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解雇・パワハラ問題等の短期解決へ。「労働審判」活用法

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解雇・パワハラ・セクハラ等を原因とする労働紛争は、会社側(加害者側)が労働者の主張に真っ向から反論する傾向が強く、紛争期間が長引く傾向にあります(8カ月~2年くらい)。

これらの紛争に対し労働基準監督署は腰を上げることはなく、労働者が権利を守るためには、裁判を起こして戦わないとなりません。1年以上におよぶ裁判を戦わなければならない現実は、多くの労働者の戦意を喪失させ、結果、多くの泣き寝入りを生み出してきました。

労働審判は、解決までの期間が長くなりがちな労働紛争について、短期解決(3~6カ月の解決)を実現するための選択肢として大きな存在感を放っています。

このページは、労働審判を利用する場合に役立つ知識、もしくは、労働審判を利用するかしないか判断するための判断知識を紹介するために作りました。戦ううえで、労働者の皆さんの不安を疑問を少しでも解消できたら幸いです。

労働審判とは

 1名の労働審判官と2名の労働審判員で構成された労働審判委員会が、個人の労働紛争について、原則として3回以内の期日を使って審理をします。

 その3回の期日の中で粘り強く「調停」が行われ、もし調停がまとまらなければ、そこで「労働審判」が下されることになります。

 労働審判には「異議申立て」を行うことができます。異議申立てが行われると、審判は効果を失い(失効)、通常の裁判に移ることになります。

労働審判に関わる人たち(登場人物)

 労働審判に参加する人たちは以下の人たちです。

  • 労働審判官:1名 (労働審判委員会)
  • 労働審判員:2名 (労働審判委員会)
  • 申立人      (当事者)
  • 相手方      (当事者)
  • 利害関係者    (当事者)
  • 申立人側代理人  (代理人)
  • 相手方側代理人  (代理人)
労働審判の登場人物の図

 各登場人物の詳細については、以下でそれぞれ詳しく説明します。労働審判の全体像・手続きの流れを理解するうえでは欠かせない知識ですので、ここでさらっと理解をしておきましょう。

労働審判委員会

 まず、労働審判を実際に運営し、手続きの進行について指揮等をする「労働審判委員会」を説明します。

 労働審判委員会は、労働審判官1名と、労働審判委員2名の、合計3名で構成されます。労働審判申立書が提出され、労働審判が開かれることになると、適正等が考慮されて、労働審判員会が構成されます。

労働審判官

労働審判官のイラスト

 労働審判官は、裁判官が務めることになっています。労働審判の申立てを受けた裁判所に属する裁判官の中から指定されます。

 例えば、名古屋地方裁判所に労働審判を申立てした場合、名古屋地方裁判所に属している裁判官の中から労働審判官が指定されることになります。

労働審判員

労働審判員のイラスト

 労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識と豊富な経験を持つ、68歳未満の者の中から、最高裁判所が任命します。

 労働委員会の「あっせん」制度では、あっせん委員は、労働者側の利益代表者、使用者側の利益代表者の2名で構成されますが、労働審判員にはそのようなことはありません。審判員2名とも、中立かつ公正な立場であることが求められます。

 具体的にどのような仕事についている人が選ばれるかと言いますと、経験豊富な労使の実務家から選ばれます。人事労務業務に携わる、一定の地位と経験を持つ人。労働組合において、執行委員や労組三役の地位にあり、労使紛争において長年の経験を有する人・・。これらの人々が労使実務家として、労働審判員に任命されることになるのです。

 審判申立書を受理した地方裁判所は、審判事件ごとに労働審判員に任命された人の中から事件内容にふさわしい経歴と経験・能力をもった審判員を指名し、労働審判の効率的かつ効果的な運営を図ります。

当事者

申立人

申立人のイラスト

 労働審判は、労働組合と会社側の争いについては、取り扱わないことになっています。そのような事件は、労働委員会という専門の解決機関が存在するからです。労働者個人に関わる労働紛争に限って、労働審判の申立てをすることができます。

 しかし、労働組合に関わる事件であっても、その権利の主張が個人のものである限り、その事件に関しては労働審判ができることになります。典型的な例として、労働組合を立ち上げた、もしくは組合活動をしていることに対する解雇の事案について、労働者個人が解雇無効を主張して戦う場合は、労働審判も利用することができます。

 また、個人の労働紛争において、明らかに労働組合が後方から支援をしている場合でも、組合員たる労働者が個人として、労働審判によって権利を主張する場合は、労働審判を利用することができることになります。

相手方

相手方のイラスト

 相手方については、各労働紛争事例によって異なる場合があります。パワハラ・セクハラ事件においては、その実行者を相手方とするのではなく、その行為が行われたことについて、しかるべき対応をしてこなかった会社のトップが、相手方となります。

