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懲戒解雇された理由ごとの戦い方~業務命令違反

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業務命令にはさまざまなものが存在します。仕事中における上司からの指示が最も身近な業務命令ですね。その他にも、出張命令・配転命令などの大掛かりな業務命令もあります。

会社が労働者の私生活上の事情等に配慮した常識的な業務命令を出しているうちはよいのですが、業務命令権を利用して特定の労働者にことさらな不利益を課そうと企むなどの業務命令権を濫用した場合に問題が発生します。

よく行われる例を挙げましょう。特定の労働者に極めて苦痛を伴う業務命令を出し、それに労働者が従わなかった場合に「業務命令に従わないから業務命令違反で懲戒解雇だ」といって懲戒解雇を強行する、という例です。

ブラック企業に勤めていない労働者にとっては、このような例は驚きでしょうが、ブラック企業に勤めている労働者にとってはこのようなことは日常茶飯事です。

このページでは、この卑劣な例に苦しむ、もしくは今から苦しむ危険性がある労働者の皆さんが、業務命令違反を理由とした不当な懲戒解雇に立ち向かうために必要最小限の知識(業務命令違反による懲戒解雇の有効性を見分ける知識・実際に懲戒解雇された場合に具体的にどのように戦ったらよいのかの知識)を提供します。

業務命令違反とは何を指すか?なぜ労働者は業務命令違反で懲戒されるのか?

 労働契約を結ぶことによって、会社と労働者それぞれに、権利と義務が生じます。労働契約を結ぶことによって生じる権利・義務を、それぞれ見てみましょう。

 権利です。会社には、事業を円滑に進めるのを目的をした業務上の指揮命令権・人事権・会社内や会社関連場所における施設管理権。労働者には、快適な環境で働くことを求める権利・団結権・団体交渉権・団体行動権。

 次は労働契約締結によって生じる代表的な義務を見てみましょう。会社には、労働者への安全配慮義務。労働者には、業務上の指揮命令に従う義務・誠実に作業に従事する義務です。

 よって会社は、労働者に対し、会社生活上様々な業務命令を出します。時間外労働命令・作業手順指示命令・配転命令・出向命令・・・。

 その業務命令は、就業規則中に一般的・合理的に規定してあり、かつ、その業務命令内容が社会通念上相当なものである限り、労働者に従わせることを強制できるとされています。そして、当該業務命令に労働者が従わない場合、会社は就業規則中の懲戒処分に当該行為が定めてある場合に限り、労働者を懲戒処分に処することができるのです。

労働者が懲戒処分される前提を説明する図

業務命令違反を理由とする懲戒解雇の有効無効を判断するための知識

 上記の前提を頭に入れたうえで、「業務命令違反」を理由とする懲戒解雇処分が、有効であるか否かを判断していくための知識を説明していきましょう。「業務命令違反」を理由に懲戒解雇された場合において、その懲戒解雇が法律的に有効であるか否かを判断するポイントは4つあります。

 それぞれの解雇トラブルごとに、どこが問題となっているか(裁判においては「争点」といいます)は当然に違います。皆さんが解雇された場合おいて会社と独力で戦うためには、自らの力でどの点に会社の不当性が存在するかを判断しなければなりません。

 独力での判断が可能となるように、以下で各ポイントについて詳しく説明していきましょう。

【ポイント1】業務命令自体が有効なものであるか?

 会社が持つ「業務命令」という権限は、労働者と会社が結んだ労働契約の範囲内で、労働者がしなければならない労働の種類・実際に働く場所・労働の遂行方法などの内容を会社が決定し、そしてそれを実現するための指示および管理を行う権限です。

 つまり「業務命令」とは、会社と労働者が結んだ労働契約の内容を根拠にして発生する権限なのです。よって結んだ労働契約の範囲内を越えるような業務命令は、当然に無効なものとなります。

 労働契約の範囲を越えるような労働契約とは、どのようなものがあるのでしょうか?

  • 業務上の必要性という観点から見て、合理的な範囲を越えるもの
  • 労働者のプライバシーなどを侵したり、嫌がらせ目的の業務命令など、人格的権利(人格権)を不当に侵害するもの

 労働契約の範囲を越えるこれらの業務命令は、有効性という点において問題の生じる命令です。特に嫌がらせ目的でなされる業務命令は、その命令内容が労働契約の範囲内であったとしても、目的の不当性から権利濫用で無効となります。問題となりうる各命令内容をもう少し詳しく説明しましょう。

業務上の必要性という観点から見て、合理的な範囲を越えるもの

 業務上の必要性があったとしても、その業務命令を遂行するにあたり生命の危険を伴うような場合(もしくは生命の危険を伴うと労働者が想像し得る場合)のように、業務遂行における合理的な範囲を越える場合は、有効な業務命令とはならない、と裁判所は判断しました。

 有名な裁判例は、【電電公社千代田丸事件】です。韓国政府側による特定海域での一般商船に対する「撃沈声明」が出されていた時期、特定海域内(李承晩ラインを越えた海域)での海底ケーブル敷設工事の業務命令を拒否した労働者が懲戒解雇され、労働者がその懲戒解雇の有効性を争った裁判です。

