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「団体交渉の拒否」という不当労働行為と戦うための基礎知識

労働組合にとって、団体交渉を要求する権利は、使用者に対する最も効果的な権利の一つと言えるでしょう。団体交渉を要求されたら、使用者は応諾義務が生じ、しかるべき対応をしなければならないからです。

しかしそのような義務があるにもかかわらず、労組法を守る意識の低い使用者は、堂々と、もしくは巧妙に、労働組合のこの権利を侵害します。団体交渉は組合にとって、問題解決のスタートでもあり、最重要の権利です。そのような権利侵害には、断固対抗するべきでしょう。

団体交渉を効果的に行使し、使用者の巧妙な権利侵害に素早く気づくためには、団体交渉についての基礎知識を知ることが有効です。基礎知識として考えられるものは、「条文の知識」と「裁判例の知識」です。当ページで詳しく説明していきましょう。

皆さんがいざ団交拒否に遭遇した場合、後手に回らず堂々と団交拒否を糾弾できるように、当ページで詳しく基礎知識を説明していきましょう。

労働組合法第7条の言及する「団体交渉の拒否」を詳しく知ろう

団体交渉拒否という不当労働行為の種類と、成立の要件

 団体交渉拒否という不当労働行為は、「正当な理由なき団体交渉拒否」と「不誠実団交」の2つに分けられます。

 詳細は後述しますが、どちらにしろ、労働組合法第7条の示す通り

 『使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと』

 によって、使用者の不当労働行為が成立するのです。

 読んで文のごとく・・と言っても、”使用者”とはどこまでが使用者か?という問題と、”労働者の代表者”とは誰のことか?が実は重要であります。以下で触れてみます。

労組法7条2項が言う、”使用者”とは?

 原則としては、会社が自ら雇用する労働者のみに対して、団体交渉に応じるべき義務を負います。

 しかし今日の雇用形態は、請負・派遣・子会社出向など、様々な種類のものがあります。会社が直接雇用する労働者だけにしか団交に応じる義務が無い、と杓子定規に割り切っていたのでは、多くの弊害を産むことになりかねません。

 この点について、裁判の判決文を挙げておきましょう。また、団体交渉に応諾義務を負う「使用者」の範囲を知ろう! で各使用者の形態ごとに書いておきましたので、そちらも参照になさってください。

 今日の労働紛争の現場では杓子定規に決めるのではなく、実質的に労働者に影響を与える場合、その者を”団体交渉に応じるべき使用者”と認めるスタンスを取っています。

 『労組法七条にいう「使用者」とは、被用者を使用してその労働力を処分する者、すなわち自らの権限に基づき労務を適宜に配置・按配して一定の目的を達せんとする者であるから、雇用契約上の雇用主の他にも、被用者の人事その他の労働条件等労働関係上の諸利益に対しこれと同様の支配力を現実かつ具体的に有する者をも含む』【横浜地裁昭和47・10・24判決】

 『被上告人(訴えられた元請放送会社のこと)は、実質的にみて、請負三社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件について、雇用主である請負三社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったというべきであるから、その限りにおいて、労働組合法七条にいう「使用者」に当たるものと解するのが相当である』【最高裁平成7・2・28判決】

労組法7条2項が言う、”労働者の代表”とは?

 7条が指摘する”労働者の代表”とは、「雇用する労働者を代表する労働組合」を意味します。

 具体的に言うと、日本国憲法第28条の予定する労働組合あり、労働組合法第2条の要件を満たし、労働組合法第5条の要求する規約を備えたもの、だと捉えられています。

 ですから労働組合を作る時は、労組法第2条の要件をしっかり理解し、労組法第5条の要求する規約をぬかりなく規定しないといけませんね。

正当な理由なき団体交渉拒否とはどんな場合か?

 労働組合の団体交渉の要求に対して、使用者が理由もないのに要求を拒否することは、正当な理由なき団体交渉拒否として、不当労働行為となります。

 団体交渉の拒否が許されるのは、以下の場合くらいでしょう。

  • 労使双方が真摯に話合いを繰り返し、使用者側としても組合の提示する条件に歩み寄る案を提示したが組合が全く聞く耳を持たず、これ以上話し合っても進展が無いな状態に陥った時
  • 使用者が組合の団体交渉を要求する時期に、どうしても忙しい場合

 ・・・はたして以上に挙げた事情をもって団体交渉を拒否している使用者がどれくらいいるでしょうか?

 ほとんどの使用者が、労働組合の活動を嫌悪して拒否しているのが現状です。

 ですから、団体交渉を拒否してきた場合は、使用者に拒否した理由とそれを示す証拠を提示させます。それすらしない場合は当然不当労働行為として労働委員会に救済を申し立てるべきです。

 使用者が説明・提示した拒否理由について疑念がある場合も厳しく追及します。団体交渉拒否対してこちらの毅然とした態度を見せ付けることは、これからの交渉で相手の真摯な態度を呼び起こす布石となるのです。

労組法第7条2号の「不誠実団交」とはどんな場合か?

 先ほども申しました通り、労働組合法第7条2号では、正当な理由も無いのに労働組合からの団体交渉の要求を拒否することが禁じられています。

 2号では、誠実に団体交渉に応じるべき、というように明確に定められているわけではありませんが、使用者の誠実交渉義務が含まれていると解されています。

不誠実団交の裁判例

 使用者の誠実交渉義務を定義した裁判例がありますので見てみましょう。

 『・・・使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定(労組法第7条2号)により団体交渉の拒否として不当労働行為となる・・・』

 『・・・使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その根拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある・・・』【東京地裁・平成元年9・22判決】

 つまり何を示しているのかと言いますと、「労働組合が正当な権利を要求して団体交渉をしてきて合意達成を努力している以上は、使用者の方にも誠実な対応を通して合意達成の道を探る努力をする必要がある」ということを示しているのであります。

 では、この考え・定義をもとに、どんな場合が不誠実団交にあたるかを挙げてみましょう。

このような場合は不誠実団交となる

団体交渉の交渉権限の無い者を出席させる

 団体交渉の場に交渉権限の無い者を出席させ、その者は単に組合の要求の伝言役になり下がっている場合。これでは労働組合の要求など通るはずもなく、合意もあり得ないでしょう。

合意達成は絶対にあり得ないと断言しての交渉態度

 労働組合との交渉において、使用者側の交渉担当者が話合いをする前・話合いをしている間中又は話合い後も、「合意することはあり得ない」という態度で交渉に臨むこと。これでは、合意達成に誠実に努力しているとは言えない。

労働組合に対する回答について、なぜそのような回答となったのか説明しない。説明する時の資料の提示もなく、根拠も示さない

そもそも労働組合の要求に対する回答すらしない

合理的でない回答・拒否回答ばかりにこだわり、労働組合の話を一切聞こうとしない

 会社がそういう態度を取るということは、「双方合意できる道を模索しよう」と真摯に考えていないことになります。この例は多くの場面で見られます。使用者は交渉の場に出席すればいい、というものではありません。

たがいに合意したのに、使用者側が合意内容を文書にしたがらず、したとしても署名したがらない

 双方合意の内容は、文書にして労働組合と使用者双方が署名しないと法的に拘束力を持たないと言われています。

 合意内容を文書にしたがらない、又は文書にしたとしても署名したがらない、というのは、使用者に、いざとなったら合意内容をひっくり返すハラがあると考えられます。

 このような行為は、せっかく結んだ合意の意義を失わせる可能性があるので、合意したのに書面化を拒否することや、署名をしないことは不誠実団交とされ、不当労働行為となります。

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