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ブラック企業に不当に「懲戒解雇」された場合に必要な証拠

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「懲戒解雇」は労働者にとっての極刑であり、受ける不利益も最大のものとなります。

よって「懲戒解雇」された場合、私たち労働者は意思に反してでも戦う必要性に迫られるケースが多くなります。しかし現状、懲戒解雇の撤回は気軽ではありません。解雇の撤回に労働基準監督署の力は一切期待できず、裁判(もしくは労働審判)によって白黒をつけるしかないからです(懲戒解雇と戦う場合の具体的な方法は 不当・違法な「懲戒解雇」をされた場合の戦い方 参照)。

しかし裁判は、しかるべき証拠をそろえて立証をしていけば、考えるほど難しいものではありません。また、日本の裁判では訴状・答弁書・準備書面による主張がメインであり、法廷で雄弁に演説する必要も少ないからです。

事前に有効な証拠をそろえておくことは、裁判に至る前段階の会社との交渉・調停でも、大きな意味を持つでしょう。当ページでは、事前に集めることが望ましい証拠と、その証拠の集め方を説明していきます。

不当な「懲戒解雇」と戦うにあたって集めておきたい証拠とは?

 懲戒解雇を争う場合、主に以下の証拠が必要となってきます。

 多くの場合、懲戒解雇にされるにあたっては、会社から「懲戒解雇する」の意思表示が口頭や書面でなされます。そこでまず、会社が懲戒解雇の名のもとに労働者を解雇してきたことを証明する証拠が必要となります。多くの場合、会社は「解雇通知書」や「辞令」でもって懲戒解雇の意思表示をしてきます。

 そして、労働者のどの行為が、懲戒解雇される原因となったのかを、会社に問いただす必要があります。その時に「解雇通知書」を発行してもらいます。

 原因となった行為が、就業規則の懲戒解雇事由に記載されていることが必要となります。その確認のために、「就業規則」が必要となってきます。

 解雇を争う場合は、一般的には復職を目指すので、裁判をする場合は、従業員の地位がいまだにあることを裁判所に確認させる裁判を起こします。これは地位確認請求といいます。従業員の地位が確認された場合は、解雇され労働できなくなった日から、復職する日の前日までの給料を請求するため、計算のための資料が必要となります。その場合、過去数か月分の「給料明細書」と、諸手当を請求分に含めるか否かを判断するための「賃金規程」が必要となります。

 証拠となる様々な文書は、会社が保管していることの多いものです。よって労働者は会社にそれらの文書を請求する必要があります。また、口頭で解雇についての疑問点も質問することがあります。その時の会話を録音しておくことは、有効なことです。裁判では、この時の「音声データ」「反訳書」を提出します。

 「音声データ」と「反訳書」に加えて、通知書や文書などの「会社が発行した書面」「メール」も、労働者が主張する各事実があったことを証明するのに役立ちます。そしてこれらの各事実を時系列に沿って並べて説得力を増すための証拠が、労働者が記した「日記」となります。

 ・・・各証拠がなぜ必要か、どのように集めるか、について、各々詳しく説明していきましょう。

各証拠の必要性と、実戦的な集め方

解雇通知書

 会社から労働者に対して人事上のアクションを起こす場合は、口頭での伝達と併せて「辞令」と書かかれた書面が交付されます。懲戒解雇の場合、「辞令」のなかで伝達されるケースのほか、「解雇通知書」が交付されて伝達されるケースもあります。懲戒解雇の是非を争う労働者は、これらの書面を必ず保存しておきたいものです。

本解雇が「懲戒解雇」であるとはっきりさせるための証拠

 懲戒解雇を撤回させるためには、裁判における「地位確認請求」によって、「原告(労働者)が被告(会社責任者)に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する」という判決を得る必要があります。

 懲戒解雇を裁判によって撤回させるには、「地位確認請求」裁判の過程において、「懲戒解雇」の違法性を主張・立証し、裁判官に「原告(労働者)の会社員の地位を失わせた懲戒解雇は、○○の理由によって権利の濫用であり無効であるから、原告はいまなお被告の会社の従業員の地位を有する」と判断してもらうことが必要なのです。

