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兵法的戦い方(3):会社と戦うための準備をする

「兵法的戦い方」の第三段階である、戦うための準備の内容・作業順序・方法を説明します。

ブラック企業に比べ経済的資力に乏しい労働者は、労働紛争に時間をじっくりかける余裕など無いのが一般的です。目的を達成するまでの準備・作業・手続きは、効率的に行う必要があります。

特に、本戦に入るまでの「準備」にばかり時間をかけていると、集めるべき証拠が集められなかったり、自身の戦い意欲が薄れるリスクが生じます。戦うことを決意したならば、準備は効率よく早く終わらせ、戦いの中に身を置くと、割と戦意を維持しやすくなります。

このページでは、ブラック企業と戦うにあたり、しておいた方がよいであろう準備の内容を紹介し、各準備について説明していきます。

「兵法的戦い方(2)」の経済的見通しを立てる作業も、一種の準備となりますが、「兵法的戦い方(3)」で述べる準備は、より戦いに直結した、直接的な準備です。

「兵法的戦い方(3)」の作業に取り掛かり始める辺りから、いよいよ戦いが迫ってきたこと実感できるようになります。場合によっては会社に請求する作業も必要となりますので、しっかりと取り組んでください。

ブラック企業と戦うにあたり、しておきたい準備とは?

 準備とは一体どのようなことをするのでしょうか?会社と戦うためには、主に以下の4つの準備が必要となります。

  • 「違法性の判断」と「争点の明確化」をする
  • 証拠を集める
  • 労働法(必要ならば民法も)の中で、当該紛争に関連する箇所を勉強をする
  • 協力者をできる限り作っておく

 これらは、できるかぎり会社と本格的な戦闘状態になる前にしておくべきことばかりです。証拠を集める作業は、行動段階、つまり会社との戦いと交渉の中でしか手に入れることができないものもありますが、そうでない証拠はやはりこの準備段階でしておきます。なぜなら、戦闘状態になってからでは相手の警戒心の高まりにより手にすることができない証拠もあるからです。

 では以下でこの4つの準備について、少し詳しくお教えしましょう。準備についてより深く知りたい方は、このページを読んだ後に、ブラック企業と戦うための準備 を参考にしていただくと良いでしょう。

各準備の内容と具体的な仕方を詳しく知って、動き始めよう!

 各準備段階で何をするか?自分の紛争においてはどのように各段階を当てはめていくか?は、具体的な事例で説明した方が分かりやすいものです。

 このページでは、賃金を大幅にカットされた労働者Aさんの「一方的な不利益変更」の例を題材にして説明していきましょう。以下に事例の詳しい内容を挙げます。

【事例詳細】

 AさんにB会社から突然辞令が手渡された。その内容は、現在の賃金を20%カットすること。Aさんは非常に困ったが、会社の方針や決定事項に対して意見を言う者に対して容赦ない制裁を加える経営者の人柄を恐れ、しばらく何も言えずにいた。その一か月後、多くの労働者が同じような仕打ちを受けていることを知り、意を決して彼らとともに組合を結成の準備を進め、不利益変更を撤廃するための戦いを水面下でし始めた。

 4つの準備に取り組む前に、当該労働者が掲げた最終目的を見てみましょう。この労働者は、「会社が一方的に行った賃金の不利益変更を改めさせて、元の賃金額に戻したい。そして撤回させるまでの期間少なかった賃金と元の賃金の差額分もまとめて請求したい。」というものでした。

 最初に最終目的を確認することは大変重要です。紛争最中は予期せぬこと・使用者からの詭弁や屁理屈・他の一般事例の争点と自身の紛争の争点の誤った同一化による混乱等で、目指すべき方向性を違えることがあるからです。

 最終目的を確認したら、いよいよその目的を達成するための具体的な準備をし始めるのです。

「違法性の判断」と「争点の整理」をする

 この「違法性の判断」と「争点の整理」は、労働法に詳しくない我々労働者にとっては、分かりにくく複雑で、難しい作業なのです。この作業を完全にするためには、各事例ごとのポイントを知っておく必要があります。そのようなポイントを律家でもない私達が知っておくことは、難しいことですし、厳密に知っておく必要もありません。ではどうするべきでしょうか?