 『しかしながら、現実に米海軍艦艇による護衛が付されたこと自体、この危険がたんなる想像上のものでないことを端的に物語るものといわなければならず、また、前述のように、従前、朝鮮海峡への出航につき、危険海面手当、壮行会費、超過勤務手当等の支給に関する団体交渉が妥結して後に、布設船の出航が行なわれたというのも、動乱終結後においてなお、この危険が具体的なものとして当事者間に意識されていたからにほかならない、というべきであり(労使双方において客観的危険性の解消を知りつつ、あえて不要の支出をしたものとするのは相当でない。)、右危険を評価するにあたつて、前記李ラインの一方的設定および撃沈声明等により醸成された、わが国と韓国との間の当時における異常な緊迫状態を度外視することは、許されないといわなければならない。』【電電公社千代田丸事件・最三小判昭43・12・24】

労働者のプライバシーなどを侵したり、嫌がらせ目的の業務命令など、人格的権利(人格権)を不当に侵害するもの

 労働者個人の人格にゆえんする権利を不当に害する業務命令も、業務命令の有効性を否定され得るものとなります。会社によって強制的に行われる所持品検査・特定の労働者に嫌がらせをすることを目的として発せられる業務命令などが該当します。

会社によって強制的に行われる所持品検査

 会社によって強制的に行われる所持品検査に関わる有名な裁判例を見てみましょう。【西日本鉄道事件】です。運転手Xが、就業規則でも定められている靴の中まで調べることを含む所持品検査に際し、靴を脱ぐことを拒否し、それがために懲戒解雇され、Xがその処分を不服として解雇無効の確認を求めて裁判を起こした事件です。

 裁判において、会社が行う所持品検査等の業務命令について、どのような条件をもって有効な業務命令となりうるかが示されました。

 『おもうに、使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であつて、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業の経営・維持にとつて必要かつ効果的な措置であり、他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、そのことの故をもつて、当然に適法視されうるものではない。』【西日本鉄道事件・最二小判昭43・8・2】

 所持品検査のような、労働者のプライバシー権を容易に脅かし得る性質の業務命令は、就業規則に示され、かつ労働組合や過半数労働者の同意がある場合でも、当然に有効な業務命令とはならない、ということです。

 しかし当裁判例では、労働者に対する懲戒解雇自体は無効なものでないと判断されてしまいました。それは、問題となった所持品検査制度が以下の4つの条件をすべて満たしていたからです。

  • 検査を必要とする合理的な理由が存在すること
  • 極端でない一般的・妥当な検査方法であること
  • 検査自体が社内制度として確立されており、全従業員に対して画一的に行われるものであること
  • 就業規則その他の社内規則など、しっかりと明文化された規則の根拠に基づいて行われるものであること

 もう一度、当裁判例の判決文を見てみましょう。

 『所持品検査は、これを必要とする合理的な理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。・・・・所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて行われるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある。』【西日本鉄道事件・最二小判昭43・8・2】

特定の労働者に嫌がらせや不利益を課す目的でなされたもの

 特定の労働者に対する嫌がらせを目的として出される業務命令も、有効な命令とは言えません。このような業務命令に労働者は従う必要もありません。

 「特定の労働者」とありますが、よく見られるケースとして、労働組合を結成した、もしくは加入し、権利を主張する労働者に対し、不当で無効な業務命令がよくおこなわれます。ここで紹介する裁判例も、労働組合員に対して出された業務命令にからむ裁判例です。

 会社(JR東日本)が労働組合のマーク入りベルトを着用した労働者に対し、ベルトを外すことと上司の前で就業規則の書き写し・音読を業務命令として命じました(5月11日は、朝の体操から終業時刻まで行わせ、昼休み以外は与えず、同月13日も同じ命令を発し、11時過ぎに労働者が体調不良を訴えるまで命令内容を強制した)。労働者はそのような命令は業命令の範囲を逸脱する違法な命令だとして、命令によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償を求めました。

 裁判所は、そのような命令は、会社の持つ業務命令権の裁量を逸脱し、濫用した違法なものであり、労働者の人格権を傷つけたとし、会社に対し、労働者への損害賠償をすることを命じました。

 『その命じ得る教育訓練の時期、内容、方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことはいうまでもない』【JR東日本「本荘保線区」事件・仙台高裁秋田支部判平成4・12・25】

【ポイント2】業務命令が有効であったとしても、業務命令に従わないことにつき労働者にやむを得ない理由や会社の手続きの不手際が存在していなかったか?

 業務命令自体が有効であったとしても、労働者に、当該業務命令に従うと著しい不利益を被るなどのやむを得ない事情があったり、業務命令を遂行するにあたり会社側に手続き上の問題点があった場合、その懲戒解雇は無効と判断されます。

 その条件に沿って懲戒解雇が無効と判断された裁判例を紹介します。【メレスグリオ事件】です。配置転換命令自体は有効だが、必要な情報を提供するなどの説明責任を果たしていないとして、本件配置転換命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は無効だと判断した裁判です。

 簡単な事件の経緯を説明しましょう。労働者Xに対し、会社Yは退職勧奨をしました。しかしXはそれを拒否。その後YはXに対し配置転換命令を出します。しかしそれもXは拒否。配置転換によりXの通勤時間は2倍に増えるなどの不利益が生じる事情があったからです。そこでYはXを懲戒解雇しました。Xは懲戒解雇を不服として、従業員の地位を確認するための地位確認請求裁判を起こしました。

