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退職時の有給休暇消化に対する妨害を撃退する根拠を学ぼう!

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妨害撃退のイメージ画像

会社による有給休暇消化の妨害パターンは、実は、おおよそ4つのパターンにまとめることができるのです。

この典型4パターンを知り、各パターンに反論するための根拠を理解し、こちらの意思を伝えるためのツールを作成して交渉に臨めば、妨害を撃退し消化の意思を貫徹することができます。

誰でも可能!有給休暇を全部消化し退職するための7ステップ退職時に有給休暇消化を拒否された場合の実戦的反撃法!の内容も併せて実践すれば、有給休暇消化をめぐる戦いは、ぐっと有利となるでしょう。ぜひとも当ページで実践を支える理論を理解してください。

以下に、4パターンの妨害の理由と、その撃退法を記しました。さあ、一緒に見ていきましょう。

1.『時季変更権を強引に行使して消化させないパターン』に対抗する根拠を学ぶ

会社はどのようにして「時季変更権」を利用して消化を妨害してくるのか?

 労働者が有給休暇を使う時、会社には時季変更権という権利で労働者の指定時季に待ったをかけることがあります(時季変更権の基礎知識は会社の時季変更権濫用に対する知識を参照)。

 簡単に説明しましょう。時季変更権とは、労働者の指定した日に有給休暇を使用されると事業の正常な運営を妨げる場合、会社が「この日はあなたに休まれると業務が正常に機能しなくなってしまうから、他の日に休暇をとってくれてないか?」と言って有給休暇の日にちをずらしてもらう権利です。

 会社は労働者が有給休暇の一括消化を申請してきたときは、この権利を使って労働者の消化の意思に水を差すのです。時季変更権は労働基準法で認められた権利であるので、労働者が消化を請求してきたときには、「その時に休まれると業務がとどこおるからダメ」と堂々と拒否するのです。

反論するための根拠を知ろう

 このような妨害を撃退するために知っておくべき根拠とは、「時季変更権の行使は、他の時季に有給休暇を与えることが出来る状況ではじめて行使可能であり、他の時季に与えることができない場合は行使できない。」です。これをまず覚えておきましょう。

 少しイメージがしにくいと思いますので、下の図のケースを題材に、リアルタイム形式で分かりやすく説明しましょう。

時季変更権をさせないための図

 このケースで、会社は12月2日に労働者が消化の申請をしてきたので、即座に時季変更権を理由に有給休暇を与えることを拒否しようとしました。少しでも働かせたいと思ったのでしょうか。

 しかしこの場合、時季変更権の行使はできないとされています。なぜでしょうか?

 労働者は12月6日に退職することが決まっているため、6日より後には当然有給休暇は取得できません。退職と同時に有給休暇を使う権利は消えてしまうからです。

 前掲の知っておくべき根拠を見てみましょう。「時季変更権の行使は・・・・・他の時季に与えることができない場合は行使できない。」でしたね。つまりこの場合、労働者は12月6日までしか在籍してないから12月3日~6日までの間しか有給休暇が取得できないので、この4日間で取るしかありません。他の日に取得日を変更することはできないのです。変更ができないなら、会社は時季変更権を行使できません。労働者が休暇の申請を取り下げない限り、有給休暇の消化を妨げることはできないのです。

時季変更権による妨害を抑え込むためには、先に退職日を双方合意の上で決めておき、後日消化の申請をすると効果的

 会社による、時季変更権にかこつけた妨害をさせにくくするためには、どのような対策を立てたらいいのでしょうか?有効な策として「退職の意思伝達」と、「退職時に有給休暇を消化したいという意思の伝達」を分ける方法が考えられます。

 手順的には、退職の意思伝達の時に、会社と話し合って退職日を合意しておきます。その時に消化をしたい旨の意思表示は伏せておきます。多くのケースで、意思伝達の日から最も近い給料計算の締日が退職日となるでしょう。

 そして、会社が就業規則等で定める有給休暇申請期限ギリギリの日になったら、有給休暇の一斉消化を申請します。そうなると、会社としては時季変更権を行使しにくくなります。

 なぜしにくくなるのでしょうか?会社としては、業務の運営上から、休暇を与えるのはなるべく遠い先の方がいい。かといって退職日より後には時季変更はできません。では前倒しするのはどうでしょうか?申請を受けてからすぐに休ませるのはもっと都合が悪い(人員の手配ができないから)ため、結局会社としては労働者が申請した時季に休暇をとってもらうしか方法はなくなります。よってこの手順を踏むと時季変更権は行使しにくくなるのです。

 あとは、申請した日から消化に入るまでの期間中に、会社からなされる嫌がらせや言いがかりに注意すればよいだけになります。

2.『「引き継ぎもしてないのに休暇をとるなんて身勝手だ」と自責の念を植え付け消化を妨害するパターン』に対抗する根拠を学ぶ

どのような場合に「身勝手だ」と言って消化を妨害してくるのか?