 ここで専門家に相談します。専門家に相談・・・と言っても、弁護士に相談するわけではありません。弁護士は相談料が高く、相談者目線に下げられない人がたくさんいます。そうでない弁護士ももちろんいますが、そのような専門家を捜している時間はないでしょう。知り合いに労働トラブルに明るい弁護士がいるならば別ですが、そうでない場合はどこに相談したらよいでしょうか?

 そこでおすすめなのが、労働基準監督署の総合労働相談所です。こちらですと労働問題に明るい専門家(元人事担当者・社会保険労務士など)が無料で丁寧に相談にのってくれます。また、ここで相談した内容は監督署内に記録として残ります(こちらが望まなければ、監督署は相談があったことを会社に知らせることはありません)。法テラスや労働組合の無料相談コーナー、労政事務所もおすすめです。

 専門家に相談する点で心の留めておきたいポイントを挙げておきましょう。

  • あなたの抱えている紛争内容を包み隠さず話すこと。あなたにとって有利だと思わることも不利だと思われることもしっかりと話すことです。そうすることで、精度の高い回答が得られます。
  • 辞令や給料明細・就業規則・あなたがメモしたノート・録音したボイスレコーダーのデーターなどの資料は整理して持参することです。私達には、どの資料が紛争を有利に導くものであるか判断することはできません。勝手に判断せず、とりあえず全部見せることです。また、紛争に対するこちらの真剣度を専門家に感じさせることもできます。
  • 相談を受けてもらう専門家を「良き協力者」とみなして心を開き、友好的に相談時間を過ごすことです。専門家も人間であり、友好的に接してくる相談者に対しては、より一層心を込めて接してくれる可能性が高くなります。
  • こちらの友好的な相談態度に対して、自身のプライドを捨てきれず、こちらの意向も無視して己の経験を押し付けたり、上から目線で説教するような専門家であるならば、早々に退席し、次の専門家のもとに相談に行くことです。このようなタイプに相談しても、時間の無駄です。

 もちろん、違法性の判断と争点の整理をあらかじめ自分でしておくことも有益です。

 この作業をすることで、自身の抱える紛争にかかわる法律や過去の類似裁判例について、新たな知識を得ることができるからです。

 ふたつの作業を専門家に相談する前に行えば予習にもなり相談時間が有用なものになるでしょう。相談後に行えば相談自体が予習となり、ふたつの作業をする時に専門家からアドバイスを受けた内容が思い出され、作業がより容易になるでしょう。

 では以下で、自分で違法性の判断と争点の整理に取り組むためのポイントを説明しておきましょう。

違法性の判断から始める

 まずは違法性の判断をしましょう。あなたのされた行為に違法性がなければ、そもそも権利を主張することもできません。

 明確に違法性が確認されなくてもいいでしょう。過去の裁判例・行政通達等を参考にして、あなたの事例を似通ったものを捜します。

 前掲の事例をもとに話を進めましょう。賃金の20%カットを労働者の同意なく一方的に行ったことには、違法性が存在するか否か?

 このような大幅な賃金カットの場合、会社側に賃金カットに踏み切らざるを得ない事由が多少存在していたとしても、労務指揮権の権利濫用だとして無効となるケースが多いのです。まして会社は、Aさんの同意もなく一方的にカットを強行しています。

 この事例は、典型的な「一方的な不利益変更」の例だと判断して良いでしょう。違法性を主張し、行為を撤回させるための戦いを開始することは十分できるでしょう。

違法性が存在する、もしくは存在する可能性が高いと判じたら、当該事例の争点を明確にする。

 ある程度の違法性の判断がし終わったら、あなたの事例における争点を明確にします。

 労働紛争の場合、会社側はこちらの主張する内容になんらかの形で反論してくるものです。違法性を消してしまうような理由を主張し、反論してきます。両者の主張の食い違う点が争点となるわけです。

