ボイスレコーダーで録音した音声の文字起こし(反訳)講座
録音した音声は文字起こし(反訳)してこそ証拠となる! でも述べた通り、ボイスレコーダーで録音した音声は、そのままでは証拠として有効に活用できません。録音内容があなたの戦いにおいて決定的な証拠となり得たとしてもです。
録音した会話音声は、文字起こしをして、反訳書を作って会話内容を読んで確認できる形にしてこそ、以後の戦いの場において有効に機能するのです。
このページでは、録音した音声を文字起こしし、反訳書を作成するまでの方法をできる限り詳しく説明します。その後、作った反訳書を裁判や労働審判・調停において活用するための手直し作業についても触れていきます。
当ページで紹介する方法は、実際に私が反訳書を作成し、裁判所に提出した経験をもとにしています。プロの反訳士が作成するものとの違いは容赦ください。私は当ページの方法で提出しましたが、裁判官に特に注文をされることもなく、問題はありませんでした。
録音した音声をパソコンに取り込み、文字起こしの下準備をする
最初に、録音した音声データを取り込む場所を作成しよう
ボイスレコーダー内にある音声データをパソコンに取り込む前に、音声データを格納する受け皿を「ドキュメント」内に作りましょう。
録音した音声が証拠として有効に働く戦い(パワハラ・セクハラ・退職強要など)では、録音したデータが複数に及んでいることが多いものです。まずはこれらのデータを、時系列順に並べ、整理します。一番いいのが、日付順に整理することです。以下のような感じです
裁判において音声証拠は、詳細メモと一緒に絡めて、主張する内容を裏付けることに使います。一般的に詳細メモは、時系列順に並べてあるので、音声データも日付ごとの分類の方が、後々裁判・労働審判で訴状や準備書面を書くときにデータにアクセスしやすいのです。
取り込む受け皿を作ったら、ボイスレコーダーから音声を取り込む
各ボイスレコーダにおけるパソコンへの取り込み方に従い、音声データをパソコンへ送ります。最近のボイスレコーダーは、必ずと言っていいほどパソコンへの送り込みが可能となっています。
各日付内にも、時系列に沿って音声データを入れておきたいところですが、日付データ内に新たに新規フォルダを作るのも複雑になりすぎるので、ここは、データ名を工夫して、一目でどの音声データか分かるようにしておきます。
文字起こしのための下準備ができました。さあ、文字起こしをして反訳書を作成していく作業に取り掛かりましょう。
文書作成ソフトで文字起こし作業を進め、効果的な反訳書を作成していこう
取り込んだ音声データを聞きながら、その内容を文字としてあらわしていきます。ここでは、表記方法と、いくつかの注意点を説明します。
文字起こし作業は、地味で時間のかかる作業ですので、音声データを手にしたら、早めに作成に取り掛かるといいでしょう。
「ワード」・「一太郎」・「ライター」などの文書作成ソフトを使い、A4サイズを意識しながら縦書きで作成していく
ここからは、音声を再生しながら地道に会話内容を文字にしていきます。文字にしていくには、文書作成ソフトの定番である「ワード」がいいでしょう。
もしワードが入ってないパソコンを使っている方は、「オープンオフィス」というフリーソフト(無料でダウンロードし、使用できるソフトのこと)を使うといいでしょう。その中の「ライター」がワードとほぼ同じ機能を持った文書作成ソフトとなります。ウィンドウズ付属の「ワードパッド」は、ページ数という概念がないため、複数ページになりやすい反訳書作成においては、不向きです。
作り方の詳細でも触れますが、音声データ中で登場人物が話せば、必ずその人物名を冒頭に記入します。どれだけ発言が短くても、省略はしないようにします。()内に、データ上での開始時間を記入していきます。下の記載例を見てください。この記載例のような感じであれば録音内容を把握できるので、反訳書として機能するでしょう。
読み手にわかりやすく、信頼性も高い効果的な反訳書の作り方とは?