 裁判の判決文を示します。

 『本件懲戒解雇の効力について配転命令自体は権利濫用と評されるものでない場合であっても、懲戒解雇に至るまでの経緯によっては、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は、なお、権利濫用としてその効力を否定されうると解すべきである。本件においてこれをみると、本件配転命令はXの職務内容に変更を生じるものでなく、通勤所要時間が約2倍となる等の不利益をもたらすものの、権利濫用と評すべきものでないが、Yは、Xに対し、職務内容に変更を生じないことを説明したにとどまり、本件配転後の通勤所要時間、経路等、Xにおいて本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように、生じる利害得失についてXが判断するのに必要な情報を提供することなくしてされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は、性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである。』【メレスグリオ事件・東京高裁判平12・11・29】

 判決文をみていただくとお分かりのように、配置転換命令自体は、有効なものだと判断しました。首都圏における通勤時間事情に鑑み、片道2時間以上はそれほど珍しくないからという考えからです(業務命令によってそのような通勤時間に強制的に変更されること自体に問題があると思うのだが、そこは裁判官の考えなので今はあえて考えません)。

 しかし労働者Xに、配置転換命令受諾をすべきか否かの決断をするための必要な情報を提示するなどの説明責任を果たしていないとして、会社Yによる懲戒解雇処分を無効としました。

【ポイント3】業務命令が有効であったとしても、労働者が業務命令に従わないことを原因とした現実的損害が会社に発生しているか否か?

 ここでいう「現実的損害」とは、具体的な損害額がある程度把握されることが必要だとされます(積極的な損害)。なぜなら、曖昧な損害だけで労働者を懲戒解雇に処することができるならば、懲戒解雇の濫用が横行する事態となるからです。

 「現実的損害」には、業務命令に労働者が従わないことによる会社の信用の失墜の事態、も含まれるとされます。信用失墜の事態は、「職務懈怠」のところで頻繁に問題となりますが、業務命令違反による信用失墜の事態も考えられます。

 【ポイント4】で詳説しますが、現実的損害を証明する責任は会社側にあります。懲戒解雇は労働者に重大な不利益を生じさせる処分であるからです。

 現実的損害を会社側に粘り強く証明させることは、次の【ポイント4】における懲戒解雇処分の相当性についての主張の重要な準備となります。ここで証明させた現実的損害がでたらめ、もしくは曖昧であるか、または軽微である場合、「このたびの懲戒解雇は、現実に発生した損害に比して不当に重すぎる処分であり無効である」という主張につなげることができます。

【ポイント4】業務命令が有効であったとしても、その業務命令違反に対する懲戒解雇が、現実に発生した損害の程度に比して重すぎないか?

 労働者に課された懲戒処分が「懲戒解雇」であった場合、この条件をもって会社に反論することが重要な戦法となります。なぜなら、懲戒解雇は懲戒処分中最も重い処分であり、それに見合った労働者の問題行為も、重大なものであることが要求されるからです(懲戒処分の相当性の原則)。

 どのような懲戒処分を下すかは、明確な選択基準もなく、会社側の裁量に属します。しかし裁量が会社側に属するといえどえも、その判断を誤り、もしくは悪用して不当に重い処分を課せば、その処分は権利の濫用として無効となるのです。

 ですから、業務命令が有効だと判断されそうであっても、労働者側としては、会社側に、業務命令違反によって被った損害の程度の証明を、厳しく要求していきます(懲戒解雇は労働者にとって苛酷な不利益を与える処分であるため、懲戒解雇の有効性の証明の義務は会社に存するとされている)。

 具体的に言えば、まず会社側に、労働者の業務命令違反によって生じた具体的な損害の程度、もしくは信用を失墜した具体的な事実を傍から見てわかるように証明するように要求し、会社側が立証してきたならばその損害について労働者の業務命令違反との因果関係の無いことを主張・立証します。具体的な損害の程度を証明できないのであれば、会社に損害も生じさせていないのに懲戒解雇の不利益を労働者が被るのは平等でないとして反論していきます。

まとめ(1)・業務命令違反を理由とした懲戒解雇を争う場合のポイント

限られた時間・資力・気力を、業務命令の有効性の否定・懲戒解雇の不相当性の主張(争点がこの2点以外の場合は、その点にも力を入れる)に充てる

 兵法の原則の一つに、兵力の効率的な配分の原則がというものがあります。敵と接する最前線において均一に兵を配置するよりも、軍事行動をするうえで最も効果的な箇所、もしくは戦術的・戦略的に最も重要な地点に集中的に兵力を結集し、強襲・撃退し、戦局の変遷に伴い、しかるべき重要点に兵力を再び配置しなおしていく。

 解雇無効を争う場合も同じです。業務命令違反による懲戒解雇においては、業務命令の有効性の判断において、多くの裁判例が存在し、かつ、懲戒解雇の相当性において、多くの事件で懲戒解雇が相当性を欠く処分として無効、と判断されています。よって、この2点こそが、労働者の戦うための時間・気力を集中させる点だと考えられます。

労働者の時間・資力・気力を、有効性・相当性・争点に集中して戦うことを説明する図

 労働者は会社に比べ、圧倒的に資力が乏しいのが現状です。業務命令の有効性・懲戒解雇の相当性、そして今回の解雇トラブルにおける両者の主張の対立する点(争点)に、限られた時間・資金・気力を結集し、戦いを展開していきましょう。

