ブラック企業との戦いで必要となる証拠の種類、何がある?
ブラック企業と戦うためには、証拠を確保するための努力は、避けられないと言っていいでしょう。
ブラック企業は、法を守る意識の低さから、労働者の裁判外での主張などはほぼ無視してきます。権利実現のためには裁判等の司法手続き上での戦いが避けられず、そのためには、こちらの主張を裏付けるために証拠が必要となってくるからです。
普段の生活を送っていると、「証拠」という言葉はなじみが薄いでしょう。ほとんどの人は、刑事ドラマの中でしか見聞きしたことがないかもしれません。
実際に裁判を行う場合は、あなたの事例にあった証拠は、どのようなものが必要となるのでしょうか?
ページを改めて、紛争形態ごと(解雇・賃金未払いなど)に必要となる証拠を挙げていきますが、ここでは、証拠の形態(文書・証言など)に着目し、形態ごとの証拠の集め方と活かし方を説明していきましょう。
難しことは考えず、証拠を集める局面に至ったら、考え得るモノはすべて収集・保管しておきましょう。そのうえで、必要だと考え得るものを証拠として提出すればいいのです。事実の認定にその証拠が役立つか否かは、裁判官の判断に任せます。
- ブラック企業との戦いにおいて証拠として考えられるもの
- 「相手方(会社)が発行した文書」を証拠として利用する場合のポイント
- 「自分で作成した文書」を証拠として利用する場合のポイント
- 「第三者が発行した文書」を証拠として利用する場合のポイント
- 「証人」を証拠として利用する場合のポイント
ブラック企業との戦いにおいて証拠として考えられるもの
民事訴訟における証拠として考えられるもの(証拠方法)は、以下に挙げるものです。
- 文書
- 証人
- 当事者本人
- 鑑定人
- 検証物
そのうち、最も頻繁に用いられる証拠は「文書」です。「文書」を用いて主張している事実を立証する行為を「書証」と呼びます。しかし裁判実務上では、書証手続によって取り調べられた文書それ自体を「書証」と指し示しています。
もし皆さんが訴えを起こして、口頭弁論における席上で裁判官より「書証を提出してください」と言われたら、「ああ、文書を提出しろ、という意味だな」と思ってください。もっとも、弁護士以外の人間には、裁判官も「書証」という表現は使わず、「文書」「書類」「証拠」などと言うでしょう。私の時もそうでした。
裁判において訴える方(原告・ここでは主に労働者が多いでしょう)は、訴状を提出して訴えを起こす時、上で挙げた証拠(証拠方法)の中のうち、証拠説明書と併せて文書を提出するのが一般的となっています。逆に訴えられた方(被告・会社や使用者)は、答弁書の提出時に、証拠説明書と併せて文書を提出します。
提出する文書は、主張する事実を証明しうる内容を持ったものでなければなりません。例えば、有給休暇が発生している事実を証明するためには、雇われた日にちを示す文書たる雇入通知書や雇用契約書等を用意し、証拠説明書に書証の名称・作成者・作成された日付・証明する事実を記載して、訴状と併せて提出します。
「証人」と「当事者本人」も、労働訴訟において頻繁に証拠となる客体です。特に「当事者本人」については、「当事者尋問」において陳述した内容が、そのまま裁判官の事実認定の際の判断材料とされます。ほとんどの労働訴訟において、当事者尋問が行われます。
「鑑定人」「検証物」については、あまり行われません。労災事故の事実認定における裁判所自らの現場検証、事実認定の帰趨を左右する重要な文書について、作成者の筆跡が重要な焦点となる場合に行われる筆跡鑑定が、ごくまれに行われる程度です。
当ページでは、労働裁判で用いられることの多い「文書」を、相手方(会社)が発行した文書・自分で作成した文書・第三者が発行した文書の3つに分けそれぞれ説明し、併せて「証人」についても説明していきたいと思います。
「相手方(会社)が発行した文書」を証拠として利用する場合のポイント
文書は、最も多用する証拠だと言えます。特に民事訴訟ではその傾向が顕著です。多くの訴訟で、文書のみで立証が済んでいます。証人も、事実認定において裁判官の心証形成に影響を与える重要とな証拠となりますが、文書ほど頻繁に用いられる証拠ではありません。
どんなものが証拠となるか?
