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できる限り「敵を知り」、ブラック企業に負けない態勢を作る

『「敵の現状を知るということは、霧の中で姿を探るようなもの」を表すイメージ図』

敵(ブラック企業)の現状に関する情報は、戦いの計画立案と戦いの結果に大きな影響を与えます。よって敵の情報は事前にできるだけ多く入手しなければなりません。

しかし相手も現状を簡単には把握させません。戦いにおいては、戦う相手に己の現状は極力さらしたくない、という心理が働くからです。ブラック企業のような狡猾な集団であれば、当然に他に対しては己の現状を見せることはしないでしょう。

では私たち労働者は、どのようにこの狡猾な敵の現状を知るべきでしょうか?

方法としては、(1)すべてを完璧に知ることはできないとあきらめ、(2)知っておくべき内容について事前にしっかりと把握しておき、最後に(3)それらをリスト化して分かる項目から現状を推測しリストを埋めていく、という三段階の作業をしてきます。

このページで詳しく説明していきましょう。

敵(ブラック企業)のすべてを知ることはできないと割り切ろう

 このページの題名(・・できる限り「敵を知り」・・・)にもある通り、労働者は敵(ブラック企業)のすべてを知ることはなかなかできません。それは、宣戦布告をする前に敵を精密に調査していたとしても同じことです。

 一般的に会社というものは、労働者に対し現状をさらけ出すことを嫌います。違法行為などのやましいことをしているブラック企業であれば、当然より多くの隠し事をしたがるものです。

 古来より、戦いの場では、相手の思惑や現状など、半分も分かれば上出来だと言われています。かのクラウゼヴィッツも、「戦場の霧」という言葉を用いて、敵の現状の把握の難しさを指摘しています。

『「敵の現状を知るということは、霧の中で姿を探るようなもの」を表すイメージ図』

 ですから、「敵を知る」作業においては、まず「すべてを知ることはできない」と割り切る作業から始めることになります。

 そのうえでやっと、敵を知るための具体的な予備知識と、具体的な調査行動に入ります。後述のリストにおいても、まずは半分を埋めることを目標にして動き始めます。

敵(ブラック企業)について知っておきたい内容を「リストアップ」しよう

 現実の「己を知り」、ブラック企業との戦いの準備を始める では、「自分」自身について知っておくのが望ましい内容を述べました。このページでは、労働紛争のもう一方の当事者たる、「相手(会社・経営者等)」について知っておくと望ましい内容を説明していきます。

 相手を知ることは、自分を知ることことよりも、より一層難しいのではないか?自分さえ知っておれば、いいのではないか?という考えも湧いてくるでしょう。しかし、相手を知ることで、無謀な計画を立てる危険が減る等の利益が生まれてくるのです。

 相手のついて知っておきたい内容には、以下の事項が挙げられるでしょう。

  • 経営者の性質
  • 相手が自己の主張を押し通す拠り所となる合理的な理由・客観的事実・資料等を持っているか
  • 専門家の考え方

 しかしこの3つを分析するだけでは、敵を知る作業としては大雑把すぎるとも言えます。よって 「五事七計」を用いてブラック企業と戦う時の勝算を測る方法 のページで相手方の戦力を分析する場合に用いる項目を参照にして「知るべき項目」をリストアップします。

  • 労働紛争をすることについてどちらが血縁者・親近者・従業員の同意・支持を得ているか
  • 紛争当事者はどちらが紛争を戦う意欲が強いか
  • 戦う時期と戦う場所は、どちらの当事者に有利か
  • 紛争当事者のどちらが平素より厳正で、信頼を確保しているか
  • 紛争当事者の戦うための力(資料・知識・経済力)はどちらが上か
  • 紛争当事者には、どちらに専門家の有無・労働組合・同僚の団結などの人的有利さがあるか
  • 紛争当事者のどちらが、周囲の人間に対する公平・誠実な態度・評価をもって接しているか

