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懲戒解雇された理由ごとの戦い方~業務命令違反

業務命令にはさまざまなものが存在します。仕事中における上司からの指示が最も身近な業務命令ですね。その他にも、出張命令・配転命令などの大掛かりな業務命令もあります。

会社が労働者の私生活上の事情等に配慮した常識的な業務命令を出しているうちはよいのですが、業務命令権を利用して特定の労働者にことさらな不利益を課そうと企むなどの業務命令権を濫用した場合に問題が発生します。

よく行われる例を挙げましょう。特定の労働者に極めて苦痛を伴う業務命令を出し、それに労働者が従わなかった場合に「業務命令に従わないから業務命令違反で懲戒解雇だ」といって懲戒解雇を強行する、という例です。

ブラック企業に勤めていない労働者にとっては、このような例は驚きでしょうが、ブラック企業に勤めている労働者にとってはこのようなことは日常茶飯事です。

このページでは、この卑劣な例に苦しむ、もしくは今から苦しむ危険性がある労働者の皆さんが、業務命令違反を理由とした不当な懲戒解雇に立ち向かうために必要最小限の知識(業務命令違反による懲戒解雇の有効性を見分ける知識・実際に懲戒解雇された場合に具体的にどのように戦ったらよいのかの知識)を提供します。

業務命令違反を理由とする懲戒解雇の有効無効を判断するための知識

 「業務命令違反」を理由に懲戒解雇された場合において、その懲戒解雇が法律的に有効であるか否かを判断するポイントは4つあります。

 それぞれの解雇トラブルごとに、どこが問題となっているか(裁判においては「争点」といいます)は当然に違います。皆さんが解雇された場合おいて会社と独力で戦うためには、自らの力でどの点に会社の不当性が存在するかを判断しなければなりません。

 独力での判断が可能となるように、以下で各ポイントについて詳しく説明していきましょう。

業務命令自体が有効なものであるか?

 会社が持つ「業務命令」という権限は、労働者と会社が結んだ労働契約の範囲内で、労働者がしなければならない労働の種類・実際に働く場所・労働の遂行方法などの内容を会社が決定し、そしてそれを実現するための指示および管理を行う権限です。

 つまり「業務命令」とは、会社と労働者が結んだ労働契約の内容を根拠にして発生する権限なのです。よって結んだ労働契約の範囲内を越えるような業務命令は、当然に無効なものとなります。

 労働契約の範囲を越えるような労働契約とは、どのようなものがあるのでしょうか?

  • 業務上の必要性という観点から見て、合理的な範囲を越えるもの
  • 労働者の個人としての自由権を侵害するもの
  • 労働者のプライバシーなどの人格的権利(人格権)を不当に侵害するもの

 労働契約の範囲を越えるこれらの業務命令は、有効性という点において問題の生じる命令です。特に最後の不利益を課す目的でなされる業務命令は、その命令内容が労働契約の範囲内であったとしても、目的の不当性から権利濫用で無効となります。問題となりうる各命令内容をもう少し詳しく説明しましょう。

業務上の必要性という観点から見て、合理的な範囲を越えるもの

 業務上の必要性があったとしても、その業務命令を遂行するにあたり生命の危険を伴うような場合(もしくは生命の危険を伴うと労働者が想像し得る場合)のように、業務遂行における合理的な範囲を越える場合は、有効な業務命令とはならない、と裁判所は判断しました。

 有名な裁判例は、【電電公社千代田丸事件】です。韓国政府側による特定海域での一般商船に対する「撃沈声明」が出されていた時期、特定海域内(李承晩ラインを越えた海域)での海底ケーブル敷設工事の業務命令を拒否した労働者が懲戒解雇され、労働者がその懲戒解雇の有効性を争った裁判です。

