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ブラック企業との戦いで「百戦危うからず」を実現する5条件

労働組合の戦い方のイメージ図

ブラック企業との戦いで「百戦危うからず」(百回戦っても危険な状況になることはない)を実現するためには、どのようなことに留意すればいいのでしょうか?

「孫子の兵法」には、「百戦危うからず」を実現するためには、労働者自身が5つの条件を満たし、次に相手方が5つの条件を満たしているかを把握し、そのうえで実情を直視した必要な行動をすることが必要だ、と説いています。有名な「敵を知り己を知れば、百戦して危うからず」のくだりですね。

当ページでは、まずは5つの条件を説明して、その後、自身と相手方(会社)が5条件を満たしているかを判断する方法を説き、そのうえで実情に沿った判断をするための方法を説きます。

「孫子の兵法」における5条件も表現がやや大まかな傾向がありますが、それゆえに、理解さえ大きく間違わなければ各人の戦いに効果的に役立てることができます。当ページでは、その理解のための手助けをすることで、皆さんの「危険な状況になることがない」戦いを応援できたら・・・と考えています。

『孫子の兵法』が説く、勝利を予見しうる「5条件」とは?

 ブラック企業との戦いにおいて、労働者が勝利を予見しうる要素・状況とは一体どのような状態でしょうか?一般的に皆さんは、会社の法律違反行為を証明する証拠が手元にあること、もしくは、労働者自身に労働法の知識のあるかないか、などの条件を浮かべることと思います。

 しかしそれらは、細かいことだと言えます。もっと本質的な要素について『孫子の兵法』にて言及されていますので、ここで一緒に見てみましょう。

 『孫子の兵法』の謀攻篇では、勝利を予見しうる要素を、大きく5つ挙げています。その5つの要素とは、下の通りです。 ※浅野裕一訳・孫子・第31刷・講談社学術文庫・2009年4月・53p

  • 戦ってよい場合と戦ってはならない場合を分別している
  • 大兵力と小兵力それぞれの運用法に精通している
  • 上下の意思統一に成功している
  • 計略を仕組んでそれに気づかずにやってくる敵を待ち受ける
  • 将軍が有能で君主が余計な干渉をしない

 この5つ要素は、人が実際に刀を交え互いを殺しあう「戦争」について述べたものではありますが、ブラック企業との戦いにおいてもそのまま流用できるくらい、本質をついていると思います。

 この5つの要素を意識して、戦いの過程での行動指針とすれば、労働者にとって良い結果をもたらすでしょう。少なくとも、最悪のケースに至ることを防ぐことになるでしょう。

 古来も現代も、戦いの形式こそは違えども、勝利を予見しうる要素は同じなのですね。ブラック企業との戦いは、実際の戦争と違い、敗北しても命を奪われるまでには至らないのが普通なので、必要以上に自分を追い詰めたりせず、先人の偉大な教えを参照にしつつ勇気をもって戦ってもらいたいのです。

 以下で、この5つの要素を具体的にブラック企業との戦いの場面に当てはめつつ説明していきたいと思います。

労働者自身が「5条件」を満たしているかを判断するための方法

戦ってよい場合と戦ってはならない場合を分別している

 労働紛争において、戦ってはならない場合とはどういった場合でしょうか?それは、あなたの勝算が少ない場合です。当然と言えば当然ですが、多くの人は私怨や希望的観測に動かされ、勝算が少ないにもかかわらず戦いに身を投じてしまいます。

 「孫子の兵法」においては、「算多きは勝ち、算少なきは敗る」と言って言及しています(勝算の多い少ないを推し量る基準として、孫武は、「五事七計」の基準を示しています)。

 勝算を推し量る「五事七計」については 「五事七計」を用いてブラック企業と戦う時の勝算を測る方法 で解説するとして、ここでは勝算が少ないと思われる状況を、具体的に挙げてみましょう。

  • 労働者同士が団結しておらず、個々の労働者が互いに憎しみあい、ののしりあっている場合。
  • 労働者の経済状況が窮地に追い込まれている場合。生活費に充てるための貯蓄や副収入が全くない場合。
  • 家族の同意が得られない場合。
  • ブラック企業の違法な行為を追及しうるための証拠・資料が労働者の手元に無く、これからも採取できる見込みが無い場合。