   矢印のイメージイラスト

  • 会社のトップは、今回の紛争の原因たる行為について、会社トップの血縁者・会社幹部・管理監督者・同僚の同意・支持を得られているか?
  • 会社のトップの性格と、労働紛争を戦う意欲は?
  • 会社のトップは、戦う時期と戦う場所を有利に利用しうるか?
  • 会社のトップは、平素より己(トップ)自身に厳正さを課すことによってつちかわれる人間的な信頼性を、周囲の人間から得ているか?
  • 会社のトップは、公平・誠実な態度・評価をもって周囲の人間に接しているか?
  • 会社のトップの労働紛争を戦うための力(資料・知識・経済力)は?
  • 会社のトップは、人的有利さを持っているか?

 「七計」をもとにしたリストアップ化は、現実の「己を知り」、ブラック企業との戦いの準備を始める でも行ったことは先ほど触れました。しかし「敵」については、「己」ほど、細かいところまで把握はできません。よって、無理なく知ることができる範囲内で妥協し、もし知り得たらその都度リストに書き加えていく、というスタンスで知る作業に臨みます。

 リストでは、相手方の紛争当事者を仮に「会社のトップ(要は社長)」としています。紛争における最高意思決定者・責任者を知るべき対象としています。もしあなたの事例で担い手がトップ経営者でなかったら、その都度変更しておいてください。

 知るべき内容は相手の懐の中にあるのが常であるため、知るには多くの困難が伴います。しかし地道に研究すれば、大まかな内容は見えてきます。リストアップ作業を終えたら、次はそのリストを埋めていく作業へと移ります。以下で、「敵」の現状を知るための方法と注意点を説明していきましょう。

各項目についてより詳しく知るための方法と注意点

会社のトップは、今回の紛争の原因たる行為について、会社トップの血縁者・会社幹部・管理監督者・同僚の同意・支持を得られているか?

 労働紛争に対するトップ以外の者らの反応をそれぞれ調べ分析することで、行為に対して支持しているか否かを推測することができます。まずはあなたが調べやすい対象から始めていきましょう。

 会社トップの行為を支持してない者がいるならば、彼らのこちらに対する同情心を突破口とすることもできます。

 例えば休職・解雇等で会社に出勤できない場合に社内の情報を知るには、社内に支持者がいることは大きなメリットとなります。私の経験の中に、こちらに同情的だった同僚らの協力をもって連絡を密に取り合い社内の情報を収集し、外部労働組合による団体交渉の交渉事項を有意義なものにすることができた事例があります。

 社内に不当な行為を支持していない人物が複数存在しているならば、「復職」を前提にした戦いのプランも立てることができます。不当な行為にがん首をそろえて心服しているような人間ばかりの職場であれば、復職の価値すら感じないでしょう。

同僚

 まずはあなたの同僚らの反応を調べましょう。同僚らは、あなたに対する不当な行いをどのように感じているでしょうか?親しい同僚には直接尋ねましょう。

 それほど親しくない同僚らの反応は、他の人を介して調べるとよいでしょう。日頃より親しくない同僚に紛争に関わる考えを直接尋ねても、本音を聞き出すことはできないからです。

 もっとも、親しくもない同僚の反応は、それほど気にすることはありません。あなたが不当解雇をはねのけ復職した場合や、上司から嫌がらせを受けた場合に、親しい同僚の支持と協力こそが最も重要だからです。親しくもない同僚らが会社トップにこびへつらいあなたに攻撃をしてきても、あなたが毅然とした態度で臨むならば、そのような輩は、ほぼおとなしくなるでしょう。

会社幹部・管理監督者

 会社幹部とは、会社トップの下で、会社の重要事項を決定する権限を持っている人を指します。管理監督者とは、会社トップのもとで、従業員を管理する立場の人を指します。この定義は私が勝手にしたものであり、深い意味はさほどありません。会社幹部は、専務・常務・部長あたりでしょうか。管理監督者は課長・係長・現場主任あたりだと思っておいてください。