利害関係者

利害関係者のイラスト

 労働審判の手続の結果について利害関係を有する者は、労働審判委員会の許可を得ることで、労働審判手続に参加することができます。

 どのような立場の者が利害関係者となるかは、各労働審判事例によって様々です。例えば、パワーハラスメントを受け、会社が適切な対応をすることを怠った場合に会社側に対する慰謝料請求の事例では、パワーハラスメントを実際に行ってきた、と申立人に名指しされている上司などが該当することになります。

代理人

代理人のイラスト

 「代理人」とは、労働審判を、当事者(申立人・相手方)からの委任を受けて、本人に代わって行うことができる者たちのことをいいます。

 「代理人」になることができる人は、大まかにいうと、支配人・弁護士・裁判所に認められた人、の3人です。

労働審判第4条における代理人となることができる人とは

  • 法令により裁判上の行為をすることができる代理人
  • 弁護士
  • 当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めたときに、裁判所に認められた人

 「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」とは、商法上の支配人がそれにあたります。

 労働審判法は、明確に「弁護士」と記載しています。つまり弁護士以外の法律専門家(司法書士・認定司法書士・社会保険労務士・特定社会保険労務士など)は代理人となることができません。

 「当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めたとき」、裁判所は、弁護士・商法上の支配人以外の人を代理人として認めることができます。ここで考えられる人は、労働組合の役員などです。

労働審判の7割以上で弁護士が代理人となっている

 労働審判の代理人(本人からの委任を受けて労働審判の手続き・審理・主張立証活動などを本人に代わって行う人)は、弁護士がなるのが一般的です。

 労働審判は、裁判と同じく、申立人が自ら行うことができます。しかし、期日開催原則3回の短い期間の中で充実した主張立証を行う必要があるため、法律の専門家たる弁護士に依頼して労働審判を行う方が多いのが現状です(7割以上の審判事件が弁護士が代理人となっている)。裁判所も、短期間での効率的な解決を目指すためにも、法律の専門家である弁護士に相談することが望ましい、と公言しております。

「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」と「弁護士」以外は、代理人として認められることはほぼ無い

 労働審判法上、商法上の支配人と弁護士以外でも、裁判所が認めたならば労働審判の代理人になることができるのですが、裁判所はこれら以外の人間を代理人として認めることはほぼありません。

 この点について、労働審判法第4条の但し書と、労働審判規則第5条が死文化しているという批判もあります。

 例えば、会社の不当な解雇によって収入源を突然断たれ、明日をも知れぬ経済状況に追い込まれた労働者について、労働法の知識が豊富な労働組合役員が労働審判の代理人となることができるならば、弁護士に依頼することができなくても、顔なじみの役員と労働審判を利用して会社と戦うことができます。

 個人対会社の労働紛争が増加していくなかで、この現状がどのように変化していくのか注目されます。

労働審判の流れ

 ここでは、労働審判の大まかな流れを説明しましょう。

 労働審判中の各段階において、気を付けるポイントというものがあります。まず、下図で労働審判の大まかな流れを把握してください。図における各段階について、手続きの実態・注意したい点を実体験を含めて解説していきます。

労働審判の流れの図
労働審判の流れ

労働審判の申立て

労働審判の開始~管轄の地方裁判所へ労働審判申立書を提出

 労働審判は、紛争の一方の当事者が、管轄の地方裁判所に「労働審判申立書」を提出することで開始されます(管轄については、労働審判の管轄 参照のこと)。

 労働審判と聞くと、労働者が申立人となるもの、と思われがちですが、会社側も当然に申立人となることができます。もっとも、圧倒的に労働者側が申立人となるケースが多いのですが。

労働審判申立書に記載すべき事項とは?

 労働審判申立書には、以下の事項を記載しなければなりません。下記事項を記載した申立書を管轄の地方裁判所に提出することで、労働審判は開始されます。

  • 本人(代理人を付ける場合は代理人の分も)・相手方の住所・郵便番号・電話番号・ファクシミリ番号
  • 申立ての趣旨
  • 申立ての理由
  • 予想される争点及び争点に関する重要な事実
  • 申立てに至る経緯の概要
  • 添付する書類の内容

 申立ての趣旨、申立ての理由、については、読んで字のごとくで難解ではないように思われます。しかしこれらだけを取ってみてもある程度決まった書き方が存在するのが事実です。

 それらの「書き方」は絶対ではありません。しかし労働審判を代理人を付けずに自分一人で行おうと考えている方は、自分で申立書を作成する場合にある程度書籍を参考にするでしょうから、それらの書き方に沿って書いた方が、作成しやすいですし、審判開始後、無用な質問を受けたりせずに済みます。

