支払われない有給休暇分賃金を払わせる!裁判訴状の作り方
「本やネットにある情報をもとに、しっかりと会社に有給休暇の取得申請をした。それなのに支払日にお金が振り込まれなかった!」とあなたは混乱していることでしょう。「これで払ってくれないなら、裁判か?労基署も頼りないし・・・」。裁判という、敷居の高い最終手段に訴えざるを得ない現状に、呆然としていることでしょう。
大丈夫です。会社に対し取得申請をしたあなたであれば、請求の証拠は手元にあります。ここで紹介する方法に沿って行動を起こせば、きっと会社はあなたに対し賃金を払ってくれることでしょう。
時には裁判になることもあるでしょう。でもこのページでしっかりと本人訴訟の仕方も説明しますので、市販の本に書いてある書き方も併せて参考にし、希望をもって行動をし始めてください。
私たちは弁護士ではありません。少々裁判書類の作成や、訴訟運営にぎこちなさや至らなさがあってもいいのです。私たちは裁判を受ける権利があるのですから!
自分だけで訴状を作成するための具体的な準備
本人だけで訴訟を起こす場合は、起こすための準備が必要となります。このページでは、未払有給休暇賃金の支払請求訴状作成に特化した準備と作成方法を説明していきます。
パソコンで訴状を作成。今あなたが持っているパソコンで大丈夫。
基本的に、パソコンで作成していくことになります。マイクロソフト社の文書作成ソフト「ワード」があればいいのですが、無い場合でも、ウィンドウズの付属ソフトである「ワードパッド」で作成することができます。
もしワードが入っていないパソコンならば、オフィススイートの「open office」をダウンロードすることで、文書作成ソフトや表計算ソフトを使うことできます(若干動作は重めですが、訴状作成程度であれば問題ありません)。
3G程度のUSBメモリーを用意する。プリンター購入は必須ではない。
当然のことながら、作った訴状はパソコンデータのままでは裁判所に提出できません。印刷をして書面の形状にして提出する必要があります。作った訴状は、文書データとしてUSBメモリーにも保存しておけば、コンビニのプリンターサービス機能を使って印刷することができます。
「自分のプリンターが便利なんじゃないの?」と思うでしょうが、私生活において印刷を必要としない方であれば、訴状や準備書面作成のためにわざわざパソコンを買う必要もないでしょう。しかし便利であることは間違いありません。
印刷機能だけならば、プリンターにも安い機種は出回っています。しかし印刷枚数がかさむ場合、印刷するためのインク代が大きくのしかかってきます。プリンターは、便利さをお金で買うようなものだと考えておきます。
用意するUSBメモリ―の要領は、3~5Gあたりが一般的です。文書を保存するだけのものであるので、量販店で販売されている最も安いメモリーでよいでしょう。
参考図書の購入
訴状の書き方程度でしたら、インターネット上で多くの例文が載っているため、あえて専門書籍を買う必要はないでしょう。しかし、本人だけで戦う以上、例文の背景にある法律的な問題点、争点などを理解した方が良いのは間違いありません。
そこで訴状の書き方と併せて、法律的な焦点や法律の条文・過去の裁判例の解説まで範囲を広げた専門書籍があると、心強いでしょう。私が自信をもってお薦めするのは、判例タイムズ社の「労働事件審理ノート」です。
本書籍の特徴は、わかりにくい法律解釈論に終わっていないことです。書き方を解説しつつ、その背景にある法律的な条件等にしっかりとした解説が施されています。裁判の法廷に立ったとしても、裁判官や被告弁護士の言っていることが分かるか否か(もしくは聞いたことがあるか否か)は大変重要なことです。
法律初心者でもわかりやすい解説本に加え、先に挙げた「労働事件審理ノート」のようなもので、過去の裁判例や訴状中の文の書き方の説明に沿って勉強しながら訴状を作成していくと、裁判という実戦の場で活きる知識が自然と備わっていきます。
私たちは弁護士のような、訴訟のプロではありません。細部の言い回しが少々違っていてもいいのです。ここで挙げた労働事件審理ノートのような訴状の書き方のマニュアル本に従って作成したのであれば、私たちにとってみれば十分すぎるくらいの訴状となるのです。
訴状の具体的作成方法:大きく分けて5つの部分からなるが、メインは2つの部分
訴状を作成して提出する際、作成する箇所は、大きく5つに分けることができると考えています。
であります。この中でメインたる部分は、当然「請求の趣旨」の部分と「請求原因」の部分です。つまり、2つの部分についてしっかりと作成すれば、自力で訴状が作成できることになります。
「その2つの部分を作るのが難しいから、弁護士に頼むんじゃないの?」と思われるでしょう。しかし、よほど立証が難しいような訴訟(例えば、過労死訴訟など立証方法が難しかったり、当事者が複数人いるような訴訟など)でないかぎり、ここで紹介する書籍を参考にすれば作成することができるでしょう。
では各部分の具体的な書き方について詳しく見ていきましょう。
1.訴状の見出し部分
訴状の見出し部分については、難しい箇所はありませんので、インターネット上に載っているサンプルを参考にして作成していきましょう。
私は本人訴訟に関する書籍を何冊か参考にして、以下のように作成しました。。各部分について、軽い説明をしていきましょう。
(1)について
ここには題名を打ち込みます。本書面は「訴状」であるため、「訴状」と打ち込みましょう。
