懲戒解雇とは?実際の特徴と対策を知って戦う土台を作ろう!
労働者にとっての極刑たる「懲戒解雇」。会社員としての地位を一瞬で奪われる恐ろしい処分ですが、実態はどのようなものでしょうか?
一般的に、懲戒解雇とは、退職金が支払われない・解雇予告手当がもらえない・再就職の重大な障害となる・重大な違反をした労働者に課せられる処分、などという特徴が挙げられています。しかしこれらの特徴は、すべての懲戒解雇に当てはまるわけではありません。
当ページでは、懲戒解雇が行われている現場の実情を紹介しつつ、懲戒解雇の特徴、他の解雇と懲戒解雇との違いを説明していきます。労働者にとって最悪の処分の実態を知ることで、いざ懲戒解雇が身に降りかかった時に、慌てないで対応ができるようになるでしょう。
懲戒解雇の特徴を知ることは、法律を守る意識の低い会社に勤める労働者の皆さんにとっては、是非とも頭にいれておいて欲しい知識です。このページが、知識を得ることのきっかけとなることを願います。
- 懲戒解雇の実際のところの特徴とは?
- 特徴1:有効な懲戒解雇となるには厳格な条件を満たしている必要があるが、安易な懲戒解雇が横行している
- 特徴2:労働基準監督署は、懲戒解雇の有効無効の判断はしてくれない
- 特徴3:退職金が支払われないか、減額されることが多い
- 特徴4:場合によっては、再就職時に障害となることがある
懲戒解雇の実際のところの特徴とは?
懲戒解雇は、数ある懲戒処分の中でも最も重い処分です。ここで、あなたに降りかかった、もしくは降りかかりそうになっている懲戒解雇の特徴を知っておきましょう。労働者にとって大きな禍である「懲戒解雇」の実際の特徴を知ることで、不安も軽減し、戦うための心構え・準備をすることができます。
労働者に直接かかわってくる実際のところの特徴とは、以下の4点でしょう。
- 有効な懲戒解雇となるには厳格な条件を満たしている必要があるが、安易な懲戒解雇が横行している
- 労働基準監督署は、懲戒解雇の有効無効の判断はしてくれない
- 退職金が支払われないか、減額されることが多い
- 場合によっては、再就職時に障害となることがある
これらの特徴を読んでいただいてわかっていただけたと思いますが、労働者の生活に大きな不利益を与えるものであることが分かります。退職金が支払われないなどは、その究極たるものでしょう。
また、懲戒解雇を無効にさせるために労働基準監督署を頼ることはできず、裁判・労働審判に頼らなければならないので、大変な労力が必要となります。懲戒解雇と戦う決意をしても、その煩雑な前途に直面し、気持ちが萎えてしまいます。
以下で、各特徴について詳しく説明し、あわせて対策にも触れていきましょう。
特徴1:有効な懲戒解雇となるには厳格な条件を満たしている必要があるが、安易な懲戒解雇が横行している
有効な懲戒解雇であるためには、3つの条件を満たしている必要がある
私が以前勤めていた一族経営の零細企業では、社長が行った減給等の仕打ちに抗議しようものなら、問答無用で即刻懲戒解雇となりました。この例は極端な例ですが、多くの一族経営会社では、似たような懲戒解雇が当たり前のように行われています。
そもそも懲戒解雇は、社長の胸三寸で簡単に行えるようなシロモノではありません。胸三寸で行われた懲戒解雇は、裁判・労働審判で争えば無効となる確率が極めて高くなります。有効な懲戒解雇であるためには、条件を満たしていることが必要なのです。
「懲戒解雇」は、数ある「懲戒」処分の種類中の一つです。懲戒処分を行うには、以下の3つの条件が必要となります。そして、懲戒解雇が懲戒処分中最も重い処分である以上、その3つの条件を満たしていることを強く求められます。
- 就業規則に「懲戒の種類および事由」が明記されており、会社に懲戒権が存在していること
- 労働者の行為が、就業規則に定められた懲戒事由に該当していること
- 懲戒処分は、懲戒の理由となった行為の性質や事情に照らして社会通念上相当なものであると認められること