最も一般的なのが、会社が発行した文書です。その文書内容が法律に違反した内容を表しているならば、作成者が会社側である以上、こちらの主張する事実を証明する最も有力な証拠となります。
よく提出を要される文書としては、以下のものがあります。
- 雇用契約書
- 解雇通知書
- 解雇理由証明書・退職時等証明書
- 就業規則
- 従業員募集要項
- 契約更新書
- 配転通知書
- 労働条件通知書
- タイムカード
- 賃金台帳
必要となる文書は、紛争の種類(解雇を争う戦い・未払い賃金の戦い・パワハラ等の戦いなど)によって異なってきます。上記の文書以外のものも、重要な証拠となる場合もあります。
文書を証拠とするうえでの注意点を、以下で説明しましょう。
相手方(会社)が発行する文書を証拠とする場合の注意点
会社が発行した文書は、関係なさそうな物も含めて全て取っておく
文書は、他にもたくさんあります。実際に提訴して、訴状作成段階において主張を展開していかない限り、どのような文書が証拠として必要となるか把握できないと思います。よって、会社から渡される、募集要項をはじめとする全ての文書は、一切の例外なく保管しておくのがよいでしょう。
例えどんなに良心的な会社であっても、突然管理体制が変わることがあります。経営者が親の代から子の代に変わるだけで、ブラック企業になり下がることは珍しいことではありません。良心的な会社であっても、いざという時に備えて、文書は例外なく保管しておきます。
辞令・社内報・通知書・お知らせ・労働条件通知書・会社からの郵便物などはもちろんのこと、給料明細・オリエンテーションを告げる書面など例外無く全ての書面を取っておくのです。
違法行為の主体たる会社が発行した文書は、証明力が高いと考えられます。それゆえ、会社はやましい行為の理由を文書で回答したがりません。ましてや、紛争に突入した後の会社の警戒心は厄介です。
よって平素から、すべての文書を保管するクセをつけておいてください。
文書の中に書かれている意思が誰の意思なのかハッキリさせる
文書は、署名や代表者印・社員が押されているのが望ましいでしょう。そしてその文書がいつ出されたものなのかもはっきりと把握しておきましょう。
通知内容だけで、代表者印などが押されていない文書を渡されたら、社内のしかるべき機関(※文書を発行した部署、例えば総務課・人事課などの責任者。又は会社の代表者)に、文書内容が会社の意思であるかどうか聞いて、その発言内容をしっかりと録音しておきます。
誰の意思なのかはっきりとさせるための、会社側との会話例
- 労働者:「何か通知書がきたんですけど・・・。この変更、いつ決定したことなのですか?」
- 会社側:「昨日の社内職長会議で決まったことだ。何だ?」
- 労働者:「・・・そうですか・・・唐突だったので。お邪魔しました」
この話の段階では文書の真正性を確かめるためですので、低姿勢に伺います。相手の「間違いない、会社の意思だ」という会話を録音するのが目的だからです。
証明力を高めるためには、このような、地道でしたたかな準備が時に必要となります。
「自分で作成した文書」を証拠として利用する場合のポイント
必要に応じて自ら作成した文書も、証拠としてよく提出されています。自分で作成して提出する文書には、どのようなものがあるのでしょうか?以下のものがよく提出されています。
自ら作成した文書は、作成した人間の思惑が入ってしまう可能性があるため、今一つ信頼性に欠けるものと考えられるようです。それゆえ、会社が発行した文書に比して証明力(証拠資料が「主張する事実があったんだな」と裁判官に思わせる影響力・力のこと)の点で劣ってしまうことがあります。
しかしパワハラ訴訟における反訳書や、割増賃金請求訴訟における残業時間計算表のように、特定の事件に有効な証明力を発揮する文書が存在します。