裁判手続を利用することを念頭に、各ポイントの主張・主張の立証をしていく

 業務命令違反を原因とする懲戒解雇をひっくり返すには、裁判しか手段がありません。多くの人が、労働基準監督署に駆け込めば、会社の不当な行為を正してくれる、と考えています。しかし、解雇などの個々の事例に基づいて慎重な審議・検討・判断が求められる事案については、監督署は助けてくれません。窓口で相談員に、裁判や調停などを勧められるだけです。

 解雇の事案において裁判は、「手を尽くしきった後の最終手段」ではなく、「中核となる定番の手段」なのです。そのほかの手続き(調停やあっせん、労働審判など)は、その時々に応じて選択する副次的な手段であると考えておきましょう。

業務命令自体の必要性・合理性を否定していく

 業務命令違反を理由に懲戒解雇された場合、上記の4つのポイントのうち、まず、業務命令が有効なものであるか否かを検討します。最初のこのポイントこそが、大きな判断ポイントとなります。業務命令の有効性が否定される場合は、主に以下の2点でしたね。

  • 業務上の必要性という観点から見て、合理的な範囲を越えるもの
  • 労働者のプライバシーなどを侵したり、嫌がらせ目的の業務命令など、人格的権利(人格権)を不当に侵害するもの

 あなたの事例に応じた主張をしていきます。あなたに降りかかった業務命令が、嫌がらせ目的だと思われる節がある場合は、その点を厳しく追及していきます。必要性がない不合理な業務命令は、大方当該労働者に対する嫌がらせ目的で為されるものです。

業務命令違反によってもたらされた会社側の損失に絡め、懲戒解雇の不相当性を主張していく

 懲戒解雇の相当性の検討は、本事例の最大のヤマ場であると考えられます。なぜなら、懲戒解雇という処分は極めて労働者に不利益な処分であり、その処分に見合った業務命令違反の重篤性は、かなりの程度を要求されるからです。多くの業務命令違反に端を発した懲戒解雇の地位確認請求裁判において、懲戒解雇によって受ける不利益に相当するような業務命令違反であると認められず、懲戒解雇が無効と判断されています。

 懲戒解雇は労働者にとって過酷な処分であるのは間違いありません。それを受ける労働者の精神的苦痛は計り知れません。しかし、解雇無効を争う点だけにおいては、処分が重すぎることがかえって無効を争う上でやりやすさをもたらします。

 業務命令違反をしたことに事情がある場合は、必ずその理由を主張します。業務命令違反によって会社側が受けた損害について、会社側の提示した額や損害の内容が曖昧であるならば、その点を徹底的に追及します。

 具体的な損害額について提示しない場合は、損害の程度も把握していない状況で労働者に過酷な損害を強いることの不当性・不公平性を主張します。具体的な額を示した場合、当該損害額が発生した事実と労働者の業務命令違反の因果関係のなさを主張します。また、会社側損害額と労働者が懲戒解雇で受ける損害額の比較をし、その不公平性を論じます。

まとめ(2)・時系列で知る「嫌がらせの意図が含まれた業務命令が出た場合」の具体的な戦い方

 さて、ここからいよいよ、具体的な戦い方の時系列を見ていきましょう。

 戦いの流れは、各人の置かれた戦況によって、若干の異なりを見せるでしょう。以下の戦いの流れは、過去における先輩方や自身の経験をも踏まえたものです。信頼関係を失った相手とのやりとりであるため、その過程は不透明で非効率的になりがちです。しかし、粘り強く、目的から外れずに、着実に一歩一歩進んでいくのがポイントです。

ステップ1:嫌がらせの意図を含んだ業務命令が出たら、すぐに返事をせず、冷静になって対応を考える

 嫌がらせ目的の業務命令が出たら、その場で命令に対する返事や怒りの気持ちを表さず、ひとりになって対応を考えてみます。

 会社の思惑、そして当該業務命令に従うことによって生じるデメリット(従うことによって被る損害額・精神的な苦痛)をおおざっぱでもいいので思いめぐらせるのです。

会社はどのような目的を意図して当該業務命令を出してきたのかを知る

 明らかに嫌がらせの意図が含まれた業務命令が出たら、まずは会社の思惑を推理します。その命令によって、会社は対象労働者をどうしたいのか(どう追い詰めたいのか)を考えてみるのです。

 会社の思惑としては、以下のものが考えられます。私や先輩が経験した業務命令違反闘争においては、すべてが下の例のどれかにあてはまりました。

  • 無理難題な業務命令を出すことで、会社としての労働者に対する思惑・姿勢・評価を示し、労働者に精神的な衝撃を与え、自ら辞めるように仕向ける
  • 業務命令によって労働者に精神的苦痛を与える環境を作り出し、その環境の下で労働者に対し叱責や冷遇をし、精神的に追い詰め、自ら辞めさせる
  • 業務命令によって労働者を不慣れな環境に移し、成績不振をなじる等の圧迫をし、辞めさせたり、解雇する
  • 労働者が従わないことが予想されるような業務命令を出して拒否させ、業務命令違反を理由として解雇する(裁判まではしてこないだろうという希望的観測をもっている)

 この推理作業を実行するうえで役に立つ材料があります。それは、直近の前例です。不当な業務命令を出すような会社は、過去にも、そして現在も、同じようなことをしているものです。過去の例において、業務命令に従った労働者がどうなったか、もしくは従わなかった労働者がどうなったかを調べます。

