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ブラック企業との戦いは「兵は詭道なり」そのもの。心せよ!

労働紛争の詭道性を示したイメージ図

労働紛争におけるブラック企業の行為には、思いやりや配慮、誠実さなどは存在しません。なぜか?彼らの心の中には「苦労せず己の願望を100%押し通したい」という身勝手な思惑しかないからです。

よって、ブラック企業は戦いにおいて、見え透いた嘘・脅迫・多勢を利用したグレーゾーンすれすれのイジメなどを多用して労働者を追い詰めてきます。まさに卑劣な行為のオンパレードとなるのです。「孫子の兵法」でいうところの「詭道」(ルール無用のだましあい)が繰り広げられるのですね。

「大の大人がまさかそこまで・・・」と思うかもれしれませんが、実際にブラック企業と戦った経験のある方は、必ずや上記の実態に賛同してくださるでしょう。

私たちはブラック企業が「詭道」を濫用してくるからといって、それを上回る「詭道」をもって対抗してはなりません。しかし、準備段階での「詭道」を用いるのは有効であり、また、相手方の「詭道」に対処するための知識と覚悟は持っておくべきなのです。

このページでは、労働紛争においてブラック企業が用いる「詭道」の実態を明らかにします。そして、戦うことを予定している皆さんに「覚悟」を持つきっかけを与え、かつ、こちらが「詭道」をもって対抗する場合のポイントを併せて説明していきたいと思います。

ブラック企業との戦いは、嘘・脅迫・陰湿なイジメが横行する「詭道」に満ちた戦いとなる

 ブラック企業との戦いは、分かりきった嘘やシラをきる態度が横行する、非常に悪質ですっきりしない戦いとなりがちです。

 ブラック企業との戦いでは、かのプロイセン・ロシアの兵学者・クラウゼヴィッツが『戦争論』で話したように、不当な行為をする会社はその目的(労働者に不利益な扱いをして会社の利益とするという目的)を達成するために、まるで限界がないかのようにその攻勢力を強めていきます。もちろん、これもまたクラウゼヴィッツが言うように、それを制限する作用も働くのですが。

 労働者に対する圧力が強まるにつれて、嘘・だまし・理不尽な扱いの度合いも激しさを増していきます。その理不尽な行いの過程で労働者が反発すれば経営者は逆切れし、「詭道」は頂点に達します。手の内に形を変え、労働者の同僚をも巻き込み、労働者自身の立場を社内全体で追い詰めていくのです。

 この理不尽な戦いに「美学」が存在するでしょうか?会社の対戦相手(労働者)の戦う態勢が整うまで、戦闘開始を待ってくれるでしょうか?労働者の家計が苦しい時は、不利益な変更をすることを待ってくれるでしょうか?

 こちら側の事情など、一切考慮してくれません。労働者にとって一番厳しい時期であったとしても、容赦なく不当な行為はし続けられるのです。むしろ厳しい時期を利用して、圧力をかけてくることすらあります。

 その傾向は、会社の経営者の性質が稚拙で傲慢であればあるほど、顕著になっていきます。

ブラック企業による「詭道」の実例

 インターネットの普及により、労働者に認められた権利が、一般に広く知られるようになりました。書店には、労働者向けに書かれたわかりやすい労働法の解説書があふれ、労働者各人の労働法の知識レベルも高くなっています。

 そのような状況の変化の中で、気に入らない労働者を会社から意図的に排除するためには、排除方法も以前に比して巧妙に変化させなければいけません。ブラック企業の経営者は、「経営リスクの回避」という耳当たりのいい言葉を用い、会社側に付く専門家(弁護士・社会保険労務士・経営コンサルタントなど)の知恵を借りて、巧妙で狡猾、かつ傍目にみてわかりにくい行為で労働者をだまし追い詰めてくるようになりました。

 以下で、よく見受けられる「詭道」の実例を挙げましょう。

「認められたい」という、人間が本来から持つ『承認の欲求』をつぶしてくる

 「認められたい」という欲求をつぶすことが一番よく見られ、かつ一番悪質な手口です。

 部署を変更したりしてその場で厳しいノルマを課し、ノルマ不達成を理由に叱責等を繰り返し、精神的に追い詰めて自ら辞めさせる、というパターンです。

 労働者自身に自責の念を抱かせ自ら辞めていくように仕向ける過程では、その圧力の度合いは半端なものとはなりません。横から見ている同僚も恐怖で手助けができなくなるほど、過酷なものとなります。ターゲットにされた労働者自身も、手助けをしてくれない同僚らを憎み、気持ちが荒れ、絶望の中で逃げるように辞めていくのです。