 これらの状況が一つでもあなたの戦いに該当する場合、勝つか負けるかの大きなギャンブル的な性質を帯びることになります。そして上に挙げた状況が複数該当することによって、確実にあなたの戦いは敗北の色彩を強めます。

 このような状況では、やむを得ない場合以外の除いては、戦いに踏み切るべきではありません。あなたの未来のために、開戦を踏みとどまるべきでしょう。それも立派な勇気と言えます。労働基準法違反・職場いじめで自分に負けないための考え方集 の あえて戦わなくても、悪徳経営者は天に裁かれる のページでは、不利な戦いを避けることのメリットについて詳しく触れています。是非一度読んでください。

 上の状況がある場合でも戦いに踏み切らなければならない場合は、戦いながらでもいいので、該当する状況を除去する努力をし続けるべきです。

大兵力と小兵力それぞれの運用法に精通している

 大軍と小勢の運用方法に精通・・・と聞くとあまり関係のないような要素だと思われがちですね。ブラック企業との戦いでは、軍を動かし攻め立てるものではない、と。しかしこの要素も、下の説明を参考にし、あなたの事例にあてはめて考えてみましょう。

小勢の場合の軍の運用方法

 戦争において兵数の優越は大きな位置を占めます。クラウゼヴィッツは兵数の優越について「これは、戦術上でも戦略上でも勝利のもっとも一般的な原則である」【淡徳三郎訳・戦争論(徳間書店)】と述べています。

 なぜ、小勢でも十分に戦うことが可能だと言えるのか?確かに労使の戦いの場でも、数の力は勝敗に大きな影響を与えます。しかしそれは、労働者が孤立するか否か・・・という点において主に影響を与えるものです。実際の戦闘のように、戦いの中で最も重要な要素、とまでは言えません。小勢であっても、押さえるべき点(団結による孤立化の防止・証拠等の確保など)をしっかり押さえておけば、十分に力の強い会社と勝敗をわかつことができます。

 なぜなら実際の戦争は、一定のルールのほぼ及ばない状況で暴力とだまし討ち(詭道)の元に時間が過ぎていくのに対し、労働紛争は日本国憲法・労働法制などの一定の強制力ある決め事の上に戦いが行われるからです。経済的基盤の弱い労働者は、すでに法の下に一定の保護がされています。

 小勢であるなら、小勢であるがゆえの弱点を補うこと・・それが小勢ゆえの軍の運用方法・戦い方となります。小勢であるなら、労働者の孤立化を防ぐことに最大の注意を注ぎます。また、小勢であるがゆえに当事者の言い分・主張が目立ちにくいため、それを積極的にアピールして周りに知らしめていく必要があります。

大軍の場合の軍の運用方法

 労働者側が大軍である場合・・・労働組合等がしっかり機能している場合、または外部労働組合の存在感を存分に会社に思い知らせている場合・・・は、その圧力を背景に、ストライキなどの過激な行動に出る前に、話し合いで事態を収めることを目指します。

 圧力を背景に話し合いで未然に不当な行為を抑止することは、小勢ではなかなか望めない戦法です。大軍をもって戦う時(団結して戦う時)は、必ず一度は挑戦すべき戦法です。

大軍(労働組合)をもってしての戦い方のイメージ図
数を活かし、包囲と退路を残すことによる早期解決を

 団結している場合は、無理に直接的な行動(ストライキなどの団体行動)に出ずとも、圧力をかけながら揺さぶる(交渉する・要求を通告する等)だけで、こちらの主張が叶うことも多いのです。そのことを踏まえ、道に外れたる行動(違法行為)だけは決して起こさぬことです。こちらに労働闘争上の違法行為がある場合、最悪労働組合法の保護を受けることができす、窮地に陥ることがあるからです。

 あと、人数が多ければ多いほど、団結する時の結束力は弱まります。弱まった中から、離反者・内通者などが出てきます。中国古代兵法の『六韜(りくとう)』の第二巻・武韜では、「人数が多ければ多いほど統率が困難になるので、その大衆が多いことを利用して団結をくずし・・」【林富士馬訳・六韜 (中公文庫)】と述べて、大軍の弱点を説いています。

 労働組合闘争については、労働組合・ユニオンを活用してブラック企業と戦う! のカテゴリーを参照にしてみてください。

上下の意思統一に成功している

 「上下の心」を、「労働者とその家族の心」と置き換えてみてはどうでしょうか?

