武経七書の「李衛公問対」は、武経七書の中で、成立が最も新しい兵法書です。
最も新しい・・・と聴かされると、結構多くの人が無意識のうちに「新しいから出来がいまいちなのでは?」と考えてしまうのです。しかし、この「李衛公問対」は、実に有益な兵法書だと思うのです。
有益だと思う理由・・・それは、本書中で二人の兵法のプロが、過去の有名な兵法についてわかりにくい点を解説する、というスタイルをとっているからです。つまり、二人の兵法の天才が、過去の兵法書のわかりにくいところ・もっと知りたいところを解説してくれているのですね。
二人の兵法のプロ・・・それは、中国史上きっての名君たる太宗(李世民)と名軍師・李衛公(李靖)です。
太宗は高校の教科書でおなじみであり、名君でもあり、戦略・戦術の天才でもあり、若い頃はその才能で唐の中国統一に大きな成果を挙げました。有能な君主でもあり、智謀と武勇を兼ね備えた将軍でもあったのですね。
李靖は、唐の建国を成した高祖(李淵)の時代からお仕えしている年長の軍師であり、太宗時代には軍の重鎮となっています。隣接異民族国家(突蕨)の平定に多大な功績を挙げた、名軍師です。
実際に、第三者がこの二人の問答を実際に聞いてそれを後に書き留めた、かどうかは、不明ですが、真実はいいではないですか。この二人の会話内容は実にプロフェッショナルで、的確であり、教えられる点が多いのですから。
私は「孫子」を読んだ後、孫子本編中に出てくる「奇」と「正」の意味と、両者の違いがよくわかりませんでした。だが、「李衛公問対」では、最初に「奇」「正」について二人が熱い会話を展開してくれており、実に参考になります。
「奇」と「正」については、「孫ぴん兵法」においても触れられていますが、解説のわかりやすさは、「李衛公問対」の方が上だと感じます。それは具体例が豊富なのもさることながら、二者のQ&Aの形式をとっているからではないでしょうか?
もし武経七書を全部読破したいと思うならば、まず「孫子」を通読し、その後李衛公問対の奇正の部分を読み、その後各六書を読み、最後にまとめで「李衛公問対」を読む、と効率がいいかもしれません。実際、私はその順に読みました。
「李衛公問対」は唐の時代までに発生した戦いや、過去の兵法書、過去の軍師・君主らを素材に採りあげ、具体的な解説を展開しています。ですから、歴史に興味がある人ならば、いきなり当書を読んでも興味深く読み進められるでしょう。