 幹部らの考えは、不当な行為に関する、あなたとの面談の場における態度で推測することができます。

 幹部らが会社トップの行いを支持しているならば、あなたに対する態度は高圧的で傲慢なものとなります。あなたに対する辞令や伝達事項を読む態度も実に機械的で、有無を言わせぬ冷酷さを漂わせます。あなたがそこで口答えをするならば、高い確率で「そうしたければしてもらって結構です」「これは決まったことですので」等の突き放したような言葉を淡々と投げかけてくるでしょう。

 逆に、会社トップの行いに心では支持していない場合は、幹部らは話し合いの中であなたに対する同情的な態度を見せることでしょう。申し訳なさそうに「・・・もう決まったことであり、変えることはできない」「力が至らぬばかりに、申し訳ないが・・」と切り出してくるならば、心の奥底では支持してない可能性が考えられます。

 私の経験を話しましょう。私が直属上司にパワハラの苦情を言ったことで会社トップから突然の配置転換命令を受けたケースです。問題の直属上司とその直上の部長は、目を座らせ薄ら笑いを浮かべながら「訴えもいいよ、できるならね」と言いました。この二人は、心からトップの不当な行為を支持していたのでしょう。私の以前の上司は、面談後のミーティングにて、今後の手続きを私に伝えながら、「・・・申し訳ないが、助けることはできない」としんみりと言いました。彼は、表面上は服従でも、行為自体は支持していなかったと推測できます。

会社トップの血縁者

 会社トップの血縁者が社内で影響力を持っている場合は、分析する価値があります。血縁者が社内にて、総務・人事関連の要職に就いている場合などがその例です。中小・零細企業にて多い例でしょう。

 血縁者らはほとんどの場合、会社トップの不当な行為を支持しています。よってこの者たちが紛争における突破口となる可能性は極めて低いと考えられます。日頃は穏やかであっても、紛争と同時に態度を硬化させる血縁者を、たくさん見てきました。

会社のトップの性格と、労働紛争を戦う意欲は?

 ここでは、会社トップの性格と戦う意欲を調べていきます。付随して、労働紛争の意思決定・方針決定に影響力を与えるであろう人事担当者や専門家(経営コンサルタント・顧問弁護士・顧問社会保険労務士など)らの性格を調べます。

 性格をありのままに知る必要はありません。あくまで、戦うことについてどのような反応をする性格か?を知ることができればいいのです。そうすれば、おのずと労働紛争に対する戦う意欲の程度も見えてくるでしょう。

会社のトップの性格のを知ることの必要性と知る方法

 知っておきたい内容の中で、最も重要な事項だと言えます。権利を主張した労働者に対する経営者らの接し方は、彼らの性質によって大きな差を生みます。そしてその差が、紛争の過程と結果に大きな影響を与えるのです。

 ここでの「性質」とは、どんな意味であり、どんな内容でしょうか?

 それは、労働者が反発し立ち上がった時に、どのような反応を示すのか?ということに言い換えてもいいでしょう。怒り狂ってねじ伏せてくるような性質か、冷静だけど合理的な手段で圧殺してくるような性質か、それとも話し合いに応じてくるような譲歩的な性質か・・・。対応に基づいた分類によると、性質の種類はたくさんあります。

 人の内面を完全に知ることはほぼ不可能だと言えます。しかし全部知ることはできなくても、おおよその傾向を知ることはできます。それは過去にその職場で起きた紛争に学ぶことで可能です。

 過去の紛争において、経営者はどのような対応をしたか?そして結果はどうなったか?周りの同僚らはどのような対応をしたか?について、当時の様子を知る人間に質問します。気を付けなければならないのは、彼らは表では従順だが、陰では経営者側に反抗的だということです。彼らの話の内容は、事実をおおげさにして批判的になっているのが一般的です。話の内容を吟味し、客観的な判断に基づいて経営者の性質を判断します。

