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懲戒解雇理由ごとの実戦的戦い方~職務懈怠

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懲戒解雇される理由には、実に多くの理由があります。しかしその多くが、特定の労働者を企業外へ追放するための方便として利用されています。

当ページで詳しく説明する「職務懈怠」も、その例外ではありません。職務懈怠にて懲戒解雇された多くのケースを検証すると、懲戒処分の「極刑」たる懲戒解雇にふさわしいような職務懈怠は実に稀です。多くのケースで、些細な怠慢を大義名分に、懲戒解雇が乱発されているのです。

この状況の被害者とならないためには、どのような対策をした方がいいのでしょうか?それは、過去の職務懈怠における代表的な裁判例をいくつか知り、いざ事が発生したら、迅速に己のケースを比較できるようにしておくことです。

当ページでは「職務懈怠」で懲戒解雇された場合の実戦的な戦い方を説明します。最初に「職務懈怠」で懲戒解雇された場合の戦い方のポイントを説明し、そのあとに時系列に沿って実際の戦いの過程における対応方法・手続きの仕方を説明します。

「職務懈怠」で懲戒解雇された場合の戦い方のポイント

 懲戒解雇される理由は多々あれど、懲戒解雇における戦い方は、基本的に一致しています。限られた時間と資力のもと、効率よく戦いを展開するために、必要な作業を事前にリストアップし、実行していくことが、懲戒解雇の戦いを効率よく進めるうえでのポイントとなります。

 以下に挙げる作業を、計画的にもらすことなく実行していきます。終了した作業はチェックして消していくと分かりやすいでしょう。職務懈怠を理由をした懲戒解雇で必要と思われる作業は、以下のものです(順番はその都度変わる)。

「職務懈怠」で懲戒解雇された場合の各作業の実行手順の図

 図を見ていただくとお分かりの通り、各作業は並行して行っていくことになります。それゆえ、各作業のポイントを押さえておくことが大事となるのです(ポイントを押さえず進めると、並行作業ゆえに到達点が見えにくくなり、目的に沿った作業ができなくなる恐れがある)。各作業について、説明していきましょう。

話し合いに関わる作業

 懲戒解雇の撤回を求めるためには、労働者は、辞令をもらったら速やかに当該解雇について異議を唱え、撤回を求めます。何も言わない場合、「解雇について異議がない(黙示の同意)」ととられる危険があるからです。

 懲戒解雇に対する異議は、なるべく会社側との話し合いの場ではっきりと伝えましょう。話し合いにすら応じようとしない経営者には、内容証明郵便で意思を伝達していきます。

 裁判は、当事者が意見の食い違いにより争っていることが前提となります。話し合いの内容は、ボイスレコーダーで録音のうえ反訳書を作成し、以後の手続き(調停・労働審判・裁判など)ですぐに証拠として提出できるようにしておきます。

解雇手続き上の不備に対する分析作業(すべての解雇に対して行う)

 懲戒解雇の場合、解雇が労働者にとって苛酷な結果をもたらすため、懲戒解雇に至るまでの手続き上、不備がなかったかについて、冷静に分析します。懲戒解雇を争う場合において分析すべき手続き上の不備は、以下のものが考えられます。

  • 就業規則がそもそも存在しない
  • 就業規則中に懲戒処分に関わる規程がない
  • 就業規則中の懲戒処分に関わる規程のなかに、労働者の問題行為が規定されていない
  • 就業規則が自由に閲覧できる状態にない(周知されいていない)
  • 事実関係を会社側が十分に調査していない
  • 労働者に反論・弁明の機会を十分に与えない状態で解雇した
  • 労働者の今までの功績を無視して、懲戒解雇を断行した

 これらの不備は、一つの不備あったからというだけで解雇無効になるほど、決定的な要素にはならないのが現実です。しかし裁判では「総合的に勘案して」判決がなされるため、労働者にとって裁判上有利に働く要素は、しっかりととりこぼさず主張をしておきます。

解雇期間中の賃金の算定作業

 この作業は、労働局のあっせんや、裁判所の手続き(民事調停・労働審判・裁判など)を利用することになった際に行う作業となります。

 不当な解雇をされて働く機会を失った期間は、会社の責に帰すべき理由によって労働をすることができなかった期間とみなされ、労働者からの請求があれば、その期間中の賃金を会社は払わなければならないからです。