 部署替えによって全く畑違いの職場に追いやられ、その場で成績不振をもとに連日罵倒され、それに耐えきれなくなって辞めてしまった前例が多々あるならば、突然の部署替えの内容たる業務命令は、あなたを自ら辞めさせるために発せられたものであると推理できます。

 単に一時、労働者に嫌な思いをさせるための目的たる業務命令であるか、労働者を会社に居られない状況にもっていくための業務命令であるかの違いは未来を左右する違いであり、どちらのであるかの判断は大変重要な判断となります。

経済的な被害の少ない選択肢を検討する

 損害が大きい場合、不当な業務命令に従って損失を被ってまで、会社にとどまることにこだわる理由は少ないでしょう。命令に従うことによって受ける損失、命令に従うことによって受ける精神的苦痛で退職に追い込まれた場合、その精神的苦痛の損失も被ることになります。

実例で考える・遠隔地への配転命令のケース

 不当な配転命令のケースを考えてみましょう。会社のご機嫌を損ね、それによって突然住居地から遠く離れた他県にある部署への配転を命じられたとします。

 命令に従った場合、他県へ赴任する旅費・新しい住居を借りる費用・二重生活によって生じる余計な家計費・新しい部署に配転されてもしそこで嫌がらせを受けて退職したならば、急な退職によって生じる収入途絶による貯蓄の減少、などが生じることが考えられます。

 生じた損失については、例え裁判を後日起こして損害賠償請求をしたとしても、ほぼ、これらの損失分を取り返すことはできません。日本の裁判においては、損害賠償で実費を取り返すことはなかなか難しい現状があります。であるならば、最初から出費をしないことが一番なのです。

 業務命令に従うか否かを決断する指針としては、従わないことによって生じる損失と、従うことによって生じる損失を比較し、この会社に将来も居続けることができるかどうかをを最後の決断材料にすることです。

ステップ2:会社側に、不当な意図を含んだ業務命令には従う必要がないことを述べて命令を拒否し、再考を促す

拒否の意思表示を示す前に、ボイスレコーダーによる録音の練習をする

 冷静な比較衡量の結果、業務命令に従うことによって生じる損失の方が大きいという結論が出たら、会社に明確に命令に従うことを拒否する意思表示をします。

 ここから、以後の会社とのやり取りにおいては、ボイスレコーダーで録音をしてください。後日、民事調停や労働審判・民事訴訟などの司法手続きを利用する場合、証拠として反訳書を作成・提出するためです。

 会社に拒否の意思表示をする前に、録音の練習をします。人のざわざわした場所(ショッピングセンターのフードコートなど)で録音をし、もっとも聴き取りやすく録音できる身体の設置場所を見つけます。

意思表示をする場において、命令に従わない理由をハッキリと伝える

 ある程度録音の練習をしたら、話し合いの事前準備は完了です。まず最初に、人事担当者に、面談の場を求めます。面談要請の時も、必ず録音をします(面談拒否をされることもあるので、その事実を証する会話を残しておくため)。この時から、証拠の収集作業は始まっています。

 会社側がこちら側の要請に応じたら、いよいよ面談となります。以下の事実と要請を、しっかりと会社側の面談担当者に伝えます。

  • 裁判において、不当な意図をもった業務命令に従う必要はないという判断が出ているという事実
  • 業務命令に従うことによって受ける損失が大きいので、従うことは不可能であるという事実
  • 上記2つの事実を理由として、当該業務命令の発令を見合わせることの要請

 上記の事実・要請を伝えたからといって、会社側が不当な業務命令の発令を中止することはほぼ期待できません。あくまで、後日司法手続きの場で戦う場合の主張の裏付け事実を作るために伝えるのです。

会社が面談の場すら与えてくれなかったならば

 ケースによっては、面談に応じることすらしない会社の場合もあります。面談で拒否の意思表示すらできないままに、当該命令に従わないときは、間もなく業務命令違反を理由とした懲戒解雇処分が下されることになるでしょう。

 このような不誠実な行動をなぜとるのでしょうか?それは、当該労働者を、とにもかくにも会社から追い出したいからです。

 裁判を起こされるリスクもありますが、「まさかそこまではしてこないだろう」という(甘い)見通しも持っています。労働者が「出るとこに出る」と言って反発しても、「裁判でも何でもしてみればいいだろう」と居直るのはその見通しがあるからなのです。

 しかし面談の場すら持たなかった事実は、懲戒解雇に至るまでの適正な手続きを踏まなかった事実となります。よって、面談の拒否をされた事実も、立証しておきたいですね。

 そのためにも、面談の要請の段階から、ボイスレコーダーによる録音をしておきます。

ステップ3:懲戒解雇の辞令が下されたと同時に、内容証明郵便にて処分に不服の意思を示し、解雇撤回を要求する

 解雇の処分が下されたら、ただちに、内容証明郵便にて、当該処分に不服の意思を示し、解雇の撤回を、期限を指定して要求します。期限について法的な根拠はありませんが、この通知書が無視されたり、会社から撤回を拒否された場合に、次のステップで退職時の証明書を素早く請求するために指定します。

解雇撤回を求める通知書の画像
解雇撤回を求める通知書の例

 期限の間に、裁判所に赴き、賃金仮払いの仮処分・労働審判の手続き方法を学んでおきましょう(パンフレットをもらったり、窓口の職員に手続きのおおまかな仕方を教えてもらう程度でいいでしょう)。