これらの要件を、「懲戒解雇」に特記して言い直してみましょう。
- 就業規則の「懲戒の種類」に「懲戒解雇」が存在し、かつ「懲戒解雇事由」も明記されており、会社に懲戒解雇をする権限が存在していること
- 労働者の行為が「懲戒解雇事由」に該当していること
- 懲戒解雇は、行為の性質や事情に照らしてそれを課すことが社会通念上相当なものであること
大企業においては、労働者から地位確認請求訴訟(解雇の有効無効を争う裁判)を起こされるリスクに備え、3つの条件を満たそうと配慮しています。しかしそれはうわべだけのものであり、目に見えないところで強引な対応をしているのが現状です。
不当な懲戒解雇と戦うためには、まず、自分に行われた懲戒解雇が条件を満たしているか調査・検討する作業が必要
懲戒解雇された場合において、少しでも「納得できない」と感じたのならば、素直に受け入れる必要などありません。会社に対し「解雇は受け入れられない」という意思をはっきり示しましょう。
そのうえで、あなたに行われた懲戒解雇処分が、上記3つの条件を満たしているか検討します。検討するための資料として、会社の就業規則・賃金規程・解雇理由証明書が必要となります。調査・検討の作業は、以下の3つを行います。
- 就業規則の周知状況を確認しておく
- 解雇理由証明書(退職時等証明書)の請求をする
- 就業規則・賃金規程の閲覧を求める
各作業について、少し詳しく触れていきましょう。
就業規則の周知状況を確認しておく
会社が労働者に対して懲戒解雇を行うことができる根拠が就業規則にある以上、その根拠たる就業規則が事業場内で労働者に周知されていることは、懲戒解雇が有効であるための大前提となります。周知されていない就業規則中の懲戒規程など、守りようがないからです。
解雇理由証明書を請求する前に、就業規則の周知・保管状況を確認しておきましょう。いつでも気軽に閲覧できる場所に、就業規則は保管されているでしょうか?そうでないのならば、ボイスレコーダーを胸に仕込み、手頃な上司を捕まえて、就業規則の閲覧を希望しましょう。
そこで上司が、「見せない」「人事課の許可が必要」「閲覧など求めて、なんのつもりだ」などの発言をしたならば、それは周知されていないのも同然です。会話内容は文字起こし(反訳)して「反訳書」とし、後日の裁判で証拠として利用します。
就業規則が周知されていない事実だけで、即刻懲戒解雇が無効になるわけではありませんが、会社側の不手際をコツコツと主張していくことで、最終的な無効判断を勝ち取ることにつながります。
解雇理由証明書(退職時等証明書)の請求をする
即日解雇の場合と、そうでない場合で、請求する書面のが違ってきます。しかし、中身に大きな違いはありません。言い渡しから実際に解雇されるまでに日数がある場合は解雇理由証明書、即日解雇の場合は、退職時等証明書となります(下図参照)。
なぜここで解雇理由証明書(退職時等証明書)を請求するのでしょうか?それは、会社が労働者のどのような行為が懲戒解雇規程のどの項目に該当していると判断して懲戒解雇してきたのか、はっきりさせるために請求するのです。
解雇理由証明書は裁判において確かな証拠となり得る書面であり、書面という目に見える形で理由をはっきりとさせて残しておけば、会社は後日適当な言い逃れが一切できなくなります。
会社から解雇理由証明書をもらったら、さっそく内容を確認してみましょう。解雇理由証明書には、就業規則中の懲戒解雇事由の、どの項目に該当していたのか、そして該当した行為の具体的な経緯を記さなければなりません。
問題となった行為について、実に曖昧でさらっとしか書いてない証明書が多いため、その点は特に注意して確認しましょう。具体的な記載がない証明書であったならば、そのことを指摘して、内容証明郵便にて再交付を求めましょう。もし再交付を拒否したならば、その事実はしっかりと裁判で主張します。
実際に解雇されるまでに日数がある場合