 私自身も、複数の書籍、書式本を参考に、労働審判申立書を作成しました。自身や労働紛争を戦った先輩方の書いた申立書の例を参考に、簡単に解説をしていきましょう。

本人(代理人を付ける場合は代理人の分も)・相手方の住所・郵便番号・電話番号・ファクシミリ番号

 申立書にまず書いていくのは、当事者の住所・郵便番号・電話番号・ファクシミリ番号です。当事者とは、前掲の通り、申立人(ここでは労働者)と、相手方(会社とその代表者)です。

 もし申立人が弁護士を付けるのならば、弁護士の氏名、事務所名、事務所の住所・郵便番号・電話番号・ファックス番号を記載します(弁護士を付ける場合は、申立書は弁護士が書いてくれますが)。

 申立書を作成する段階においては、相手方に弁護士が就くかどうかはわからないため、ここでは相手方の会社名、代表者氏名、会社の所在地・郵便番号・住所・電話番号・ファックス番号のみを記載していきます。

「本人・相手方の住所・郵便番号・電話番号・ファクシミリ番号」の記載例
申立人が弁護士を付けた場合における、労働審判申立書における「本人・相手方の住所・郵便番号・電話番号・ファクシミリ番号」の記載例

申立ての趣旨

 「申立ての趣旨」とは、一見、わかりそうでわからないものです。要は、申立人にとって「このように下してもらいたい」審判内容を記載するのです。しかしここでは、ある決まった書き方が存在します。解雇問題を争う「地位確認等請求労働審判事件」を例に、説明していきます。

 まず最初です。解雇無効の審判を下してもらいたいと思っても、「解雇は無効である。」とは書きません。「申立人が、相手方に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」という、一般的にはあまり使わない言い回しで記載していくのです。

 次に、当該解雇において、支払ってもらいたいお金がある場合を考えてみましょう。この場合、「相手方は、申立人に対し、25万円と、毎月の給料でもらうはずの額25万円を支払うこと。」ではなく、「相手方は、申立人に対し、金25万円並びに平成28年1月から毎月月末限り金25万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。」と記載します。

 最後に、申立て費用についてです。「申立人は申立て費用を支払うこと。」ではなく「申立て費用は相手方の負担とする。」と記載します。

「申立ての趣旨」の記載例
管理人の作った労働審判申立書における「申立ての趣旨」

申立ての理由

 申立人が労働審判を申し立てた理由を記載していきます。読んで字のごとく、「申し立てた理由」を書いていけばいいのですが、ここにもある程度決まった書き方みたいなものが存在します。「申立ての趣旨」の場と同じく、解雇を争う場合の書き方を例に説明しましょう。

 解雇を争う「地位確認等請求労働審判事件」では、申立ての理由欄には、【労働契約の成立】→【解雇の事実】→【申立人の請求内容】の順に記載していくのが定番です。

「申立ての理由」の記載例
管理人の作った労働審判申立書における「申立ての理由」

予想される争点及び争点に関する重要な事実

 「争点」とは、本件労働審判において、申立人側の主張と相手方の主張が食い違うことが予想される部分です。「予想される」とあるのは、労働審判申立書作成段階においては、答弁書による相手方の正式な主張が当然のごとくなされていないからです。

 労働審判に至るまでには、申立人は相手方となる会社側と、一回もしくは複数回話し合いをしていることでしょう。その場において、会社側が処分を下す理由として示した理由や事実の経緯等について、申立人として「それは違う、そうじゃない、そんなことしていない、会社側はそんなこと一切しなかった」などと、反論したい部分があると思います。

 労働審判において申立人が反論したい部分を主張していけば、会社側は申立人の申立書における主張に対し、答弁書で自身の言い分を主張反論することでしょう。つまり真っ向から対立するわけです。そこが「争点」となるのです。

 しかしいきなり「争点を書け」と言われても、漠然として難しいと思います。よってここでも、参考書等の記載例を手助けにして、自身のケースに当てはめて書いていく方法を勧めます。弁護士ですらも、この方法を使って申立書等を書いているので、私たち法曹職以外の人間がこの方法を使ってもまったく問題ありません。

 (1)まず、おおままに争点を書いていきます。

 (2)その次に、今までの話し合いで相手方が説明・主張した、処分理由を書きます。

 (3)そして(2)を受けて、相手方が行った処分について、その処分行為の違法性を書いていきます。

申立てに至る経緯の概要

 申立てに至る経緯の概要・・・。難しい言い方ですね。要は、「労働審判の申立てをするまでに実際に起こった出来事のおおまかな流れ」を書いていけばいいのです。

 実際に労働審判申立書にこの欄を加える場合には、「第○ 申立てに至る経緯の概要」と定番の言い回しで題打ち、そのあとは、自分で書き留めていた事実の時の流れに沿って、事実を書いていきます。

 時の流れに沿って、一つの出来事ごとに発生した事実の内容を書いていきます。ある出来事から日をおいて、また違う出来事が起こった場合は、改めて番号をふって、新たな事実を書いていきます。

