就業規則変更で不利益変更された場合の戦い方(基礎編)
ブラック企業が就業規則の変更によって労働条件を不利益変更した場合の戦い方を説明するページ。このページでは、戦うための基礎知識について説明。
就業規則の不利益変更による労働条件の切り下げとは?
就業規則の変更に伴う労働条件の切り下げは、自由に行うことはできない
就業規則の変更に伴う不利益な変更の具体例を以下で軽く挙げてみましょう。
- 賃金規程が変更され、それに伴い基本給が減額された
- 退職金規程が変更され、それに伴い退職金の予定額が減った
- 就業規則が変わると同時に、年間休日が大幅に減った
- 就業規則の変更に伴い、一日の所定労働時間が増えた(基本給の額自体に変更はないのに)
- 育児・介護・生理日休暇規程が変更され、今までは休暇中は賃金が支払われていたのに、変更により支払われなくなった
これらはあくまで一例であり、これらの他にも多くの労働条件の「切り下げ」があります。
そもそも就業規則は、使用者の意思で一方的に変更出来るのでしょうか?これについては、裁判例で確立された考えが作られ、その精神が労働契約法でしっかりと条文化されました。
簡単に言うと、「変更には労働者の合意が必要である。しかし変更後の就業規則を労働者によく見せ、その変更内容が労働者が不利益を受けるのもやむを得ない合理的な内容ならば、有効である」という考え・スタンスです。
労働者に不利益を強いてもやむを得ない合理性、とはどのような基準をもとに考えるのか?
そうなると、次はその「合理性」の判断でしょう。いったい何を基準にして合理性だと言えるのでしょうか。多くの裁判の中で、以下の要素が挙げられるようになりました。
- 就業規則の変更によって、労働者が被る不利益の程度の度合い
- 会社側が就業規則の変更をする必要性は、労働者が不利益を強いられるのにふさわしいか
- 変更後の就業規則の内容そのものの相当性で判断
- 就業規則の変更に伴い、それを補う代替措置をとっているかどうか
- 労働組合・労働者代表との交渉の経過は、しっかり行われているか
- 就業規則の変更事項に関する我が国・同程度会社における一般状況で判断する
・・イメージが湧きにくいと思いますので、各判断基準を以下で詳しく説明していきましょう。
「就業規則による不利益変更の合理性」の各判断基準をここでおさえよう!
就業規則の変更によって被る労働者の不利益の程度の度合い、に着目して判断
労働者が受ける不利益の内容や程度が過酷であると、その理由だけによってのみ変更が無効だと判断されやすくなります。
つまり、あまりに過酷な不利益変更は、会社に過酷なハードルを与えることになるからです。それに見合った必要性が要求されるからです。
【具体的事例】 有利な変更と不利な変更が一体となっておこなわれた場合は?
よくあるパターンですね。不利益な変更だけでは労働者の反発や、後のトラブルでの言い逃れができないため、有利な変更と一体となって行われることはよくあります。
この場合は、有利変更と不利益変更を一つとみて、総合的に有利か不利となるか、で判断します。全体的にみて不利となったならば、そこではじめて不利益の程度を見ていきます。
会社側が就業規則の変更をする必要性は、労働者が不利益を強いられるのにふさわしいか
この基準についてですが、会社は裁判等になると経営上の様々な必要性を打ち出してくるため、当基準によって変更が不当である、とされたことはあまりないと言えます。
しかし、労働者にとって重要な個所を変更してしまう就業規則の改定は、それ自体が無効とされやすくなります。
労働条件の中でも特に重要だと言える、賃金・退職金などについては、かなり高い必要性を要求される、というのが裁判例の考え方です。
変更後の就業規則の内容そのものの相当性で判断
変更後の内容そのものが問題となることは、裁判では少ないようです。基本的に、社会一般の水準が適用されるようです。
変更後の内容というより、その変更の動機が重要視されることがあります。
必ず守らなければならない法律の定めに反している、とか、その変更自体が報復的な意味を持って行われた場合に、無効となるケースがあります。
就業規則の変更に伴い、それを補う代替措置をとっているかどうか
不利益変更に伴って、それを補うために会社が代償措置を準備することがあります。
この行為は、裁判で一定の評価を得やすいです。当不利益変更と直接に関係のない代償措置でも、裁判では評価される傾向にあります。
また、一気に不利益に変更してしまうのではなく、一定の経過期間を定めて徐々に変更していく、という姿勢も、本件不利益変更を有効と判断しうる要素となります。
労働組合・労働者代表との交渉の経過は、しっかり行われているか
不利益変更の有効性を判断するとき、労働組合との交渉がしっかり行われたか否か、は重要な要素となります。
変更が行われる職場で、職場内のほぼ全員が参加している労働組合としっかりと交渉を行ったうえで変更した場合、そこで利害の調整がしっかり行われているだろうと推定される、としています。
この場合であっても、不利益を受けるのが多数組合員以外の少数組合員ばかりであるときは、その組合との積極交渉をすべし、と裁判例は判断しています。
就業規則の変更事項に関する我が国・同程度会社における一般状況で判断する
一般的な周りの状況も判断要素となります。あまりに世間の基準とかけ離れている変更内容は、当然に無効となりやすいでしょう。
・・・以上挙げましたが、これらはあくまで個別に判断するのではなく、これらを全部みて『総合的』に判断します。よって、一つの項目の条件を満たしていないからただちに無効、というわけではありません。
そこが難しいところであります。よって、就業規則の不利益変更のトラブルに巻き込まれた場合は、あなたの例を検討し、各項目ごとに有利な材料を探し立証していくことが有効だと思います。
具体的な準備の仕方については、◇就業規則の変更によって労働条件を切り下げられた場合の対処法(1)~実践編で述べていくことにします。
当ページの参照文献
『労働相談事例集―実務者必携』(労働問題研究会)
『新労働事件実務マニュアル(第3版)』(東京弁護士会労働法制特別委員会)
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