 この計算作業をしておくと、民事調停や労働審判中の調停の試みの際に、相手方に対して具体的な解決金額を示すことができます。計算方法は、以下のページを参照にしてください。

職務懈怠による懲戒解雇特有の分析作業

裁判例では、たった1回の「問題行為」だけで懲戒解雇の有効性を認めた例は少ない

 職務懈怠を理由とする懲戒解雇の裁判においては、たった1回の問題行為が行われただけで実行された懲戒解雇について、その有効性を認める裁判例はとても少ないものとなっています。

 よって、職務懈怠を理由とする懲戒解雇をされた場合、その点をまずチェックします。あなたの例において、会社側はどのようなあなたの行為を理由に、懲戒解雇をしてきたのかをハッキリとさせます。場合によっては、労働者にとって身に覚えのない行為を理由とした懲戒解雇もされる場合があります。

 理由がはっきりとしない場合(辞令において解雇理由が記載されていない場合など)は、まず、解雇理由証明書を要求していきます。ここが出発点です。

たった1回の「問題行為」だけで懲戒解雇される例外・・・職務上の重大な注意義務違反についての分析

 たった1回の「問題行為」だけでも懲戒解雇が有効とされる裁判例も存在します。その裁判におけるキーワードは、「職務上の重大な注意義務違反」であります。

 重大な・・・という点があいまいですね。つまり、当該労働者の職務上、最も基本的に注意すべき義務、ともいえるでしょう。

 例えば、トラックの運転手や、バスの運転手である場合は、就業時間までに体内からアルコール分を抜いておかねばなりませんが、その職務上の当然の配慮を怠り、就業時間のかなり間近まで飲酒をし、それが原因で運転操作を誤り、事故を引き起こしたなどのケースが考えられます。

 そのような場合は、会社に対し物的な損害のみならず、信用上も損害も与えることになります。重大な損害をあたえるわけですね。このような結果を引き起こした場合には、たった1度の問題行為をしただけであっても、懲戒解雇の相当性が認められることがあるのです。

懲戒解雇特有の分析作業(懲戒解雇の相当性についての分析)

 この分析は、懲戒解雇で解雇された場合特有の分析作業です。裁判における主張の切り札的なポイントであるため、この分析はしっかりと行います。つまり「懲戒解雇の相当性」についての分析です。

 具体的には、問題行為が会社に与えた影響・損害の程度を分析することになります。その問題行為が行われたことによって、どのような負の影響があったのでしょうか?

 問題行為があっただけで、会社に目立った損害もない場合、会社側は、行為を引き起こした労働者に対し「以後このようなことのないように」と指導すればよいのです。目立った損害もないのに、懲戒解雇という労働者にとって極めて不利益な処分をもって会社から追い出すことは、行為の問題性の程度に比して過酷な処分だと考えられます。

 裁判においては、訴状や準備書面において、「行為に対する懲戒解雇は○○の理由により不相当であるため、当該処分は無効である」と主張します。

復職後の根回し作業(復職を考えている場合に行う)

 裁判や労働審判によって首尾よく解雇撤回を勝ち取り、職場に復帰しても、労働者の戦いは終りません。これ以後は、会社側の巧妙で陰湿な嫌がらせを受ける可能性が高くなるからです。

 解雇撤回前と後において、労働者と経営者との関係に何ら変化がなければ、撤回以後、陰湿な嫌がらせを受ける可能性は非常に高いのが現状です。経営者は、労働者に司法手続きまでされて解雇を撤回させられたことを、決して水に流すことはないでしょう。

 よって、会社側からの報復に備えないといけません。つまりこの作業は、必然的に欠かせない作業となってしまうのです。復職後の身の安泰を図るうえで考えられる対策は、以下の3つです。