 懲戒解雇をするには、就業規則に懲戒解雇事由が列挙されており、かつ、労働者の行為がそれらの列挙事由に該当している必要があります。つまり懲戒解雇をするには、かなり厳格な条件が必要となるのです。会社は、懲戒解雇をするにあたって、事前にしかるべき段階を踏んでいる必要があり、それらの段階を踏んでいない場合、懲戒解雇は無効と判断されることになります。

 つまり会社が懲戒解雇をするには、普通の解雇と比べてハードルが高く、労働者にとっては、裁判で戦う場合懲戒解雇の方が無効を主張しやすいのです。そこで、会社側の行った解雇が懲戒解雇であることを事前にはっきりとさせておくために、解雇通知書等の証拠が必要となるのです。

 訴状や準備書面(裁判の過程において、自身の主張を述べるために作成する書面)には以下のように記載して、懲戒解雇の無効を主張していきます。

 被告は平成25年7月11日に、懲戒解雇する旨の意思表示とともに、「解雇通知書」を原告に配布してきた(甲○)。つまり、今回の解雇は懲戒解雇である。・・・・・原告がA工業(株)従業員の地位を失った理由は、被告による懲戒解雇が原因であるが、○○の理由、○○の理由により、本懲戒解雇は権利の濫用であると言える(甲○)。・・・以上の経緯・理由により、被告が原告に対して行った懲戒解雇は無効であり、原告は今なお、A工業(株)の従業員の地位を有する。

解雇通知書が交付されず、口頭で懲戒解雇がなされた場合はどうするか?

 後述の解雇理由証明書を会社側に請求します。その中で会社側が懲戒事由○○に該当したことによって解雇した、と書いてきたならば、本解雇は懲戒解雇であることが推定されます。退職金が支払われていないこと、解雇予告がなされていなことを合わせて、「これらの理由により本解雇は懲戒解雇である」と主張します。

 懲戒解雇の場合、退職金が支払われなかったり、解雇予告がなされなかったりします。解雇通知書が交付されず懲戒解雇がされた場合は、その点を本解雇が懲戒解雇であることの根拠としていきます。

 解雇予告手当が支払われず即日解雇されたこと・退職金は支払わない旨の意思表示をされたこと・解雇理由証明書の記載内容を合わせて、「これらの理由により本解雇は懲戒解雇である」と主張していきます。

 会社と話し合いの機会が持てる労働者の方であれば、話し合いを録音したうえで、本解雇の理由、解雇予告が為されなかったことの理由、退職金を支払わないことの理由を質問します。話し合い終了後、会話内容を文字起こしして反訳書を作成することで、本解雇が懲戒解雇であることを主張する根拠とします。

 解雇通知書が交付されてない場合において、訴状や準備書面で主張する場合は、以下のように記載します。

 『被告は平成25年7月11日に、原告に対して解雇を言い渡し、即日解雇をした。その後、原告名義○○銀行○○支店口座番号○○○○○○に解雇予告手当相当額は支払われなかった。また被告は、原告に対して退職金を支払わない旨を口頭で伝えてきた。・・・被告が原告に配布した解雇理由証明書には、「就業規則 第35条 懲戒解雇事由 ○○に該当による解雇」と記載されている(甲○)。・・・解雇予告手当が支払われないうえでの即日解雇・退職金を支払わない被告の意思表示・解雇理由証明書の記載により、本解雇は懲戒解雇である。よって、原告がA工業(株)従業員の地位を失った理由は、被告による懲戒解雇が原因である。しかし、○○の理由、○○の理由により、本懲戒解雇は権利の濫用であると言える(甲○)。・・・以上の経緯・理由により、被告が原告に対して行った懲戒解雇は無効であり、原告は今なお、A工業(株)の従業員の地位を有する。』

解雇理由証明書(退職時等証明書)

 懲戒解雇された場合、その解雇が就業規則中の懲戒解雇事由のどの項目に当たっているのかを会社に説明させるために請求します。解雇理由証明書には、該当項目だけを示すだけでは不十分であり、具体的な事実と経緯を記載する必要があります。

 時折、該当事由だけを示した解雇理由証明書を見ます。そのようなものが送られてきた場合は、即時会社に抗議をし、具体的事実と経緯を記載を盛り込んだ解雇理由証明書の再発行を請求します。以下の行政通達を見てください。

『解雇の理由については具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならない。』【平成11年1月29日・基発45】【平成15年12月26日・基発1226002】