民事訴訟においては、どのような文書も、証拠として提出することは可能となっています(民事訴訟においては、証拠能力に制限はない)。よって、ある文書を作成し提出することで自らが主張する事実を証明できると考えたならば、臆せず作成・提出しましょう。証拠説明書で立証の趣旨をしっかりと説明しておけば、あとは裁判官の判断にゆだねるのみです(裁判官の自由心証にゆだねる)。
録音した音声データの反訳書
音声データと反訳書は、紛争形態によっては実に有効な証拠となる
ボイスレコーダーで録音した内容は、そのまま裁判の証拠とすることはできません。文書化して(反訳して)反訳書として提出する必要があります。反訳書はれっきとした証拠となります。
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントにおける慰謝料(損害賠償)請求事件において有効に発揮される証拠となります。実際、これらの事件では、同僚らの証言を除いて、録音した内容を示した反訳書以外に有効な証拠はなかなか存在しません。
労働紛争の現場では口頭での不当行為が多いので、録音は有効な証拠物となります。
相手が「そんなこと言った覚えはない」と開き直ったって、「この発言はなんだったのか?」と反訳書を提示すれば、適当な言い逃れをすることは難しくなるでしょう。
録音という形態の証拠物ですが、録音自体も「書証」という部類の一つであり、その証拠を事実認定において影響させるかどうか判断するのは裁判官や労働審判の審判員です。内容が真正なものであっても、裁判官や労働審判員は、その証拠で事実認定をするかしないかを選択する自由があります。
よって、音質がクリアで、かつ相手方にとって不都合な内容がしっかりと収められた音声データと反訳書があっても、それでこちらが必ず勝てるというわけでもありません。しかし、望ましい結果が出る可能性は、当然高くなります。
会社に内緒で録音しても、その音声データは問題なく裁判で証拠となる。違法云々の話は別の話。
よく、会社が録音されていたことを知ると、「盗聴は違法だぞ!そんなもの意味ないぞ!」などと言います。これは根拠の無い脅しです(本当に違法だと考えている不勉強な会社もあります)。また、意味のないものでもありません。
そもそも、盗聴行為とボイスレコーダーによる会話内容の録音行為とは、全くの別行為です。また労働者は、会話を録音する目的は、労働紛争における証拠とすることであり、その意図は、決して反社会的な意図ではありません。
提出された音声データと反訳書を、事実認定の際に影響させるかどうか判断するのは、裁判官の役目です。会社の経営者が判断するのではありません。
よって会話を録音する場合は、事前に会社の了承を得る必要など一切ありません。あなたが会話を録音しておいた方がいいと感じたのならば、淡々と録音しておきましょう。その音声データを証拠として提出するかどうかは、後でゆっくりと決めればよいのですから。
録音と言う証拠を軸にした、具体的な対処法の流れ
STEP1:日記のつけ始めと文書の保管
会社が不当な行為を通知してきたら、まず、持っているノート(どんなノートでもいいが、後日裁判所に提出する可能性もあるので、普通のキャンパスノートか、記載欄の豊富な日記帳がいい)で、日記をつけ始めます。
今まで会社から渡される文書を保管してこなかった方は、これ以後、渡される文書すべてを(一切の例外なく)保管します。どの文書が、後日証拠として役立つか、今の段階ではわからないからです。
STEP2:会社との話し合いの記録
会社と当該行為について話し合いをする機会があるならば、ボイスレコーダーで録音のうえ、話し合いをします。会社には、録音していることは一切伝えなくて構いません。
話し合いの場も含めて、会社から何かしらの同意を求められても、一切同意しない。分からないのであれば、「考えさせてください」と伝え、保留する。
STEP3:労働基準監督署窓口にある総合労働相談所で相談
労働基準監督署の窓口にある総合労働相談所で相談します。相談した事実は、その場で記録に残ります。