 題名は定番のお決まり文句で題打ちましたが、事実内容の書き方は、あなたの書き方で書いてください。要は、発生した事実内容が、読み手に分かればいいのです。

添付する書類の内容

 定番の書き方として、「付属書類」と題打ち、箇条書きで書類名を書いていきます。以下の作例を見てください。

「添付する書類の内容」の記載例
添付する書類の内容の記載例

 「申立書」は、写しを4通用意します。労働委員会用に3通、相手方用に1通が必要となるからです。現在はパソコンにて申立書の内容を打ち、それを印刷して作成するのが一般的です。私もそのように作成しました。印刷するときに、申立人用のほかに、4通の申立書の写しを作成します。

 証拠として提出する書類「甲○号証」は、申立人が提出するものに関しては、「甲○号証・甲○号・甲○」という書き方で名前付けして提出します。様々な人の記載例を見てみますと、「甲○」という書き方が多いようです。詳しくは、証拠説明書の書き方において、詳しく説明しましょう。

 「証拠説明書」は、その作成が非常に難しそうな書類の一つですが、ある程度決まった書き方が存在するため、それに沿って書いていけば作成しやすいでしょう(裁判官によって細かい書き方を注文するケースがありますが、その都度応じれば大丈夫です)。証拠説明書の書き方は、別ページにて解説します。

 最後の「資格証明書」とは、相手方たる会社に関わる書類です。商業登記簿であり、「登記事項証明書」ともいいます。過去の変更登記の履歴もすべて記載されている「履歴事項全部証明書」を用意します。家に一番近くの法務局にて取得することができます(登記簿は現在電子化されているため、全国どこからでも取得できる)。

期日における審査

労働審判申立書受理から第1回期日開催まで

 労働審判の申立てがなされたら、労働審判申立書が提出・受理された日から40日以内の日に、第1回目の期日が開かれることになります。

 労働審判官は、申立書が受理された後、申立書内において相手方とされた人物に、答弁書の提出期限を知らせます。提出期限は、「第1回期日の1週間前まで」のケースが多いようです。相手方は、期日開催日・答弁書提出期限日の知らせを受けた後、提出期限までに大急ぎで答弁書を作成(弁護士を付ける場合は弁護士が作成)して提出することになります。

第1回期日の指定と答弁書提出期限の決定の図
第1回期日の指定と答弁書提出期限

 相手方に弁護士が付いた場合は、証拠の出し惜しみや答弁書の提出遅れなどは、ほぼないと思ってよいでしょう。なぜかといいますと、弁護士は、労働審判において、その手続きの進行が遅れるような行為をすることは、労働審判委員会の心証形成について不利に働くことを知っているからです。

 労働審判委員会は、労働審判法の「個別労働紛争の短期解決」という最大の目的のために、審理を進めていきます。スピーディーな審理過程においては、今手元にある資料を事実内容だと考える(例えば、答弁書における主張と証拠の提出が意図的に遅らされた場合は、申立書における申立人の主張内容を事実だと考える)傾向にあります。

 そのことを、労働審判の代理人を経験したことがある弁護士は知っているはずです。よって、第1回期日までに相手方の主張内容・認否内容はおおよそ知ることができるでしょう。逆を言えば、申立人も労働審判申立書に自身の主張したい内容をすべて盛り込まなければならない、ということになるのです。

第1回期日

答弁書に対する反論は、原則「口頭」にて行う

 第1回期日においては、主に争点の整理と証拠調べが行われます。労働審判委員会の面々が、申立書・答弁書を見つつ両当事者の陳述を聴き、積極的に質問などをします。

 「どの点において、両者の主張が食い違っているか」「申立人の主張を裏付けるとされる証拠の内容は、主張を裏付け得るか」「相手方の答弁書における認否を裏付ける相手方提出の証拠の内容は、相手方の主張を裏付け得るか」の疑問について、当事者の陳述を聴くこと、もしくは提出された証拠を調べることで、自らの心の中に「あったであろう事実」の形を作っていきます(「心証の形成」という)。

 答弁書には申立人の主張した内容に対する反論がなされています。申立人は、相手方の主張に対し、反論をしたいと考えるのが普通です。その反論は、口頭にて行うことが原則とされています。

 よって労働審判を利用する際は、口頭でのやり取りについて事前の準備をしておくことが一層必要となってきます。ゆえに口頭でのやり取りを苦手としている人は、労働審判を難しい手続きだったと感じることがあるようです。

 申立人は答弁書を第1回期日開催前に入手できるため、事前に答弁書に対する反論内容をまとめておきます。期日において口頭にて答えられるように、紙にまとめておくとよいでしょう。