 懲戒解雇の意思表示をされてから退職までの間には、解雇理由証明書を請求します。退職後は、退職時等証明書を請求します。即日解雇で、言い渡しから解雇まで時間が無かった場合は、後日退職時等証明書を請求します。

解雇された場合における労働基準法第22条の使い分けを説明する図

雇用契約書

「雇用契約書」は、最初に行う主張の証拠

 雇用契約書(労働契約書)は、地位確認請求において、最も最初に行う主張を証明する証拠となります。解雇された会社の会社員の地位が未だにあることを主張するためには、雇用契約を結んでいることが前提になるからです。

 訴状には、最初に『請求の趣旨』と書いて、こちらが求める内容を書きます。不当解雇を戦う場合は、解雇された会社の会社員としての地位がいまだにあることを確認するための裁判となるので、以下のように記載します。

『原告が被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。・・・との判決を求める。』

 そして次の『請求の原因』において原告と被告が雇用契約を結んだ経緯を記載していくのです。

『原告は、平成○○年○月○日に、被告と雇用契約を結んだ。その内容は、人事担当職、本社人事室勤務、人事専任職、期間の定めのない雇用契約、である。賃金額は、基本給○○円、締日は毎月20日、支払日は、翌月の10日である(甲○)。』

 上の「甲○」として、雇用契約書を提出します。

「雇用契約書」がない場合の対策~労働基準法第15条を盾に労働条件通知書の請求をする

 会社によっては「雇用契約書」なるものを一切作ってくれない会社もあります。社長が面倒くさがっているのか、そういう契約を重要視していないのか、いざとなった時に言い逃れをするために結ばないのか、それは様々です。

 しかし手元にない以上は、そのほかの書面で証明をしなければなりません。賃金額・賃金締日・賃金支払日は、給料明細書や銀行通帳でなんとか証明できるでしょう。問題は、賃金以外の契約内容です。

 そこで、会社にアクションを起こさずに証明する手段として、ハローワークでもらった求人票を探してみましょう。おそらく、そのようなものも、手元にないことが多いでしょう。また、ハローワークに出されている求人票は、実際に結んだ労働条件と違っていることも多く、裁判において有効な証拠になり得ないケースもあります。

 雇用契約書・求人票が見当たらない場合は、会社に労働条件の内容を示した書面を請求します。一般的に、「労働条件通知書」と呼ばれています。通知書には、労働基準法施行規則に定められた以下の事項を記載しないといけません。

  • 契約期間(期間の定めがあるか、ないか)
  • 期間の定めのある労働契約の場合の、契約更新の有無
  • 労働時間(始業・終業時刻、労働時間制)
  • 休憩時間
  • 時間外労働の有無
  • 休日
  • 休暇
  • 基本賃金・諸手当・割増賃金
  • 賃金支払日・賃金締切日
  • 昇給・賞与・退職金
  • 労使協定に基づく賃金支払時の控除の有無
  • 定年制
  • 継続雇用制度
  • 自己都合退職時の手続き方法
  • 解雇の手続き
  • 社会保険・雇用保険

 労働法を守る意識の低いブラック企業の経営者は、労働者の請求を拒否するかもしれません。これだけの詳細な労働条件をはっきりさせることは、後々不都合になると考えるからでしょうか?しかし労働条件を労働者に書面で示すことは労働基準法第15条で定められた義務なのです。そのことを毅然と経営者に告げ、堂々と、交付を求めていきましょう。

 すでに会社は、あなたを不当に懲戒解雇しようとしているのです。今更両者が、信頼関係にのっとった話し合いをすることは難しくなったのです。遠慮することはありません。経営者に、以下のように請求しましょう。この会話は録音しておくのが良いでしょう(録音ができなかった場合は、内容証明郵便に一工夫を加えます)。

 「社長、労働条件を労働者に書面で示すことは、労働基準法第15条で義務付けられていますよ。拒否は法律違反となります。交付してください。」

 もしこのように伝えても交付を拒否した場合は、内容証明郵便にて会社に請求します。

 『さる平成○年○月○日に、私は山川工業(株)代表取締役社長山川一郎殿に労働条件通知書の交付を求めたのですが、同氏は交付を拒否をしました。労働条件の明示は、労働基準法第15条に定められた使用者の義務であるので、速やかに交付願います。』

 内容証明郵便を書く場合は、事の経緯を最初に記載し、その次に、あなたの要求を書き、文末に「なお○○されない場合は、訴訟等の法的手段をとりますので、ご承知おきください。」と記載します。

 懲戒解雇された場合は、口頭での解雇への抗議と併せて、内容証明郵便でも懲戒解雇への抗議と撤回を求めますので、その中で上記の文を入れておきます。

再度交付請求をしても、結局交付されなかった場合は?

