皆さんは、銀河英雄伝説という小説を知っていますか?田中芳樹さんの宇宙オペラ小説です。
宇宙に活路を見出した人類の、その後を書いた小説です。もちろんフィクションです。その時代にはゴールデンバウム朝銀河帝国と、自由惑星同盟が、互いにしのぎを削って戦争をしている、という設定の中物語はスタートします。
銀河帝国には、ラインハルトという、若くて金髪で美少年で、かつ戦争の天才の提督がいます。自由惑星同盟には、ラインハルトも一目置く、ヤン・ウェンリーという少し三枚目の天才用兵家がいます。その二人が、互いの本国の思惑に揺り動かされながら、戦いを展開していくのですね。
ヤンはラインハルトを戦場において巧みな戦術でほんろうするのですが、ヤンは、戦う前に戦略上での勝利を確実にして戦いに臨んでくるラインハルトの総合的な戦争の才能を痛感するのです。
「彼の考えていることは、わかっている。わかっているのだが、何もできない。何もさせてくれない。」
ヤンはふとこのようにつぶやき、ラインハルトに対する力の及ばなさといらだちを吐露するのです。ヤンは、本国の政治家たちの思惑や無能さに、心の中にある計算や見通しをいつも狂わされるのです。
ラインハルトはそれを百も承知で、ヤン個人ではなく、自由惑星同盟の政府に間接的な揺さぶりをかけるのです。
周到な準備と、手回しで、必勝の態勢をモノにし、そのうえで戦いに臨む。よって戦いでの戦術上の不利が生じても、戦略上でのアドバンテージでそれを覆い隠す。ヤンはバーミリオン会戦に臨む前に、「戦略上の敗北を、戦術上の勝利で挽回することはできない」と仲間に言っています。
私たちも、ブラック企業と戦うならば、戦略上での必勝態勢を作ってから戦いに臨みたい。必勝態勢が難しいならば、負けない態勢を作りたい。それは私のサイト「ブラック企業の労働基準法違反に負けない労働者の皆さまの応援サイト」でも何度も伝えてきました。実行するのは難しいのですが、戦う皆さまに是非とも取り組んでもらいたいからです。
ヤンは「不敗の魔術師」と言われています。「常勝の魔術師」ではないのです。不敗、と言われるのは、負けるとわかっている戦いをしないからです。ヤンの部下のフィッシャー提督は、部下に「ヤン元帥が不敗と言われるのは、負けるとわかっている戦いをしないからだ」と声高に叫び、偵察中の敵との遭遇宙域から離脱しています。
回復不能な負けを回避するための態勢づくりは、会社との不利な戦いをする私たちにとって、現実的な採るべき作戦となり得ます。私たちは、惨敗さえしなければ、転職するなどの防衛策がいくらでも採ることができるのです。惨敗してしまったら、家族すら失いかねません。自由惑星同盟が、無謀な帝国領侵攻作戦による大敗により、本国滅亡の要因を作ったように。
ヤンは、不利な場合でも、わずかな活路を見出し、それなりの戦果を出したら、さっさと戦場を後にします。ラインハルトは、「奴はいつも私が完全に勝利しようとする場面に現れて、邪魔をする」と、親友のキルヒアイス大将にその苛立ちを吐露しています。
ブラック企業と戦うにあたって、完全勝利は必要でしょうか?完全勝利など、戦略上の優位を確立しても、実現できないことすらあります。多くのケースにおいて、ブラック企業との戦いでは、私たちは戦略上、極めて不利な立場に置かれています。それは、企業が準備において優れていた、とかではなく、周到であって、かつ、自分たちの優位な点を最大限に利用してきた、ということだけあのです。
私たちは、置かれた状況の中で、いかにして可能な、最大限の抵抗と戦果を示せるか?それを考えるべきではないでしょうか?
よく、ブラック企業と戦うための解説書に、裁判で証拠を提出すれば勝てます、と書かれている場合がありますが、裁判で勝つ、は一つの結果の形態であり、戦う皆さんの数の分だけ、納得できる結果があると思います。
それが、効率よく被害を最小限にして逃げる、という結果を選択するのでもよいと思います。