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懲戒解雇された理由ごとの戦い方~経歴詐称

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懲戒解雇される理由には、実に多くの理由があります。しかしその多くが、特定の労働者を企業外へ追放するための方便として利用されています。

当ページで詳しく説明する「経歴詐称」も、その例外ではありません。経歴詐称にて懲戒解雇された多くのケースを検証すると、懲戒処分の「極刑」たる懲戒解雇にふさわしいような経歴詐称は実に稀です。多くのケースで、些細な詐称を大義名分に、懲戒解雇が乱発されているのです。

この状況の被害者とならないためには、どのような対策をした方がいいのでしょうか?それは、過去の経歴詐称における代表的な裁判例をいくつか知り、いざ事が発生したら、迅速に己のケースを比較できるようにしておくことです。

当ページでは「経歴詐称」で懲戒解雇された場合に備え、懲戒解雇理由としての「経歴詐称」の基礎知識と、過去の裁判例、具体的な対処法を説明していきます。

経歴詐称とは?問題となる内容と種類

 今まで経験した学業・職業・地位などを偽った行為(経歴詐称)は、どの会社の就業規則にもおおかた登場する、代表的な懲戒処分理由です。

 しかし、懲戒処分することが相当だと判断されうる経歴詐称は、重要な部分を偽ったものであるものに限定される、という考え方が一般的です。裁判例においても、経歴詐称は懲戒処分の理由となり得るがそれは重要な部分を偽ったものであることを要する、と判断されています。懲戒解雇のケースであれば、なおのことでしょう。

 なお、労働者が過去の組合活動歴・学生運動歴・政治活動歴を採用の段階で秘匿する行為は、懲戒処分の対象たる経歴詐称には該当しません。これらの活動は、日本国憲法に定められた労働基本権、思想・信条の自由に基づいたものであるからです。よって会社がこれらの活動を労働者に採用時に申告させること自体、違法な行為となり、後日採用時にこれらの経歴を秘匿したことをもって懲戒処分をすることは無効と判断されることになります。下の裁判例における判決文を見てください。

「およそ近代的な労働契約は、労働者が一定の労働力を使用者に提供することを目的とする契約にすぎないのであって、労働者がその全人格を使用者の支配下に置くことを目的とする契約ではないことはいうまでもないから、労働契約の締結に当り、使用者が労働者に対して労働力の提供とはあまり関係のない事項について申告するよう求めた場合には、労働者がその申告を拒否したり、その事項に関する正確な事実を申告しなかったりしても、そのことをもって、労働者を非難したり、労働者に不利益を課したりすることは許されない。」【東京地判昭54年3月8日 スーパーバッグ事件 】

 さて、問題の「重要な部分」とは以下の部分であるとされています。

  • 学歴(最終学歴)
  • 職歴
  • 犯罪歴

 しかし、上記3つであれば、問答無用で懲戒処分が有効となる、というものでもありません。まして、懲戒処分中最も重い処分たる懲戒解雇理由となれば、上記3つにおいても、より重大な詐称の事実が必要となるでしょう。考え方のポイントは「労働者が、問題となっている偽りの経歴ではなく真実の経歴を告知したならば採用したか?」という判断基準です。

 その考え方を頭に入れつつ、各「重要な部分」について詳しく説明していきましょう。

学歴(最終学歴)

 問題となった学歴詐称が、労働力の適正配置を誤らせてしまったか否かが、懲戒解雇の有効無効の分かれ目となると考えられます。よって学歴の詐称が適正配置に影響を与えていないことが明らかな場合は、懲戒解雇までの処分は行き過ぎであると考えられます(より軽微な懲戒処分が有効と判断される可能性はある)。

 学歴詐称は、その事実が確認されたならば、例え労働者が長年勤務していたとして勤続の功があっても、懲戒解雇されることもあります。

適正配置を誤らせて懲戒解雇となり、それが有効とだと判断された具体例

 この説明ではイマイチ分かりにくいので、少し具体的な例をもって説明したいと思います。実際に過去にあった、新卒の方の実例です。

 法務部門の新卒採用に際し、応募資格を法学部大学院卒に限定していた場合、ある労働者が学生の時、少しの法律書を読んだだけの知識を利用して経歴を偽り採用されたケースを考えてみましょう。

 この労働者は応募資格を満たしてないばかりか、法務部門に必要とされる能力も持ち合わせていないため、採用時にそのことが露見した場合採用されることはまずありません。労働者が経歴を偽ったために、法務部門の職務遂行能力を持ち合わせない人間が配置されてしまったのです。よってこのケースでは、労働者に下された懲戒解雇は有効、と判断されることでしょう。

採用時に学歴を問われなかった場合(学歴不問の場合)は、学歴詐称で懲戒解雇されること自体に無理がある

 よく「学歴不問」と書いてある求人を見かけます。そのような会社においては、採用時に学歴を偽って入社した労働者を、学歴詐称で懲戒処分もしくは懲戒解雇することは難しいと考えられます。

 なぜなら会社は、採用や入社後の配置において、学歴を判断要素とすることを前提としていないからです。判断要素としていない以上、学歴の詐称で適正配置がねじ曲げられることも有り得ません。学歴不問の求人に対しては、労働者は会社に真実を告げる義務は負わない、と考えられます。