  • (1)合同労組(外部労働組合)に参加する
  • (2)同僚らの協力を事前に得ておく
  • (3)会社内で仲間を募って、労働組合を結成する

 これらの3つの対策のうちで、現実的に成し得る作業は、(1)と(2)になると考えられます。

(1)合同労組(外部労働組合)に参加する

 合同労組(外部労働組合ともいう)は、誰でも一人で参加可能な労働組合です。一定の組合費を支払えば、どの会社の従業員でも、その組合の組合員になることができます。

 合同労組に参加することの最大のメリットは、自ら労働組合を結成しなくとも、交渉力・会社への抑止力について強力な力を持つ労働組合の一員になることができる点でしょう。合同労組を活用する方法については、別ページで詳しく説明します。

(2)同僚らの協力を事前に得ておく

 労働紛争に入る前、もしくは紛争の最中に、同僚らの協力を得ておくことは、復職後の精神的な平穏にとって大きな意味を持ちます。

 労働者を強引に解雇するような会社において、同僚らの表立った協力を得ることは実に難しいでしょう。彼らにはそれぞれ守るべき生活があるからです。「面倒なこと」に巻き込まれたくないのです。戦う労働者が孤立無縁となって追い詰められても、彼らには関係ありません。優先すべきは我が身です。

 よって、表立った協力ではなく、陰における協力を求めます。内面における協力、と言ってもいいでしょう。

 復職後における嫌がらせで多いパターンが、「労働者にだけ意図的かつ露骨に仕事を与えない」「上司や同僚らに無視・冷たい態度をさせることで労働者を居づらくさせる」です。

 同僚らと話を合わせ、表立っては疎遠でもいいが、プライベート等では、今まで通り接してもらうこと、そして、表立った協力は一切求めないこと、を伝えれば、大方の同僚は了解してくれるでしょう。

 そのような陰の協力すら拒否し、会社側と一緒になって嫌がらせをする同僚は、しっかりメモを取っておき、後日の対応に備えます。

 私の労働紛争の先輩諸氏の多くは、このような割り切った協力を得ることで、会社側の精神的圧迫を回避することに成功しています。しかし、嫌がらせが度を超す場合は、パワハラの問題ともなってきますので、平素より嫌がらせの内容を記録します。そうすることで、司法手続き、労働組合による追及の際、効率的な戦いが展開できます。

(3)会社内で仲間を募って、労働組合を結成する

 この対策は、実に困難な手段と言えるでしょう。労働紛争を経て復職した労働者は、同僚らにとってみれば「近づきたくない存在」であることが多いのです。その労働者が、労働組合結成の話など持ち掛けた日には、次の日から避けられることは間違いないでしょう。

 その職場で、以前に会社と労働紛争を繰り広げた労働者が別に存在するならば、声をかけてみるのもいいでしょう。しかし組合結成の話ではなく、現状や悩みを話し合うのがベターであると思います。そのような話の中で、結成の話を選択肢の一つとして取り上げていくと、自然に検討し始めることができます。

 しかし紛争直後で会社側の圧力が強いので、労働組合に関しては、合同労組加入をメイン選択肢にしておくことが現実的です。合同労組に加入後、支部開設という形で会社内において組合を結成できるメリットもあるからです。

時系列で知る「職務懈怠」で懲戒解雇された場合の実戦的・具体的な戦い方

 「職務懈怠」を理由とした懲戒解雇と戦う場合は、おおむね以上で述べた各作業を行っていくことが有効です。

 しかし各作業は並行して行うことが多いため、わかりにくいところもあります。ここではあらためて、時系列で戦いの作業の手順を示します。この手順は、過去の経験の中でわりと多いケースを参考にして示しているため、各人の戦いにおいては順序が違ってくることもあるでしょう。

 その点を踏まえ、手順は各人の戦いの状況に応じて自由に変えていきます。今回時系列で説明する事例のおおまかな状況は、以下の内容です。

 労働者Aさんがある日突然上司に呼ばれ、会議室に行ったら、その場で辞令を渡された。その内容は「職務怠慢による懲戒解雇」であった。「職務怠慢」について具体的な内容は記載されていなかったので、Aさんは職怠慢の内容を上司に尋ねたが、「もう決まったことだから」と言うだけであった。そこで、今回の懲戒解雇について納得しない、解雇について再考してほしい旨の意思を伝えたが、「裁判でも何でも、やってもらって結構だ」と強硬な姿勢でもってAさんの要求を突っぱねるだけであった。辞令をもらうまで会社側からAさんに対し勤務態度改善を促すような指導は一切なかった。