ここでは、相手方にも効果を発揮し、裁判証拠としても機能する、効果的な反訳書の作成方法を詳しく説明しましょう。押さえておきたい点は、以下の5つです。
- A4サイズを意識し、縦書きで作成していく
- 各発言冒頭に、発言人物・発言開始時間を記載する
- 聴きとれなかった箇所は、その旨を分かるようにしておく
- どれだけ短い発言であっても必ず記入し省略しない
- 自分にとって不利な発言であっても省略しない
私たちは、弁護士でも、プロの反訳士でもありませんので、録音内容が相手方や裁判官にストレスなく伝わればいいのです。よって、押さえておきたい点はそんなに多くはありません。リラックスしてこの地味な作業を乗り越えていきましょう。
A4サイズを意識し、縦書きで作成していく
多くの時間をかけて反訳書を作成するのであれば、裁判所にそのまま提出してもいいような形式で書面を作成していきましょう。
文書作成ソフトで、縦書きで記載していきます。最近の裁判所は、手書きで書かれた証拠を好まない傾向にあります。訂正箇所が増え、文字が読みにくかったりするからでしょう。
文書作成ソフトで作成していけば、誤字の訂正箇所はほぼ失くすことができ、かつ後々いくらでも裁判所に提出する際の書式に改良することができます。しかし作った後で改良するのも手間ですので、ここでは最初から「縦書き・A4サイズ意識」で反訳書を作成していくことを勧めます。
A4サイズは、意外と小さく文字が印刷されることになりますので、本文の文字サイズ(フォントサイズ)は小さすぎないのがいいでしょう。「ワード」で最初に設定されている文字サイズ「10.5」では少し小さいかもしれません。多くの裁判提出書類の本文は、12~14の文字サイズ書かれています。
私は、文章が長きにわたる場合は、文字サイズは「12」で、短い場合は「13」で作成しています。上の反訳書記載例では、本文の文字サイズは「12」で作成されています。
各発言冒頭に、発言人物・発言開始時間を記載する
各発言ごとに、登場人物の名前を記載します。名前記載後、()内に開始時間を記入します。
開始時間は、録音当時の時刻である必要はありません。言った時刻が重要な場合を除き、録音上での時間でよいでしょう。
裁判となれば、本人や相手は「原告・被告」となる可能性があります。裁判所への提出する際、登場人物名が記載されていれば、その部分だけを「原告」・「被告」と変更すれば済むので楽です。
聴きとれなかった箇所は、その旨を分かるようにしておく
発言内容がはっきりと聴き取れなかった箇所も、必ず記載します。はっきりと聴き取りにくいだけならまだしも、誰が発言したかもわからない場合でも、しっかりと記載します。
そのような箇所は、多くの場合、あなたの戦いの勝敗を決するに当たって大きな意味を持ちません。しかしこのような箇所でも残らず記載されている反訳書は、信ぴょう性の高さを読み手に印象づけます。
聴き取りにくい箇所は、上の記載例では「○○○」としましたが、「×××」でも構わないでしょう。要は、その部分が聴き取りにくかったことを示しておけばよいのです。
どれだけ短い発言であっても必ず記入し省略しない
どれだけ短い発言であっても、必ず記載しましょう。短い発言の内容が聴き取りにくくても、省略は避けましょう。
例えば、「えっ?」・「それは・・・」・「えっと・・・」のような発言のことです。これらの発言は、事実の証明においては重要でないものかもしれませんが、たびたび発言内容が省略されている反訳書よりも、わずかな発言であってもしっかりと記載されている反訳書の方が、信ぴょう性の高さをアピールできます。
自分にとって不利な発言であっても省略しない
自分にとって不利な発言というものは、改めて作成時に聴くと、後悔し、自分に対し腹が立ったりと、不快なものです。作成を自分でしていると、その発言だけ削除したくなります。
しかしそのようなことは避けましょう。反訳書の信ぴょう性に影響を与えます。
不利な点に目を向けるよりも、自分自身にとって有利な点にしっかりと目を向け、その部分も含めてしっかりと会話内容を文字起こしすればよいのです。
裁判に当たっては、反訳書を音声データと共に提出する際に、読んでもらいたい点をアピールすることができます。不利な点については心配でしょうが、不利な点もしっかり記載してある反訳書は、作成と成立に当たって「ありのままに作ってあるな」と思わせることができます。
作成した反訳書を裁判において証拠として提出するたの修正・加筆作業