 この反論について、反論する内容が複雑である場合や、細かな計算が伴う主張をする場合は、やはり書面にて行った方が便利です。その場合は、申立人は「補充書面」を提出することができます(しかし、あくまで口頭での主張を補うもの)。

第1回期日においては、可能な限り審理のみならず調停も行う

 労働審判は短期解決の制度であるため、この第1回期日をすべて審理・証拠調べに充てないで調停の試みをする事例も多々見受けられます。事実、本回で調停が成立して審判手続きが終了するケースも少なくありません(全審判事件の2割弱)。

 当事者の事前の準備の程度にもよりますが、労働審判委員会は、第1回期日において最初の調停の試みようとします。なぜなら、第1回期日における調停の試みがうまくいかなかったら、第2回期日に行う調停の試みについて、第2回期日までに成立しやすい調停案を考えておくことができるからです。

 裁判所でもらうことができる最高裁判所が発行している労働審判のリーフレットには、太字で「法律の専門家である弁護士に相談することが望ましい」と書いてあります。それは、第1回期日で調停の試みまで行うことができるような周到な準備を期待しているから、とも考えられます。

第2回期日

 第2回期日においては、主に調停の試みが中心作業となります。

 第1回期日において、当事者の希望もしくは労働審判委員会の主導によって、当事者から申立書・答弁書を補充する補充書面が出されている場合は、それについての審理・証拠調べが行われることもあります。しかし、これは少ないケースであり、ほとんどの場合で、調停の試みがメイン作業となっているようです。

 第2回期日で調停が成立することも多くなります(全審判事件の3割強)。

第3回期日

 第3回期日は、ほとんどの場合で、第2回期日で成立しなかった調停の継続作業が中心となってきます。

 本回で調停が成立する見込みがないと考えられた場合は、この場で労働審判が下されることもあります。調停が成立せず、第3回期日後特例の開催期日も持たない場合で、本回で労働審判が下されない場合は、後日郵送にて労働審判が言い渡されます。

 第3回期日で審判手続きが終了する割合は3割強。第4回期日が開かれる割合は、0.2割で大変稀なケースとなっています。

労働審判の終結(調停の成立・労働審判・審判によらない手続の終了)

調停が成立して終了する場合

調停調書は、判決謄本と同じ強制力を持つ

 調停が期日において成立すると、裁判所書記官は「調停調書」を作成します。調書には、以下の内容が記載されます。

  • 合意内容
  • 当事者の氏名(または名称)
  • 当事者の住所
  • 代理人を付けた場合には、代理人の氏名

 調停調書には、判決謄本と同じ強制力があります。当事者の一方が、調書に記載された合意内容を守らない(履行しない)場合は、調書をよりどころに、強制執行の手続きを進めることができるのです。

 個別の話し合いで合意した合意書では、その書面をもって直ちに強制執行をすることはできません。ここに、労働審判を通して調停を成立させる大きな意義があると言えます。労働審判において調停を念頭に入れて行動することの利点を、少し話しましょう。

労働審判を利用するならば、調停の効果にも大いに期待する

 労働審判委員会は、労働審判の期日において調停を試みます。労働「審判」とありますが、労働審判制度の主役は、「調停」と言っても過言ではないでしょう。事実、労働審判事件の7割が、調停の成立によって終了しているのです。

 私たち資力の限られた労働者は、労働審判を利用するにあたっては、調停の成立による紛争の終結も、シナリオに入れておいた方がいいでしょう。それはつまり、調停にて一定の譲歩をすることを念頭に入れておく、ということです。

 労働審判委員会は、その経験から、事件が訴訟に移った場合の勝敗・賠償額の見通しをある程度予想できます。よって彼らが審判中において示した調停案は、訴訟をした場合の結果を大まかに示すものとも考えることができます。

労働審判が下されて終了する場合

審判の言い渡し方法は「口頭による言い渡し」が一般的

 各期日における調停の試みが不発に終わった、もしくは調停が成立する見込みが無いと労働審判委員会が判断した場合は、労働審判が下されることになります。

 労働審判は、審判書を作成し、それを当事者に郵送して言い渡します。しかし労働審判法は、当事者が出席している期日において、口頭で審判を言い渡す例外を認めています。労働審判法上は例外の位置づけですが、口頭での簡易な言い渡しの方が、多くの労働審判で行われている言い渡し方法となっています。口頭で言い渡された場合は、裁判所書記官が調書を作成します(それゆえ、この方法による労働審判を「調書審判」という)。

審判内容は、裁判における判決よりも柔軟で調停っぽい内容

 審判の内容は、裁判における判決とは違う側面を見せます。請求内容よりも、当事者が本当に望んでいる結果に即した、柔軟な審判内容で言い渡されます。

 分かりやすい例を挙げましょう。解雇無効を争う労働審判事件です。

 審判の過程で、労働者に対して行われた解雇が、解雇権濫用で無効であることが明らかな場合でも、労働者が復職に固執せず、一定額の補償金をもって退職したいと願い、かつ会社側もその結果を受け入れる可能性がある場合、一定額の補償金を会社側が労働者に支払う、という審判を下すことが認められます。