 解雇における地位確認請求においてまず「期間の定めのない雇用契約」であったことを証明しておきましょう。期間の定めのない雇用契約であれば、解雇権濫用法理が厳しく適用され、解雇無効を勝ち取りやすくなるからです。

 手元に雇用契約書・労働条件通知書がなくとも、訴状にて「被告と期間の定めのない雇用契約を結んだ」と主張しておきます。

 もし被告がその点を答弁書にて否定してきたら、労働者は答弁書に対する反論書面(準備書面)で、「原告は、採用日以後、被告と、有期労働契約を結んだ事実は一切ない。よって本労働契約は期間の定めのない雇用契約である。」と記載します。

 また、「原告は、被告に対して労働条件通知書を、口頭で、その後に書面(甲○)で請求したが、被告はその請求に応じなかった。」と書いて、裁判官の被告に対するマイナスの心証形成を図ります。甲○は、前出の内容証明郵便です。

 準備書面の最後にて「求釈明」と書き、「被告は原告と有期労働契約を結んだと主張するが、そうであるならば、期間の定めのある労働契約を交わした時の契約書を提出されたい。」と書いておきます。労働契約書は、必ず労働者の署名・捺印が必要であるので、当然そのような署名・捺印入りの契約書を会社側は持っているはずもなく、求釈明に応じることはできません。

就業規則

懲戒解雇される原因となった行為が、懲戒解雇事由に含まれているかどうかを証明するために提出する

 懲戒解雇をする場合には、就業規則中の「懲戒解雇事由」の中に、懲戒解雇対象労働者が起こした行為がなければなりません(懲戒処分の罪刑法定主義的要件)。よって、労働者の問題行為が懲戒解雇事由条項に含まれているかいないかを証明するために、就業規則を証拠として提出します。以下の裁判例を見てください。

『使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する。』【最高裁二小平成15年10月10日】

 例えば、労働者が会社の備品を無断で持ち帰ってしまった場合、労働者の行為は一般的に責められる行為ですが、懲戒事由に「会社の備品を無断で持ち去る行為」の項目が無ければ、懲戒処分(懲戒解雇)はできない、ということです(※備品を持ち帰ることは社会通念上責められる行為でもあるため、普通解雇されることは有り得る。普通解雇は、厳密な罪刑法定主義を採っていないので)。

 解雇理由証明書(退職時等証明書)に労働者が懲戒解雇された理由と行為の経緯・事実が記載されていますが、その行為が懲戒解雇事由中に無い場合は、会社は労働者を懲戒解雇できないことになります。

就業規則が平素から自由に見ることができない場合はどうするか?

 いくら問題となった行為が懲戒解雇事由に含まれていた場合でも、その就業規則が労働者に知れ渡っている状態(もしくはいつでも見ることができる状態)でなければなりません。就業規則が、社内の手頃な場所になく、事務室の社長の机の中などに保管されている場合などは、周知しているとは言えません。

『拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける労働者に周知させる手続きが採られていることを要する。』【最高裁二小平成15年10月10日】

 ブラック企業においては、「就業規則を見せて欲しい」と求めるだけで、マイナスの評価や嫌がらせを受けてしまうことがあります。あなたの会社がそのような社風である場合、懲戒解雇問題が発生した後に就業規則を見せてもらうことは不可能に近いでしょう。

 その場合は、録音をしながら就業規則の閲覧を求め、拒否される会話内容を保存します。そして、訴状にて以下のように記載します。

 『平成○年○月○日、原告は人事課長海山一郎に就業規則を閲覧させてもらうことを求めた。しかし海山一郎は原告の求めを拒否した(甲○・甲×)。このように、山川工業(株)においては、就業規則は常時人事課長が保管しており、従業員が自由に閲覧できる状態になく、到底周知されているとは言えない。被告が解雇理由証明書において示した原告の行為は、被告提出の就業規則の第○条懲戒解雇事由○項に該当しているが、そもそも当就業規則は従業員に周知されておらず、その点からも、懲戒解雇は有効に成立しえない。』