 この事例は、実際に起きた事実を、プライベートに配慮して設定しなおしたものです。

ステップ1:解雇理由証明書(退職時の証明書)の発行を要求し、職務懈怠の内容を確認する。

 懲戒解雇するためには、周知された就業規則において、当該行為が懲戒解雇処分しうる行為の一つとして明確に記載されている必要があります。よって、懲戒解雇する原因となった問題行為は、どのような行為であって、いつ行われ、懲戒解雇せざるを得ないほどの損害がどの程度発生しているか、を会社側は労働者に示す必要があるのです。

 本事例においては、職務懈怠による損害の程度が不明であり、かつどのような行為が懲戒解雇の対象行為になったのかも不明です。よって、この場で解雇理由をハッキリとさせておく必要があります。

 突然懲戒解雇されたような場合の「辞令」には、以上のような詳しい記載はほとんどされていません。よって、解雇理由証明書の交付を会社側に求めます。辞令に詳しい記載がされていないがために証明書を求める場合は、具体的な記載をするように交付請求の際に念押しします。

 本事例においては、再考の余地もないと会社側は言っているため、解雇を争うことを前提に「解雇理由証明書」の発行を求めていきます。もし辞令で即日解雇をされてしまった場合は、「退職時の証明書」を求めます。口頭にて請求をするのが一般的ですが、口頭で求めても拒否されたり、一向に交付されない場合は、内容証明郵便を使って交付の請求をします。

 口頭で、もしくは書面を利用して交付の請求をする際には、以下の内容を記載するように念押しをします。

  • 解雇理由
  • 労働者のどの行為が、職務懈怠であったのか
  • 解雇に至るまでの経緯
  • 就業規則の該当条項
「職務懈怠」の戦いにおける解雇理由証明書の発行請求書面

ステップ2:条件に抵触するかしないかの分析をする。

 裁判例を見ても、いくつかの勤務懈怠行為のうち、一つの行為に該当するだけで懲戒解雇の有効性を認めた例はあまりありません。1つの行為によって有効性を認めた場合でも、その程度が深刻である傾向が見られます。

 裁判において職務懈怠が有効となるか否かを判断するうえで考慮される点は、以下のものだと考えられます。

  • 周知されている就業規則の中に、問題となっている行為が懲戒処分の対象となる行為として定められており、かつ、その行為に対する処分として懲戒解雇の手段があると定められていること
  • 問題となっている行為について、会社側が労働者に数回にわたり改善指導しており、かつ十分な弁明の機会を与えたこと
  • 問題となっている行為について、過去に同行為を行った他の労働者にも同じ対応・処分をしていること
  • 問題となっている行為に対して行われた懲戒解雇が、行為の規律違反の程度やその事情に照らして、相当な程度の量刑であること
  • 問題となっている行為が企業内秩序を著しく乱し、当該労働者を企業外に排斥しなければ企業秩序を維持できないほど重大な程度であること

 裁判においては、これらの点について当事者双方が主張と立証を通じて本事件における事実関係を明白にする作業を行い、そのうえで裁判官が諸事情を考慮し総合的に判断します。ある事実が該当していいないからといって即懲戒解雇無効だと判断されるものでもないのです。

 勤務懈怠において懲戒解雇が有効だと判断されるためには、問題となりうる行為を複数行っているか、もしくはある行為の程度が深刻で、会社が労働者に幾度となく指導をし、それでも改善が見られず、かつ当該行為をそのままにしておいたら、企業内の秩序や利益が保つことができない、という事情が存在することが必要となります。

 つまり懲戒解雇が、最悪の事態を避けるための「最終手段」としてやむを得ず行われたことが必要となるのです。

 懲戒解雇は、解雇された労働者にとって深刻な不利益を与えることが多い「極刑」であるため、裁判所はその有効性を認めるあたって、このような慎重な判断をしているのです。あなたの懲戒解雇において、このようなやむを得ない事態が発生していましたか?そうでないと思われるならば、会社と戦うという選択肢を是非検討しましょう。