懲戒解雇を言い渡されてから解雇日までに期間がある場合は、会社に対し「解雇を受け入れるつもりはない」という意思表示をしつつ、「解雇理由証明書」を請求ます。どのような行為が原因で懲戒解雇になったのか、その理由をはっきりとさせます。
即時解雇され解雇されるまでの時間的余裕がまったくない場合
即時に解雇され、次の日には従業員でない立場になってしまった場合は、内容証明郵便にて「懲戒解雇は不当であり受けいれるつもりはない」と明記し、「退職時等証明書の請求」をします。
就業規則・賃金規程の閲覧を求める
実際に解雇されるまでに日数がある場合
解雇理由証明書(退職時等証明書)が手元に届き記載内容を確認したならば、就業規則を確認します。あなたの会社が就業規則を自由に閲覧できない環境であるならば、就業規則の閲覧を求めます。上司に求めて拒否されたら、遠慮なく労務管理部門(総務課・人事課)に求めましょう(解雇理由証明書まで請求したならば、閲覧を拒否することはしないでしょう)。
会社が指摘してきた、労働者の行為に該当する「懲戒解雇事由」の文言を確認します。本当に労働者の行為が、事由に該当していると考えられるのか、検討します。該当しているか微妙な場合は、当然にそのことを裁判・調停・労働審判で主張します。
即時解雇され解雇されるまでの時間的余裕がまったくない場合
もしあなたが即時の懲戒解雇された場合で、会社から「従業員でない者に就業規則を見せることはできない」と言われた場合は、「退職時証明書に記載された懲戒解雇事由が就業規則中にあるか確認したいので求める」と対応します。それでも拒否された場合は、裁判・労働審判における訴状・労働審判申立書の中で、「求釈明」欄を設け、「就業規則の閲覧を拒否されているので、被告は就業規則の懲戒解雇事由を明らかにされたい」と書きます。
裁判・労働審判になれば、会社側は証拠として就業規則を提出してくるでしょう。ですので、裁判まで考えている方であれば、この時点で閲覧ができなくても、戦いのための準備を先に進めていって構わないと思います。
賃金規程の閲覧を求める理由は、懲戒解雇で退職金や賞与が不支給、もしくは減額された場合に、減額をする旨の規程がしっかりと存在しているか調べるためです。
特徴2:労働基準監督署は、懲戒解雇の有効無効の判断はしてくれない
解雇の有効無効の判断は、裁判や労働審判で双方主張立証のうえで行われるもの
懲戒解雇を含めた不当な解雇を撤回させるために、労働基準監督署(労基署)の力はほとんど見込めないと考えていいでしょう。「こんなひどい解雇をされたのです、指導してください!」と懇願しても、労基署は動いてくれることはほとんどありません。
それは、労基署がやる気がないからではなく、解雇の有効無効の判断は、労基署が行うものではなく、裁判等の司法の場で行うもの、とされているからです(監督署が判断を行わない理由について諸説ありますが、我々労働者にとってその議論の帰趨は直接影響を受けません。判断を行わないことは変わらないのですから)。
労基署が行うのは、天災その他やむを得ない事由による解雇予告しないで行われる即時解雇・労働者の重大な不行跡に対して解雇予告をしないで行われる即時解雇に対する「認定」くらいです。しかし、この「認定」に、勝機を見いだすような期待を持つのはやめましょう。
このケースで行われる「認定」は労基署による事実の確認手続きに過ぎず、「認定」を受けなかったからといって解雇が無効になるものではないという裁判例があるからです(下記裁判例参照)。
「・・・使用者は、不認定行為を受けた場合であっても有効に即時解雇をすることを妨げられず、反対に認定行為を受けた場合であっても、客観的に見て解雇予告除外事由が存在しないときは、即時解雇を有効なものとすることはできないこととなるものであり、そうとすれば、行政官庁による解雇予告除外事由の認定の有無・内容は使用者の雇用契約上の地位に何らの影響を及ぼすものではないこととなる。」【東京地裁平成14年1月31日判決 上野労基署長事件】