 ここには注意が必要です。意外なことですが、懲戒解雇理由を堂々と言い渡せない会社ほど、過去のささいな非行や学歴詐称を理由にしてくるものです。採用時に学歴不問であったのに懲戒解雇理由に学歴の詐称を持ち出してきたら、当該学歴の詐称が配置にどのような影響を与えたのか、食い下がって質問していきます。

高学歴をより低い学歴だと偽ることも学歴詐称となる

 「労働力の適正配置を誤らせてしまったか否か」という視点で考えると、高学歴(例えば大学院卒)を、真実より低い学歴(普通の大学卒業程度)だと申告した場合でも、その申告のために適正配置を誤らせた事実が生じたならば、懲戒解雇や懲戒処分の理由となってしまいます。

 前掲のスーパーバッグ事件の裁判例をもう一度参考にします。この事件では、中卒・高卒であることが採用条件である機械オペレーターの仕事に短大卒であることを偽って入社し、後日その事実が露見して懲戒免職となってしまった労働者が解雇無効を主張して争いました。しかし東京地裁は、短大卒の経歴詐称と、その他の主要職歴の詐称の事実を理由に、その懲戒解雇を有効と判断しました。

職歴

 過去の裁判例においては、重要な部分を占める職歴や、たった一つの職歴を偽る職歴詐称が、懲戒解雇を有効とする詐称だと判断されています。

 逆を言えば、重要でない職歴や、入社してすぐ退職してしまったような在職期間の極めて短い職歴を詐称した事実だけをもって懲戒解雇のような厳罰を科すことは、行った職歴詐称の程度に比して厳しすぎると判断されます。

 懲戒解雇は、企業の秩序を侵害した、もしくはしようとしている労働者に対してのみ有効に為し得る懲戒処分です。その程度の軽微な詐称では、労働力適正配置の誤りや採用戦略の崩壊等の企業秩序を乱れを発生させることも少ないからです。

犯罪歴

犯罪歴は、聞かれない以上申告する義務を負わない

 採用時に会社から犯罪歴を聞かれない限り、応募者は自ら犯罪歴を申告をする必要はありません。その場合会社は、後日労働者に犯罪歴があることが露見しても、犯罪歴詐称を理由に有効に懲戒解雇することは難しくなります。

 会社が採用時に応募者に犯罪歴の有無を質問することは違法な行為ではありません。会社には、応募者の中から己の希望に沿った者を自由に選択する自由があります。入社後会社生活になじめるか否かを判断するために、経歴や犯罪歴を聞いて採用の判断要素にすることは、よく行われることです。裁判例でも面接時の犯罪歴聴取は違法とはされていません。

 しかし、聞かれてない以上、自ら申告までする義務は労働者にない、ということです。隠した犯罪歴があったとしても、会社が有効に懲戒解雇をし得るのは、その犯罪歴が企業秩序を侵害したことが明らかな場合(例えば、特定の犯罪歴があることが、会社の顧客から信頼失墜の事態を招くような場合)だけです。

聞かれても答えなくて良い場合

 以下の場合には、応募者は会社から犯罪歴を聞かれても答える必要はありませんし、履歴書に書く必要もありません。

  • 裁判途中の場合(確定した有罪判決が出てない場合)
  • 逮捕・拘留されたが処分保留のまま釈放された場合
  • 起訴猶予で釈放された場合
  • 少年時、少年法における保護処分を受けた場合

確定された有罪判決が出た事件以外は、申告も記載も不要

 履歴書における賞罰欄(賞罰欄のない履歴書が多い)の「罰」とは、確定された有罪判決を指していると考えられています。裁判係争中の事件は「確定された有罪判決」が出てない状態なので、賞罰欄に記載する必要はありません。また、採用時における質問にも、今係争中の事件を答える必要はありません。

 「逮捕・拘留されたが処分保留のまま釈放された場合」「起訴猶予で釈放された場合」も、確定された有罪判決とはなっていないので、記載も申告も必要ありませんし、聞かれても答える必要はありません。

少年時代の非行歴も、申告・記載が不要

 少年時代の非行歴については、履歴書に記載する必要はないとされています。以下の裁判例を見てください。

「・・・少年法第1条に定める同法の目的、後記少年法第22条第2項、第61条の趣旨を加味しつつ考えると、社会通念上履歴書の賞罰欄に少年時代の非行歴まで記載すべき義務があるものと解することはできない。よって原告が被告会社の面接試験において非行歴を積極的に告知せず、あるいは原告が会社に提出した履歴書の賞罰欄にただこの事実の有無を記載しなかったからといって、労使間の信義則に反するものとは到底いい得ない」【福岡地裁判決昭和49年8月15日 西日本警備保障事件 】

 この事件における労働者は、少年時代に非行歴があり、少年法における保護処分を受けたことがありました。採用に際し労働者はこの事実を秘匿し、後日それが露見し懲戒解雇となったのです。

 裁判所は、少年法の第1条、第22条第2項(審判の非公開)、第61条(少年が特定できてしまうような記事等の掲載の禁止)の趣旨から、少年時代の非行歴まで履歴書に記載する義務はないと判断しました。少年法はこれらの規程を設けることで、非行歴が明るみになって少年が社会的不利益を受けてしまう事態を予防しているのに、一方で会社が、採用時に非行歴の有無を申告させることで過去の非行歴を蒸し返すことは、少年法のねらいに反する、と考えたのでしょう。