裁判では、こちらが「訴状」を裁判所に提出すると、訴状の写しが訴える相手方(被告)に渡され、それをうけて相手は「答弁書」を作成し、裁判所に提出、こちらは多くの場合、第一回目の裁判所出席時にもらうことになります。
「答弁書」をもらったら、こちらは答弁書中における相手方の主張に対し、認めるか否か、そして再度こちら側の反論を記載した「準備書面」を提出します。この場合、題名は「第1回準備書面」となります。
題名については、やや大きめのフォントサイズで記載しておきましょう。
(2)について
訴状の作成が完了した日付にしました。あまりにでたらめな日付でなければよいでしょう。
(3)について
訴状を提出する裁判所の名前を記載します。裁判所にはいろいろと課があるのですが、管轄が名古屋地方裁判所ならば、ざっくり大きく「名古屋地方裁判所 御中」でよいでしょう。
「管轄」の問題は大変重要です。ここで少し説明しておきましょう。労働者は、会社の不当な行為について裁判での決着を望む場合、以下の地方裁判所に申立てをすることになります。
- (1)会社の住所・居所・営業所・事務所の所在地を管轄する地方裁判所
- (2)紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて、当該労働者が現に就業し、もしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
- (3)労働者と会社が、合意で定めた地方裁判所がある場合は、その地方裁判所
- (4)相手方の住所または居所(相手方が法人その他社団または財団である場合はその事務所または営業所)が日本国内にない場合、または知れない場合は、その最後の住所地を管轄する地方裁判所
- (5)相手方が外国の社団または財団である場合において日本国内にその事務所または営業所がない場合は、日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所
一般的には、(1)・(2)の地方裁判所に申立てをすることになります。昨今の就業規則によって、(3)のケースの裁判所に提出しなければならないケースが増えてきました。(3)のケースでの裁判所を「専属的合意管轄裁判所」といいます。しかし(1)・(2)の地方裁判所に設定している場合がほとんどであります。
ここで問題が生じます。例えば、本社工場が愛知県、実際の労働者が働いていた工場が京都府内の工場であった場合、就業規則で専属的合意管轄裁判所が愛知の名古屋地方裁判所に設定されていた場合、京都在住の労働者は、京都地方裁判所ではなく、名古屋地方裁判所に訴状を提出し、裁判が始まったら、出頭しなければなりません。
(3)で合意した地方裁判所に訴えの提起をし、訴訟を係争することが労働者にとって極めて大きな不利益を生じさせる場合、「移送申立書」を提出して裁判所に申し立てすることにより、労働者の住所地の近くに移送してもらうことができる場合があります。例の、京都と名古屋の距離では、移送が認められるかどうかは不透明です。
(4)について
原告の名前を打ち込みます。名前部分はパソコンで打ち込み、名前の後ろ部分の余白に押印します。印鑑は実印の必要はなく、認印で構いません。ただしシャチハタは不可です。
人によっては、ここの名前部分だけ自筆で書く人もいます。しかし自筆記入の決まりはないため、パソコンで名前を打っても問題ありません。
(5)について
ここには、原告の基本情報を打ち込みます。まず住所の郵便番号を打ち込みます。
段落を変えて。次は住所を打ち込みます。現住所を都道府県から打ち込んでいきます。数字の部分については、漢数字である必要はありません。
また改行し、名前を打ち込みます。冒頭に「原告」をふり、次に原告となる人の名前を打ち込みます。この部分に押印は必要ありません。
(6)について
ここには、訴える相手方、つまり被告の基本情報を打ち込みます。多くの場合、訴える会社の代表者について記載します。
まず住所の郵便番号を打ち、段落を変えて。次は住所を打ち込みます。現住所を都道府県から記載していくこと等は変わりません。
最後の被告の名前を打ちこむのですが、「被告」のすぐ後ろに会社名を示します。そして改行し、被告会社における被告の地位を示します。
2.「請求の趣旨」の部分
ここから訴状の作成が本格的に始まります。訴状の見出し部分においては、難解な部分は提出先裁判所の選別くらいでしたが、「請求の趣旨」においては単純な作業で書ける部分はありません。
この部分では、あなたが有給休暇分賃金をある程度正確に計算する知識と、付加金請求の知識を持っていることが必要となるからであります。
一見難しそうに見える「年14.6%の割合による金員」は、賃金未払請求訴訟においてお約束で盛り込む文言であるため、恐れる必要はありません。
また「訴訟費用は被告の負担とする」については、労働裁判や離婚裁判などのすべての訴訟において、原告の訴状にほぼ必ず記載される文言です。裁判では、当事者が請求する金額以外の金員について裁判所がおせっかいに支払わせるようなことはしません。あくまで当時者が請求しなければならないため、このような文言はとりあえず入れておくのです。
最後の「第1項につき仮執行宣言」は、有給休暇分賃金が支払われないことであなたが生活に困らないよう、裁判が終わる前にとりあえず請求分を会社に支払わせる制度です。