 『しかしながら、現実に米海軍艦艇による護衛が付されたこと自体、この危険がたんなる想像上のものでないことを端的に物語るものといわなければならず、また、前述のように、従前、朝鮮海峡への出航につき、危険海面手当、壮行会費、超過勤務手当等の支給に関する団体交渉が妥結して後に、布設船の出航が行なわれたというのも、動乱終結後においてなお、この危険が具体的なものとして当事者間に意識されていたからにほかならない、というべきであり(労使双方において客観的危険性の解消を知りつつ、あえて不要の支出をしたものとするのは相当でない。)、右危険を評価するにあたつて、前記李ラインの一方的設定および撃沈声明等により醸成された、わが国と韓国との間の当時における異常な緊迫状態を度外視することは、許されないといわなければならない。』【電電公社千代田丸事件・最三小判昭43・12・24】

労働者の個人としての自由権を侵害するもの

労働者のプライバシーなどの人格的権利(人格権)を不当に侵害するもの

 労働者個人の人格にゆえんする権利を不当に害する業務命令も、業務命令の有効性を否定され得るものとなります。会社によって強制的に行われる所持品検査・特定の労働者に嫌がらせをすることを目的として発せられる業務命令などが該当します。

会社によって強制的に行われる所持品検査

 会社によって強制的に行われる所持品検査に関わる有名な裁判例を見てみましょう。【西日本鉄道事件】です。運転手Xが、就業規則でも定められている靴の中まで調べることを含む所持品検査に際し、靴を脱ぐことを拒否し、それがために懲戒解雇され、Xがその処分を不服として解雇無効の確認を求めて裁判を起こした事件です。

 裁判において、会社が行う所持品検査等の業務命令について、どのような条件をもって有効な業務命令となりうるかが示されました。

 『おもうに、使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であつて、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとつて必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもつて、当然に適法視されうるものではない。』【西日本鉄道事件・最二小判昭43・8・2】

 所持品検査のような、労働者のプライバシー権を容易に脅かし得る性質の業務命令は、就業規則に示され、かつ労働組合や過半数労働者の同意がある場合でも、当然に有効な業務命令とはならない、ということです。

 しかし当裁判例では、労働者に対する懲戒解雇自体は無効なものでないと判断されてしまいました。それは、問題となった所持品検査制度が以下の4つの条件をすべて満たしていたからです。

  • 検査を必要とする合理的な理由が存在すること
  • 極端でない一般的・妥当な検査方法であること
  • 検査自体が社内制度として確立されており、全従業員に対して画一的に行われるものであること
  • 就業規則その他の社内規則など、しっかりと明文化された規則の根拠に基づいて行われるものであること

 もう一度、当裁判例の判決文を見てみましょう。

 『所持品検査は、これを必要とする合理的な理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。・・・・所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行われるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。』【西日本鉄道事件・最二小判昭43・8・2】

特定の労働者に嫌がらせや不利益を課す目的でなされたもの

 特定の労働者に対する嫌がらせを目的として出される業務命令も、有効な命令とは言えません。このような業務命令に労働者は従う必要もありません。

 「特定の労働者」とありますが、よく見られるケースとして、労働組合を結成した、もしくは加入し、権利を主張する労働者に対し、不当で無効な業務命令がよくおこなわれます。ここで紹介する裁判例も、労働組合員に対して出された業務命令にからむ裁判例です。

 会社(JR東日本)が労働組合のマーク入りベルトを着用した労働者に対し、ベルトを外すことと上司の前で就業規則の書き写し・音読を業務命令として命じました(5月11日は、朝の体操から終業時刻まで行わせ、昼休み以外は与えず、同月13日も同じ命令を発し、11時過ぎに労働者が体調不良を訴えるまで命令内容を強制した)。労働者はそのような命令は業命令の範囲を逸脱する違法な命令だとして、命令によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償を求めました。

 裁判所は、そのような命令は、会社の持つ業務命令権の裁量を逸脱し、濫用した違法なものであり、労働者の人格権を傷つけたとし、会社に対し、労働者への損害賠償をすることを命じました。

 『その命じ得る教育訓練の時期、内容、方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことはいうまでもない』【JR東日本「本荘保線区」事件・仙台高裁秋田支部判平成4・12・25】

業務命令が有効であったとしても、労働者が業務命令に従わないことを原因とした現実的損害が会社に発生しているか否か?

