労働条件を一方的に不利益変更された場合の基本的な戦い方
賃金等の重要な労働条件を使用者の一方的な通知で不利益に変更されてしまった場合、どのように対処すればいいのか?このページは、対処法の基礎となる不利益変更についての一般的な知識について説明するページです。
労働条件の変更には、労働者の合意が必要。使用者が勝手に変更することはできない!
労働条件を変更するには、いくつかの方法がある
労働者と使用者の両当事者との間で、入社時に取り決めれられた労働条件の内容(労働契約)を変更するには、以下の3つの方法があります。
- 就業規則の改定によって行われる労働条件の変更
- 労働協約の締結によって行われる労働条件の変更
- 各労働者の個別の同意を得て行われる労働条件の変更
このページでは、主に3番目の「各労働者の個別の同意を得て行われる労働条件の変更」に関連して問題が発生してきます。
ここで、労働条件が労働者と使用者という両当事者の間で変更できることを定めた、労働契約法の条文を見てみましょう。
- 『労働契約は労働者および使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、または変更すべきものとする』(労働契約法第3条1項)
- 『労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる』(労働契約法第8条)
第3条も第8条も、どちらにも変更には「合意」が必要であるとしています。
では、どのような不利益な「変更」に、労働者の合意が必要なのでしょうか?すべての合意に変更が必要なのでしょうか?
どのような「変更」に労働者の合意が必要なのか?
労働契約の当事者たる労働者・使用者双方の同意を必要とする変更内容は、一体どのような契約でしょうか?
一般的には、結んだ労働契約の内容とか性質をガラッと変えてしまうような重要な条件変更を伴う場合に、労働者の同意が必要とされています。
具体的に挙げてみると、以下のような内容に関わる労働条件の変更について同意が必要、とされています。
- 期間の定めない労働契約を、期間の定めのある労働契約に変更する場合
- 賃金の減額をともなう労働契約の変更
- 正社員を、パート・アルバイトの身分に変える内容を伴う労働契約の変更
- 所定の労働時間を長くするという変更を伴う労働契約の変更
- 職種を限定されて雇用されている労働者については、その職種の変更をともなう労働契約の変更
・・上に挙げたものは、すべてが変更内容が重要で労働者の生活に大きな影響を与えるものばかりです。その変更に、労働者の同意を条件として加えることで、使用者の一方的な決定を抑える狙いでしょう。
労働者の同意が必要、と定めているだけで、問題は解決しません。焦点は、「個別の同意」と言っているが、「黙示の同意」の場合はどうするのか?また、解雇等が怖くて、しょうがなく同意した場合はどうするのか?という点でしょう。以下で説明していきましょう。
「黙示の合意」の場合と、「解雇等を恐れて止む無く合意した場合」はどうするのか?
「黙示の同意」は有効なのか?
「黙示の同意」とは、一体どういったケースなのでしょうか?
具体的に挙げてみましょう。会社のトップが従業員の賃金を減額することを宣言し、従業員が何も文句も言わないで働いているケースを例にします。
この場合トップの社長は、従業員が何も言ってこないものだから、「同意は得られた」と判断します。従業員は、社長に目を付けられるのが怖いので、何も言わないだけなのに・・・
こんな露骨でひどい例あるのか?って?そんな例は、いたる所の会社でいたる場面で見られます。
・・・基本的に、黙示の同意は認められにくい、とされています。
黙示の同意を安易に推定することは、経済的・立場的に弱い地位に置かれている労働者の現状を無視し、使用者に一方的な変更権限を与えることにつながりかねないからです。
よって労働者の同意とは、基本的に「明示の同意」を必要としています。
「解雇等を恐れてやむを得ず合意した場合」はどうなのか?
使用者による労働条件の変更が告げられ合意するか否かを迫られたとき、多くの労働者は解雇等を恐れ、泣く泣く同意するといった例が後を絶ちません。
こうなると、「明示の同意」もしているということになります。であるならば、上の例の場合の労働者に有利な考えも当てはまりません。
・・では、同意してしまった場合は、もはやその変更は絶対的に有効なのでしょうか?
ここに、一つの裁判例があります。
使用者が労働者に同意を求める際に、しっかりとした説明をしておらず、同意しなければ解雇等の不利益を受ける、と思って同意をした場合は、「民法第95条」の錯誤の規定により、無効とする、といった裁判例があります。
つまり、使用者が労働者に同意を求める際に、どのような必要性で変更するか、同意しなかった場合どうなるか、といった内容をしっかり説明しないで、労働者が恐怖をもとに同意をしてしまった場合、錯誤無効で同意自体が意味がなくなる、と言っています。
このような場合の具体的な対処法は後で述べますが、事前の準備が必要な例でしょう。ボイスレコーダー等で面談内容を記録しておく必要のある、典型的な例です。
当ページの参照文献
- 『労働相談事例集―実務者必携』(労働問題研究会)
- 『新労働事件実務マニュアル(第2版)』(東京弁護士会労働法制特別委員会)
- 『労働法 第9版 (法律学講座双書)』(菅野和夫)
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