 「身勝手」発言による妨害は、以下のケースで頻繁に行われています。

  • 1.退職する労働者が所属する部署に人員的な余裕がない場合
  • 2.退職の意思表示と有給休暇消化の意思表示の期間の間隔が狭い時
  • 3.退職する労働者が会社の経営者と友好関係にない時

 1・2のケースでは、会社が業務の運営上困ると思ったから、身勝手だとして言いがかりをつけて妨害してきたのでしょう。

 3のケースでは、妨害をする動機は極めて感情的なものであり、会社側に、労働者を責める道理がありません。

 現状では、時季変更権行使による妨害と同じくらいの数で、引き継ぎ未完成を理由に労働者を責め、休暇の申請を取り下げさせるケースが見受けられます。この妨害に対抗するための根拠も、是非とも知っておかなければなりません。

反論するための根拠を知ろう

 「身勝手発言」に反論する根拠は、『各部署ごとに代替要員(だいたいよういん)を育てておくことは危機管理の点からも会社の重要な役割の一つであり、まして有給休暇という法律で認められた正当な権利を行使することで「身勝手だ」と非難されることはない』です。

 そもそも、当該労働者が退職しただけで業務が回らなくなってしまうような体制であることこそが問題です。会社の部署に無駄な部署というのは普通はありません。であるならば、どの部署にも代替要員が用意されてなければならないのは近年では常識的なことです。そして代替要員を育てるのは、会社の重要な役割であることは間違いありません。

 もし労働者が有給休暇を消化するために休みに入って、本当に業務が回らなくなってしまったならば、それは日頃から従業員の能力の多様化という近年当たり前になっている施策をしてこなかった会社の責任であります。残念なことに、労務管理の専門家と言われる社会保険労務士や、人事制度コンサルタント、弁護士も、消化にともなうトラブルになると「身勝手発言」を支持して労働者に責任を転嫁し、圧力を加えてきます。

 別のケースとしては、業務が回らなくなったと言っていること自体が嘘であるか、です。労働者に有給休暇を与えたくなくて、あえてそのような嘘を言っているケースです。経験から言いますと、ほとんどのケースがそのパターンです。

「身勝手発言」による妨害を抑え込むためには、退職の意思表示と有給休暇消化の意思表示の間の間隔をなるべく空けることが効果的

 「身勝手発言」を抑え込むための最も有効な手段は、「退職の意向を伝える日」と「有給休暇消化の意向を伝える日」の間隔をなるべく空けることです。

 ふたつの意思表示の間隔が短ければ短いほど、会社は消化に反発心を持ち、引き継ぎ未完成を理由に言いがかかりをつけてきます。間隔が長ければ、その間に会社は新たな従業員を雇い入れるなどの準備をする(だろう)し、もし代替要員が用意されてなかったとしても、前もって退職の意思を伝えていた労働者に言いがかりをつける余地は極めて難しくなります。

 ですから、退職時に有給休暇を一斉に消化しようと考えた場合は、消化の意向を伝える前に1~2か月くらい先の区切りのいい日(給料の締日や月末等)を退職日として設定(双方で協議し、了承を得ておく)して、退職の意思表示と有給休暇の消化の意思表示の間隔が1~4週間空くくらいのプランを立てると、消化にともなう戦いをしやすくなります。

 この点については、有給休暇を全部消化し退職するための7ステップの【STEP1】・【STEP2】で詳しく説明してあります。しかし大事な点ですので、改めて説明しておきましょう。新たな具体例と図を使って説明します。

身勝手発言を抑え込むための意思表示の伝え方の図示

手順1

 「31日」に退職することを決め、社内規程(『暦日で1か月前までに届けでること』という規程)に従い、「1日」に退職の意向を伝える。その時必ず、会社に「31日」に退職することの了解を得ておくこと。

手順2

 10日の有給休暇を消化する場合の、有給休暇消化開始日を、「31日」から逆算して割り出す。図の場合「18日」が消化開始日となる。

手順3

 会社の社内規程(『有給休暇は、会社カレンダー上3日前までに届けでること』という規程)に従い、有給休暇消化開始日である「18日」より3日前の「15日」に、有給休暇をまとめて消化する意向を伝える。