 労働紛争時に戦う労働者の力に最後までなってくれるのは、間違いなく労働者の家族です。また、紛争による収入の減少・情緒不安定に直接影響を受けるのも労働者の家族です。決して労働者の横で話を聞いているだけの同僚ではありません。

 無関心で愚痴を言い合うことしか興味のない同僚や、我が身第一の上司の心に気を使っている時間があるならば、あなたの家族ともっと時間をとって話し合うべきでしょう。

 不当な行為を前に、自己の正義感を曲げることができす戦おうとしているあなたです。そんな素敵なあなたが、真剣に心を込めて話し合った結果に出た家族の結論だけが、その紛争の乗り切り方を決めることができるのです。同僚や上司の嘲笑や無責任な意見など、一体どうしてあなたの戦いの結果を左右するだろうか?

 その戦いを乗り切るために家族が一致団結した場合、その力は経済的はもちろん、精神的に大きな支えとなるはずです。

計略を仕組んでそれに気づかずにやってくる敵を待ち受ける

 一戦を交える前に周到に準備・手回しをし、開戦の後の過程において常に主導権を握り、決戦の場所を決めてしまい、その場で長距離行軍してきて疲労しきった敵を迎え撃つ・・・これは『孫子の兵法』以外の著名な兵法でも述べられる定番の教えです。

 ブラック企業との戦いにおいても、常に相手の先を行くために、戦う意思は隠しておきます。自分を目立たぬ状況に置き、したたかに責任追及のための証拠を集め、または仲間を集めます。

 そして十分に会社を追及すべき材料がそろった段階で宣戦布告をし、法で我が身を守りつつ戦いの日々を送るのです。

 なぜ、自ら勝利を逃すようなこと(準備もできてない状態から戦う意思を発表し、会社に警戒する時間を与える)をするのか?多くの場合、労働紛争においては会社側の方が強大で優勢です。不意打ちは労働者に与えられた最後の特権です。その権利すらも放棄することはありません。

 多くの場合、相手もだましやごり押しをしてくるものです。こちらが詭道(だましあい)を嫌がっていたら、それだけで形勢は不利となるでしょう。きれいで美しい戦いにこだわり、奇襲や偽りを潔しとしないならば、今一度 不当な会社との労働紛争は、ルールなき理不尽な戦いとなりがちである を読んでください。戦いに理想や美学を求める者は、多くの場合戦いの持つ現実的な汚さに打ちのめされることになるでしょう。

将軍が有能で君主が余計な干渉をしない

 勝利をもたらす最後の要素についてです。『孫子の兵法』では、戦場の責任者たる将軍に干渉しないことの重要性を、「将とは国の輔(たすけ)なり」の段落で説明しています。

 戦場において戦闘の素人たる君主が、戦闘の専門家たる将軍の行動をあれこれ干渉し縛ることは、軍の指揮命令系統を混乱させ、勝利を遠ざける結果となる、と孫武は戒めているのです。

 労働紛争においては、場合により専門家の力を借りることもあるでしょう。その場合において、なまじかじった知識で専門家の行動を疑い、能力を疑うことは、多くの場合無駄な時間を過ごすことになります。

 専門家の持っている知識と、急な勉強で身に着けた労働者の知識では、深さと応用力において大きな差があるのは当たり前なのです。素人の持っている知識は、表面的な知識しかないですが、専門家の持っている知識には、法の精神やエッセンスが流れているので、相手の言いがかりや詭弁に対応する応用力があります。

 一度専門家に依頼した場合は、彼らとの信頼関係を築くことに重点を置き、過度の干渉をしないようにします。もちろん、意思決定まで専門家にゆだねることはありません。

 この要素については、労働紛争解決の専門家に依頼する時の心構えと注意点 でも触れたいと思います。

相手方(会社側)が「5条件」を満たしているかを判断するための方法

 会社は、経済的にも人的にも、労働者より有利であることは疑いありません。また、労働者に不当な行為が行われた、ということは、会社側はすでに労働者への攻撃の準備を済ませ、かつ実行している段階に至っているのです。

 その点を踏まえ、労働者の皆さんは会社側が5条件を満たしているのかを検討する必要があります。以下で、各条件ごとに、満たしているかどうか判断するためのポイントを説明したいと思います。

