労働組合法に守られる労働組合とは?法適合労働組合を作ろう
労働組合には、団体行動等をしても、法的に刑事的・民事的な責任が免責される権利があります。
しかし「労働組合」と名がつけば、どのような組合でも責任が免責されるわけではありません。労働組合法が定める条件を満たした組合であることが必要なのです。
では、労働組合法の保護を受ける組合(法適合組合)を作るにはどうしたらいいのでしょうか?
それには、法適合労働組合たり得る条件をしっかりと理解し、その条件を満たすことに注意しながら組合を作っていけばいいのです。
当ページで、その条件について詳しく説明していきましょう。
「法適合組合・自主性不備組合・規約不備組合」それぞれの意味と、各組合ごとに認められる権利とそうでない権利
「労働組合法によって守られる条件を満たしているか?」という視点に立つと、労働組合には以下の3つの種類があることになります。
各形態の組合ごとに、認められる権利とそうでない権利の内容が異なります。以下で、各形態の組合ごとの定義と、認められる権利の内容を説明しましょう。
法適合組合
法適合組合とは?
『法適合組合』とは、労働組合法第2条【労働組合の定義】と労働組合法第5条2項【規約の必要記載事項】の全ての要件を満たす労働組合であります。
法適合組合で認められる権利・認められない権利
労働組合法が定める、法律的な保護の全てを享受できます。認められる権利の主なものは以下のとおりです。
- 刑法上の責任を問われない
- 民法など民事法上の責任を問われない
- 不当労働行為の救済を受けることができる
- 結んだ労働協約に規範的な効力が発生する
- 法人格の取得ができる
- 結んだ労働協約に規範的な効力が発生する
自主性不備組合
自主性不備組合とは?
『自主性不備組合』とは、労働組合法第2条の本文を満たすが、同条の但し書き1号・2号の要件をどちらか満たしていない、またはどちらも満たしていない組合のことを言います。
同条但し書き1号とは、「使用者の利益代表者が組合に参加しているのことの禁止」、同条但し書き2号とは、「使用者から経費援助を受けることの禁止」について定めたものであります。
自主性不備組合でも認められる権利・認めれられない権利
自主性不備組合は、労働組合法上の労働組合ではないので、同法が認める法的な保護を受けることは出来ません。
しかし労働組合法第2条の本文は満たしているため、日本国憲法第28条にいう労働組合として認められ、結果民事免責・刑事免責・団結権侵害に対する民事訴訟の保護は受けることができると解されている。
規約不備組合
規約不備組合とは?
『規約不備組合』とは、労働組合法第2条の本文と但し書き1・2号を満たすが、労働組合法第5条に定める規約の必要記載事項を満たさない組合のことをいいます。
しかし資格審査の実務において、規約を定めていないほとんどの組合に補正勧告がなされ、ほぼ全ての組合がそれにほぼ応じる形となるため、規約不備組合の不利等を厳密に考慮する必要はないと言われています。
規約不備組合では認められる権利・認められない権利
規約不備組合は、労働委員会の資格審査を通過しないので、それ以後の労働組合法上の手続き上の保護を受けることができない。
しかし多く場合、前出の通り、資格審査の過程で「規約を備えるように」との補正勧告が入りそこで大方の組合がこれに応じるため、このような不利益は実際に起こり得ません。
どうせ組合を作るなら、目指すべきは『法適合組合』を作ろう!
以上を見ていただいてわかると思いますが、どうせ今から労働組合を作るなら『法適合組合』を作りましょう。法適合組合となるためのキーワードは以下の4つです。
- 構成主体は労働者である
- 自主性の確保がなされている
- 労働組合の目的が法の趣旨に合致
- 必要事項が記載された規約の具備
法適合組合たる労働組合の構成主体は「労働者」
労働組合の大前提として、組合の構成員は「労働者」で構成するのが基本です。労働組合を組織する主体は、あくまで労働者なのです(労働組合法2条)。
労組法では労働者の定義を定めています。
『この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう。』
つまりどんな職業でもいいので、賃金や給料の収入で生活しているものが労働者だ、と言っています。
しかし中には、純粋な労働者だか会社の利益を代表する者だか分からないケースもあります。これについて学説は上の労組法第3条を補う意味でも、判断基準に「使用従属関係」を用いています。その基準は以下の通りです(菅野和夫「労働法」478頁)。
- その者が当該企業の事務遂行に不可欠な労働力として企業組織に組み込まれていること
- 契約の内容が一方的に決定されること
- 業務遂行の日時、場所、方法などにつき指揮監督を受けること
- 業務の発注に対し諾否の自由がないこと
労組法にいう労働組合は、労働者が構成員の主要部分を占め、組合の活動を引っ張り、主体となっていることが必要なのです。ということは、一部学生や一般市民が参加していても問題ないということにもつながりますね。
労働組合法上の労働組合であるためには、「自主性」の確保が必要
労働組合法上の労働組合であるためには、労働者が主体となって自主的に運営していく必要があります。では、この自主性とは一体なんぞや?それは労働組合法上では大きく2つが規定されています(労組法第2条但し書き)。それは「利益代表者の除外」と「経費の援助を受けないこと」です。
利益代表者の除外
以下の人たちは会社の利益を代表する者となるので(菅野和夫「労働法」482頁より)、彼らが参加することは組合の自主性を否定される恐れがあり、「法適合組合」でなくなるリスクがあります。
- 役員(取締役・監査役・理事など)
- 雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者(人事権を持つ上級の管理者など)
- 使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接てい触する監督的地位にある労働者(労務・人事畑の管理者など)
- その他使用者の利益を代表する者(社長秘書・警備の守衛※取締的権限なく、施設の巡回・外来者の受け付け程度なら当てはまらない)
ポイントは、実体により判断されると言うこと。課長だから、部長だから、という名称だけで労働組合に入ることができる・できないと判断されるわけではありません。
経費の援助を受けないこと
これはわかりやすいですね。労働組合の運営について、会社から経費の援助を受けないことが重要であります。
しかし、最小限の事務所を貸すことや、労働組合との交渉時にその時間を有給にすることは、「経費の援助に当たらない。」
労働組合の目的が、労組法の趣旨に合致
労働組合の目的は「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること」でなければなりません。政治的運動・社会的運動をのみ目的とするものは、労組法上の労働組合とは言えません。
労組法に定める必須事項が定められた規約の具備
今まで述べた条件を満たし、かつ労組法第5条2項の各号に規定する記載事項を組合規約に定めることで、「法適合組合」となります。定めるべき規約は、以下の通りです(菅野和夫「労働法」484頁より)。
- 名称
- 事務所の所在地
- 組合員が労働組合のすべての問題に参与する権利および均等の取扱いを受ける権利
- 人種、宗教、性別、門地または身分によって組合員足る資格を奪われないこと
- 組合員の直接の無記名投票による役員選挙
- 総会の開催について
- 会計監査と報告
- 同盟罷業開始につき直接無記名投票の過半数による決定の要件
- 規約改正の要件
免責事項
当サイトは、利用者が当サイトに掲載された情報を用いて行う行為について、一切責任を負うものではありません。
法律等は頻繁に改正等が行われますので、あくまでも参考としてください。また、本サイトは予告なしに内容を変更することがあります。