 多くの労働者の皆さんは、一般的には裁判所など利用したこともないはずですので、この段階で裁判所の雰囲気を知っておきましょう。手続きの下調べは、雰囲気を知るのにうってつけ機会となるでしょう。裁判所に行くと、裁判所事務官の皆さんが丁寧に対応してくれます。

 そして、『ステップ5』において採るべき司法手続きの道筋を選択する場合の判断材料にします。各手続きには長所や短所があり、人によって向き不向きがあるからです。各手続きの特徴を知って、自分にできそうな(耐えられそうな)手続きをおおまかに予想しておきます。

 内容証明郵便には、よく「○○日までに返答なき場合は、訴訟等の法的手段をとりますので、ご承知おきください。」なる文面を記載しますが、この場面ではあえて必要はないでしょう。

 解雇において内容証明郵便にて撤回を求める以上、会社側も撤回しない場合は法的手段をとる可能性があることも予想しているからです。また、内容証明郵便を使って撤回を求める行為自体、会社側に対する威圧となるからです。

ステップ4:退職時等証明書の交付(必要とあれば就業規則・雇用契約書も)を請求する

まず口頭にて、退職時の証明書を請求する。

 ステップ3で指定した期日までに会社から解雇撤回の意思が示されなかったら、実質的な行動の開始となります。ここまで来たら、遠慮をする必要は一切ありません。

 解雇の有効無効を争うには、まず、解雇の理由を目に見える形ではっきりとさせておきます。そのためには、解雇の理由を会社側に、文書にて証明させます。今回の事例ではすでに労働者が退職させられているので、「退職時の証明書」を請求することになります。

 「解雇理由は業務命令に従わなかったのはわかっているのになぜ?」と思われるかもしれません。しかし、大規模な会社以外においては、解雇通告や解雇理由の伝達は、口頭や簡易な通告書で行われることが多いのです。また例え形式の整った辞令で解雇や解雇理由を通告されていたとしても、裁判における証拠としては、今一歩証明力に欠ける向きがあります。

 労働基準法において「退職時の証明書」(労基22条1項)・「解雇理由証明書」(労基22条2項)を定め、会社側に解雇理由を自ら明確にさせるための義務を課しています。しかし義務は、労働者が請求しないことには生じません。解雇理由が業務命令違反であっても、必ず「退職時の証明書」を請求します。

 まず、口頭にて請求しましょう。もうすでに会社を退職して出社もできないと思いますので、電話で請求するのが一般的です。電話で請求するときは、電話用のボイスレコーダーを使います。今は、携帯電話におけるこちらと相手側の音声を拾うことができるボイスレコーダが販売されています。

 電話をかける時、手元には請求する内容を書いたメモをあらかじめ置いておき、はっきりとわかりやすく請求します。その時の相手の名前が分かったら、相手の名前をしっかりと呼んで会話を進めておきます。以下で詳しく述べますが、請求する内容は、以下の3点です。

  • 労働者が退職するに至った理由(事由)
  • 解雇に至った経緯・事実関係
  • 就業規則の該当条項

 必要に応じて、雇用契約書・就業規則・賃金規程の写しを請求します。雇用契約書は、手元に雇用契約書の労働者控えが無い方が請求します。就業規則と賃金規程は、裁判を行う上で手元にあると便利な証拠ですが、懲戒解雇された事実をもって、写しの交付を拒否される可能性が高いでしょう。

口頭の請求にて交付されない場合は、内容証明郵便を使う。

 22条では、「遅滞なくこれを交付しなければならない」と定めてあります。口頭における請求で1週間たっても何も通知が来ない場合は、内容証明郵便を使って、退職時の証明書の発行を請求します。その時は、こちらで期日を定めてしまいます。相手に対する催促の意味合いも込めてです。

退職時の証明書を求める通知書の画像
「退職時の証明書」を求める通知書の例

業務命令違反を原因とする懲戒解雇において、会社に退職時の証明書に書かせる内容とは?

 退職時の証明書を請求する場合は、以下の内容の記載を請求します。また、22条では、「労働者の請求しない事項を記入してはならない」と定めてあるため、そのことも併せて通知するといいでしょう。

  • 労働者が退職するに至った事由
  • 解雇に至った経緯・事実関係
  • 就業規則の該当条項

 上記の請求事項について、以下で述べる注意点を満たしていない証明書が送られてきたら、ただちに再請求をします。行政通達によりますと、証明書の請求回数に制限は存在せず、労働者は何度請求してもよいとされているからです(平成11・3・31基発169号)。

 通達について、押さえておきたい点があります。法律のような強制力が行政機関内部以外に及ばない、という事実です。よって労働者が通達内容を盾に会社側に権利を主張し、会社が従わなかったとしても、違法な行為とはならないのです。しかし、後日行政機関(労働基準監督署や労働委員会、労働基準局など)に相談したときに、会社に対する指導の要求などの、一歩踏み込んだ相談ができます(しかし「動いてくれたら儲けもの」くらいの気持ちでいてください)。

 繰り返しますが、退職時の証明書の請求は、法22条で定められた労働者の正当な権利であるため、22条中に言及されている事項「退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)」が記載された証明書だけは、極力得るようにしましょう。得られない場合は、次の段階(労働審判や訴訟)の場において、会社側に説明を求めていくことになります。

