トップページ労働組合・ユニオンを活用してブラック企業と戦う!>団体交渉に応諾義務を負う「使用者」の範囲を知ろう!

団体交渉に応諾義務を負う「使用者」の範囲を知ろう!

派遣や業務請負、パートアルバイトの増加と、権利意識の向上により、団体交渉をする上で、新たな問題が発生しています。その一つが、「どこまでの使用者が、団体交渉応諾義務を負う使用者であるか?」という問題です。

悪質なブラック企業の経営者は、我は応諾義務を持たない使用者なり!とうそぶいて、誠実に団体交渉に応じようとしません。そのような理不尽は、ほうっておくわけにゆきません。

当ページで応諾義務を持つ使用者を明確に説明することで、うそぶく不誠実な使用者に皆さまが対抗するための一助となりたいと思います。問題となる会社は、以下の4つが考えられます。

  • 労働者が解雇された後の、解雇した会社
  • 派遣先会社・元請会社・買収を行った投資ファンド・フランチャイズ会社
  • 親会社
  • 労働組合をつぶす意図をもって、会社をいったん解散した会社

これらの会社の元で働く労働者を、現実的に支配している経営者・社長等は、団体交渉に応じるべき「使用者」となるケースがあります。以下でそれぞれの形態について説明しましょう。

労働者が解雇された後の、解雇した会社の場合

解雇した会社は、解雇された労働者の属する労働組合の団体交渉を受けなければならない

 労働者が解雇された場合、使用者と労働者は雇用関係が無くなります。その場合であっても、解雇した使用者は、団体交渉に応じるべき使用者になります。

 時々、解雇した会社が「その人は先日解雇したのでもはや我が社とは関係ない。よって団体交渉を受けなくてはならない義務は消えた。」と居直るケースがあります。

 しかし先例たる労働委員会の命令によると、解雇した会社は、解雇された労働者が属している労働組合からの団体交渉に対しては応じなければなりません。

 労働者が解雇された後に入った労働組合であっても、使用者は団体交渉に応じなければならないのです。この判断は有意義な判断であると思います。

 なぜなら、解雇された後に組合の力でもって解雇を争う労働者の多くは、解雇された後に慌てて外部の労働組合に入って争うケースが多いからです。

解雇後団体交渉のなかった期間が長いと、使用者の交渉応諾義務が消えることも・・・

 解雇後長い期間団体交渉も行われずに放置されていた場合は、使用者が団体交渉に応じるべき義務が無くなる、という労働委員会の命令がありました。

 ”長い期間”とはどのくらいの期間を言うのでしょうか?

 この命令の元になった事件においての団体交渉が行われなかった期間は、おおよそ10年でした。もっとも、10年たっていても使用者の団体交渉に応ずべき義務が消滅しなかった例もあります。

 何はともあれ、解雇されたり退職した後に労働組合を利用して会社と闘おうという人は、早めに行動した方がいいでしょう。その姿勢が、証拠の収集のしやすさなどの解決に有利な状況を生み出す元になるのです。

派遣先会社・元請会社・買収を行った投資ファンド・フランチャイズ会社の場合

派遣会社・元請会社

 労働者を供給元から受け入れている会社(派遣先元請)では、受け入れ労働者の労働条件等を現実的に決定しているなど、受け入れ労働者を管理上支配していると認めれる場合には、団体交渉に応じるべき「使用者」とされます。

 裁判例を見てみましょう。

 このケースのリーディングケースたる朝日放送事件では、『基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合』は、団体交渉に応じるべき使用者にあたるとしました。

 派遣や請負の社員として働いている方は特にイメージが湧きやすいと思います。多くの場合、派遣社員や請負社員の皆さんの給料を具体的に決定しているのは、働き先である会社がほとんどであります。

 形式的にそれらの労働条件を派遣元や下請会社が決めていることになっていいようと、実際の決定権が働いている先の会社の影響で決定されている場合は、団体交渉に応じる義務を免れません。”形式的”ではなく”事実上の状態”を重視します。

フランチャイズ会社・会社を買収した投資ファンド

 フランチャイズ会社と、会社を買収した投資ファンドの場合も、同じ様に考える、と言われています。

 フランチャイズや投資ファンドの名前に惑わされず、それらが実際にそこで働く従業員の労働条件の決定に影響を与えているなら、団体交渉に応じるべき「使用者」となるケースがあるのです。

親会社の場合

 一体どのような場合に親会社が子会社の労働組合の団体交渉の相手方になるのかは、明確には定義できない、というのが現状であります。

 しかし現実には、親会社が子会社の労務管理に口を出すことを十分考えられる事でしょう。

 平成8年に持分会社が解禁される時、親会社が子会社の労働紛争に介入する事態を想定した報告書がまとめられましたが、そこでも一定の基準を設けることは困難である、と報告されました。

 しかしそれ以後厚生労働省は、裁判例や労働委員会の命令を参照にして、以下の場合には団体交渉に応じるべき使用者と判断される可能性が高い、というめやすを取りまとめました。

  • 持株会社が何度も子会社の使用者と労働組合の会議に参加している場合
  • 子会社が、労働組合との話し合いの末の妥協点や、子会社の労働者の労働条件の決定について、親会社たる持分会社の同意を得なければならないという場合

 ・・・確かに、このような場合ですと実質的な使用者は親会社であり、子会社の労働組合が子会社の経営陣と話しても効率が悪いことになります。厚労省のこのとりまとめは、現実に即した有意義なものとして、下部機関たる労働委員会の救済命令等に反映してもらう事を願ってやみません。

労働組合をつぶす意図をもって、会社をいったん解散した会社の場合

 「そんなことってあるの?」と思うかも知れません。でも、こういう理不尽な対抗措置を多くの会社がしているので、労働法上でも問題点として挙げられるのです。

 私が若いころある会社に面接に行った時、労働組合結成禁止を誓約させられ、「作った場合は会社を解散するぞ」と脅された経験があります。

 組合つぶしのための解散は、法令を軽視する使用者にとっては、何も奇をてらった戦法でもないのです。

 さて、このような労働組合を消滅させる意図をもって会社を解散し、再び解散前と同じ状態で再び事業を始める事を「偽装解散」といいます。

 偽装解散をした会社は、団体交渉に応じるべき使用者となるのでしょうか?

 実務的には、解散した会社が解散前とほぼ同じ形態で事業する場合には偽装解散とみなされて、再び事業を始めた会社に団体交渉に応じる義務が生じるのです。

 では、真に会社を解散してしまって会社清算手続きをしているような本格的な会社解散の場合はどうでしょうか?

 その場合は、以前の会社の経営者ではなく、会社の清算手続きをしている清算人(弁護士など)に対してしか団体交渉をできないことになります。

 例え解散をした理由が労働組合を消滅させるためになされたものであっても、解散手続きの清算を伴うような真に解散の手続きを踏むような本格的なものである以上、以前の使用者に団体交渉を強制出来ないのです。

免責事項

 当サイトは、利用者が当サイトに掲載された情報を用いて行う行為について、一切責任を負うものではありません。

 法律等は頻繁に改正等が行われますので、あくまでも参考としてください。また、本サイトは予告なしに内容を変更することがあります。