会社側は、戦ってよい場合と戦ってはならない場合をわきまえているか

 ここでは、会社側の立場にたって五事七計を検討していきます。五事七計の詳しい内容は、「五事七計」を用いてブラック企業と戦う時の勝算を測る方法 で説明します。

 会社側の事情など、私たち労働者にはわからないことだらけのはずです。でもそれが普通であり、それを承知のうえで検討します。あなたが確認しうる情報をもとに、分析をしていきます。わからない場合は、あなたにとって不利な方で判断してください。あなたにとって都合のいい方向で判断すると、それが思わぬ被害をもたらす可能性があるからです。

 常に最悪の事態を想定して行動することこそが、「百戦危うからず」を実現するために最も重要なことなのです。

会社側は、大軍と小勢の場合の軍の運用方法に精通しているか

 会社に属する従業員は、おおよそ会社側の言いなりになって行動します。従業員各人の会社に対する忠誠の度合いは、ほとんど関係ありません。彼らは己の生活を守るために、例え会社の行為が不当なものであっても、会社側に従うのです。

 その傾向を会社がしっかり利用しているか?それが重要なのです。従業員という人的資源を使ってあなたを追い詰めているか?その点を分析してみましょう。

 同僚らは以前と同じように、あなたに話しかけてきてくれていますか?上司はあなたに対し、以前と変わらぬ評価をしてくれていますか?あなたは突然、部署を変更させられていませんか?その場所での上司の対応はどんなものでしょうか?

 同僚や上司らの対応が冷ややかになったならば、会社は多勢を利用して追い詰める術を知っていることになります。

会社側は、上下の人が心と力を合わせているか

 不当な行為に対抗する過程であなたに直接接する人間の言動をもとに判断します。彼ら彼女らは、あなたに対し、申し訳なさそうに接していますか?それともあなたに対し、軽蔑や敵意を示して接していますか?当然、あなたの周りの同僚らの言動・会社と顧問契約を結んでいる専門家らの言いぶりも、判断材料にします。

 彼ら彼女らが、あなたに対し、会社の不当な行為を代行するうえで申し訳なさそうな気持ちを示しているならば、必ずしも「上下の心と力が合わせている」とは言えません。しかしそうでない場合(彼ら彼女らが会社にわだかまりもなく従い、むしろ攻撃してくる場合)は、悪い意味で、上下の心と力が一致しています。

 上司はまだしも、同僚まで会社側の行為を容認しているならば、あなたにとっての戦いの展望は、大変厳しいものとなります。

会社側は、事前に周到に準備して、準備の至らぬこちらを待ちかまえ迎え撃っているか

 会社側があなたに通達してきた内容を検討します。

 明らかな労働基準法違反である場合(有給休暇を認めない・賃金を支払わない等)は、会社側の行為は思いつきで行われた無計画なものである可能性があります。逆に、労働基準法違反であるか微妙である場合(労働条件の変更・配置転換等)、もしくは裁判に持ち込んで勝利の判決を得ないと救済されないような行為である場合(不当解雇等)は、周到な準備と狡猾な思惑でなされた行為であると判断できます。

会社側の紛争担当の責任者が有能で、かつ会社側トップが担当者に干渉してないか

担当者がトップであったり、一族関係者である場合

 まずは紛争担当者の肩書や続柄を見ましょう。一族経営会社の場合、その方は一族関係者ですか?ひょっとしたら、社長自らが紛争担当者になっている場合もありますね。このような場合、彼らの権限は無限であり、彼ら彼女らの思惑いかんで、あなたに対する行為の帰趨が決することになります。

 よって観察の対象は、この方たちに絞って問題ありません。この方たちのあなたに対する言動をもって、法の知識と、法を守る意識の高低・道徳観を判断します。このケースにおいてはほとんどの場合、彼ら彼女らの法の知識は欠如し、法を守る意識は極めて低く、あなたに対する配慮も欠けているものです。

雇われ担当者の場合

 雇われ担当者の場合、彼ら彼女らの権限は限定されています。あなたはこの方たちの交渉での言動をもって、有能さ・トップからの干渉の度合いを判断します。

 聞く耳を持たない場合、トップからの干渉の度合いは激しく、かつ、この方らの紛争処理能力は低いと判断します。問題が彼ら彼女らの手元にあるうちに、証拠を採取するなどの対策を考えます。聞く耳を持っている場合は、一定の紛争処理能力(両者がとりあえず納得できるような打開策を提示できる能力等)を持っている可能性もあるので、そこを利用してこちらにとって最悪の事態を招く展開を防ぐための働きかけをします。