ステップ3:ステップ2の分析結果を大前提にして、戦いを継続し、かつ目的を実現するための勝算を推し量る。

勝算を推し量ることの重要性

 ステップ2における分析作業が終ったら、会社と戦うかどうかの決断をしていきます。決断をするうえで最も基本となる考え方は、「勝算が少ない場合は戦うことを慎重にし、勝算が多い場合は、積極的に戦う」です。

 ブラック企業と戦う労働者のための「孫子の兵法」活用塾のカテゴリーにおける 「算多きは勝ち算少なきは敗る」を心してブラック企業と戦うでは、戦いにおける勝算の有無の重要性と、勝算の意義について触れました。労働紛争における勝算とは、以下のものであると考えています。

  • 労働紛争について、血縁者・親近者・従業員の同意・支持をより多く得ているのはどちらか
  • 紛争当事者はどちらが労働紛争を戦う意欲が強いか
  • 戦う時期と戦う場所は、どちらに有利か
  • 紛争当事者のどちらが平素より厳正で、信頼を確保しているか
  • 紛争当事者の戦うための力(資料・知識・経済力)はどちらが上か
  • 紛争当事者には、どちらに専門家の有無・労働組合・同僚の団結などの人的有利さがあるか
  • 紛争当事者のどちらが、周囲の人間に対する一貫した公平な態度・評価をもって接しているか

 特に、戦いをすることに対する近親者の理解と、戦いの期間を支える経済的なバックボーン、そして会社側の不当な解雇を立証し得る証拠の有無は、勝算を推し量るうえでの最重要項目であると考えています。

事例における勝算の要素の各個分析作業

 『労働者Aさんがある日突然上司に呼ばれ、会議室に行ったら、その場で辞令を渡された。その内容は「職務怠慢による懲戒解雇」であった。「職務怠慢」について具体的な内容は記載されていなかったので、Aさんは職怠慢の内容を上司に尋ねたが、「もう決まったことだから」と言うだけであった。そこで、今回の懲戒解雇について納得しない、解雇について再考してほしい旨の意思を伝えたが、「裁判でも何でも、やってもらって結構だ」と強硬な姿勢でもってAさんの要求を突っぱねるだけであった。辞令をもらうまで会社側からAさんに対し勤務態度改善を促すような指導は一切なかった。』

 事例のようなケース(労働者の要求を一切無視し、強引に事を終わらせようとするケース)では、裁判に持ち込むことで解雇が「無効」となる可能性は高いと考えられます。しかし解雇の問題は白黒がついただけで丸く収まるような単純なものではありません。懲戒解雇において頻繁に問題となりうる勝算の条件について、分析をしていきましょう(分析は順不同)。

血縁者・親近者・従業員の同意・支持をより多く得ているのはどちらか、についての分析

 事例のケースでは、労働者が突然解雇(それも懲戒解雇)されています。懲戒解雇である以上、失業保険の受給においても大変不利益になり、退職金ももらえないことになります。

 多くの労働紛争で、家族・近親者の理解を得ることができるかどうかの帰趨は、「家計を以前の状態に戻すことができるか否か」にかかっています。その点をクリアできれば、家族の理解を得たうえで戦いをすることができます。

 分析するうえで、その点を考えてみましょう。家計の損失が増える一方であれば、家族の理解は得られない(早く収入を戻してほしいと考えるため)と考え、収入の安定を一刻も得るための対策(もしくは受けた損失を補てんしながら収入を回復するための対策)に力を注ぎます。

分析した結論:家族は、以前の収入水準へより早く戻ることを期待しており、その可能性を低くする行動は支持しないとわかった。

労働者の戦う力(主に経済的な力)についての分析

 解雇との戦いでは、常に経済的なよりどころが必要となってきます。解雇されれば当然、労働者の収入は断たれる(もしくは大幅に目減りする)ので、会社からの収入をあてにして余裕のない生活をしている労働者にとっては、その期間中の収入を在職中と同じ水準で確保することが最重要問題となります。ケースにおける会社側の姿勢は極めて強行的であるため、復職して以前の収入を得ることの実現可能性は低いと考えられます。

 少しでも早く以前のような収入状態に戻すことについてメドをつけておくことが重要であり、メドを付けられない以上、戦うこと自体が労働者(もしくは労働者の家計)自身の損失を増大させてしまう無謀な行為となってしまいます。

