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使用者の応じるべき団体交渉事項を知り、団交拒否に備える!

不当な団体交渉拒否が後を絶ちません。労働組合・会社にとって、団体交渉は問題を解決するうえでの最も大事な機会だと言えます。しかし団体交渉拒否は、その機会を無残に奪う愚挙です。

団体交渉拒否をする会社の言い分は、どこから出てくるのでしょうか?狡猾な使用者は、団体交渉に応じる必要のない事項を勝手に拡大して解釈し拒否の言い分としているのです。このような身勝手な言い分による団交拒否をどのようにして打開すべきでしょうか?

その解決策として、労働組合の運営者が、「使用者が団体交渉において必ず応じなければならない事項」を明確に理解すること、が考えられるでしょう。そうしておけば、会社が団体交渉拒否をしてきた場合に、法律の基準をもって強く反論することができます。

このページでは、「使用者が団体交渉において必ず応じなければならない事項」とそうでない事項を整理していきたいと思います。

団体交渉の対象となる事項と、”義務的な”団体交渉となる事項

 「団体交渉となり得る事項」と、「使用者が団体交渉に応じなければならない事項」の範囲とは、必ずしも同じ範囲となりません

 ある事項が義務的な団体交渉事項となるか否かは、労働組合法や日本国憲法が団体交渉権を定めた目的から判断していくことになります。それらの目的とするところは、「労働問題の当事者間での自らの解決」であります。

 使用者が応じるべき義務的団体交渉については、労働組合法上には明確な定義はされていません。そこで代表的な判例から一部抜粋して見てみましょう。

 『・・・すなわち義務的団交事項とは、団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの・・・』【東京高裁・平成19・7・31判決】

 このように定義されるならば、経営事項・生産の管理事項・人事事項については義務的な団体交渉にはならない、と言われます。しかしそれらであっても、それが労働者の労働条件等に深くかかわってしまう場合は、使用者に義務が生じる団交事項となります。

 よく使用者側が、『経営権』『人事権』なる理屈をもって団体交渉に応じない理由を主張する場合がありますが、そんな団交を逃れ得る権利が使用者にもとから認められているわけではなく、またそういう区切りで団体交渉に応じるべき事項とそうでない事項とを単純に区切るべきではない、というのが学説の主流でもあり、実務の主流でもあります。

 ですから、一概に線引きが出来ない、という事になります。その事項が義務的な団交事項になるか否かは、「各個の例に沿って個別に判断」という感じになるのです。

 ・・・以下で、各事項ごとの義務的団体交渉事項となり得るものを見てみましょう。

基礎編:義務的な団体交渉事項とはどんなものがなるのか?

 団体交渉の対象事項となる労働条件や待遇は、以下のものが挙げられるでしょう。

  • 賃金・退職金
  • 労働時間
  • 休日・休暇・休憩
  • 労働安全衛生・労働災害対策
  • 教育訓練・業務上指導体制

 これらの事項は、義務的団体交渉事項になることは、容易に想像できると思います。これらの事項はすべて、改善されれば労働者の方が仕事をしやすくなったり、生活が安定したりするものばかりですね。

 労働組合とは、労働者の職場での安全と待遇の向上を図り、より有利な権利・待遇を求めるものであることを考えれば、想像がつくものばかりです。しかし、以下のセクションでは、義務的団体交渉事項になるかどうかわかりにくい事項が並んでいます。今から説明していきましょう。

応用編:義務的な団体交渉事項かどうかわかりにくい事項

組合員以外の労働条件は義務的な団体交渉事項となるのか?

 交渉の対象となるのは、基本的に組合員のみの事項となりますが、組合員以外の労働条件等にも交渉の義務が及ぶ場合があります。

 その場合とは、非組合員に対する労働条件の決定事項が将来組合員にも大きな影響を及ぼす場合であります。この例を判示した裁判例があります。先ほど例で挙げた【東京高裁・平成19・7・31判決】であります。

 『非組合員である労働者の労働条件に関する問題は、当然には前記団交事項にあたるものではないが、それが将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件との関わりが強い事項については、これを団交事項に該当しないとするのでは、組合の団体交渉力を否定する結果となるから、これも前期団交事項にあたると解すべきである』

 ・・・この裁判のケースとは、新卒者の初任給基準の引き下げについて、基準引き下げが労働組合に対する支配介入であり、第2回目の交渉に不誠実団交があったとして、労働組合が救済申立・提訴・控訴したものでした。

 東京高裁は、労働組合に対する使用者側の支配介入については否定し、団交拒否の不当労働行為は認めました。その判決文の中で、組合員以外の事項も場合によって義務的団体交渉事項になることを示したのです。

経営・人事に関わる事項については?

 会社の再編、工場・職場の移転、生産方式の変更などは、一般的に経営に関する事項とされ、会社は団体交渉の対象事項となり得ない、と主張します。

 また、労働者の配置転換、人事異動、人事考課など、人事に関わる事項については、会社は人事権の問題として団体交渉拒否をしがちであります。

 果たして、会社の主張することは正しいのでしょうか?

会社の経営的な事項は義務的な団体交渉事項となるのか?

 裁判では、会社の経営上の決定が労働者の労働条件に関わってくる場合は、経営に関する事項といえども義務的団体交渉事項になる、と数多く判断されています。

 例えば、経営合理化のための事業の一部を請負に出すことは、それによって職場変更など組合員の労働条件が変わることになるので、その限りにおいて団体交渉事項となります【名古屋地裁・昭和38・5・6より】。

人事に関わる事項は義務的な団体交渉事項となるのか?

 人事に関する事項は、組合員の労働条件・その他の待遇に関する事項であるならば義務的な団体交渉事項となります。学説・裁判例もこの傾向を支持しています。

 そうであるならば、会社が人事権を盾に人事権であるだけで団体交渉を拒否することは、根拠が無いということになります。

 ただ、その会社で人事に関する苦情処理の制度が確立されている場合、そちらに先に申し出るべきでしょう。なぜなら、学説・裁判例が人事権を義務的な団体交渉事項であるとして支持する理由は、我が国の企業内で苦情処理の自治が立ち遅れている現状を鑑みているからです。

組合運営に関する事項については?

 上記の他に、義務的な団体交渉となる事項として、労働組合運営に関する事項が挙げられます。その内容とは、以下に挙げられるものがあります。

 代表的なものとして、「ショップ制に関する事項」、「団体交渉・争議行為の手続き」などが挙げられるでしょう。

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