 ・・・図の例では、退職の意思伝達・有給休暇取得意思の伝達共に、社内の規程を守って伝えているため、退職時の一括消化に当たって会社に言いがかりをつけられる余地はありません。【手順1】で退職日について会社と合意しているため、会社は休暇消化の意思を伝えられた後にも当然に退職日を変更することはできず、よって時季変更権も行使できないことになります。

3.『労働者が社内での退職時の手続きを怠ったことを理由に懲罰を与えることをちらつかせて妨害するパターン』に対抗する根拠を学ぶ

会社はどのようにして「退職時の手続きに懲罰を与えること」で消化を妨害をしてくるのか?

 会社が「退職時の手続きの不備」の中で最も言いがかりをつけることが多い不備は、「『○○日前までに退職の申し出をしなければならない』という規定を守らなかった」という不備です。

 次に多いのが、「『退職に際し労働者は引き継ぎ等の責任を誠実に果たさなければならない』という規定を守らなかった」という不備でしょう。この点については、上記1-2で触れました。

 就業規則等で定められた退職の届け出期限を守らなかったことを理由に、退職予定の労働者に有給休暇の消化を一切認めなかった開き直り的な事例もたくさんあります。また、懲罰の結果として、有給休暇分の賃金から、一定額を天引きする的外れで悪質な例も発生しています。

反論するための根拠を知ろう

 このタイプの妨害に対し、会社を抑え込むための反論の根拠はこうです。「退職する時の手続きを守らなかったことは、有給休暇の権利の行使に何らの影響も与えない別の問題である。手続きを守らなかったことを理由に有給休暇分の賃金の全部または一部を支払わなかったり、有給休暇を与えないとすることは明らかな労働基準法違反である。

 社内の退職手続き規程を守らなかったら、世間一般の常識で考えられる範囲の就業規則の規定にのっとって罰せられるだけです。「世間一般の常識で考えられる範囲の」罰則規定に、「有給休暇を与えない」というような労働基準法に抵触するような罰則は当然定めることはできません。そして定めることができない以上、手続き違反の制裁としての有給休暇拒否もできないことになります。

 また、「手続き違反が原因で損害が出た」と言いがかりをつけ、有給休暇分の賃金を減額することも決して認められません。賃金は、「全額を、一定期日に、直接に、通貨で」支払わなければならないという原則が労働基準法24条にはっきりと定められているからです。

 損害賠償分を労働者から取るには、賃金支払いとは別に、具体的根拠を示し損害分を明確に算出し、司法手続き(裁判等)を利用して支払いを求めないといけません。もっとも、退職時に有給休暇を社内規程に違背した手続きで取得・消化したとしても、損害賠償に発展する例はほぼありません。

「手続き不備に対する懲罰による妨害」を抑え込むためには、就業規則等の周知の不徹底さを追及するのが効果的

 「手続き不備に対する懲罰による妨害」を抑え込むためには、労働者自身が「退職時に従業員が守るべき手続き」が具体的に規定された就業規則が周知されているかをチェックし、定められてなかったり周知方法に問題がある場合はその不備を追及し返す、というパターンで対応するのが効果的でしょう。

 会社は手続き不備を盾にいきり立って責めてくるでしょうから、その出鼻をくじき、トーンを下げさすのです。この手法を採れば対決色が強くなりますが、退職が前提の有給休暇闘争ですから強気な姿勢でも問題は少ないでしょう。

 手続き不備でなんらかの懲罰を課すには、就業規則に「退職時の手続き」を具体的に明記し、懲戒規定に「就業規則に定められた手続きを守らなかったこと」を列挙しておかなければなりません。そして、従業員がいつでも気軽に見ることが出来るような方法で就業規則の内容を周知しておく必要があります。

 よくあるパターンが、就業規則が上司や社長の机の引き出しに入っていて、「頼めば見せてくれる」という状態。これは周知されていることにはなりません。

 「就業規則を見せてくれ」と頼むことは、従業員としては敷居の高い行為です。ましてや会社と交戦中の労働者であればなおのことです。私も以前、「就業規則を見せてくれ」と頼んだだけで上司から行動を不審がられたことがあります。「頼めば見せる」と言っている上司や経営者にかぎって、本当に頼むと過敏に反応するものなのです。