 経営者らの性質を知ることによって、採るべき紛争解決の道筋をある程度取捨選択できるようになります。例えば、「徹底抗戦主義」の経営者に対して、穏やかに「話し合い」を基本路線として対処していたのでは、遅かれ早かれ容赦ない仕打ちで大きな不利益を被ることになります。

 経営者らの性質を知ることは、中間目標や具体策立案の判断材料となり得ます。そして時に、自分を知ることと併せて、最終目標の設定にも変更を加えることになるかもしれません。

「知るべき相手」とは、労働紛争の意思決定に影響を与えるすべての人物である

 知るべき相手とは会社のトップだけにとどまりません。会社トップのもとで労働者を管理する人事担当者・経営者に労務管理を指導する経営コンサルタント・法律顧問たる弁護士・社会保険労務士などが含まれます。

 特にコンサルタントや法律顧問の考え方は、紛争時の経営者の対応に大きな影響を与えます。コンサルタントらが話し合い・譲歩を勧めず、過去の裁判例や労務管理のトレンドに基づいて労働者に対して厳格な対応ををするように勧めたら、例え会社トップが穏健主義であったとしても対応に大きな変化が出てきてしまいます。

 コンサルタントや法律顧問らの性質を知るのは、会社のトップや紛争処理を仕事とする従業員の性質を知るよりも難しいものです。そもそも「この会社にはどこのコンサルタント事務所のコンサルタントが顧問をしているのか」という疑問すら分からないでしょう。

 その場合も、その会社での過去の労働紛争の経緯を見るとある程度分かるかもしれません。その紛争において、一見合理的かつ難解な理屈を伴いながら労働者が圧殺されていた場合、背後に好戦的なコンサルタントらが暗躍していた可能性があります。

会社のトップは、戦う時期と戦う場所を有利に利用しうるか?

「戦う時期」が会社側に大きな影響を与えることは少ない

 会社側の経済力は労働者の比ではありません。よって会社側は一年中労働紛争を仕掛けることが可能であり、時期的な影響もほとんど受けません。

 経営状態に関する時期としてはどうでしょうか?会社にも「紛争に適さない時期」というものは存在します。それは「繁忙期」と「経営危機の時期」です。業務が忙しくなる時期は、経営者にも多くの「すべきこと」が生じるため、この時期に業務に関係ない雑事は増やしたくないと潜在的に考えています。

 私たち労働者は、相手が嫌がる時期だからということで、この時期に戦いを仕掛けるべきでしょうか?経験からいって、私たちは会社側の嫌がる時期をわざわざ選んでまで戦いを仕掛けることはないと思います。そのようなことをしても、労働者側が有利なることは少ないからです。

 「繁忙期」と「経営危機の時期」に戦いを仕掛けられても、会社側はしかるべき対応をしっかりと行ってきます。よって、「戦う時期」の分析は、会社側の分析に関しては、それほど気を付ける必要はないでしょう。

戦う場所

 場所の有利さを活かしているかどうかは、しっかりと把握しておく必要があります。

 会社の経営者ともなれば、その地方では経済的に裕福なグループに属し、それがゆえに地方の意思決定の場においてそれなりの影響力を持っている可能性があります。それは人間関係が濃密な「田舎」であればあるほど、無視できない要素となります。

 会社のトップが、地方の意思決定に影響力を持ち、かつ、そのことを労働紛争においても活かしてくるならば(脅迫や村八分などをしてくる等)、戦う場所を最大限に有効に利用していると分析できるでしょう。

会社のトップは、平素より己(トップ)自身に厳正さを課すことによってつちかわれる人間的な信頼性を、周囲の人間から得ているか?