 これが裁判になりますと、判決でこのような内容となることはありません。解雇権濫用であることが明らかであると裁判官が心証も形成した(判断した)ならば、判決では「原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。」というものになります。

 労働審判が下されるまでには、複数回、調停案が示されるのが普通です。審判内容は、調停案の内容を反映したものとなるのが一般的です。

労働審判が取り消される場合~審判書が送達できない場合は、「労働審判の取消決定」が行われる

 出された労働審判が取り消される場合があります。「労働審判の取消決定」です。取消決定はどのようなときに行われるのかを説明しましょう。

 労働審判が口頭にて両当事者に言い渡すことができない場合、もしくは裁判所が口頭での言い渡し方法を採らない場合には、裁判所は、審判書を当事者に送達しないといけません。

 しかし当事者の居所や住所が知れない場合は、審判書の送達ができません。通常の民事裁判においては、「公示送達」という方法で法的に送ったことにする方法を採ることができるのですが、労働審判ではそれはできません。この場合裁判所は、労働審判を取り消さないとなりません。それが労働審判の「取消決定」です。

審判によらない手続きで終了する場合

 労働審判委員会は、審判事件の内容によって、審判の手続きを自ら終了させることができます。労働審判委員会が終了させる可能性がある事件は、以下のものが考えられます。

  • 申立人が多数の場合
  • 事件内容が複雑であり、審理が3回以内で終わることが難しい場合
  • 細かな計算を必要とする場合

 実際に「審判によらない手続の終了」によって審判手続きが終了させられる事件割合は、申立て件数全体において5%以内であり、例外的で稀なケースだと考えられます。

 「審判によらない手続の終了」で終了した事件は、通常訴訟へと移行します。

申立人が申立てを取り下げて終了する場合

労働審判申立ての「取下げ」について、相手方の同意は原則不要

 申立人は、以下に挙げる事態が発生するまでは、労働審判を取り下げることができます。労働審判は民事裁判と違い、取り下げることについて相手方の同意は必要ありません。

  • 調停が成立するまで
  • 労働審判に対する異議の申立てが適法になされるまで
  • 訴えの提起があったとみなされるまで
  • 労働審判の取消決定が確定するまで

 もし上記のケースが発生した後に申立てを取り下げたいと考えるならば、申立人は民事裁判における「訴えの取下げ」の手続きを経なければなりません。つまり、取下げについて相手方の同意を得る必要が生じるのです。

意外と多い、労働審判申立ての取下げ

 申立てが取り下げられて労働審判が終了する事例は少なくありません(審判全体の1割弱)。申立てをした申立人が、なぜ自ら取り下げるケースが発生するのでしょうか?

 まず考えられるケースが、審判の期日外で、申立人と相手方の間で話し合いによる和解が成立した場合です。そのような場合は、もはや労働審判をする必要がなくなるからです。

 次に考えられるのが、労働審判の手続きの過程途中で、労働者が戦いを望まなくなったケースです。労働審判の第1回期日は通常訴訟の第1回期日に比べ、申立人に多大な心理的圧迫を与えます。質問に対する口頭での回答、証拠調べ手続による質問などは、法廷での闘争に慣れていない労働者に大きなストレスを与えます。そのストレスに耐えられなくなった労働者が、相手方の同意を必要としないで自由に問申立てを取り下げることができる期間中に、自らの心の平安を得る一心で取り下げてしまうのは、それほど不自然なことではありません。

 審判の過程で、相手方の答弁書による説得力のある反論にさらされて、不利を悟って早々に労働審判を取り下げてしまうケースもあります。私もこのケースを経験したことがあります。答弁書とともに相手方は証拠を提出するのが普通です。相手方の周到で理にかなった反論と立証行為を目の当たりにして、敗北を悟り取下げを実行することは、利のない戦いの長期化をさける合理的な選択とも考えられます。

異議申立て・審判によらない手続の終了による、訴訟への移行

 労働審判に対する異議申立てが行われると、労働審判は効力を失い、異議申立てがなされた時に、労働審判が行われた地方裁判所へ、訴えの提起があったものとみなされることになります。

 また、労働審判の手続きによっては迅速な解決を図ることができないと判断され「審判によらない手続き」で終了した事件も、裁判へ移行します。

異議申立ての手続き

 異議申立ては、審判書を受け取った日又は期日において労働審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間以内に行う必要があります。なお、異議申立ては書面にて行わなければなりません(下掲載書式参照)。