 さて、請求内容の詳細を以下で見ていきましょう。

労働者が退職するに至った事由

 なぜ労働者が、その会社を退職することになったのかについて、会社側に証明させます。このケースの場合、退職することになったのは、業務命令違反によって懲戒解雇処分が下ったからですね。よって会社側は退職時の証明書の「労働者が退職するに至った事由」については、「業務命令に従わなかったことによる懲戒解雇」と書く必要があります。

 「懲戒解雇で退職したのは、わかっていることじゃないか?」と思われるかもしれません。しかし裁判において懲戒解雇の有効性の主張が行き詰ってきた場合、「いや、あれは○○という別の理由で懲戒解雇したのだ」というでたらめな主張がなされることもあります。退職時の証明書があれば、このような誠実さに欠ける主張を会社がしてきても、以下のように反論することも可能となります。

 「○○という別の理由で解雇したのに退職時の証明書にその理由を書かなかったということは、会社が当時、その○○の理由を重要視していなかった、ということになる。そのような重要視してもいないような理由での懲戒解雇は相当でない。」

 上記の主張は一例ですが、退職時の証明書があるがゆえの主張です。内容はともれあれ退職時の証明書があれば、見苦しい言い逃れに対抗するための選択肢が増えることになります。

解雇に至った経緯・事実関係

 退職時の証明書を請求した場合、本当に退職の理由だけしか記載してこない会社が存在します。そうであっても、懲戒解雇で退職したことを会社側に言わせるうえでは意味がありますが、裁判になった時に時間の節約を図るためにも、この証明書の中で、解雇に至った経緯を記載するよう請求します。

 解雇に至った経緯の記載内容は、具体的であることを求められます(平成11・1・29基発45号)。至った経緯があまりにおおざっぱである場合は、再度請求の必要があります。至った経緯に事実関係と異なる記載が含まれている場合は、訴状において、その点を主張・立証していくことになります。

就業規則の該当条項

 就業規則の一定の条項に該当することを理由として懲戒解雇された場合は、当該条項の内容、当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記載するように求めます。行政通達においてもそのことが指導されています(平成11・1・29基発45号)。

ステップ5:複数ある戦いの手段の中から、一つを選び取る

 退職時の証明書を手にしたら、その内容をもとに戦いのおおまかな骨子を作ります。退職時の証明書の記載内容によって、会社の姿勢はある程度分かります。そのような判断材料を手にしたら、今の段階の自分の考えにおいて、目的を再考しましょう。

 いよいよここで、幾つかある戦いの道筋の中から一つを選び取る決断をします。戦いの最中における状況の変化において、細かな部分を修正することはありますが、大きな部分は、ほぼこの場で決めます。そうしないと、具体的な行動計画を策定することができないからです。

 解雇の有効無効を争う戦いにおいては、「原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」という判決を求めるために行う「地位確認等請求」の訴えを起こすのが一般的です。つまり、復職を前提とした戦いをしなければならないのです。このページのテーマは、業務命令違反に起因した懲戒解雇ということなので、あなたに出された業務命令が嫌がらせ目的であることを思わせる事情があるならば、懲戒解雇無効を勝ち取る戦いをする意味は十分あります。

 嫌がらせ目的で理不尽な業務命令を出し、挙句にその命令に反発したからという理由をもって懲戒解雇に処する会社になど、この期に及んで信頼感もこだわりも湧かないことでしょう。復職など考えられない人がほとんどであると思われます。まず、この点を考えていきます。解雇を争ううえで、多くの人が悩む点であります。

 理不尽な業務命令を出して嫌がらせをして、自ら辞めさせるように仕向けるような会社である以上、例え解雇無効を勝ち取って復職したとしても、陰湿な報復をしてくる可能性は極めて高いでしょう。それを防ぐためには、労働者が職場で仲間を得て共闘していく必要があります。しかし仲間を見つけられる可能背は極めて低いでしょう。皆会社のターゲットにされるのを恐れているからです。

 そのような現実を踏まえ、戦いの道筋を考えていきます。現実的に採りうる戦いの道筋には、以下のものがあります。

  • 「地位確認等請求」によって懲戒解雇無効を勝ち取り、復職する。復職後の嫌がらせには、合同労組加入で対抗する。
  • 「地位確認等請求」によって懲戒解雇の有効性を争いつつ、裁判中に示される和解の働きかけの機会において、退職と引き換えに懲戒解雇を撤回させ、退職金・和解解決金の獲得を目指す。
  • 民事調停において懲戒解雇の撤回を求める。
  • 労働審判において、審判の過程で示される和解案による和解・もしくは審判によって早期の紛争終結を目指す。
  • 会社との戦いに見切りをつけ、いち早く次の就職先を見つけるために、就職活動に専念する。

 業務命令違反を起因とする懲戒解雇の戦いでは、業務命令違反をした事実が明確に残っている以上会社の戦う意欲は一般的に強く、争いは長期に及ぶ傾向にあります。長期戦になることを考慮したうえでの決断をしましょう。

 合理的な判断である以上、いちばん最後に示した道筋である紛争からの早期撤退と再就職の専念は、実に有意義で優れた決断になると思います。

ステップ6:選び取った手続き・解決手段の手続きを行う

 戦う道筋を選び取った後は、その手続きの開始に向けて、具体的な準備を開始します。

裁判を利用する道筋を選んだ方は

 「地位確認等請求」訴訟を起こすことを決めた方は、再び裁判所に行って、訴訟を起こす場合の説明を受けましょう。自分で訴状を作っていきなり訪れる方もいますが、私たちのような訴訟に明るくない人間は、現地に行って必要書類が何であるかを教えてもらい、後日それらをそろえて提出しに行くことが効率的です。