つまり、労基署から即時解雇につき「不認定」を受けてもその即時解雇は無効とならず、また「認定」をもらっても、解雇予告が除外される理由が存在しなければ、その即時解雇は有効とはならないから、「認定」なんぞは事実の確認の手続きに過ぎない、と判断したのです。
最初から労働基準監督署をあてにしない、裁判・労働組合で解決することを前提にした準備を行う
この現状を踏まえ、私たち労働者は、不当な解雇が行われそうになった場合は、裁判で戦うことを念頭に置いた準備をしておくことが望まれるでしょう。同僚が使用者の不当解雇の犠牲になっているような会社でも、同様に、日頃より準備をしておきます。
不当な解雇が横行するような会社での労働組合結成は、現実的な対応策とは言えませんので、外部労働組合(合同労組)に加入するのが良いでしょう。
日頃より準備できることは、以下のものでしょうか。
- 有事(突然解雇されるような場合)の際の経済的メドをつけておく
- 突然解雇された際の対応の仕方を、頭に入れておく
- 加入可能な方は、外部労働組合(合同労組)に加入する
各準備について、説明していきましょう。
有事(突然解雇されるような場合)の際の経済的メドをつけておく
一番安心できる準備とは、「有事(突然解雇されるような場合)の際の経済的メドをつけておくこと」です。私たちは、即時解雇されると、収入が断たれ今の生活が維持できなくなることを、最も恐れるからです。
労基署が不当解雇に対する指導が行われない以上、解雇無効を勝ち取るまでの戦いの期間は長期化することが予測できます。その期間の経済的なメドを立てておくことが、私たちの心を最も安心させるのです。生活ができて初めて、会社と思う存分戦うことができます。それは古来からの戦争でも同じことですね。
当サイトでは、解雇以外のどのような戦いであれ、会社と戦う以上は「収入が断たれる」という最悪の状況を想定して、経済的メドを立てたうえで戦うことを重視しています。解雇は収入面において最も深刻な影響を与える不当行為であり、経済的なメドは極力立てておいた方がいいでしょう。
突然解雇された際の対応の仕方を、頭に入れておく
突然懲戒解雇をされてしまうと、普通の方であれば頭が真っ白になってしまいます。その状況の中、会社側からの同意の強要に、心ならずも応じてしまうかもしれません。
そのような事態を防ぐための最も有効な手段は、平素から有事の際の対応を頭でイメージしておくことです。ちょうど空手や拳法などで、「型」を通して攻撃への受けと反撃を学ぶようなものです。
最も基本となる対応とは、「安易に同意しないこと」です。これさえ頭に入れておけば、その場で訳も分からないままに不利な同意をする事態を避けることができます。例え納得できそうなことでも、それは罠かもしれません。その場で同意などしなくてもいいのです。
その場で会社の言い分を聞いておき、家に帰ってインターネットや本で、あなたのケースを調べます。場合によっては、労基署に行って、相談してみましょう。労基署は解雇無効の判断はしてくれませんが、労働相談は無料で行ってくれます。これは大変便利な制度ですのでどんどん利用しましょう。
当サイトにも、解雇時に役立つ知識や対応法を説明しています。利用してみてください。
- 不当解雇と戦う方法!懲戒解雇を撤回させるための実戦術
- 不当な懲戒解雇を見抜くための「懲戒解雇の要件」の知識
- ここはおさえよう!解雇理由証明書を請求するための基礎知識
- さあ実戦!解雇理由証明書の発行を実際に請求してみよう
- ブラック企業に不当に「懲戒解雇」された場合に必要な証拠
加入可能な方は、外部労働組合(合同労組)に加入する
外部の労働組合に加入しておくことは、、懲戒解雇時の会社との交渉や復職後の嫌がらせに大きな効果をもたらします。会社は、労働組合からの交渉要求(団体交渉要求)を拒めず、復職後の嫌がらせも労働組合は「不当労働行為」として抗議してくることも理解しているからです。
