいいでしょう。しかしこの時点で監督署がなんらかの行動を起こし、結果労働者に未払い分の賃金が支払われれば、労力と手間を節約して望む結果を勝ち得たことになります。それこそは古来から数多くの兵法書で言われている争いの極意でもあります。最善の結果・最善の勝利を得るために、できる限りのことはしておきましょう。

 申告後、監督署に指導なりの行動をするつもりがあるかどうかを確認します。煮え切らない対応をしたら「動くつもりはない」と判断し、次の行動に出ます。私達には悠長に構えている時間は無いからです。

請求金額が60万円以下だったら、簡易裁判所の少額訴訟を利用する。

 監督署に申告しても空振りだったら、最終手段としていよいよ司法機関の力を借ります。簡易裁判所の少額訴訟です。

 少額訴訟の制度は、審理が一回で手続きも比較的単純であり、自分一人でも十分利用出来る制度です。事前の証拠集めなどは自分で行わないといけませんが、今回の紛争過程で集めた資料がありますので、それらを持って裁判所に足を運びましょう。

 「未払い賃金の請求」は少額訴訟制度で頻繁に行われる事案であり、利用者の便宜を図るために定型の訴状が裁判所に用意されています。担当者と相談しながら作成していきましょう。この手続きを利用すれば、会社側はこちらの請求を全く無視することはできなくなり、何かしらの反応を示さなければならなくなります。少額訴訟でこちらの権利が認められたら、その事実をもとに審理をした簡易裁判所に強制執行を申し立てることができます。会社にその事実(強制執行の申し立てをした事実)を伝え、再度支払いを請求をすれば、大きな効果を期待できるでしょう。

 少額訴訟によることを会社側が否定した場合は、引き続き簡易裁判所での裁判に移行することになります。その場合の訴状は複雑性を増すため、裁判書類に明るい司法書士を調べ、訴状だけでも作成してもらうと良いでしょう。