その場にいる相談員は労働基準監督官ではありませんが、労働トラブルについて専門的な知識を持った方が相談をしております。あなたのケースを詳細に伝え、今後の対策を教えてもらいましょう。
後日会社側に、「労働基準監督署においてこのように指摘された」と伝えることで、心理的なプレッシャーを与えます。
STEP4:面談で不当な行為の撤回を要求する
会社に面談の場を要求し、その場で不当な行為の撤回を要求する。
こちら側の主張をし、その裏付けとして、労働基準監督署でのアドバイス内容も伝える。会社側も当然に反論をしてくる。その場での同意強制に対しては、同意しない。人格否定や恫喝をしてきたら、毅然と「そのようなことを言うのはやめてください」と伝える。
会社側の出席者の名前をはっきりと呼び、こちらも、ゆっくりと確実に、舌をかみながらでもいいので、発言する。わかりにくい内容については、再度質問する。
STEP5:内容証明郵便にて、撤回の要求
撤回を拒否されたら、宣戦布告。面談において質問した事項につき、内容証明郵便にて、当該行為が不当な行為であることを簡潔に記載し、そのうえで撤回を要求します。それについての回答を文書で発行するように求めます。
回答・撤回には期限を定めます。そしてそれらがない場合は、具体的な法的手段へ移行することを記します(記載例:「当行為は○○の点から、違法な行為であることは疑いがありません。よって、当該行為が撤回されない場合は、訴訟等の法的手段をとりますのでご承知おきください。」)。必要以上の脅迫めいた文言は記載しない。
STEP6:法的手段へ
回答期限までに会社が何もしてこない場合は、適切な法的手段へ移行。すべての証拠を示し、調停やあっせん、労働審判、もしくは賃金仮払いの仮処分手続(労働審判・賃金仮払いの仮処分の手続きの中で和解が試みられるから)を行う。
STEP7:本訴へ
双方合意。決裂なら訴訟へ
エクセル等の計算ソフトで作成した「残業時間計算表」・「未払残業代請求目録」
サービス残業代の請求や未払い賃金を請求する場合によく提出する文書です。
基本的には、自らつけた日記等を参考にして、表計算ソフトで表形式でまとめて提出します。自分で作成した文書ではありますが、この手の労働事件では残業時間計算表を提出することがスタンダードとなっているため、証明力は意外と高くなっています。
この表は、エクセルで作成するのが一般的ですが、自らの手でゼロから自作するのは大変です。現在インターネット上では、残業時間計算表が無料でダウンロードできますので、そこに記載されている使い方を参考にして作成していくと便利です。
過去の残業代については、日記等を参考に打ち込んでいくしかありませんが、今現在サービス残業の強制にさらされている場合は、直ちにネット上の残業時間計算表をダウンロードのうえ、以後毎日欠かさず打ち込んでいきましょう。やはり毎日打ち込んでいく方が正確ですし、説得力も増していきます。
また、ダウンロードした計算表に「備考欄」や覚書欄のようなものがある場合は、その日に実際に会社に関して起こった出来事(ささいなことでも良い)を打ち込んでいきましょう。その作業をすることで、その日に打ち込んでいることが読み手に伝わるため、証拠の証明力向上に寄与します。
下のページで紹介されている残業代計算表は、シンプルで使いやすいものです。沖縄県労働組合総連合様の作成した残業代計算シートです。
電子メール
「メール」は、印刷(プリントアウト)して文書証拠として提出する
メールは、民事訴訟法上の実務では「準文書」として位置付けられています。メールは、印刷(プリントアウト)して提出すれば、立派な文書証拠(書証)となります。
パソコンメールは、それ自体を印刷したり、パソコンメールが表示されている画面をスクリーンショット(キャプチャ)して、それを印刷して提出します。携帯メールは、メールが映っているデイスプレイ画面を写真に撮ってその写真を提出したり、パソコンに転送して印刷して提出するのが一般的です。
メールの真正さを争わなければ、そのメールには証明力がある
