労働協約による不利益変更との戦い方~実戦編
ブラック企業と労働組合によって合意された労働協約の、「規範的効力」・「拡張適用」の効果によって不利益変更をされた場合に、実際にどのようにして戦うか?ついて詳しく説明します。
実戦の第一歩は、平等取扱い義務を尽くしたか?をチェック。次に変更内容の合理性があるかどうかもチェックする
労働協約の不利な合意による労働条件の不利益変更は、まずは平等取扱い義務を尽くしたか?を検討します。そしてその次に、変更内容の合理性について見ていきます。
以下で、「労働協約締結組合の組合員の場合」・「労働協約締結組合の組合員でない場合」・「労働協約締結組合以外の少数組合の組合員である場合」のケースに分類して見てみましょう。
労働協約締結組合の組合員の場合
協約締結労働組合の組合員であっても、労働協約の不利な合意が無制限に組合員に及ばないことは 労働協約による不利益変更との戦い方~組合員に効力は及ぶ? で述べました。
組合員に不利な労働条件変更を伴う労働協約の効力が及ぶためには、協約締結の意思決定の過程で、以下の理由・経緯が存在しないことが必要です。
- 協定を締結する際に、組合内できちんとした民主的な意思決定の手続きがとられていない場合
- 既に発生している具体的な権利がある場合で、それを後から締結した労働協約によって遡って処分する場合
- 労働協約が特定の者や一部の者を特別に不利益に取り扱うことを目的として締結された場合
ですから労働協約の効力が及び切り下げられることに反論したい場合は、以上の問題点を追及していくことになります。
労働協約締結組合の組合員でない場合
組合員でない場合、基本的に労働協約の効力は及びません。非組合員に労働協約の効力が及ぶ場合とは、「拡張適用」の場合でしたよね。「拡張適用」は労働協約がある特定の労働者に著しく不利益な変更をさせる場合は、その効力が及ばないと考えられています。
よって、拡張適用が著しく不当と考えられる根拠を示しつつ、多数労働組合や会社と交渉することになります。
労働協約締結組合以外の少数組合の組合員である場合
少数組合に対しても、労働協約の「拡張適用」は基本的に及びません。 労働協約による不利益変更との戦い方~「拡張適用」とは? で触れたように、拡張適用の効果が及ぶか否かは学説も裁判例も見解が分かれるところです。しかし、原則として不利な条件での効力は及ばないとされています。
よって過去の裁判例を示し、拡張適用の効力が及ばないか、及んだとしても不利な点については及ばない、ということを組合の交渉権を堂々と使い主張していくことになります。多数労働組合が結んだより有利な労働協約内容について、少数労働組合だからといって結ばないのは、不当労働行為にあたる可能性があります。そのことも留意しておくといいでしょう。
労働協約による不利益変更の戦い方手順
ここで、協約締結組合員が不利益な変更をされた場合の具体的対処法について、流れを見ながら説明していきましょう。で、気を付けてもらいたいところをを補足しています。
◆ 労働協約の不利な合意があり、それに伴い労働条件の不利益変更がなされ、個々の労働者の労働条件が切り下げられた。労働条件切り下げまでの会社と労働組合の行為(交渉過程など)の流れをノート等に記録し始める。
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◆ 労働条件切り下げを通知する文書・切り下げまでの経緯を記したメモ的日記を、各労働者が所属する労働組合・弁護士・社会保険労務士等の相談機関に持参し、労働協約の成立過程で労働者の意見が反映される余地があったか、一部の労働者に著しい不利益があるのではないか、を確認する。この場合相談する場所は、労働組合関係紛争に明るい相談機関が良いでしょう。
各労基署にある総合労働相談所は無料ではあるが、窓口にいる相談員(元人事の経験者や社会保険労務士が多い)は労働者の相談や意欲に必ずしも好意的ではありません。また労働組合関係のトラブルは集団的労働紛争といえるので、個別労働紛争を主に取り扱う総合労働相談所に持ち込むことは、事態の打開にふさわしくないこともあります。
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◆ 上の相談内容を参考にして、「協約成立過程での手続きの問題点・不利な内容が一部の労働者に著しい不利益を強いているという問題点」をまとめたものを文書にしておく。面談時に会社に提出するためです。
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◆ 面談を希望する。会社が切り下げについての個別面談を設定したならば応じる。相手の意見を聞き、その内容を録音するためです。この段階で書面での回答を求めない。
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◆ 口頭・面談で、会社や労働組合に、以下の点を聞く
- 「労働協約の意思決定過程について、私は十分な参加を保障されませんでしたが、なぜですか?」
- 「今回の労働協約の合意内容は、私たちに大きな不利益をもたらしました。そのような大きな不利益をもたらすほどの必要性とはどのようなものですか?」
- 「(不利益がある特定の者だけに偏っている場合)なぜ特定の者にだけ著しい不利益が被るのですか?特定の者だけに不利益が及ぶことについて、その必要性と理由を明確に答えてください。また、特定の者だけに不利益が及ぶことについて、緩和措置や代償措置を取るなどの予定はあるのですか?」
面談内容を録音。後日、録音内容を文章に転記するためです。同意・同意と取れる発言はしない。また脅迫じみた発言も不要です。やるべきことは、手続き上の不備について、相手に言い訳をさせることで、不備の事実を認める発言をさせること、もしくは後日こちらが反論した場合に、適当な言い逃れをさせないためです。
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◆ 一通り理由を聞いて、面談を終える時に、相談機関に相談後に作った「労働協約の合意による不利益変更ついて、手続き上の問題点と合理性が無いと考える理由」を記載した書面を会社・所属組合に提出。
そして以下に挙げる3つの文書を求める。
- 労働協約によって変更された「新就業規則」
- 労働協約によって変更される前の「旧就業規則」
- 『「労働協約の合意による不利益変更ついて、手続き上の問題点と合理性が無いと考える理由」を記載した書面』に対する回答文書
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◆ 面談後、録音内容を忠実にノート・日記に転載する。
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◆ すぐさま、録音内容を記したノートを労働組合・弁護士・社会保険労務士等の各種相談機関に持参し、今回の切り下げについて相当性があるかどうか確認しておく。
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◆ 所属組合・会社の回答が来たら、その内容を吟味。前面談で会社が話した内容と、回答文書の内容が違っていたら、ノート・録音証拠たる録音の音源を提出。内容の食い違いを指摘し、誠実な対応を求める。
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◆ こちらから、一連の不利益変更を撤回するように求める。または、何らかの代償置・経過措置・緩和措置を求める。つまり、互いが譲歩しあい納得できる道を探す。 出来るだけ、所属組合とわだかまりをなくしたうえで、一緒に不利益協約の撤回を求めていくのがいいでしょう。
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◆ 組合・会社に譲歩の姿勢が見られない、又は不利益取扱いをしてきた時には、宣戦布告する。自分で、又は専門家に頼んで、内容証明郵便を作成し会社に提出。民事訴訟手続を進める上で、法律専門家に相談をする。
当ページの参照文献
- 『労働法 第9版 (法律学講座双書)』
- 『イラストでわかる 知らないと損する労働組合活用法 (Illustrated GuideBook Series)』
- 『労働相談事例集―実務者必携』(労働問題研究会)
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