しかし我が国においては、「労働組合」についてマイナスのイメージを持っている労働者が少なくありません。これは、公的機関の巧妙な印象操作と、「長いものには巻かれろ」的な日本人的思想のなせるものかもしれません。
この準備については、実行すること(加入すること)が、最も敷居が高いのかもしれません。知り合いが加入している外部労働組合があったら、話を聞いてみるのもいいでしょう。組合費は、月2,000円くらいが相場だと思います。
特徴3:懲戒解雇の場合、退職金が支払われないか減額されることが多い
懲戒解雇であっても、当然のように「不支給」・「減額」されるわけではない
懲戒解雇されたからといって、当然に退職金が減額されたり、不支給になるわけではありません。「懲戒解雇」=「当然に退職金は支払わなくてもよい」という誤った知識を持っている会社経営者が少なからず存在します。また退職金を支払いたくないがために、懲戒解雇に仕立てて解雇するような極めて悪質な経営者もいます。
懲戒解雇時に退職金に不利益を課した行為が有効となるためには、以下の二つの条件をクリアする必要があります。
- 退職金規程などに、懲戒解雇の際退職金の全部又は一部が不支給される旨が明記してあること
- 労働者に、永年の勤続の功を抹消してしまうほどの著しい背信性のある行為があったこと
各条件について、説明していきましょう。
退職金規程などに、懲戒解雇の際退職金の全部又は一部が不支給される旨が明記してあること
懲戒解雇をされると、本来もらえるはずであった退職金が不支給になったり、一部減額されます。しかし、懲戒解雇だと当然にこのような不利益を受けるわけではありません。法律には「懲戒解雇だと退職金について不利益を受ける」類の定めは一切書いてありません。
会社に退職金制度がある場合、就業規則又は賃金(退職金)規程に「懲戒解雇の場合には、退職金を不支給もしくは減額する」という規程が存在して初めて、退職金を不支給にしたり減額できたりできるのです。そのような規程が無い場合、例え懲戒解雇でも使用者は退職金を支払わなければなりません。
しかし現状は、懲戒解雇の名のもとに社長の胸三寸で退職金を支払わないケースが横行しています。
労働者に、永年の勤続の功を抹消してしまうほどの著しい背信性のある行為があったこと
就業規則や賃金規程に、不支給・減額する旨が規定されていても、当然に不支給・減額が有効となるわけではありません。今までの労働者の会社への勤続の功を、すべて抹消してしまうか、もしくは一部を減殺してしまうほどの著しい背信行為があった場合に有効となる、と考えられています。
以下の判決を見てください。従業員が、業務外での犯罪行為(痴漢行為)を複数回繰り返した結果懲戒解雇となり、退職金が全額不支給になった事件における判決文です。
「このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。」【東京高裁平成15年12月11日判決 小田急電鉄事件】
本件では、業務外の犯罪行為について、強度の背信性を有するとまではいえないと判断し、労働者側の事情を踏まえたうえで、会社側に一定割合(3割)の支払いを命じました。
退職金不支給・減額に対抗する方法:懲戒解雇されたからといって、退職金を簡単にあきらめない
復職にこだわって懲戒解雇を争う場合、紛争の過程で退職金の請求をするのは、退職を前提とした行為であるため控えた方がよいでしょう。しかし戦いの場が労働審判・裁判へと移り、以下の状況になったならば、対応を変えていきましょう。
- 会社側が答弁書において、予備的に懲戒解雇と普通解雇の主張をしてきた場合
- こちらも復職にこだわらなくなった場合
各状況になった場合の対応について、説明していきましょう。
会社側が答弁書において、予備的に懲戒解雇と普通解雇の主張をしてきた場合は、こちらも予備的主張で普通解雇確定までの賃金・退職金を求める
会社側が答弁書において、予備的に懲戒解雇と普通解雇の主張をしてきた場合は対応を変えます。「予備的に懲戒解雇と普通解雇の主張をしてくる」とはどのようなことでしょうか?