メール内容を示した文書は、会社側がその内容について真正性を争わなければ、その内容は真実を示しているものと判断され、事実認定の際の認定要素となります(事実認定の際の要素として考慮してくれない場合もあります)。
一般に、メールは改ざんが可能であることから、真正性に欠けるところがあると考えられています。しかし相手方がメールの真正性を争わなければ、問題がないのです。
相手方がメールの存在や内容を争う姿勢を示した場合、こちら側はメールの真正性を証明する必要があります。文書の証拠については、民事訴訟法第228条により、提出下側が文書の成立が真正であることを証明する必要があるからです。
メールの真正性を立証する方法
調査嘱託
調査嘱託手続で、プロバイダー・携帯電話会社から、問題となっているメールを取り寄せる方法が考えられます。
しかし、プロバイダー・携帯電話会社では、メールが無期限に保管されているわけではなく、一定期間が過ぎると消去されてしまいます。おおよそ2~3カ月で消去されてしまうと聞いています。
また、裁判所がいつでも調査嘱託手続を認めてくれるとは限らず、立証手段として多くの不安要素を残します。
録音データによって、メールの真正性を補う
こちらの立証方法は、己の行動だけで真正性を補うことができます。面談の際に、証拠として提出する予定のメールの出所を、それとなく確認する手法です。以下の会話例を見てください。
- 労働者:「あのメールに書いてあった私に対する辞令は、本当に社長の意思なのですか?本当は部長が勝手に打ってよこしたものではないのですか?」
- 部 長:「あ~ん、何言ってんの?社長が自ら決めたことだよ、お前、もう要らん、ってことだよ!聞いてんじゃねーよ!」
- 労働者:「・・・わかりました」
内容を少し変えていますが、実際にあった会話内容です。この会話は、会社との面談の中で交わされたものです。いくつかの質問事項中の一項目として、さらっとこの質問をします。そうすることで、相手方の油断を誘います。
面談における会話は、そのすべてを文字起こし(反訳)し、反訳書として提出します。相手方が答弁書にてメールの真正性を争う姿勢を示したら、こちらが次回に出す準備書面にて、反訳書中のこの箇所を文中で指し示し、メールが真正なものであることを主張・立証していくのです。
メールがあなたの裁判において重要な証拠となる可能性があるならば、面談の際にこのような事前準備をしておくことを勧めます。難しく考えなくてもいいのです。何とか会社側の経営サイドの人間と面面談をする機会を持ち、メールの内容について質問します。以下の内容を質問するといいでしょう。
- メールは本当に送信者が送ったのものなのか?を確かめる質問をする
- メール内容の本当に言いたいこととは?を質問する
- メール内容についての細かい点を質問していく
上の3点の質問に対する回答を反訳することで、会社側はメール内容の真正性を真っ向から否定しにくくなることでしょう。最後の「メール内容についての細かい点を質問していく」は、補足的な質問であり、こちらの真意をぼかすための質問でもあります。もちろん、この質問に対してなされた回答も、時に有効な証拠内容となるでしょう。
日記
記録する内容は以下の通りです。
- 日にち
- 天気
- その日社会で起きた出来事
- その日に会社で起きた出来事についての自分の感想
- 起きた出来事の詳しい内容
- 何かを言われたなら、その内容(なるべく具体的に)
- 言われた時の気持ちと自分の体調
これらは、パソコンではなく、ノートに自筆で書くのが基本です。「その時、その人が、その場で書いた」というリアリティを出すためです。ですから、言われてすぐに書いたほうが効果的でしょう。逆に、後日まとめて事の経緯を書き示すような陳述書は、読みやすさ優先のため、パソコンで作成するのが一般的です。
日記であるので、書き始めたら、例えその日に何も起こらなかったとしても、何かしら書いていきましょう。上記の「記録する内容」は多岐にわたります。日にちや天気、その日の自分の気持ちくらいは、頑張って書いていきましょう。