作成した反訳書を裁判所に提出する際には、いくつかの修正と加筆作業を行う必要があります。それは以下の作業です。
- 録音した際の状況と、登場人物を追記する
- 「特に聴いてもらいたい箇所・読んでもらいたい箇所」を追記する
- 登場人物を、必要に応じて「原告」「被告」に変更する
- 音声データをCD-Rに焼き付け、その表面に「甲○号証」と追記する
- 反訳書の左側をホッチキスで綴じ、右上に「甲○号証」と追記する
意外とたくさんすることがあるかのように思いますが、会社との交渉段階でしっかりと反訳書を作成してあれば、それほど時間はかかりませんので安心してください。では、各作業の詳しい仕方を説明していきましょう。
録音した際の状況と、登場人物を追記する
反訳書のもととなった音声データを録音したときの状況を簡単に説明しておきます。細かく詳細に書く必要はありませんが、状況が分かるくらいは書いておきましょう。
録音した状況を書いた後は、当反訳書に登場する人物を記載しておきます。本人が原告であるならば、「本人・松野太郎(原告)」と記載します。相手方が被告の場合は、「石坂松広石松工業代表取締役社長(被告)」と記載します。原告・被告以外の登場人物は、名前と役職だけ書いておけばよいでしょう。
「特に聴いてもらいたい箇所・読んでもらいたい箇所」を追記する
必ずしも加筆すべき作業ではありませんが、裁判になった場合に、担当裁判官に是非とも聴いてもらいたい重要箇所がある場合に有効な作業です。
録音した音声データが長時間に及ぶ場合、裁判官はその内容すべてをじっくりと聴けるわけではありません。日本の裁判官は、各人が3ケタ単位で事件を抱えており、多忙を極めているからです。提出者から「特に聴いて欲しい箇所」を示されていれば、裁判官はその箇所を重点的に聴け、提出者の主張内容を理解してもらえる結果につながります。
特にパワハラ訴訟のように、音声データが複数に及ぶ場合、この作業は欠かせないでしょう。
もちろん、作成する私たちは、重点箇所だけしか文字起こししないような行為は避けたいです。この作業は、音声データ全体をもらすことなく文字起こしし、反訳書の信ぴょう性を保ったうえで、有効な作業となるからです。
登場人物を、必要に応じて「原告」「被告」に変更する
戦いが裁判にまで及ぶことになった場合、多くのケースにおいて、労働者が訴えをする立場、つまり「原告」となります。
「不当な行為の実際の行為者が会社のトップである場合」以外は、音声データ中に出てくる中間管理職の人間らは、「被告」にはなり得ません。労働訴訟において多くの場合、「被告」となるのは会社の経営責任者であります。つまり、不当な行為に対し、適切な事後策を取らなかったことに対する管理不行き届きの責任を追及するからです。
その点を踏まえ、反訳書の登場人物の箇所を修正します。会話中に登場する相手方が「被告」でない場合、登場人物の箇所はそのままにしておきます。
実際に訴状を提出する際に、訴状に被告の名前を書く欄があるのですが、そこで書いた人間が反訳書中に出てこれば、そこを「被告」と変えればいいので、それほど難しい作業ではありません。
音声データをCD-Rに焼き付け、その表面に「甲○号証」と追記する
最近のCD-Rの表には、油性のマジックで書きこむことができるようになっていますので、そこに、あなたが原告であれば「甲○号証」、被告であれば「乙○号証」と書きます。
反訳書の左側をホッチキスで綴じ、右上に「甲○号証」と追記する
いよいよ最後の作業です。作成し終わった反訳書の左側をホッチキスで綴じます。そして反訳書の右上に、あなたが原告であれば「甲○号証」、被告であれば「乙○号証」と書き加えます。最後に、各ページの下部に、ページ番号を加えておきます。以下の記載例を見てください。
音声データを収めたCD-Rの号証が「甲1号証」であるならば、わかりやすさのためにそのCD-Rに対応した反訳書は「甲2号証」と書いて整理します。そして互いが関連していることが分かるように、証拠説明書で説明をしておきます。
裁判所によって(あるいは裁判官によって)、号証の振り方・証拠説明書への記載方法は若干異なっており、厳密に統一されていないのが現状です。私たちは弁護士や司法書士等の専門家ではないため、細かい書き方については、あまり気にしなくても良いでしょう。
裁判の初日(第一回口頭弁論期日)に裁判官に指摘されたら、以後そのようにすればいいのです。
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