 上記例文中の「甲○・甲×」は、就業規則閲覧を求めた時の音声データと、その反訳書です。周知されていない事実だけをもって懲戒解雇無効を勝ち取ることは難しいのですが、会社にとってのマイナスポイントを地道に主張・立証していくことで、総合的な勝利へとつなげていきます。

賃金規程・賞与規程

 解雇期間中の賃金を請求するにあたって、その根拠を示すための証拠となります(※具体的な請求額決定方法は、「解雇から解雇無効で職場復帰するまでの間の賃金」計算方法 参照)。

 就業規則と同じく、賃金規程・賞与規程も手元に取り寄せることが難しい証拠となります。会社が明確に懲戒解雇を打ち出した後に、法的手段への移行を前提に会社側に閲覧・コピーの配布を求めていいくことになるでしょう。

賃金規程

 懲戒解雇を争っている間の賃金については、労働者が解雇されなかったら雇用契約を結んでいる以上確実に支給されたであろう賃金の合計額が請求できます。

 各種手当についても、通勤手当や時間外手当以外については、請求も可能だと考えられます。しかし通勤手当が実費保障的な性質を有しない場合(つまり、皆に一律で通勤手当が支払われてる場合)や、一定金額の残業代が定期的に確実に支給されているような場合には、これら2つの手当についても請求しうることになります。

 賃金規程には、基本給・各種手当の細かい取り決めがなされているため、訴訟で解雇期間中の賃金を請求する場合に、請求の根拠として賃金規程を示すことになります。

賞与規程

 賞与の請求については、解雇無効を勝ち取った裁判例においても、その多くで請求は棄却されています。解雇期間中に支払われた賞与を請求することが難しい理由は、以下の賞与の権利発生要件が原因です。

  • 多くの会社で、就業規則・賞与規程中に、人事考課の末に支払うか否か・支払い額はいくらかが決められる、という扱いがされている(期間中在籍していただけでは賞与を得られる権利は発生しない、ということを言っている)。
  • 支給日に在籍していなければならないという、「支給日在籍要件」が定められている。
  • 労使交渉や使用者の決定により算定基準・算定方法が定められていることを要し、かつ、その方法に従って成績査定がされている必要がある。

 しかし、他の従業員との査定配分をもって支払いを容認した裁判例・最低査定額をもって支払いを容認した裁判例も見られます。また、賞与査定が実質的に形式的であり、支払いが定額になっている現状をもって支払いを認めた裁判例も存在しますので、請求は不可能では決してありません。

 人事考課の方法・支払い方法・支払い日・基準日については、賃金規程に細かく規定されているのが常であるため、賃金規程を証拠として提出します。

給料明細書

 解雇期間中の賃金を請求する場合に、具体的な請求額の根拠の証拠とするために、給料明細書が必要となります(※具体的な請求額決定方法は、「解雇から解雇無効で職場復帰するまでの間の賃金」計算方法 参照)。

 まず、基本給が明記されています。そこから平均賃金も計算できるため、中間利益の考慮も可能となります。

 また、給料明細書には、各種手当の具体的な金額が示されています。例えば、通勤手当が一定額をもって支給されている場合は、各月の出勤日数に関係なく毎月同額の通勤手当が支払われているため、通勤手当請求の根拠となります(ゆえに、過去6カ月~1年に及ぶ給料明細があると望ましい)。

 残業代が実残業時間に関係なく一定額が支払われている場合も、同じように請求の根拠となるでしょう。

会話の音声データと反訳書

労働者の「請求した事実と内容」・「質問した事実と内容」、会社側による「請求に対する反応」・「質問に対し回答した内容」を音声証拠として残す

 会社側の人間との交渉には、できるだけボイスレコーダーを装備して臨みます。戦いによっては、会社側との交渉がまったくないケースもあります。解雇の戦い関しては、会社側との話し合いを録音した音声データは必須の証拠ではありません(パワハラとの戦いにおいては、相手方の怒号などを録音した音声データは有効な証拠となります)。

 懲戒解雇を戦うにあたっては、会社に偏って存在する証拠となる文書(就業規則・賃金規程・雇用契約書・解雇理由証明書など)を請求する必要があります。会社側に請求する場合は、極力ボイスレコーダーで請求している会話を録音しておきます。