よく行われがちな「懲戒解雇は無効であるとしても普通解雇としての効力を有する」というような主張は、「無効行為の転換」だとして、かような主張を認めれば相手方の地位は著しく不安定なものになるとして、裁判所は否定的な判断を下しています。下の裁判例を見てください。
「解雇の意思表示は使用者の一方的な意思表示によってなされるものであるから、これに右のような無効行為の転換のごとき理論を認めることは相手方の地位を著しく不安定なものにすることになり許されない。」【東京地裁昭和60年5月24日判決 硬化クローム工業事件】
しかしその一方で、懲戒解雇事由に該当するとして処分された懲戒解雇について、その量刑の程度が苛酷でありすぎるとして懲戒解雇としては無効でも、当該事由が普通解雇事由に該当しているとして、予備的に普通解雇を主張することは認められています。このような場合、裁判係属中に、懲戒解雇にした事由を用い、普通解雇事由に該当するものとして普通解雇とすることも可能だとされています。これが、「予備的に懲戒解雇と普通解雇の主張をしてくる」ということです。
この主張がなされた場合、こちらも答弁書を受けて提出する「準備書面」において、賃金、そして退職金について積極的に主張していきます。
準備書面中で「予備的主張」として、「万が一当該懲戒解雇の有効性が認められた場合において、原告(労働者)の当該行為は、原告の今までの勤続の功を抹消して退職金が不支給になるほどの強度の背信性があるものとはいえない。」「被告(会社)の予備的な主張による普通解雇が認められた場合、被告は原告に対し、普通解雇が認められた日までの賃金・退職金の支払い義務を免れない。」と主張します。
このような主張をしておくことは、解雇が撤回されなかった場合における経済的な痛手を最小限に抑えるための対策ともなります。
こちらも復職にこだわらなくなった場合は、和解の機を利用して、退職する代わりに、懲戒解雇の撤回と退職金の支払いを求める
解雇無効を勝ち取るための長い戦いの中で、時に身勝手で、時に真実と異なる会社側の主張にさらされ、あなた自身の中で会社の仕事に対する執着心がなくなり、復職する気持ちが消失することがあります。そのような場合でも、あなたは懲戒解雇などという不名誉な仕打ちに甘んじる必要はありません。
あなたの中で復職にこだわる気持ちが消えたのならば、それは大きな転機です。労働審判では調停が行われますし、通常訴訟では高い確率で和解を勧められます。その機を活かし、懲戒解雇の撤回・和解解決金と退職金の支払いを求めていきましょう。
労働審判においては
労働審判の詳しい内容は割愛しますが、労働審判は、その過程で行われる調停の試みに意義があります。審判の過程で行われる調停が不成立となると審判が下されますが、多く審判に対し異議が申し立てられるので(6割前後に異議が申し立てられ、本訴へ移行している)、調停でいかに己の希望を実現させるかがキーとなります。
調停は互いの譲歩で成立することが重要であるため、あなたもそれなりの譲歩を求められます。労働審判に入る前に、あなたの中で譲れない部分を決めておいてください。多くの方は、不名誉な懲戒解雇の撤回と、解決金・退職金の支払いを求めるでしょう。
訴訟においては
裁判所は、口頭弁論を数回重ねた辺りから、裁判上の和解の提案をしてきます。裁判所が和解案を出してくることもありますし、当事者双方に和解案の骨子を提出することを促す場合もあります。
もし裁判所が和解案を提出してきましたら、和解解決金の額に注目しましょう。あなたの解雇が無効だと判断される場合、和解解決金が給料の6か月分より多めになっていることがあります。裁判所の和解案に懲戒解雇の撤回や退職金の支払いについて触れられてなかったならば、あなたの方から積極的に和解案の代案を示しても良いでしょう。裁判官にその旨を口頭弁論上で伝えます。
和解案の骨子を自ら作成する場合は、インターネット上にあるひな形を参考にしつつ、あなたのケースに応じて修正します。私たちは弁護士ではないので、大いに書式やひな形を参考にしましょう。
和解をするのですから、退職に応じる代わりに、和解解決金・懲戒解雇の撤回・会社都合による退職・退職金の支払いを求めます。あなたの解雇が明らかに不当であって勝算がある場合、和解解決金は給料の6か月分より多くの額を記載します。そうでない場合は、給料の6カ月分を記載しておきます。
作成した和解案の骨子は、「和解案に関する上申書」の中に記載し、裁判所に提出します。おそらく、相手方の和解案も提出されるでしょうから、それ以後は両者の間で譲歩のし合いが行われることになります。
会社側に訴訟代理人(弁護士)が付いている場合は、連絡を取って積極的に話し合ってみましょう。その時大事なのは、弁護士の言うままに従う必要はないと心掛けることと、ケンカ腰にならないことです。逆に、弁護士がケンカ腰である場合は、それ以後裁判外で連絡を取る必要はありません(人生経験の未熟な若手弁護士にたまにいます)。法廷で折衝したほうがいいでしょう。
特徴4:場合によっては、再就職時に障害となることがある
解雇理由が再就職を妨げるケースはごく少数。解雇理由よりも現実的な家計の危機の方が再就職の障害となる
インターネット上の多くのサイトで、懲戒解雇は再就職における重大な障害となる、と書かれています。実際どうなのでしょうか?