日記は、違法行為があったことを客観的に示し得る録音データが採取できた時とそうでない時で、使い方が異なります。以下で、それぞれの場合に分けて説明したいと思います。
録音データが採取できている際の日記の使い方
日記は、不当な行為がどのような流れの中で行われてきたのか(事の経緯)を示すものとして有効です。
つまり、録音データがしっかり採れているならば、その録音された各々の会話が、紛争の中のどのタイミングで行われたかを証明するものとして効果がある、ということです。
不当な行為が行われた「時期」は非常に重要です。労働法では、ある手続きを、定められた一定の時期で行うことを義務付けている場合が多く、その時期になされなければ、違法=無効となることがあるからです。
「録音」が点の証明ならば、「日記」は線の証明。この2つをしっかり構成すれば、こちらの主張する事実を一貫性をもって証明することが出来、会社側は言い逃れをするのはとても難しくなります。
録音データが採取できていない際の日記の使い方
日記には、面談時の内容や、今までの会話などが大まかに書かれているので、会社が強権を発動してくるまで、したたかに証拠を集めます。
いよいよ会社が強権を発動してきそうになったら、再度質問する内容を考えて、最後の面談を要求します。
質問事項にのっとった疑問点を質問し、改めて、行為をやめてほしいと要求します。その面談の内容は必ず録音してください。 質問されたこと、行為を止めてくれと請求された事に腹を立て、ボロを出したり脅迫してくるかもしれません。そのような感情的な発言を録音するのも狙いです。
面談後、その面談で質問した内容と同じ質問内容を文書で質問し、回答も文書で求めます。内容証明郵便を利用します。文書の回答内容が面談で聞いた際の録音に入っている回答内容と違っていれば、会社は適当なことを言っていることになります。会社の主張の信頼性に大きな揺さぶりをかけていきます。
このように行動することによって、完全ではないにしろ、録音データがない際のウィークポイントを補うことが可能です。
某大手メーカーの過労死訴訟では、妻が夫の過酷な勤務ぶりを日記に書いていたので(日記に、夫がいつも遅くまで働かされていた事実に詳しく触れていた)、それが有力な証拠の一つとなり過労死認定される要素の一つとなりました。
私事ですが、私の叔母さんが、隣の住民の脅し言葉を常に記載していたおかげで、相手が「そんなこと知らん」と真っ向から否定していても、見事に慰謝料が認められたケースもあります。この時、録音はされていませんでした。
ですから、録音が取れていなくても、十分望みはあります。粘り強く立ち向かってください。
陳述書
陳述書は、裁判官に、こちらの知っている労働者にとって有利な事実を詳細に説明したい場合等に提出する証拠書類です。
自ら作成する文書の最たるものであり、自己に都合のよい主張を展開することも容易なため、証明力という点では、かなり劣ります。
しかし、提出する有力な文書がほとんどない場合、わずかな文書証拠と併せて提出することは、一向に構いません。主張しないと始まらないからです。陳述書において主張した内容が真実であるならば、相手方は当然に反論をし争ってきます。反論しなければ、主張した内容を認めることにもなるからです。その過程で、あなたも再反論をして、この問題を大きくしていけばよいのです。突破口が見つかるかもしれません。
ある紛争で、私が裁判官に「主張したいこともあるが、それは証拠もなく、言った、言わないの争いになりますよ。それでも主張していいのですか?」と質問したら、裁判官は「とりあえず主張しないと始まらないから、提出してください。」と回答してくれました。
民事訴訟においては、どのようなものでも証拠として提出できます。ですから、証拠がない場合でも、訴状や準備書面・陳述書において、堂々と、あなたが知っている事実を主張していきましょう。