 立場におぼれ、従業員や出入りする業者に対して高圧的な態度をとり、その一方で己に対して甘い会社のトップは、周囲の人間から表面上でこそ持ち上げられているが、裏では信頼されていないものです。

 周囲の人間からの信頼は、己が己自身に一番厳しく接することによって自ずと得られるものです。己自身に甘い人間など、周りを見渡せばいくらでもいるため、会社のトップという立場に居ようとも取り立てて信頼されることなどはないでしょう。

 ある例を話しましょう。従業員の人件費を日常から異常に気にしているのに、会社の雑費で己のペットの飼育代と飼育環境維持代を際限なく浪費していた経営者がいました。従業員は表面上は何も言わなかったのですが、その会社では従業員が辞めるたびに、従業員からの捨て身の権利主張によって業務が停滞していたのです。合同労組(外部労働組合)が活動するにあたって、日頃より不満を抱えた従業員らによって、社内の情報(労務管理上どこに違法性があるか)が合同労組に筒抜けになっていて、手厳しく的を得た団体交渉にさらされていたからです。

 あなたの戦う相手が信頼性を得ていないならば、社内に複数の協力者を持つことが期待できるでしょう。それは、一従業員のみならず、管理監督者らの中からも得られるかもしれません。あなたが日頃よりお世話になっていて、かつ親交のある上司がいるならば、一度相談してみるものいいでしょう。

 会社のトップの己に対する厳格さは、幹部らの愚痴、従業員らの噂話から、糸口がつかめます。

会社のトップは、公平・誠実な態度・評価をもって周囲の人間に接しているか?

 この項では、会社のトップの対人公平性について分析してみましょう。この項目を測ることによって得られる情報は、「会社トップは周囲の人間に信頼されているか?」です。「会社のトップは、平素より己(トップ)自身に厳正さを課すことによってつちかわれる人間的な信頼性を、周囲の人間から得ているか?」と同じですね。

 会社のトップという立場に甘んじ、思いやりに欠けた言葉を平然と投げかけ、頭ごなしに罵倒ばかりし、何のためらいもなく労働法違反を犯して会社の利益を優先する経営者がたくさんいます。

 そのような経営者は当然に嫌われ、忠誠心も得られず、信頼もされません。しかし会社のトップという優位な立場が災いして、誰も暴走を止められないのです。

 ※「社員に優しい経営者に会社など守ることはできない」という考え方も最近は見られますが、今私たちは眼前の労働法違反と戦っているのであり、「経営者たる者の資質」についての意見など私たちにはどうでもいいのです。

 傲慢で法遵守意識の低い会社トップであれば、立場上彼の近くにいる人間(会社幹部・中間管理職など)であっても、私たちの戦いに理解を示してくれる可能性が出てきます。戦い以後も会社にとどまりたい労働者にとっては、理解を示してくれる人間は、一人でも多い方がいいのです。

 従業員に対する人事評価の公平性を知るにも、複数の従業員からの聞き取りが有効です。「~さんのグループにだけは何も注意しない」というような、人によって接する態度を変えることについての不満が職場内に存在する場合は、詳しく聞き取りをしてみましょう。

会社のトップの労働紛争を戦うための力(資料・知識・経済力)は?

相手が自己の主張を押し通す拠り所となる合理的な理由・客観的事実・資料等を持っているか

 このことを知ることは、当該労働紛争の「解決までの時間」と「解決の困難さ」を推し量る材料を得ること意味します。

 相手にこちらの主張を拒否するような理由や過去の記録がある場合、紛争過程における話し合いの随所で、相手の譲歩や態度の軟化を引き出すことは難しいでしょう。下手をすれば、話し合いの場にすら出てこないかもしれません。

 また、労働者側に相手を追及するための資料や理由が無く、相手にはそれがある場合、その戦いの勝算は大変わずかなものとなるでしょう。その場合でも事前に勝算がないことを知ることで、無謀な労働紛争を回避することができるのです。

 相手がしかるべき理由や根拠・資料を持っているかは、相手からの通告の場や話し合いの場で根拠の提示を要求することによって知ることができます。質問をすればその理由を教えてくれるでしょう。紛争内容が、不当解雇や不当な配置転換・賃金の大幅カットなどの厳しいものである場合、労働者は相手に遠慮をしていてはいけません。雄弁である必要はありません。理由を提示してくれるまで、何度でも尋ねるべきです。