異議申立書
労働審判に対する異議申立書

 裁判に移行した場合は、労働審判申立書は、訴状とみなされます。しかし労働審判申立書以外の書面は訴訟に引き継がれることはありませんので、必要に応じて、各当事者が書面(準備書面)、証拠資料を提出することになります。

 異議申立てを行った当事者は、訴えの手数料から労働審判の手数料を差し引いた額を裁判所に納めます。つまり裁判を受けるための手数料については、労働審判を経た場合は労働審判手数料相当分については負担しなくてよいのです。

労働審判の管轄

 「管轄」は、実際に申立てをする場合に大変重要な問題となってきます。労働者が労働審判の申立てをする場合を前提に、管轄の説明をしていきましょう。

 労働審判は、以下の地方裁判所に申立てをすることになります。

  • (1)会社の住所・居所・営業所・事務所の所在地を管轄する地方裁判所
  • (2)紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて、当該労働者が現に就業し、もしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
  • (3)労働者と会社が、合意で定めた地方裁判所がある場合は、その地方裁判所
  • (4)相手方の住所または居所(相手方が法人その他社団または財団である場合はその事務所または営業所)が日本国内にない場合、または知れない場合は、その最後の住所地を管轄する地方裁判所
  • (5)相手方が外国の社団または財団である場合において日本国内にその事務所または営業所がない場合は、日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所

 多くの場合で、(1)・(2)の地方裁判所に申立てをすることになります。(3)については、就業規則等で、会社の住所地を管轄する裁判所が合意で定めた裁判所、と記載されている場合がほとんどであり、結局、(1)・(2)の地方裁判所に該当することになります。

(1)会社の住所・居所・営業所・事務所の所在地を管轄する地方裁判所

 いくつかの例を挙げましょう。(3)の合意がなく、会社の所在地が愛知県名古屋市にある場合は、名古屋地方裁判所に審判の申立てをすることになります。

(2)紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて、当該労働者が現に就業し、もしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所

 (3)の合意がない場合で、労働審判を申立てする労働者が働いていた場所が京都工場であった場合、つまり(2)に該当するケースの場合は、会社の本社の所在地が愛知県名古屋市であっても京都地方裁判所に申立てをすることができます。

(3)労働者と会社が、合意で定めた地方裁判所がある場合は、その地方裁判所

資力の乏しい労働者にとって厄介な「専属的合意管轄裁判所」

 問題は、(3)のように労働契約書において、合意裁判所が定められている場合です。定められた裁判所は「専属的合意管轄裁判所」と呼ばれます。

 この場合、労働者の現住所が京都であっても、名古屋地方裁判所に申立てをしなければなりません。もう一度、労働契約書を見てみましょう。そこに労働審判も名古屋地方裁判所が合意裁判所である旨の記載がなされていますか?されていない場合は、京都地裁でもよいですが、記載されている場合は、名古屋地方裁判所となってしまいます。

 (3)で合意した地方裁判所に審判申立てをすることが労働者にとって極めて大きな不利益を生じさせる場合、裁判所に申し立てすることにより、労働者の住所地の近くに移送してもらうことができる場合があります。

「移送申立書」で労働者の住所地を管轄する地方裁判所に移送させる方法

 (3)で合意した地方裁判所に審判申立てをすることが労働者にとって極めて大きな不利益を生じさせる場合、裁判所に申し立てすることにより、労働者の住所地の近くに移送してもらうことができる場合があります。

 この場合は、「移送申立書」という書面にて、移送の申立てをすることになります。申立てをする場合は、移送申立書に移送を申し立てる理由を記載しなければなりません。

移送申立書
移送申立書

 しかしこの「移送申立書」を提出すると、会社側は高い確率で、答弁書と併せて「移送申立てに対する意見書」なるものを提出して、労働者の申し立てに反発してきます。裁判所は、両者の主張を参考にして、もしくは独断にて、移送するかしないかを判断します。

 実際、労働者の現住所が合意した裁判所から遠隔地であるという理由だけで移送が認められることは少ないのが現実です。裁判所は、遠隔地であるならば弁護士を雇って対応すればいい、という労働紛争の実情を把握していないと思われる考え方をするからです。

 上掲の移送申立書の例文は、私が申立てをした内容に、プライベートの配慮を加えたものです。例文では、労働者が京都から名古屋地方裁判所に出向くのが大変であるから、京都地方裁判所へ移送を求めています。しかし京都と名古屋は遠くないと判断される可能性も高いでしょう。

 労働者側に証人が複数存在し各人の審判期日への出頭の調整が極めて難しいなどの事情があると、移送が認められる可能性は高くなります。上掲の移送申立書においては、3人の証人を立てることがうかがえます。しかしこのような事情があるケースはなかなかありません。

 よって、経済的事情で遠隔地の合意裁判所に出頭するのが難しかったり、弁護士に労働審判の代理人の依頼をすることができない労働者は、法律扶助制度を利用して己にかかる負担を軽減する等の現実的対応策をするしかありません。