 簡易裁判所には、一般の方が自分で訴状を容易に作ることができるための定型紙のようなものがありますが、地方裁判所にはありません。自分で作成していくしかありません。しかし、作成は、思ったほど難しいものではありません。弁護士や司法書士が書くような訴状を作ることは難しいかもしれませんが、私たちはそうではありません。できる限りのものを作ればいいのです。

 弁護士に依頼せず、会社と戦った先輩も、そして私も、労働訴訟を扱った本に記載されている訴状のモデル、インターネット上に記載されている準備書面のモデルや記載例をもとに、独力で戦いました。不備もたくさんあり、訴訟中、裁判官から記載の修正を求められることもありますが、それはその都度、直していけばいいのです。

 提訴した場合の裁判中の主な必要書面は、以下のものです。

  • 訴状
  • 証拠書類(雇用契約書・退職時等証明書・反訳書・ボイスレコーダーで録音した音声データ・賃金規程・給料明細書・就業規則など)
  • 証拠の内容と立証の趣旨を説明するための「証拠説明書」
  • 証人の発言を証拠とする場合は「証拠申出書」
  • 相手方だ出してきた答弁書に対する「準備書面」

 訴状と証拠説明書は、最初に出すものですが、裁判中において新たに証拠を提出する場合は、それを説明するための証拠説明書を再度提出します。証拠申出書は、証人による立証をしない場合は、必要ありません。

 準備書面は、相手方が答弁書を出してきた場合に、「第1準備書面」として出します。そうすると相手方も、「第1準備書面」と題打って、こちらの第1準備書面に反論してきます。そうしたら、こちらも、「第2準備書面」を作成して提出し再反論していくのです。

 訴訟の流れとポイントについては、ページを改めて説明します。

民事調停を利用する道筋を選んだ方は

 民事調停を選んだ方は、

 民事調停は、会社の所在地を管轄する簡易裁判所において申し立てをすることができます。まずは、該当の簡易裁判所に出向いて、解雇の撤回を求めるための調停をしたい旨を伝えてアドバイスを受けましょう。

 業務命令違反による懲戒解雇について、未払いの賃金だけを求めることを決めた場合は、「給料支払調停」という名の定型申立書が常備されています。利用すると便利です。

労働審判を利用する道筋を選んだ方は

 労働審判においては、民事訴訟と同じく、最初に訴状に代わる申立書である「審判手続申立書」を作成して提出しなければなりません。

 労働審判は、簡易裁判所ではなく、会社所在地の管轄地方裁判所において行われます。一度足を運び、必要な書類・経費・審判手続申立書の書き方について、大まかな説明を受けましょう。

 審判手続申立書の定型用紙はなく、自分で作成します。自力で作成する場合は、訴状と同じく、労働訴訟を扱った本に記載されている訴状のモデル、インターネット上に記載されている準備書面のモデルや記載例を参考にします。地位確認等請求労働審判申立書は、多くの書籍でその記載例が載っています。

 労働審判については、別ページにて説明します。

ステップ7:手続きの過程の中でたびたび行われる和解の試みを目安にし、その都度、戦況の分析を行い、進退を考える。

 解雇無効をめぐる戦いは、「復職」という大義を掲げる戦いであるため、そこに大きな矛盾をはらみます。訴訟や労働審判をしてまで争っている会社に、今でも復職の気持ちがあるかを、冷静に考える必要があります。再考には、復職後の現実的な見通しも必要です。

 労働審判においても、民事訴訟においても、複数回の和解の試みがなされるのが一般的です。それらを、戦況の分析と進路選択再考の機会にしましょう。

 和解である以上、労働者・会社側双方が妥協をしあって、双方が納得する落としどころに落ち着く必要があります。会社側の要求ばかり呑んでしまうのも意味がないですし、こちらの意見ばかり通そうとしても、話は決してまとまりません。

 ポイントは、決して譲れないものを己の中で再確認し、その実現を相手方に求め、それ以外は譲歩する、ということです。それが無理であるならば、訴訟・審判を続行していきましょう。

ステップ8:戦いの終結。相手の不履行を警戒しつつ、こちらは先んじて義務を果たしていく。

 業務命令違反に伴う懲戒解雇の戦いも、いよいよ終盤です。和解による終結にしろ、審判・判決による終結にしろ、大きな区切りであることは間違いありません。

 理不尽な業務命令違反に端を発する苦しい戦いであったがゆえ、あなたの中には会社に対する大きな憎悪が芽生えているかもしれません。しかし、ここまで戦った以上、相手も相応の苦しみを味わっています。大きな意味を持つ戦いであったのです。

 出た司法判断・合意した和解案に対しては、なるべく素直な気持ちで向き合いたいですね。判決結果が納得のいくものでないのならば、控訴、ということになります。終結させるならば、こちらの履行すべき義務を、相手に関わりなく、果たしていきましょう。相手がしないからこちらもしない、というのは、裁判手続上では、解決を遅らせる結果につながります。

 控訴をする以上は、今一度、経済的な状況を確認してください。それが許す限り、労働者の選択は本人の心にまかされることになります。