 はっきりと根拠を提示できない場合、理由なき不利益行為だと考えられます。はっきりとした根拠を見せられも、それを必ず持ち帰り、専門家や自学でその根拠の合理性を判断します。

 一番マズいのは、相手の言われるがままに当該不当行為の理由を信じてしまうこと。少しでも不当だと感じた場合は、徒労に終わってもいいので相手の根拠を疑い、自分なりに調べてみることです。

知識

 会社のトップに知識がなくとも、その後ろにブレイン(助言者)がいるならば、知識があるのも同然となります。ブレインを抱えるトップは、裁判などの手間で複雑な手段でしか対抗できないような違反行為を、抜け目なく行ってきます。

 法的な知識に欠けているトップは、一般人向けに書かれた労働トラブル関係の実用書に書いてあるような典型的な法律違反を、堂々と悪びれることなく行ってきます。

 トップの法律知識は、このような行為の「巧妙性・悪質性」を参考にして判断するといいでしょう。

経済力

 労働者個人からの訴訟に対応するだけのお金を用意することは、会社のトップにとっては造作もないことです。訴訟にかかる費用は、雑費・特別損失として経費に計上して済んでしまうからです。

 会社のお金が使えなくとも、トップは訴訟を問題なく行うことができるでしょう。会社トップ自身の受け取る報酬は、労働者が受け取る賃金とはケタが一ケタ違うからです。

 会社に顧問契約を結んだ弁護士がいる場合は、顧問契約料の範囲内で済んでしまうこともあるでしょう。少なくとも、会社の運営に打撃を与えるような影響は、労働者個人からの訴訟程度では受けることはないでしょう。

会社のトップは、人的有利さを持っているか?

 労働者にとって人的有利さを得ることは、実に大変なことです。日常における同僚への言動が、ゆっくりと、時に一瞬に、労働者の周りに集う人間の数を決めてしまいます。

 その点会社のトップは、社における地位ゆえに、人的なアドバンテージを得やすい立場にあります。トップが少々不適切な言動をしても、立場の優位さから人的なアドバンテージを失うことはまずありません。

 労働紛争においてトップの味方になる可能性が考えられる人たちは、会社幹部・会社に逆らえない従業員・会社と顧問契約を結んでいる専門家が挙げられます。

会社幹部

 幹部がトップの不当な行為に積極的に加担しているような場合、幹部らはトップにとって有利な人材となるでしょう。

 トップの行いに右にならえの幹部は、会社に対して従順であるのがほとんどです。彼らの多くは社内においてある程度の決定権を持っていますが、トップに逆らうようなことは決してしません。

 幹部の直属の部署で、トップに逆らった労働者を、部署単位で追い詰めるような卑劣な行動もします。

会社に逆らうことができない従業員

 会社と戦う労働者にとって最も脅威となるのが、当該労働者の最も近くにいる「会社に逆らうことができない従業員」です。

 彼らは単なる従業員であるため、労務管理上なんの権限も持っていません。しかし戦う労働者が社内で接する時間が最も多いのが彼らであり、彼らがトップや幹部・専門家らの意向に沿って当該労働者を無視したりいじめたりするならば、ダイレクトで苛酷な精神的ダメージを労働者に与えることになります。

 会社のトップにとって最も重要な人材とは、じつは従業員なのです。彼らがトップの思惑に沿った攻撃を労働者に加えるならば、早い段階で労働者は精神的苦痛から会社を去る憂き目を味わうでしょう。逆に従業員が労働者の味方となるならば(水面下での連携でもいい)、トップは労働者を追い詰めて追い出すことが難しくなります。

会社と顧問契約をむすんでいる専門家

 顧問契約を結んでいる専門家(弁護士・社会保険労務士・税理士など)は、契約を結んでいる関係から、社の利益(会社トップが喜ぶ利益)を保護し伸ばすためのアドバイスをします。

 労働者と会社との間で労働紛争が発生したら、これらの専門家らは、当然に会社にとって最も有利な行いをしてきます。

 

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