労働審判にかかる費用(訴訟費用・弁護士費用)について

訴訟費用は収入印紙代と郵便切手代がメイン。弁護士費用は訴訟費用に含まれない。

訴訟費用で大きなウェートを占める「収入印紙代」を把握するには、まず「訴額等」をはっきりさせる

 申立ての費用(申立手数料)は、民事調停の申立手数料と同額となります。費用の点から言いますと、民事訴訟を起こすよりもリーズナブルといえるでしょう。

 申立手数料は、郵便局で収入印紙を購入し、審判申立書の所定の欄に貼り付けて、申立書と一緒に提出することで納めます。下表は請求金額1,000万円までの労働審判の申立手数料(貼り付ける収入印紙代の代金)となります。

労働審判における、1,000万円までの申立手数料(収入印紙代)の表
1,000万円までの申立手数料(収入印紙代)

「地位確認等請求労働審判事件」における申立手数料はどうなる?

 解雇が有効か否かだけを争う「地位確認請求労働審判事件」の場合、訴額は160万円とされ、収入印紙代は6,500円となります。

 しかし労働審判において解雇無効を争う場合、通常解雇無効か否かの判断の請求だけでなく、審判確定の日までに支払われたであろう賃金分も併せて請求するのが一般的です。その場合請求事件の名称は、「地位確認請求労働審判事件」と名称を変え、申立手数料の算定も少し複雑になります。

 結論から言いますと、「地位確認請求労働審判の訴額(160万円)」と、「審判申立ての日までに支払われなかった賃金+審判申立ての日から三カ月が経過するまでに経過する賃金支払日日数×賃金」の2つの額を比べ、大きい額の方が訴額となり、そこで申立手数料が判明するのです。

以下で、図を使い、具体的な事例で算出してみましょう。

労働審判の申立手数料を算出する方法を説明するための例図

 

 

解雇予告手当・休業手当・割増賃金・年次有給休暇賃金の未払賃金請求労働審判における収入印紙代の把握方法

 

 

弁護士費用について

 

 

労働審判の解決金の相場は?

世間の相場「解雇当時の基本給の6か月分」に囚われず、審判申立書において請求した金員を目安にする

 解決金の相場として、世間には「解雇当時の基本給の6か月分」という目安があります。しかしこれは裁判における和解解決金の相場であり、労働審判ではそのような目安にあまりとらわれてないようです。

 だが、双方の当事者は(特に、互いに訴訟代理人たる弁護士が就いている場合)、この数値を目安に行動していることが多いと思われます。しかし本当に目安とするのは、世間の解決金の相場ではなく、労働者が労働審判において請求した金員(お金)でしょう。

 解雇無効をめぐる労働審判においては、地位確認請求のほかに、解雇期間中確実に得ることができたはずの金員(賃金や各種手当等)も請求するのが普通です。よって、労働審判期日における解決金の相場というものに囚われて、審判申立書において請求した金額を大幅に下回る額で譲歩させられることは、避けたいものです。

労働審判員は、過去の裁判例・審判例を参考にして、申立人からの金額の請求をもとに、各当事者に譲歩を促し和解を成立させようとする

 労働審判員は、期日(多い例が、第2回期日)において、互いの当事者にそれぞれ、審判や、訴訟に進展した場合の見通しを示し、そのうえで和解解決金の話をすることが多くなります。

 第1回期日が終わるまでに、双方が主張をし、証拠を示しているので、それをもとに大筋の目安がつきます。申立人が労働者である場合、審判申立書において、解雇期間中得べかりし賃金も請求しているのが普通ですので、その金額をもとに、負ける可能性が強い方に、和解に応じることを勧めます。勝つ可能性が高い方には、いくばくかの譲歩をさせたうえで、和解に応じることを提案します。

 上記の通り、労働審判員は中正公立の立場を貫くことが必要であり、実際においても、その態度は貫かれているようです。労働審判員は、経験豊富な労使関係の実務経験者から選任されているので、当事者がそれぞれ提出した申立書・答弁書・各証拠書類などから、裁判になった場合の勝敗の行方・請求金額における実際の認容額について、大方の目安がたちます。

 譲歩させる内容は、審判事件の内容によって異なってきます。労働審判における調停の試みの実務の場においては、金額の増減に、退職や懲戒解雇撤回などの諸条件を絡め、両者の納得できる落としどころを模索します。

 和解解決金の増額と引き換えに、退職して紛争を終わらせることを提案する。復職までの期間得べかりし賃金だけにとどめ、退職金を通常の退職と同額支給することで退職する・・・。その内容は様々です。

 ですので、世間一般に言われている和解解決金の相場に固執はせず、期日において行われる調停の試みにおいて、自分の最低希望ライン等を明確にして応対するのが望ましいでしょう。