 ここでいう「現実的損害」とは、具体的な損害額がある程度把握されることが必要だとされます(積極的な損害)。なぜなら、曖昧な損害だけで労働者を懲戒解雇に処することができるならば、懲戒解雇の濫用が横行する事態となるからです。

 「現実的損害」には、業務命令に労働者が従わないことによる会社の信用の失墜の事態、も含まれるとされます。信用失墜の事態は、「職務懈怠」のところで頻繁に問題となりますが、業務命令違反による信用失墜の事態も考えられます。

業務命令が有効であったとしても、業務命令に従わないことにつき労働者にやむを得ない理由や会社の手続きの不手際が存在していなかったか?

 業務命令自体が有効であったとしても、労働者に、当該業務命令に従うと著しい不利益を被るなどのやむを得ない事情があったり、業務命令を遂行するにあたり会社側に手続き上の問題点があった場合、その懲戒解雇は無効と判断されます。

 その条件に沿って懲戒解雇が無効と判断された裁判例を紹介します。【メレスグリオ事件】です。配置転換命令自体は有効だが、必要な情報を提供するなどの説明責任を果たしていないとして、本件配置転換命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は無効だと判断した裁判です。

 簡単な事件の経緯を説明しましょう。労働者Xに対し、会社Yは退職勧奨をしました。しかしXはそれを拒否。その後YはXに対し配置転換命令を出します。しかしそれもXは拒否。配置転換によりXの通勤時間は2倍に増えるなどの不利益が生じる事情があったからです。そこでYはXを懲戒解雇しました。Xは懲戒解雇を不服として、従業員の地位を確認するための地位確認請求裁判を起こしました。

 裁判の判決文を示します。

 『本件懲戒解雇の効力について配転命令自体は権利濫用と評されるものでない場合であっても、懲戒解雇に至るまでの経緯によっては、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は、なお、権利濫用としてその効力を否定されうると解すべきである。本件においてこれをみると、本件配転命令はXの職務内容に変更を生じるものでなく、通勤所要時間が約2倍となる等の不利益をもたらすものの、権利濫用と評すべきものでないが、Yは、Xに対し、職務内容に変更を生じないことを説明したにとどまり、本件配転後の通勤所要時間、経路等、Xにおいて本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように、生じる利害得失についてXが判断するのに必要な情報を提供することなくしてされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は、性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである。』【メレスグリオ事件・東京高裁判平12・11・29】

 判決文をみていただくとお分かりのように、配置転換命令自体は、有効なものだと判断しました。首都圏における通勤時間事情に鑑み、片道2時間以上はそれほど珍しくないからという考えからです(業務命令によってそのような通勤時間に強制的に変更されること自体に問題があると思うのだが、そこは裁判官の考えなので今はあえて考えません)。

 しかし労働者Xに、配置転換命令受諾をすべきか否かの決断をするための必要な情報を提示するなどの説明責任を果たしていないとして、会社Yによる懲戒解雇処分を無効としました。

業務命令が有効であったとしても、その業務命令違反に対する懲戒解雇が、現実に発生した損害の程度に比して重すぎないか?

 労働者に課された懲戒処分が「懲戒解雇」であった場合、この条件をもって会社に反論することが重要な戦法となります。なぜなら、懲戒解雇は懲戒処分中最も重い処分であり、それに見合った労働者の問題行為も、重大なものであることが要求されるからです(懲戒処分の相当性の原則)。

 どのような懲戒処分を下すかは、明確な選択基準もなく、会社側の裁量に属します。しかし裁量が会社側に存するといえどえもその判断を誤り、もしくは悪用して不当に重い処分を課せば、その処分は権利の濫用として無効となるのです。

 ですから、業務命令が有効だと判断されそうであっても、労働者側としては、会社側に、業務命令違反によって被った損害の程度の証明を、厳しく要求していきます(懲戒解雇は労働者にとって苛酷な不利益を与える処分であるため、懲戒解雇の有効性の証明の義務は会社に存するとされている)。

業務命令違反を理由に解雇された場合の戦い方・対処法