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脅迫に負けない交渉術(5)~脅迫への固執に淡々と対処する

ブラック企業との戦いにおける交渉の場で、「脅迫」に対し交渉術(主にハーバード流交渉術)をいかに用いたらよいか?を説明する第5回目。

脅迫によって事態を早期に収束させることに固執するブラック企業に対する対処法を説明していきたいと思います。

固執する相手への対処法には、忍耐を要します。しかし私たちは固い決意で初志を貫き、固執する態度には淡々と対処することが肝心です。

「淡々と」と書いたことには理由があります。対処する場合は、よけいなことを話さず、事実を率直に伝えるだけに徹します。そして期限を決めて、その期限に沿って事後の行動をとります。

固執する相手にこちらの意向が捻じ曲げられないように、このページが役立つことを願います。

ブラック企業が「脅迫」に固執する理由を改めて検証しよう

 脅迫に負けない交渉術(4)~共同で「第三の案」を生み出す では、信頼関係の再構築後に交渉を成立まで導く秘訣を紹介しました。しかし話し合い進展の基本たる「信頼関係の再構築」すらできない場合もあります。

 それは、こちらがいくら柔軟で紳士的な対応を心がけても、会社側が「脅迫」する姿勢を崩さないために引き起こります。

 なぜ会社側は、こちらが穏健で紳士的な態度で臨んでも強硬な姿勢を崩さないのでしょうか?

 交渉の結果は、両者の力関係で大きく左右されます。力の強い者は、双方の利益が確定するギリギリのラインまで、態度を保留したり汚い手段(ここでは脅迫)を用いて自己の利益を増大させようとします。

 当該紛争の争点たる会社側の行為が労働法に違反する以上、しかるべき権利行使で会社側は利益を得るどころか損失を被ります。

 しかし会社側の意思決定者は、脅迫などの手段で心理的に圧迫を加えれば権利の主張をやめてくれるだろうとタカをくくっているのです。だから態度を軟化させて話し合いの場に着くのを面倒くさがり、力でねじ伏せようとしているのです。

 労働者が権利の主張をやめてくれれば、会社側の利益は最も大きくなります。譲歩も必要なくなります。ひょっとしたら自ら退職してくれるかもしれません(権利を主張する人間を経営者は最も嫌います)。そんな大きな利益?に目がくらみ、強硬な姿勢を崩さないのです。「あと少しで、最も望む結果が手に入る・・・」の一心です。

会社側が「脅迫」する姿勢を崩さない場合の対処法

 会社側が「脅迫」の姿勢を崩さない場合、交渉の継続は極めて難しくなります。ではもはや全面戦争に突入せざる得ないのでしょうか?

 答えは「NO」です。話し合いで解決をするためには、まだ最後の可能性が残されています。上で述べた「会社側が脅迫する姿勢を崩さない理由」をもう一度見てください。

 会社側は、手っ取り早く最大の利益を得たいがために、「脅迫」をし続けて力でねじ伏せようとしているのでしたね。であるならば、その自己中心的な期待を打ち砕くことが脅迫する姿勢を解かせるポイントとなるのです。

 ここで早まってはいけません。「脅迫」に対抗してこちらも「脅迫」で対抗するのではありません。我々が使う手段は、「『脅迫』をし続けた場合にこちらが以後採るべき手段を伝達する」ことです。

「もし私がこのまま『話し合い』を望むことで、社長が私に懲戒理由を当てはめ解雇するならば、私は~という結果を実現するために他の相談機関に話し合いの場を求め続けることになります。相談機関としては、労働基準監督署などの行政機関、または外部の労働組合を考えています。そしてそれらの相談機関を利用しても実現が難しいならば、今度は司法の場で今回の行為を判断してもらうことを予定しています。」

という感じです。一見すると脅迫めいてますが、脅迫では決してありません。こちらは「主張できる権利を主張するために、これから採るべき手段」を相手に淡々と伝えているだけです。

この例の経営者のように「~したならば解雇してやる」という非合法的な手段をちらつかせての心理的圧迫は用いません。合法的な手段の伝達が、非合法的な行動をとる相手の心を結果的に圧迫しているだけなのです。会社側にやましい点が無ければ、手段の伝達は圧迫にはなり得ません。

 手段伝達について、注意点を少し述べましょう。

これから採るべき段階を「淡々と事実ありのままに伝える」ことに徹し、脅迫じみた言動をしない

 この点はとても重要です。こちらはあくまで汚い手段を使わないことで、後に続く公の手続きでの公正性を確保するのです。

 労働紛争においては、「脅迫」している会社側に「脅迫で警察に届けるぞ」などと開き直られることがあります。その開き直りは、こちらの権利主張の意志をくじくための手段であるのですが、心に大きな不安をもたらします。

 強硬な態度にあなたの心は煮えくり立っていると思いますが、今一度冷静になり、淡々と伝達をしましょう。

期限を定めておく

 期限を定めることはとても重要です。しかしこの場合、かけひきの手段としての期限決めとは違います。あくまで、これからの問題解決手続きの一環として、区切りの期限を相手に伝えるだけです。

 「この事実の伝達に対する意思表示を、○○日までに回答ください。」という感じで伝えます。期限はこちらの本気の意思表示でもあります。ダラダラと紛争を長引かせることを防ぎます。

警告をする前に、今一度自分の置かれた交渉力を見直す

 「これから採るべき段階を、淡々と、事実ありのままに伝える」ことも、「○○日までに回答ください」ということも、こちらの状況を見て考えます。

 それはどういうことかと言いますと、こちらに会社側の責任を追及すべき材料、もしくは追及する見通しと計画・態勢が整っていない状態で、採るべき手段と期限の伝達をしないということです。

 そうでないと、交渉への歩み寄りどころか、より一層の圧力を受ける危険が生じます。「脅迫の姿勢を崩さない」状態から、会社側はあなたと対等な立場で話し合うことを望んでいません。

 手続きと期限の伝達を用いた警告が効力を発するのは、こちらの交渉力が相手に伝わった時です。相手が脅迫の姿勢を崩さない場合で警告をしようとするときは、あなたの今の状況をかえりみてください。

 見直すべき点で最も重要なのは、紛争を乗り切るための経済力と、焦点の明確化、そして証拠の有無です。