分析した結論:まだ家計には 4か月分くらいは生活費を補てんできる。その間に転職活動をしつつ会社に解雇撤回を求め、和解解決金を得てそれを補てん分に回す。

労働者の人的有利さについての分析

 復職による収入の回復を目指すならば、復職した後にその職場で孤立しないための根回しをしておく必要があります。事例に登場する上司の言動を見るに、復職後彼が労働者に友好的に接する可能性は低いでしょう。

 まず同僚らの陰での理解を得られるかを考えてみます。表立った協力はこのような会社では求めることはできません。戦う労働者が平素より職場での人間関係を良好に保っているならば、陰の協力は得られやすいものです。そのような労働者には、同僚らも同情的になり、己に害が及ばないという前提であれば、進んで気持ちを理解してくれるものです。

 次に、労働者自身が合同労組(外部労働組合)に参加する選択肢を考えることができるかも考えてみましょう(労働組合への加入は敷居が高いと考える人もたくさんいるため)。わが国では、立場の強い者(会社の経営者・上司など)に指揮命令を受ける立場の人間が反発することに、マイナスの感情を無意識に抱く傾向があります。

分析した結論:労働者自身は労働組合に加入してまで会社にとどまることを希望しない。同僚も、会社に立てつく気概のない連中ばかりであり、そのような社風にも嫌気がさしていたので、ここの人間に頼ることはできない。

紛争当事者の戦う意欲についての分析

 会社と戦う決意をした時、すべての条件が労働者にとって都合のよいものであるケースなど、実に少ないものです。そのような不利な状況であっても、そこから勝機を高めていくためには、労働者自身が戦う意欲に満ちていることが必要となります。

 事例においては、会社側に懲戒解雇に至るまでの手続きにおいて、かなりの落ち度が見られるため、労働者自身が過去の裁判例にのっとって適切な主張をしていけば、司法手続きの過程で懲戒解雇無効の判断、もしくは労働者にとって有利な形での和解を得ることができるでしょう。

 過去の裁判例を研究し、裁判における訴状等の提出書類の書き方を調べる作業は、難解とは言わないまでも、やはり手間がかかるものです。その手間のかかる作業をやり切るためには、戦う意欲が高いレベルで維持されていることが重要です。

 会社側の戦う意欲は、労働者に反旗を翻されたことによる怒りや苛立ちの感情により、高いのが常です。なんとしてでも食らいつく気持ちがなければ、戦いの継続することは難しくなります。

分析した結論:解雇について話し合いをしたとき、会社側の不誠実で傲慢な態度に信頼感を失った。きっと裁判になれば、弁護士などを引っ張り出してきて不快のオンパレードをするだろう。会社の社風には嫌気がさしており、この会社にとどまるつもりはない。しかし懲戒解雇は必ず撤回させ、雇用保険の受給・退職金について、損はしないように断固戦う。戦う意欲は強い。

事例の各個分析を受けての、総合的な決断

 勝算の総合判断作業です。各々の勝算を推し量る条件を分析した結果で、戦うか戦わないか、もしくは、徹底抗戦か抗戦しつつ頃合いを見て和解で撤退か、などを決めていきます。

 ステップ2にて説明した懲戒解雇の有効条件に関して、会社側は懲戒解雇をするにあたり、過去の裁判例で懲戒解雇が有効と判断されるためにしておかねばならない段階を踏まえていないため、裁判での判決で解雇が無効となる可能性が高いと考えられます。

まず「復職」にこだわるか否かをはっきりとさせる

 まず、「復職」についてこだわるか否かを考えます。こだわるのであれば、裁判・労働審判を行うため、それが自分にできるか否かを考えます。そして復職後の嫌がらせに対する対策を現実に打ち立てることができるかも考えます。

 徹底抗戦である以上、戦いの長期化は避けられません。その点について家族の理解・経済的なメドがたっているかを考え、その2大条件を満たしていないならば、徹底抗戦以外の道を選びます。

「復職して以前の状態に戻す」ための行動・対策をできない場合を考える

 「復職して以前の状態に戻す」ための行動・対策を自分自身で実行することができないと思った場合は、抗戦しつつ頃合いをみて和解か、もしくは撤退に徹し、もらうべきものはしっかりもらうか、懲戒解雇だけを撤回してもらうか、などを考えます。