訴訟は、紛れもなく訴訟当事者のものです。弁護士などの法曹職らに遠慮する必要は、一切ありません。相手方弁護士が、あなたの提出する陳述書等の文書証拠の書式の至らなさを笑うならば、それは訴訟の本質を理解していない愚か者法曹の、愚かな所業です。弁護士など、しょせん訴訟の代理人に過ぎません。全知全能の神でもなければ、王侯貴族等の特権階級でもないのです。書き方が多少稚拙であっても、あなたの知っている事実を堂々と主張していきましょう。
「第三者が発行した文書」を証拠として利用する場合のポイント
例を挙げましょう。未払賃金訴訟において賃金が支払われていないことを証明する場合、平素より給料が振り込まれる銀行の通帳が証拠となります。
このように、第三者が発行している文書は、本人の意図によるねつ造等が行われにくいため、証明力の高い証拠となり得ます。
「証人」を証拠として利用する場合のポイント
手間がかかる「証人」手続き
証人となり得る人は、裁判当事者たる原告・被告以外の人間(つまり第三者)です。労働者側がよく利用する証人としては、同僚・会社を去った元同僚などが挙げられるでしょう。
証人を立てて主張する事実を立証するためには、証拠申出書(尋問事項を、別紙として併せて提出。別途「尋問事項書」を出す場合もあり)を提出する必要があります。
証拠申出書が受理され、幾度かの口頭弁論期日を経て、証人尋問・本人尋問の期日がそれぞれ決められます。
本人で裁判を行う場合、証人は、本人(原告)・被告(被告に弁護士がついている場合は、弁護士)・裁判官から尋問を受けることになります。
当然のことながら、会社側の弁護士からの尋問は、原告に不利になるような発言を引き出させるための尋問がなされます。上図の例では、証人の加藤三郎に対し、連日の暴言と謝罪強制を本当に目撃したのか?というような趣旨の質問が展開されることになります。
裁判官から証人に対しての尋問は、尋問事項に沿った尋問を経て、それでも不明な点について、事実の確認をするために行われることが多いです。
「証人」の代表的なものたる「同僚の証言」の活用法
同僚の証言を過度に期待することは、危険かつ酷
同僚による証言も、会社で不当な行為があったことを示す証拠物となり得ます。しかし多くの場合、同僚は証言などしてくれません。
「彼らにも生活があるから仕方がない」という意見は好きではありませんが、同僚の証言を得ることが望めないのなら、他の証拠を集めることに専念した方がいいでしょう。
証言を頼りにして、いざという時に証言してくれないと、こちらとしても痛手だからです(会社の圧力がかかり、同僚が日常において当該労働者を無視をして孤立した例もいくらでも見ています)。つまり、得られる見込みの薄い、不安定な証拠だと言えます。
ですから、同僚の証言が得られる見込みがあったとしても、他の証拠となり得るものを同時に集めた方がいいでしょう。
同僚の証言は、他の証拠の補完的な意味合いで持っておくといいでしょう。
同じ会社で過去に不当行為に苦しんで退職した元同僚がいるならば、力を借りてみよう
ただし例外もあります。それは、元会社の同僚の証言です。証言してくれる人が会社を退職しているならば、喜んで応じてくれるでしょう。
彼らこそ、貴方の苦しみを分かってくれ、かつ協力してくれる貴重な存在です。彼らはすでに、労働法違反の会社に依存していないので、しがらみもありません。
そのようなケースでは、証言してくれる元同僚としっかり連絡を取り合ってください。
その人があなたと同じような不利益を受けて退職した場合ならなおのこといいでしょう。彼も会社の不当な行為を示す物証を持っているかもしれませんから。
加えて、自己の体験に基づいた具体的でイメージの湧きやすい証言をしてくれるでしょう。思い当たる元同僚がいるならば、積極的に頼んでみましょう。
免責事項
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法律等は頻繁に改正等が行われますので、あくまでも参考としてください。また、本サイトは予告なしに内容を変更することがあります。