 会社内には様々な場所があります。機械の作動音がうるさい場所・電話や人の話し声でざわざわしている場所・・・。あなたが請求をした場所は、人の話声を録音するのに適した場所ではないかもしれません。しかし録音は完璧でなくてもいいのです。

 気を付ける点として、ボイスレコーダーを録音しているときは、話し相手の名前をしっかりと声に出しましょう。そして、請求する内容をはっきりと相手に伝えましょう。下のような感じでいいでしょう。

 『海山課長、今回の解雇について、私が解雇される理由を一切聞いてません。解雇理由証明書を発行してください。それと、以前私との間で交わした雇用契約書、コピーでもいいので発行してください。あと、就業規則と賃金規程をついでに見させてもらっていいですか?コピーも取りますよ。』

 ここまで要求すれば、きっと多くのケースで、拒否されるでしょう。しかし、解雇理由証明書発行に関しては労働基準法第15条で定められた使用者の義務なので、すかさず反論をします。

 『海山課長!解雇理由証明書は、労働基準法第15条で定められた使用者の義務ですよ!今ここで私は海山課長にはっきりと請求しましたからね!解雇の原因となった私の行為については、具体的にはっきりと書いてください。もしあいまいな証明をよこしたら、再度請求します!』

 これほどまでにスムーズに対応できることはなかなか無いでしょうが、請求した事実と、会社側が拒否した事実を記録できれば、十分だと考えておきましょう。音声データだけをもって懲戒解雇無効を勝ち取ろうと考える必要はありません。

 さきほども言いましたが、懲戒解雇に関する一連の会社側のマイナスポイントを、出来る範囲内で一つ一つ地道に主張・立証していき、総合的な勝利を得ればいいのです。

音声データは日付と時刻をはっきりさせておき、反訳書を作っておく

 録音した音声データは、日付はもちろんのこと、時刻もはっきりとさせておきます。

 時刻をはっきりとさせるには、ボイスレコーダーの日付時刻設定をしっかりと平素から行っておくことです。簡単なことなのですが、意外と多くの方が、基本設定がされてないボイスレコーダーを使用しています。

 音声データの文字起こし(反訳)作業は、難しくないのですが時間のかかる作業なので、後でまとめて文字起こしするのではなく、録音した都度行っていくことを勧めます。録音したばかりの頃は、会話時の記憶も残っているため、相手の声が聴き取りにくい場合であっても文書化できる可能性が高いからです(聴き取りにくかったことは示しておく)。

 音声データの文字起こし作業の具体的な方法については、ボイスレコーダーで録音した音声の文字起こし(反訳)講座 を参照にしてください。

会社が発行した書面・メール・日記

点としての「反訳書・通知文書・メール」、線としての「日記」

 会社が発行した書面(辞令・通知書等)や、同僚・上司からのメールは、上記の反訳書と合わせて、ある一点において発生した事実を証するに特価した証拠です。

 「懲戒解雇の原因となった行為の発生~懲戒解雇言い渡し~拒否・交渉~出社への拒否~解雇に関する証明書等の発行請求」などの一連の流れは、労働者自身が詳細に日記に記して残しておきます。これは、時間に沿って何がどの順序で起こったのか?を具体的に明らかにさせる証拠です。

点と線の証拠で、裁判官に事実があったことを判断させる

 作成者が労働者自身である「日記」は、会社側が発行した書面と違って事実を証明する力が弱いのは仕方ありません(作成者にとって有利に事実の記録がなされる可能性があるため)。

 日記だけで、そこに書かれた「事実」を証明し切ることは難しいでしょう。各々の「事実」が発生したことは、反訳書・通知文書・メール等で証明します。つまり、事実の発生経緯を「線」の証拠たる日記で具体的に示し、そこに書かれた「点」としての事実を反訳書・通知文書・メール等で証明します。「点」を「線」で結び付けて、より強い説得力を付与するのです。

点としての「反訳書・通知文書・メール」、線としての「日記」を説明する図

 各事実を示す証拠、そして各事実が労働者の主張する通り起こったことを示す日記で、裁判官に「労働者の言っていることは本当に発生したことなのだな」と思わせます(心証を形成させる)。

 

参照文献のイラスト 当ページ参照文献

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