 もし就業規則で具体的に手続きが規定され周知されている場合は、退職の意思表示と消化の意思表示の間隔を空ける作戦(「身勝手発言」による妨害を抑え込むためには、退職の意思表示と有給休暇消化の意思表示の間の間隔をなるべく空けることが効果的参照)で望みましょう。間隔は長ければ長いほど良いでしょうが、そうとも言ってられない場合は、ある程度強引にことを進めます。そして損害賠償をちらつかせる発言に注意します(「損害賠償等をちらつかせての脅しによる妨害」を抑え込むためには、的確な反論と警告・最終手段としての「休職」が効果的参照)。

4.『消化を申し出た日以後に業務上で発生させたミスに対して損害賠償請求をすることで妨害するパターン』に対抗する根拠を学ぶ

会社はどのようにして、損害賠償で脅して消化を妨害をしてくるのか?

 消化を申し出た日から消化開始日の前日までに労働者が仕事上で出した不良やミスについて、「注意力の低下から損害を出した」「今までの仕返しのつもりで損害を出した」と言いがかりをつけ、「給料から天引きをしておく。それが嫌なら損害分を請求する。」と脅す手口です。

 信じられないかもしれませんが、法令を守る意識が低い一族ワンマン経営の零細企業ではよくあるパターンです。

 ここまで行くと、悪質を通り越して「脅迫」という犯罪となります。このような手口をちらつかせてきたら、断固として拒否・警告をし、必要とあらば危険な場所から逃げなければ(休職)なりません。

反論するための根拠を知ろう

 反論するために覚えておきたい根拠を説明します。

 「仕事上のミスにおいてその損害分を労働者が賠償することは、特段の理由がない限り必要ない。普段よりミスした分を労働者が賠償している例もなく、かつ、今回に限りそのようなことを強いてきたならば、それは有給休暇の消化申請をしたことに対する不利益な取扱いだと考えられ、そのような扱いを禁止した労働基準法第136条に違反する。

損害分全部を従業員に負わせることはできない

 判例(今までの裁判例)では、事故や作業ミスで会社に損害を与えた場合であっても、特段の例がない限りその損害の全てを労働者に負わせることはできない、としています。なぜか?理由はふたつあります。

 労働者が会社の指揮命令に服し働き、かつ労働者がそのように働くがために経営者一人で仕事する場合に比べて、より多くの機会を得、利益を得ることが出来るです。そのような大きな利益を得る以上は、大きな利益を得るために労働者を働かせることによって生じる損害分についても、使用者が多くの部分を負わなければなりません(報償責任による損害分請求の制限の理由)。

 また、損害分を労働者に負わせることは、使用者に比べて経済的な力の乏しい労働者にとっては、大変厳しい結果を生むことになります。裁判所はその点も考慮して使用者からの損害賠償に制限を加えたのでしょう。業務上発生する損害は、額が大きく、かつ突然発生します。そのような損害分を全額労働者が支払うこと自体に無理がありますし、もしそのようなことが当たり前になったら、恐ろしくて仕事などできません。

 会社が労働者に損害分を請求する場合でも、「損害額の4分の1を限度とすべき」【最判・昭51・7・8】という基準が出されています。。4分の1という限度に明確な根拠はありませんが、他の裁判例でも同様の制限をしているものがあり【名古屋地判・昭62・7・27】、「4分の1」は労働者が支払うべき上限額の一つの目安となっていることがうかがえます。

 労働者が負うべき損害分は、各事故ごとの状況によって異なります。労働者の過失の程度によっても大きく変わってきます。背任等の悪質な犯罪によって会社に損害を与えた場合は、会社による損害賠償に制限は加えられない傾向にあります。しかし一般的な事故では、そのようなことはありません。重過失であっても損害すべき上限はおおよそ4分の1で収まっています。

当該会社が業務上のミスを日頃から労働者に負わせているかどうかをチェックし、負わせてないなら「有給休暇消化に対する不利益な取扱い」だと判断しよう

 会社が日頃から労働者が業務上発生させたミスに対して損害分を償わせているならば、今回の損害賠償請求は有給休暇取得を理由とする不利益取扱いだと言い切ることは難しくなります。

 しかし損害を常に償わせるような悪質な会社は、それほどはありません。会社が日頃そのようなことを行っていなくて今回に限って請求をしてきたならば、消化に対する制裁の意図があってしてきたものと考えられます。

 労働基準法第136条は、『有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない』と定めています。損害分の請求が過去に例がない場合で、かつ会社が損害分の請求を盾に有給休暇の消化の妨害をけしかけてきたら、この条文を告げましょう。

「損害賠償等をちらつかせての脅しによる妨害」を抑え込むためには、的確な反論と警告・最終手段としての「休職」が効果的

反論と警告はどうやって行うべきか?

