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労働協約による不利益変更との戦い方~組合員に効力は及ぶ?

ブラック企業と労働組合の両者による労働協約合意によって労働条件が切り下げられた場合の戦いに関わる基礎知識を説明します。このページでは、組合員に労働協約の変更の効果が及ぶか?について詳しく見ていきます。

なぜ労働協約によって労働条件が切り下げられるのか?

労働協約の『規範的効力』が原因

 労働協約に定められている「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」は各労働者が会社と交わした労働契約を直接的に規律する効果があります。このことを、労働協約の『規範的効力』といいます。労働組合法第16条は、そのことを規定しています。では第16条を見てみましょう。

『労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。』

 この条文を踏まえると、当事者が労働者個々の労働条件を決める際に最も効強い効力を持つのは、労働協約、ということになります。下の図を見てください。左側の方が効力がより強くなります。

労働協約の規範的効力説明の図

 よって、個々の労働者が交わした労働契約と違った条件の労働協約が成立すると、その協約内容が労働契約に優先されるのです。その変更は、有利な場合も不利な場合も変更されると言われています。

切り下げられる2つのケース

 ここであらためて、労働協約によって労働条件が切り下げられる場合とはどういったケースがあるか見ていきましょう。?現在では以下の2つのケースが考えられます。

  • 労働組合法第16条のケース・・労働契約で定めた労働条件より不利な労働協約の成立により、労働条件が不利益に変更される場合
  • 労働組合法第17条のケース・・労働協約の拡張適用により、組合員以外の他の労働者にも不利に合意された労働協約の効力が及び、労働条件が不利益に変更される場合

 第16条のケース・・組合員であるなら、不利益に労働契約よりも不利益に合意された労働協約は当然に効力が及ぶのか?の問題について、本ページで詳しく見ていきます。第17条のケースも問題が多く、明確な結論が出ていません。裁判でも多くの例が出ています。第17条の『拡張適用』に伴う労働条件の不利益変更の詳細と問題点については、◇労働協約によって労働条件を切り下げられた場合の対処法(2)~基礎知識編(拡張適用に伴う不利益変更について)で説明してみたいと思います。

労働組合法第16条のケース・・労働契約で定めた労働条件より不利な労働協約の成立により、労働条件が不利益に変更される場合

組合員であるなら、一般的に不利益に変更することで合意された労働協約の効力は労働者に及ぶ

 労働組合法第16条によって労働条件が切り下げられる場合とは、いったいどんなケースでしょうか?まずもう一度、前出の労働組合法第16条を見てみます。

『労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。』

 労働組合が使用者と団体交渉等をし、その交渉の結果労働条件について合意し、書面を作成します。このように『労働者と使用者が合意事項を文書にし、労使双方が署名、または記名押印したもの』を労働協約といいます。

 そして、労働協約は、そのもの自体が、会社で定められている就業規則やあなたが会社と交わした労働契約に優先した効力を持つのです。

 労働協約で合意された内容が、従来の労働条件よりも有利であるならば問題はありません。しかし合意された内容が、従来の労働条件よりも不利であった場合はどうなのでしょうか?労働条件の不利益変更は、労働者個人の自由な意思による同意がなければ変更されないからです。

 その点について、労働者が、労働協約を締結した組合の組合員である場合、不利な変更であっても効力が及ぶ、とされています。労働組合に参加している以上、組合の意思決定のプロセスに労働者は参加しており、労働者個人の意見は一応反映されているとみなされるからです。

しかし労働協約の効力は組合員だからと言って無制限には及ばない ~慎重な手続きと及ばないとされた具体例

不利益変更を伴う労働協約の締結の意思決定には、組合内部でより慎重な手続きが必要となる

 ここで考えてみましょう。労働者が労働協約締結組合の組合員であることをもって、労働協約の不利益な変更の効力が無制限に及ぶのでしょうか?その答えは「否」です。

 労働組合は、不利益な変更を伴う労働協約をも合意・成立させる権利を持っています。なぜなら団体交渉は、その組合の求める条件を得るために、「何かを譲って何かの権利を獲得する」というような、互いに譲り合いながら落としどころを決めていくという戦略も必要だからです。当然その交渉過程で、ある有利な労働条件を獲得するためにある部分の労働条件は不利な変更に応じることもあります。

 しかし組合が労働協約を結ぶ権限にも、ある一定の制限が課せられます。

 労働条件の不利益変更を伴う労働協約の締結にあたっては、通常の組合の意思決定よりも慎重な手続きが要求されます。具体的に言えば、組合員全員が参加できる組合大会等での事前・事後の手続きなどが必要となる、と言われています。

 また、特定の組合員にのみ不利益が課せられる協約条項の締結にあたっては、不利益を受ける特定の組合員の意見を十分に聞き、不利益を緩和するなどの措置をとる努力が求められます。特定の組合員にのみ不利益な権利を負わせることは、組合員の実質的平等を欠くことにもつながるからです。

組合員であっても、労働協約の効力が及ばないとされた裁判例

 組合員であっても、労働協約の効力が及ばないとされた具体的な例を挙げてみましょう。これらは、裁判で争われ、具体的に及ばないと判断された例です。

強行法規たる法律条項や公序良俗に違反している場合

 労働基準法や男女雇用機会均等法などの法律の強行法規(任意でなく、必ず守らなければならない法規)に違反するような労働協約は、当然に効力を生じません。

 よって強行法規に違反する労働協約は、組合員であってもその効力は及びません。

労働者個人の不可侵の権利を制限している場合

 個人が当然に有している権利を、制限したり、放棄させたりするような労働協約は効力が及びません。未払い賃金訴訟を放棄させるような協約など。

特定の組合員の労働契約上の地位を奪うもの

 この場合は、それぞれの組合員の個別的で特別な委任が無い限り、その労働者の退職を定める協約は効力が生じません。

組合員個々人に既に発生している権利の処分

 組合個々人に既に発生している権利(会社に未払い賃金を求める権利など)の処分については、組合が労働協約で勝手に制限できません。それには、組合員個々人の特別の委任が必要です。

『採用』に関するもの

 労働協約の規範的効力は、労働契約成立後の契約内容を規律するものなので、採用についての協約内容は規範する効力を有しない、とされています。

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