専門家が担当者の場合

 専門家として考えられるのは、弁護士・社会保険労務士です。彼らの労働法に対する知識は当然高レベルで、グレーゾーンすらも熟知しています。顧問契約を結んでいる以上、会社側にとって不利になるような意思決定は行わず、その点で忠実といえます。

 しかし独立性も持っており、干渉の度合いは意外と低いものです。労働者が受けた行為が明らかに違法である場合は、労働者が法の根拠を示して交渉した場合、会社側トップに穏便策をもちかける可能性もあります。

敵(ブラック企業)を知り、己(労働者自身)を知ったうえで「百戦危うからず」に導くための行動方法とは?

出た結果に厳格に従い、己の希望的観測を入れる余地を与えない

 ブラック企業に対する報復の気持ちから、あなたは戦いを望む気持ちが高まっているかもしれません。しかし、出た結果には私心をまじえず従うべきです。

 個人的な感情を優先させると、「きっと相手は~だろう」「~までしてくることはあるまい」と、出た結果を己にとって都合のいいように解釈し、相手方の行動を軽視しがちとなります。それは大変危険な傾向なのです。

 ブラック企業があなたに今までどのような仕打ちを行ってきたが思い出してください。これから先、あなたにとって都合のいい行動を彼らが採ってくれることなど、決してないのです。そうであるならば、あなたが戦いたいと思うまで至らないでしょう。

 常にブラック企業は、あなたにとって最も苛酷な仕打ちをしてくるのです。あなたは常に、彼らの行動で最も過酷な仕打ちを予想して今後の意思決定の参考にすべきなのです。

各要素を満たしている度合いが相手方に比べて勝っているかが重要なのではない

 己と相手が5条件のどの条件を満たし、どの条件を満たしていないかを整理しましょう。相手方がある条件を満たしているかわからない場合は、「わからない要素」として把握しておきましょう。

 満たしている条件が多いから相手に勝てる、というような単純なものではないのです。あなたの戦いのケースによって、最低限満たしておきたい要素は、当然異なってきます。

「戦ってよい場合と戦ってはならない場合をわきまえている」の要素は、どのような戦いにおいても必ず満たしておくこと

 労働者にとって特に重要な要素とは、「戦ってよい場合と戦ってはならない場合をわきまえている」であります。この要素を満たしてないということは、ブラック企業との無謀で不毛な戦いに臨んでしまう危険があるからです。

 勝算のない戦いで負ける、ということは、「惨敗」を意味します。企業に比べ資産の限られた労働者が、ブラック企業との戦いで時間を浪費した挙句に敗北し職を失ったならば、深刻な経済的打撃を受けることは間違いありません。再戦の可能性は当然に断たれます。

 調停や裁判において望んだ結果を得られなくとも、経済的な見通しが立っていれば、その時点からすぐに態勢を立て直すことができます。しかし経済的な見通しも立てず、希望的な観測だけで戦いに挑んだ場合は、敗北を悟った時「生活費を支払えない」「ローンの返済が滞ってしまった」「貯金が底をついてしまった」等の、最も過酷な現実が労働者を襲うことになります。

 労働者は必ず、戦ってはならない場合(勝算の無い場合・・特に経済的な見通しの立たない場合)に戦いをしてはならないのです。どれだけ悔しくとも、この場合には、最小限の被害にとどめるための撤退戦に徹するべきなのです。

家庭を持っている労働者は、「上官と部下など、上下の人が力と心を合わせている」の要素も満たしておくこと

 ブラック企業と戦うことについて家族の理解を得られていないと、わずかな経済的アクシデントによってでも、家族(特に配偶者)の不満が高まってしまいます。

 家族の生活水準を守るための戦いでなく、労働者自身の傷つけられた尊厳を回復させるための戦いでは、なおのこと家族の理解は必要です。

 言い換えれば、経済的な見通しを立てる作業は、家族の理解を得るためのワンステップでもあるのです。あなたは、戦いに踏み切る前に必ず経済的な見通しを立て、それを視覚化して家族に説明をし、確固たる支持を得るべきなのです。