  • (労働者)「今回の○○という行為については、○○だから違法であり、無効だ」
  • (会社側)「いや、○○という行為については○○だから違法性は無いから有効である」

 前掲の事例を題材にして考えてみましょう。この事例ではどの点が争点となる可能性があるでしょうか?両者の争いの過程を見つつ、争点を浮き上がらせてみましょう。

 労働者Aさんは、賃金20%カットという行為を、一方的な不利益変更だとして無効を主張します。

 それに対してB会社は、「一方的ではない。賃金減額の辞令を事前に発し、それについてAさんは何も反論しなかったから変更について合意があった。」と反論します。労働契約法第8条『労働者および使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。』を持ち出し、「法律にも定めてある。合意もあった。だから今回の賃金減額に違法性はない。」と主張するのです。

 これに対してAさんは、労働契約変更に必要な「合意」とは、「黙示の合意」ではなく労働者の自由な意思による「明示の同意」が必要だと反論。過去に、辞令に反論した労働者に対する過酷な嫌がらせを行ってきたB会社の前例を持ち出し、同じような嫌がらせを恐れて辞令に反論できなかった、と主張します。

 ・・・つまり、前掲の事例における争点とは、こういうことです。

 「『黙示の合意』は、労働契約法第8条で定めるところの『合意』として認められるか?『黙示の合意』となってしまった経緯と照らし合わせて、どのように判断されるか?」ということです。

 違法性を打ち消してしまうような相手方の主張を否定し、こちらの主張を話し合いの場や公的機関の紛争解決機関で認めさせるために、裏付けとなるべき証拠を集めるのです。

証拠を集める

 あなたの紛争において集めるべき証拠は、どのようなものでしょうか?各事件ごとに必要となる証拠は変わってきますが、紛争形態によって、おおよそ集めるべき証拠が決まってきます。

 集めるべき証拠を知るには、過去の裁判の判決文を見ると分かります。しかしいくつも判決文を見ている余裕などありません。

 そこで、必要な証拠を知るための一助となる本を紹介しましょう。「労働事件審理ノート第3版」です。労働事件に携わる弁護士・労働審判員向けに書かれた書籍ですが、文面はわりと平易で、法になじみのない私達にも分かりやすい良書です。

 当書籍には、民事訴訟の基本概念を簡単に説明し、その後典型的な各紛争事件について詳細な説明が施されます。取り扱っている事件の種類は以下の通りです。

  • 解雇に伴う地位確認等の請求をする事件
  • 配転命令の無効の確認を請求する事件
  • 地位降格・賃金減額等に伴う賃金請求事件
  • 解雇予告手当請求事件
  • 時間外手当請求事件
  • 退職金請求事件

 各紛争における提出すべき証拠を紹介しましょう。

解雇に伴う地位確認等の請求をする事件

雇用契約書
解雇通知書
解雇理由証明書(退職時等証明書)
就業規則
賃金規程
労働協約
給与明細書
商業登記簿謄本
会社の貸借対照表・損益計算書(整理解雇に関わる訴訟の場合)

配転命令の無効の確認を請求する事

雇用契約書
配転命令を記した辞令
労働協約
就業規則
配転に応じる旨を示した誓約書

地位降格・賃金減額等に伴う賃金請求事件

賃金額を証明する証拠(労働条件通知書・給与明細書など)
就労したことを証明する証拠(タイムカード・出勤簿・賃金台帳など)
会社に懲戒権があることを証明する証拠(就業規則・懲戒処分の辞令など)