 損害賠償等をちらつかせて妨害をしてきたら、まずは「損害分について支払うつもりはない。だからといって賃金から天引きされることも同意しない。」とはっきりと断りましょう。

 損害の賠償と有給休暇分の賃金は全く別のものであります。もし損害賠償を労働者に求めるにしても、賃金は当然に労働者に支払わなければならず、労働者の同意なしに損害分を差し引くこと(相殺)はできないのです。よって、有給給休暇分の賃金はしっかり払うように要求します。そして労働者が業務上発生させた損害分については、労働者が全額責任を負うことはない旨をハッキリと告げます。

 そうすると会社が『裁判を起こして取り立てるぞ』たぐいの脅しをしてくるかもしれません。とりあえず今は、そのような脅しは無視(面談内容は録音したいが)して、有給休暇消化分の賃金をしっかりといただくことです。その後の対応は後でゆっくりと考えていきましょう。

 労働者が出した損害は、裁判をして回収するにはあまりにも低額である場合がほとんどです。前掲のとおり、裁判所は労働者に損害分全額を負わせる判決を出さないからです。ほとんどのケースで、「訴えてやる」という会社側の意思表示は脅しにすぎません。脅しでなかったとしても「裁判を起こして損害分を労働者から回収することの手間とわずらわしさ」を知れば、訴訟を起こすことなど取りやめてしまうでしょう。

 もし損害分を有給休暇分の賃金で補てんしたら、それは賃金全額払いの原則に反します。つまり労働者にとって若干有利な「未払い賃金問題」の戦いの土俵に引きずり込むことができます。労働基準監督署と支払督促等の司法手続きを組み合わせて徹底的に食い下がり、正当な権利による容赦ない攻撃の畳みかけで会社を精神的に疲弊させましょう。

嫌がらせからの「休職」で消化開始日の前日まで休む場合の方法とは?

 消化の意思表示の日から消化開始日の前日までに、会社による嫌がらせや脅しの行為があまりにひどい場合は、体調不良を理由に早引け、休職し、すぐさま心療内科に行って診断書を書いてもらいましょう。

 日頃より労働者に対する態度が傲慢な経営者であるならば、有給休暇消化の意思表示をした日からノートとボイスレコーダー(携帯電話でもよい)を持ち歩き、嫌がらせの内容を記録しておくことです。診断書を書いてもらう場と、後日の会社との交渉の場でそれらの記録が役に立つ可能性があります。

 ここでは、ボイスレコーダーの投資が必要となるでしょう。ボイスレコーダーは戦う労働者の必須の道具です。私も、携帯電話とボイスレコーダーの最低二つは持って交渉に出向きます。ボイスレコーダーは、必ず「会話通話録音用アダプター」を接続できるものを選択しましょう。

 間違っても無断欠勤だけはしないこと。無断欠勤を理由に懲戒解雇となり、有給休暇を与えない格好の口実となってしまいます。休む旨を伝える場合は、電話録音アプリをダウンロードしたスマートフォンで会社に対して意思表示をするか、ボイスレコーダーに電話通話録音用のアダプター(1000円程度)を接続した状態で、電話で意思表示をするか、にします。意思を伝える相手は、会社の一定の責任者(所属部署の上司・人事総務の責任者など)にしましょう。後で「休みの申し出など聞いていない」という言いがかりを防ぐためです。

 伝えるべき内容は、以下の通りです。

  • 「会社による損害賠償等の脅しで体調不良になり、有給休暇消化開始日の前日まで休む」という意思。
  • 「心療内科で書いてもらった診断書を会社あてにただちに郵送します」という意思。
  • 「退職に伴い返還すべきものは、郵送にて返還します」という意思。

 診断書は、電話での意思伝達後、郵便局より配達記録郵便にてただちに会社に郵送します。診断書のコピーは必ず取り、保管しておきます。

 「休職」という手段を使って消化開始日の前日まで避難する場合は、会社のより一層の反発も予想できます。最後の手を打っておきましょう。内容証明郵便にて、「損害賠償を支払うつもりはありません私に支払う予定の賃金からの相殺は同意しません。有給休暇分の賃金は、遅滞なく定められた期日までに支払ってください。」と伝達しておきます。

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