年次有給休暇の「繰越し」はできるのか?
本年度中にもらえた有給休暇は次年度においても使うことができます。それは、裁判例・労働基準局・厚生労働省・学説が認めている事実なのです。しかし一部の法律を守る意識の低い企業(ブラック企業)は、その事実を無視し労働者に理不尽な不利益を被らせています。
このページでは、有給休暇の繰越しを認めないブラック企業と戦うための基礎となる知識を、わかりやすく体系的に説明していきます。その知識は、学術的で難解なものではなく、実際に戦いの場で役立つ内容であることを心掛けます。
繰越しにかかわる法律知識は、有給休暇の消化をめぐる戦いにおいてもよく使う知識です。ですから、ここで繰越しについて学んでおくことは、すべての労働者において有益でしょう。退職時に今までたまった有給休暇を消化するしないは、退職後の経済状態にも大きな影響を与えます。
使用者の屁理屈や詭弁を見抜くことが、繰越しに関わる戦いの第一歩です。労働紛争では、紛争に関わる裁判例等の知識を「知っている」だけで大きな武器となります。細かい理論的な箇所まで把握しなくてもよいので、肩の力を抜いて学んでいきましょう。
発生した有給休暇の次年度への繰越しは認められている
繰越しは裁判例・学説・行政通達の中で認められている
消化できなかった年次有給休暇については、発生した年の次の年に限って、行使することが出来ます。
未消化分の年次有給休暇の取り扱いについては、いろいろ論点がありました。労働基準法第115条では、以下のように定めてあります。
『この法律の規定による賃金、その他の請求権は2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。』
裁判例や学説・労働基準局の行政通達では、年次有給休暇を請求する権利は、「その他の請求権」に含まれるとされています。よって本年度中に消化されなかった有給休暇の残日数は、次年度に限って繰越されるということになります。
下の図を参考にして見てみましょう。例えば、5月1日に発生した有給休暇の権利は、再来年の4月30日まで消えない、ということです。
繰り越し分と本年度取得分では、どちらが先に消化されていくのか?
基本的には繰り越し分から消化されていく、と推定されます。
この点について、明確な裁判例・通達は存在せず、各会社内の就業規則に特段の定めがある場合、それに従うのが一般的と言われています。
有給休暇の繰越しについて、行政機関や裁判所の考え
行政機関(労働基準局)の通達
【昭22・12・15基発※501号】 ※基発・・・労働基準局長名通達
『年次有給休暇をその年度内に全部とらなかった場合は、残りの休暇日数は権利の放棄と見ず、本条(※労働基準法115条)の適用により二年の消滅時効が認められる。』
【昭23・5・5基発686号】
『できるだけ年度内に年次有給休暇を取らせる趣旨で「年次有給休暇は翌年度に繰り越してはならない」旨就業規則に定めることは差支えないが、かかる条項があっても年度経過後における請求権は消滅しない。』
つまり、有給休暇繰越分からの消化がいい、と厚生労働省の労働基準局は考えているわけです。よって、その下部機関たる労働基準監督署も同じように捉えていると考えられます。
会社の経営者は、この行政通達を重く見るべきでしょう。少なくとも、有給休暇を本年度中に使わなかったことを”労働者が年休権を放棄した”などと都合のいいように解釈することは、行政解通達を無視した行為だと言えます。
裁判所(判例)の考え方
次に裁判例です。昭和48年3月28日に出た静岡地裁の『国鉄浜松機関区事件』では、繰越しを認めない判決を出しました。しかし、その後の平成9年12月1日の東京地裁『国際協力事業団事件』では、上で紹介した昭和22年の行政の解釈を支持しています。
よって、労働基準監督署に指導してもらう段階では、監督署が繰越しを認めない会社を指導する可能性は高いと言えます。また裁判になったとしても、平成9年の裁判例のとおり、労働者にとって有利な判断が出る可能性があります。
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