 ブラック企業にとっては、自ら辞めてくれるほど都合のいいものはありません。自ら辞すならば、解雇ではないので、解雇に伴う法律上の制限も考えずに済み、都合がいいわけです。労働者が責めてきても「自分で辞めたんでしょ。私は解雇などしてないよ。君が叱られたのは、実績を出せなかった君にも責任があるからでしょ。」と、見え透いた嘘と詭弁であしらってきます。

 極めて卑劣な行為ですが、私はいくらでもそのような事例を見てきました。決して他人事ではないのです。

連衡策をとり、労働者と労働者の横のつながりを希薄化させる

 「連衡策」を知っておられるでしょうか?連衡策とは、会社が特定の労働者に待遇や期待度に明確な差をつけ、労働者間の不公平感を湧かせ、労働者同士の仲を悪くさせる方法です。

 会社が最も恐れているの労働者の「団結」です。団結によって、労働組合を作られ、労働組合法の保護を盾に堂々と反発されるのを最も恐れています。

 結成がなされる前後に、もしくは団結する前後に、各労働者と会社が「縦」でつながることで、労働者間の「横」のつながりを弱くして脅威をなくす。非常に巧妙で計画的・かつ団結力を削ぐうえで最も効果的な方法です。会社が、労働者の企みを事前に破壊するのですね。まさにブラック企業による「上兵は謀を伐つ」(軍事力の最高の運用方法は、敵の策謀を未然に打ち破ることである)の実践です。

補給経路を断つことによる経済的な締め上げ

 労働者にとって現在もらっている給料は、現状の生活レベルを維持するため欠かすことのできない「補給経路」の意味合いを持っています。

 実際の戦いにおいて補給経路を失うことは「敗北」することを意味します。よって古来より戦争では、補給経路の安定的な確保は重大な課題で在り続けてきました。「戦争の素人は戦術を語り、玄人は兵站(へいたん)を語る」ということわざまであるくらいです。

 ブラック企業の圧辣な経営者らは、そのことを十分承知しているのです。よって、辞めさせたい労働者がいる場合は、賃金額を一方的に不利益変更することで、退職を暗にうながすのです。労働者の家計を締め上げるのですね。

 賃金の減額は、労働契約法によっても明確な制限がなされています。しかし実際に不利益変更を改めさせ、かつ、下げられた賃金と従来の賃金との差額を求めるためには、裁判上の手続きが必要となります(労働基準監督署の指導などほぼ期待できないため)。

 多くの労働者は、裁判による権利の主張をわずらわしく感じ、早く転職して従来の給料がもらえる場所に落ち着こうと考え、戦いもせず(戦うこともできず)辞めていくのです。

 ある程度年齢を重ね給料をたくさんもらっている労働者が、その手段のターゲットとされやすいです。給料をたくさんもらっていれば、その分生活レベルも高くなっています。生活レベルを下げることは、頭で考えるより困難なことであり、労働者に深刻なストレスを伴わせます。そのストレスと不安に耐えかね、戦う気力を持てないままに退職に追い込まれるのです。

ブラック企業による「詭道」に立ち向かうための「覚悟」を持とう!

 「孫子の兵法」では、「兵は詭道なり」(戦争とは、だましあいである)と述べ、戦争は一切のルールの存在しないだましあいの場である、と断言しています。これはブラック企業との戦いにも当てはまることは、上記で述べました。

 そこで私たちは、戦いをすることを決めた場合は、「詭道」も辞さない決意をしなければなりません。

 確かに、だましあいは卑怯だ、正しくない、と感じるかもしれません。しかし、このページの最初で述べたように、不当な行為で労働者を追い詰めてくる会社というのは、その気になったらルール無用の戦いを仕掛けてきます。

 私も数多くの紛争を見て、そして自分で味わって思ったのですが、そこには人に対する思いやりの欠けた、あからさまで露骨な人格破壊行為が常に行われていました。その実情を知っても、まだ正当な方法で礼節をもって戦うことにこだわるのであれば、それは自ら不利な状況を作り出しているのと同じになります。