 会社側の手続き上の不備が目立つ本事例においては、強制力を伴った手続き(労働審判や裁判)であれば、その過程における和解の試みの中で、こちらに有利な条件を提示することも十分可能となります。

 転職活動をしつつ、懲戒解雇によって受けた損害を少しでも補てんして、スマートな撤退戦を演じることも、現実的な選択肢となるでしょう。

ステップ4:話し合いの場をもちかけ、その場で解雇の撤回を求める。

 懲戒解雇が有効となるか否かの分析と、その他の戦いを継続するための条件の分析を終えて、戦いの道筋を決めたら、最後に話し合いの場を求めます。

 話し合いの場を持つことについて会社側が応じるケースは少ないでしょう。応じたならば、当該懲戒解雇が無効となる理由を述べたうえで解雇の撤回を求めます。

 自身の経験によると、拒否をされることがほとんどです。事例のケースのように、再び「裁判でも何でもやってもらって結構」という姿勢を繰り返すでしょう。労働者側としては、話し合いの手を尽くしました。もはや遠慮をすることはありません。次のステップに進みます。

 話し合いの場を持つことすら拒否されたならば(拒否されることの方が多い)、それは解雇撤回を拒否されたも同じことですので、淡々と次のステップに進みます。

ステップ5:最後通告。解雇の撤回を拒否されたら、選んだ解決のための手続きを淡々と実行していく。

期限を区切った「最後通告」によって、準備の最終段階を迎える

 内容証明郵便にて、解雇の撤回要求と、解雇の撤回を求め得る解雇の違法性の根拠について示します。撤回を求めるうえで、会社側の回答の期限を示します(設定する期限には、法的になんの根拠もない)。そして、回答期限の間に、選んだ解決手続きの開始準備に着手します。

「職務懈怠」の戦いにおける通知書の発行請求書面

 口頭や郵送による撤回拒否はもちろんのこと、無回答である場合も「撤回拒否」とと考え、解決手続きを実行し始めます。

 解雇撤回をもとめる最後通告的通知書を郵送すると同時に、撤回拒否を前提とした準備に着手します。上掲の通知書の例では、こちらが示した回答期限は、7日となっています。繰り返しますが、本期限に、何らの根拠はありません。この期限は、先延ばしになりがちな己に対する区切りでもあり、行動するうえでのペースメーカーの意味合いを持ちます。

選んだ解決手続きの実行は淡々と行う

裁判手続きの開始の場合

 解雇無効の争いをする場合は、「地位確認等請求」訴訟を起こすことになります。裁判を起こす場合、必要事項を記入・作成した「訴状」を提出することになります。

 簡易裁判所には、訴状の定型紙のようなものがありますが、労働裁判の管轄たる地方裁判所にはそのような気の利いたものはありません。しかし訴状の作成は、思ったほど難しいものではありません。弁護士や司法書士が書くような訴状を作ることは難しいかもしれませんが、私たちは法曹職ではない一般の労働者なので、裁判官に訴えが伝わる内容をもった訴状を作成すればいいのです。

 法曹職でない私たちが独力で訴状を作成する場合は、訴訟中、裁判官から記載の修正を求められることもあります。しかし私たちは裁判の訴状作成においては「アマチュア」であるため、立派な訴状など作る必要はないのです。書籍や、インターネット上にアップされている訴状の記載例を参考にして、コツコツと作成していきます。

 裁判を起こす場合に必要な書面を以下に挙げておきましょう。

  • 訴状
  • 証拠書類(雇用契約書・退職時等証明書・反訳書・ボイスレコーダーで録音した音声データ・賃金規程・給料明細書・就業規則など)
  • 証拠の内容と立証の趣旨を説明するための「証拠説明書」
  • 証人の発言を証拠とする場合は「証拠申出書」
  • 相手方の出してきた答弁書に対する「準備書面」

 訴状と証拠説明書は、最初に出すものですが、裁判中において新たに証拠を提出する場合は、それを説明するための証拠説明書を再度提出します。証拠申出書は、証人による立証をしない場合は、必要ありません。

