労働紛争での交渉の特徴~双方が非常に感情的になりやすい
労働紛争の場において行われる交渉の独特な特徴たる「双方が非常に感情的になりやすい」について、具体的な例を交えて説明していきましょう。
この特徴については、ブラック企業との労働紛争を経験した方の多くが、「その通り」だと答えるでしょう。それくらい顕著に表れる現象です。
立場・力関係・会社側の事情そして今回の会社側の行為が、双方の感情を激しくあおる
交渉の場において、会社側はなぜ感情的になるのか?
経営者は労働者よりも地位が上だと思っています。それは被害妄想から言ってるのではありません。平素より経営者の言動を観察していればはっきりすることです。
人間というものは誰でも「他人より優位に立ちたい」という願望を潜在的に持っています。その願望が「他人に対する自慢話の披露」や「他人に対する誹謗中傷」などの行為となって現れます。
友達同士や同僚同士のように、一見上下関係のない間柄でもこの行為は行われます。であるならば、指揮命令権を持った会社側の人間が、その命令に従わなければならない立場の労働者に優越感を持たないはずがありません。
そしてその優越感が、労働紛争の交渉の場において醜いほどの悪態を生みだすことになります。
「下の人間」だと信じて疑わない会社側の人間が、交渉の場で対等な立場で話し合いを持ち掛けてくる・・・そのすべての行為が気に入らないのです。
「お前らは黙って俺の言うことに従ってればいいんだ!」と心の中で思っていることでしょう。ひどい場合、その言葉を面と向かって労働者に浴びせる暴挙に出ます。
交渉の場において、労働者側はなぜ感情的になるのか?
交渉に臨む際には、すでに労働者は不当な仕打ちを受けています。この段階でも心の中は怒りでいっぱいなのに・・・。
それに加えて交渉の場で会社側の不誠実・傲慢な態度をされたら・・・。交渉前にいくら「冷静でいよう」と心がけていても、我慢するのは難しいですね。そして耐えきれなくなって激しい感情をぶつけるのです。
労働者側の激しい反論を受けて会社側の交渉担当者は態度をますます硬化させ、そこには解決の糸口の見いだせないののしり合いが生まれます。
「感情的になりすぎる交渉」に対する処方箋
感情に訴える交渉手法はいいが、感情的になりすぎない。最悪の事態を回避することに交渉を使う。
感情に訴える交渉は、問題ありません。日本人は「理論的に」よりも「感情に」交渉した方が動きやすいと言われています。相手の感情をくすぐるような交渉は大いに活用すべきです。
しかし感情的になりすぎて激しくののしり合うのは問題であります。こちらがののしってしまうと、会社側が態度をより一層硬化させることの理由を作ってしまうでしょう。
交渉の場で会社側に心まで卑屈になる必要など一切ありません。しかしこの場で相手に怒鳴っている暇もないのです。この場に来た目標はただ一つ。相手が望む結果にさせないこと。合理的な基準を示して食い下がり、感情に訴え、最悪の事態を避けることにあります。
相手の持つ「人を見下したい」という願望をうまくくすぐり、とりあえず最悪の結果を先延ばしさせる。
ここでもう一度会社側が交渉の場で感情的になる理由の原因を見てみましょう。『人間が本来持つ「人を見下したい」という欲求が度を越して傲慢に転化し、それがために格下だと思っている労働者に反論されることに我慢ならないから』でしたね。
であるならば、相手の「人を見下したい」という願望をうまくくすぐることで相手に譲歩をさせ、今この場に起こりそうな最悪の事態を避ける可能性を作り出すことができます。
例を一つ挙げて話してみましょう。突然解雇命令が出た場合です。
突然解雇されたら、収入源が断たれ今までのような生活ができなくなりますね。「特定受給資格者として失業保険をたくさんもらいつつ、じっくり転職活動をしたい」という意図がある人ならまだしも、ほとんどの労働者の方が突然職を失うのは最悪の事態だと考えるでしょう。
そこでとりあえず、従業員としての地位を確保しておくために、相手の「人を見下したい・人より優位にたちたい」という願望をくすぐるような交渉をするのです。
「突然の解雇はゆるされないですよ。しかし私にも問題があった。もし会社の目的が人件費の削減であるならば、給料が多少下げられてもいいから、もうしばらくこの場に置いてほしい。突然では生活ができない。」
この要求は、相手に対して慈悲を求めている行為でもあります。このような懇願めいた交渉はプライドの高い人には我慢ならないかもしれません。しかし今は、目的達成のために耐え忍ぶ時。とりあえず今は最悪の結果の一歩手前で態勢を立て直し、次の策を練るのです。
こちらの態勢が整っていれば、もっと冷静な話し合いができるかもしれません。また、こちらも有効な切り札を手にすることができるかもしれません。
感情に訴えて交渉せよ。しかし感情的になりすぎるな。そして相手の「人を見下して優越感に浸りたい」という潜在的な感情をくすぐり最悪の事態を避けよ。そして態勢を整え次の策を練ることをせよ。
交渉における「感情」の沸き上がりをプラスに働きかけるには、この点を常に意識しておくといいでしょう。