 戦いは、有利な状況のものが勝ち、不利な状況のものが負けるのです。労働者は、人的・経済的資源レベルにおいて、ブラック企業に比して圧倒的に不利です。せめて戦う「覚悟」において、ブラック企業にひけをとってはなりません。

 「詭道」が嫌だと思うならば、あなたの家族や大切な人の前では正当で在り続ければいいのです。

 安心してください。私たち労働者は、「詭道」に対抗するからといって、「詭道」の領域で戦い続けることはしません。その点について、以下で説明しましょう。

労働者は、「詭道」の領域から「法」の領域に勝負を持ち込むことで勝機を見いだす

 私たち労働者は、いくらブラック企業が「詭道」を濫用するからといって、戦いの初めから終わりまで「詭道」をもって対抗していたのでは、勝機を見いだすことはできません。

 ブラック企業が「詭道」を濫用する現実を逆手にとり、準備段階で「詭道」を用い法の支配下で戦うための材料を集めます。そのうえで、「法律」という客観的で絶対的な基準の力をもって、ブラック企業の悪行を挫折させるのです。さっそく説明しましょう。

準備段階での「詭道」精神の活用

戦う準備が整うまで、反抗の意思を意図的に隠すことで時間を稼ぐ。しかし無理はしない。

 常にこちらの今の姿(立ち向かう意思・家計の現状)を見せないで、ただひたすらに偽りの姿を見せます。

 会社に立ち向かう場合でも、その行動はすぐには見せない。時機を見計らい、法律をもって戦う場合に力となってくれる証拠をつかむまで、息をひそめ、水面下で準備をしていきます。

 立てついて嫌がらせを受けるくらいならば、じっと我慢して会社に居続ける期間を少しでも長くします。精神的に耐えられないと思ったならば、すぐに心療内科にいって「ウツ」の診断書をもらい、一方的に休職して可能性を残します。

 じっと待っている間も、当然に我慢しているだけではありません。家族の説得と紛争で無職になった時の収入の計算(この2つが最も重要)・再就職先の確保・親族(両親等)への協力の要請などをしておくといいでしょう。大切な家族とその生活には、しっかりと配慮する必要があります。

職場内での根回しは、同僚らに無理のかからない範囲内で行う。

 ブラック企業が力関係で勝るならば、その弱点を埋めるために対策を講じる。仲間を見つける、社内の有志で労働組合を結成する、合同労組に加入するなどの対策をいくつか考えます。

 特に職場において同僚らの理解を得ることは、復職する場合においても重要なことです。その場合は、表立った協力は求めません。心の中で味方になってくれ、と頼むだけでいいのです。表立った協力の要請をしても、まず同意は得られないでしょう。そこで最初から、同意を得られやすい、水面下での協力を要請するのです。心ある同僚であれば、その申し出をむげに断ることはないでしょう。

 例え職場で表面上無視などの嫌がらせを受けようとも、同僚らが心の中で味方で居てくれる、ということが分かっていれば、意外と耐えられるものです。労働者を社内で孤立させる、という企みを、事前の根回しによって打ち砕くのです。

準備が整ったら、宣戦布告によって「詭道」の領域から「法」の領域での戦いに場を移す

 準備が整ったら、私たち労働者は不利な「詭道」の領域から脱し、「法」の領域に戦いを移します。準備期間中に得た材料を頼りに、ブラック企業をもねじ伏せうる「法律」の力を借りて戦うのです。

 日本の裁判では、「詭道」が入り込む余地はほとんどありません。法律に違反していることを主張し、かつ、その主張を証明した者が、勝利を得るのです。準備期間中に耐えるのは、ひとえに裁判でブラック企業の不当な行為を主張し、立証するためのなのです。

 「法律の保護によってもたらされる恩恵など大したことがない」という指摘もあります。しかし「詭道」の前に成すすべもなく敗れ去るのとでは、あまりに大きな違いがあります。

 現在の日本では、法によらない自力救済(暴力的な仕返し・奪われたお金の自力回収など)は許されていません。私たち労働者にとっては、「法律」という現行日本において圧倒的な拘束力を持つ基準に頼ることが、最も有効な手段となるのです。

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