私自身や周りの知人の経験として、懲戒解雇は再就職時の重大な障害とはなりませんでした。なぜかといいますと、再就職時に前職の解雇理由を証明することを求められなかったからです。私は人事課の経験もありますが、私の会社では、採用する際に前職での素行を証明させるようなことは一切しませんでした。
もっとも、前職での退職時証明書を提出させる会社もあるでしょうが、そのような会社はごく少数です(大企業のハイレベルキャリア職などでは、そのようなこともあると聞きます)。特定の職種や会社の規模にこだわらなければ、再就職はそれほど難しいものではありません。
懲戒解雇されると、解雇予告手当が支払われず、退職金も減額されたり、不支給になったりします。また、離職票に「重責解雇」と書かれ、給付制限(3か月間失業保険が支給されない)がかかります。
現実的には、そのような経済的な不利益こそが、労働者が納得できるような再就職をすることの最大の障害になっていると思われます。経済的にひっ迫していると、腰を据えて納得のいく就職先を選ぶ余裕がなく、不本意な再就職をしてしまうからです。
職種・会社にこだわりのない方は、柔軟に。退職理由が問われそうな会社にこだわる方は、懲戒解雇の撤回を重視して戦う。
再就職する職種・会社にこだわってない方は、懲戒解雇の戦いにおいて、柔軟な戦術をもって臨む
再就職先にこだわってない方は、解雇理由が再就職に影響を与える懸念をとりあえず置いて、従来通りの懲戒解雇の戦いを展開していきましょう。
経済的な余力を保っていられるまで、懲戒解雇によって受けた不利益を償わせるための戦いをすればいいでしょう。
すでに経済的な危機に陥ってる状態であるならば、再就職に向けた活動に真っ先に取り組んでいきましょう。「懲戒解雇の撤回をしてからでないと再就職はできない」なんてことはありません。就職先を確保し、経済的な安心を得てからじっくりと戦うこともできます。
再就職を心配している方は、すでに復職などは考えていないのが一般的です。それでいいと思います。不当な懲戒解雇だと感じるならば、経済的な安定さを得てからじっくりと知識を仕入れ、戦いを開始します。
しかし、懲戒解雇への異議、解雇理由証明書(退職時等証明書)の請求と、証拠の収集はしておきます。
退職理由が問われそうな会社への就職にこだわる方は、懲戒解雇の撤回を第一に考える
特定の会社・特定の職種・一定以上の給与水準を持つ会社への再就職にこだわる方は、希望する再就職先が退職理由を証明させる場合に再就職ができなくなるリスクがあるため、戦いの目的を「懲戒解雇の撤回」に設定します。
そのためには、経済的な不安があろうとも、まず戦わないといけません。復職にこだわってないならば、話し合いの場で、退職に応じることを条件に懲戒解雇の撤回・退職金の支払いを求めてみましょう。
それでも良い結果が得られないならば、迅速な解決を期待できる労働審判がおすすめです。すでに復職にそれほどこだわっていないならば、まずは労働審判において地位確認請求をしつつ、その過程の調停の試みの中で、懲戒解雇の撤回と退職金の支払いを求めていきます。
労働審判においては、当事者双方から出された労働審判申立書・答弁書・各証拠をもとに当該解雇の有効無効の是非を考慮したうえで、労働審判員・裁判官によって当事者に対し調停案が示されます。あなたはその場で自身の希望を述べていきます。おおよそ3回の期日の中で粘り強く調停が行われ、そこであなたと相手方が納得したならば、調停は成立します。成立した調停案は調停調書となり、確定判決と同じ効果を持ちます。
労働審判における調停の成立割合は7割に迫る勢いであるので、懲戒解雇だけでも撤回させたいと考える方にも、実に頼もしい制度と言えるでしょう。