解雇予告手当請求事件

雇用契約書
解雇通知書
解雇理由証明書
解雇前3か月分の給与明細書

時間外手当請求事件

雇用契約書・労働条件通知書・求人票
給与明細書
就業規則
タイムカード・出勤簿
日記・日誌・エクセルで作成した時間外労働した時間の一覧表

退職金請求事件

労使慣行が争点の訴訟の場合は、過去の支給実績を示す書類
退職事由が争点の訴訟の場合は、解雇理由証明書(退職時等証明書)
賃金額が争点の訴訟の場合は、給与明細書
支払の有無・支払い額が争点の訴訟の場合は、振込先の通帳

労働法の解説書の中で、当該紛争に関連する箇所を勉強をする

 会社と人生の貴重な時間の一部を費やして戦う以上、あなたが向き合う労働問題にかかわる法律を学んでおくことは、とても重要なことです。

 労働紛争は、決して他人任せで解決できるものではありません。弁護士に依頼する場合であっても、あなたの行動は必要となります。労働組合に加入して戦う場合は、あなた自身が積極的に組合仲間と交渉等に参加することで、事態は前に進むのです。

 その場合に事前に己の抱える紛争に関わる法知識や裁判例を知っておくことは、紛争自体を自分で操り、手中に収めることにつながり、専門家に頼む場合でも彼らの言いなりを避け、心に従った決断をすることを可能にしてくれるのです。

 当サイトがおすすめする事前の勉強のための書籍は、「労働法」【菅野和夫・法律学双書】です。

◆労働法違反・労働基準法違反の解決に役立つ書籍を紹介を参照。

 総ページ数800ページにも及ぶ労働法の代表的な専門書であり、外観の分厚さに圧倒されるかもしれませんが、私たちは該当箇所だけにしぼって反復して読む程度にとどめておけばよいでしょう。「労働法」には、基本知識が詳しく説明されています。裁判例も多数掲載されています。

 本文中に出てくる法律の条文は、ぜひとも六法で確認してください。最近はインターネットにも条文の掲載がされています。それらを参考にするのも良いでしょう。裁判例も、現在はインターネットに掲載されています。あなたの紛争に関わる該当ページに頻繁に取り上げられている裁判例は、裁判官が紛争を処理する上で参考にする「前例」となっています。重要なものであり、会社側の弁護士も当然に知っているものであるので、目を通しておくことをお勧めします。有名な裁判例であれば、インターネット上に掲載されています。

協力者をできる限り作っておく

 事前に協力者を得ることは、会社にとどまりながら戦い続けることを可能にする点において、大変重要な要素となります。

 例え証拠が揃っていても、例えあなたが紛争に関係する労働法の知識に詳しくても、在職中の会社の嫌がらせや圧力に屈してしまったら、無に帰してしまいます。

 「協力者」と書きましたが、協力者の形態にもいろいろあり、ともに戦ってくれるくらいの、強力な協力者を得ることは大変難しいのが現状です。

 戦う場合において私たちは得るべき協力者は、「戦っている最中に、表には出さないが、心の中で理解をしてくれている協力者」です。そのような協力者であれば、得ることは不可能ではありません。

 戦う決意をした場合、協力者になってほしい同僚に以下のような趣旨の思いを伝えるのも有効です。

 「会社と戦うが、このことについて理解をしていて欲しい。表だって協力を求めればあなたにも迷惑がかかってしまうので、心の中であたたかく見守っていてほしい。会社に嫌がらせの同調を求められたときも、心の中では味方であっていてほしい。」

 つまり、同僚らに協力を依頼するときは、以下の3点を提案するのです。

  • 会社に目を付けられるような協力を要求することは一切しない
  • 心の中では今回の行動に理解をしていてほしい
  • 会社の目の届かないプライベートでは今まで通り交流してほしい

 心の中で分かってくれている同僚がいる、という事実があるだけで、紛争最中の精神的な負担量が大きく変わってきます。陰での協力を取り付けた知人が、復職後の会社からの嫌がらせを、同僚らの精神的な支えをもって跳ね飛ばした例を知っています。

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