 準備書面は、相手方が答弁書を出してきた場合に、「第1準備書面」として出します。そうすると相手方も、「第1準備書面」と題打って、こちらの第1準備書面に反論してきます。そうしたら、こちらも、「第2準備書面」を作成して提出し再反論していくのです。

労働審判手続き開始の場合

 訴状に代わる申立書である「審判手続申立書」を作成して提出することで、労働審判は開始されます。

 労働審判は、第一回期日が最も重要であるため、審判申立書の作成には、多くの時間をかける必要があります。よって、労働審判を解決の手続きとして選んだ方は、最後通告を発した直後から、審判申立書の作成に力を注ぎます。

民事調停手続き開始の場合

 民事調停は、会社の所在地を管轄する簡易裁判所において申し立てをすることができます。まずは、該当の簡易裁判所に出向いて、解雇の撤回を求めるための調停をしたい旨を伝えてアドバイスを受けましょう。

ステップ6:解決手続きの節目において戦況の分析をする。

 節目における戦況の分析については、各懲戒解雇理由における戦い方でも述べたように、非常に重要な作業となります(兵法的戦い方(5):各戦局で戦況を分析し、進路を決断する参照)。

 事例においては、高い確率で労働者にかなり有利な判決・審判・調停案が出ると考えられます。しかしそれらは、確定しない限り労働者にメリットをもたらすものとはなりません。判決等が出たならば、戦いにおける一つの区切り(節目)と考え、今後どのように対応するかを考えます。労働者に大きな心境の変化が生じた時も、重大な「節目」と考えます。心境の変化は、多くの場合、何らかのアクシデントによっておこるものだからです。

節目における分析作業の内容

 経歴詐称をめぐる懲戒解雇の戦いにおいても触れた、節目における戦況の分析例を以下に挙げましょう。節目における分析では、事実をありのままに見ることが重要です。労働者本人の希望的観測による分析作業は、後々不利な結果を招く可能性を高めてしまいます。

  • 当節目において、この戦いについての家族の支持が紛争開始当時と変わらず得られているか?
  • 紛争開始当時における経済的な見通しについて、想定の範囲内で収支が経緯しているか?
  • 紛争開始当初に打ち立てた目的について、目的達成の願望に変化がないか?別の願望が湧いていないか?
  • 会社側の職務懈怠についての主張が、的を得たものか?その主張を裏付ける証拠を、会社側は提示しているか?こちら側に反論するための物証があるか?
  • 職務懈怠をめぐる懲戒解雇との戦いについて、今も戦いを遂行するための知識習得に意欲があるか?、
  • 現在利用している法的手続きについて、手続き遂行をすることによって生じるストレスに耐えているか?耐え切れなくなってないか?
  • 会社側が主張してきた懲戒解雇したことの正当性について、会社側が主張する正当性を打ち消し得るようなこちら側の正当性が存在するか?

戦い継続においては、経済的状況に注意。戦いを終わらせる場合には、義務の履行がしっかりとなされるか注意深く見定める。

 節目における分析作業によって得られる進路は、大きく分けて、戦いの「継続」か「終了」のどちらかであると思われます。

「継続」の場合

 最終目的に変化のない「継続」であるならば、以降も同じように流れに沿って書面作成等の作業をこなしていきます。最終目的に変化を加えたうえでの「継続」であるならば、変化させたことによって生じたすべきことについて、新たに取り組んでいく必要があります。

 例えば、「絶対に復職」から「もらえるものはしっかりともらって退職」に目的を変化させたならば、復職後の根回し作業や労働組合への加入のための行動は打ち切り、退職後の職探しや生活環境の改善活動に力を注ぐことになります。

 つまり、変化によって生じた「取り組まなくてよくなった事」と「新たに必要となった事」をしっかりと把握し、すぐさま「打ち切り」と「行動開始」の切り替えを行うのです。

「終了」の場合

 「終了」の場合、環境の変化によって生じる不意の損害(出費)を最小限にして、その状態から抜け出せるかを考えます。

 会社側との譲歩のし合いによって「終了」する場合、互いが義務を負いあって終了させるケースが多いのですが、こちら側は確実に義務を履行しておきます。会社側が義務を履行しない場合に備え、履行の状況を厳しく監視します。