ハーバード流交渉術とは?ブラック企業との交渉に役立てる!
ブラック企業との紛争に巻き込まれた時、ネゴシエーター(交渉人)でもない労働者には、会社と議論・交渉するための技術は当然ありません。
交渉技術を持ち合わせていないと、労働者はブラック企業の詭弁ともいえる交渉技術によって、やり込められ、不本意な約束をさせられてしまうかもしれません。よって、労働者も、限られた時間の中であっても交渉技術を身につけた方がいいと考えます。
管理人は、交渉技術を身に付けるならば、「ハーバード流交渉術」を勧めます。その理由は、「ハーバード流交渉術」がシンプルで、かつ客観的基準を重視した交渉をするからです。労働紛争においてこの客観的基準とは法律で定めた基準を指すので、胸を張ってこの基準を武器にブラック企業と交渉できるようになります。
このページでは、「ハーバード流交渉術」の全体的な知識を説明します。
「ハーバード流交渉術」の全体像
「ハーバード流交渉術(原著名:GETTING TO YES)」という書籍の名称を見ると、その内容はアメリカのスーパーエリートが身振り手振りと雄弁な話術で激しい議論を展開する「純アメリカ型」の交渉術のことではないか?と思われそうです。
しかしその内容は全く違います。「ハーバード流交渉術」は、テクニックや激論、勝ち負けに走ることのない、相互満足型の円満交渉術です。
「相互円満型の円満交渉術」・・・?そんなうまい話があるのだろうか?と思われるかもしれません。しかし当交渉術は、以下で紹介する4つの原則を守り、相手を敵とみなさず、問題解決の相互協力者とみなすことでその理念を実現させようとします。当書籍の中ではこの交渉術のことを、4つの原則を心にとめて交渉成功を目指すことから、「原則立脚型交渉」とも呼んでいます。ちなみに、駆け引きや心理戦などで相手より優位に立ち、より多くの利益を得ようとするスタイルの交渉を「立場駆け引き型交渉」と呼んでいます。
その4つの原則とは以下のものです。
- 人と問題を切り離して交渉する
- 立場ではなく、利害に焦点を合わせて交渉する
- 複数の選択肢を用意して交渉する
- 客観的基準を強調して交渉する
これらの原則を実行するには、頭脳明晰である必要はありません。雄弁である必要もありません。そして、テレビアニメのヒーローのような度胸もそれほど必要ないのです。この本で書かれている交渉の技術は、相手を論理的に打ち負かしたり、心理の虚をつくような高度なものは紹介されていません。ですから心理学の知識も必要ありません。交渉界で紹介されている、横文字のキーワードもほとんどないのです。よって物知りである必要もないのです。
では何が必要なのか?それは、「問題解決をしたいという前向きな決意」と、「粘り強さ」だと思います。以下でその理由を説明しましょう。
「問題解決をしたいという前向きで強い決意」はなぜ必要か?
この決意がないと、交渉相手の示すケンカ腰の交渉姿勢に、そのまま反応してしまうことになります。多くの場合、交渉相手は、心の底から問題を解決できると思って交渉に臨んでいません。それは皆さんも含めてそうだと思います。どうせ合意もできないが、まったく話し合いもしないで決まらない、というのでは周りが納得しないから、とりあえず話し合いだけはしてみる、という気持ちです。
そのような考えの相手の交渉態度は、いい加減であったり、傲慢であったりします。こちらに「交渉で事態を打開しよう」という強い決意が無いと、相手のそのような態度にいとも簡単に心が荒らされ、ハーバード流交渉術で説く4原則に沿った交渉が難しくなってしまうのです。
「粘り強さ」はなぜ必要か?
「粘り強さ」は、ハーバード流交渉術でとても必要な要素だと思います。
先ほども書いたように、真剣に問題を解決する気のない相手は、こちらがいくら4原則を守って交渉を進めても、積み重ねた成果を台無しにするような行為(脅迫・強制解雇等)を繰り返します。そのような相手に対し、利害を分かち合い、多くの可能性を探るには、準備・説得・調査・勉強の時間が必要です。
合意を得たいために苦し紛れに譲歩する道に流されないで、法律などの客観的基準だけが我を拘束することを確認しつつ、交渉期間を過ごす・・・。準備・説得・調査・勉強を積み重ねながら。それを可能にするためには、解決の可能性のある場所でとどまる粘り強さが必要です。
「ハーバード流交渉術」を形作る4つの基本原則
人と問題を切り離して交渉する
交渉では、それにかかわる相手の言い分、人格、もしくは交渉中の相手の態度に気を取られ、過剰に反応してしまいがちです。
「ハーバード流交渉術」では、交渉相手そのものを最重要事項にしてしまうと、合意を得ること極めて難しくなると警告しています。
交渉相手の言動・態度・今まで相手にされてきた仕打ち・苦い思い出などに心を取られ、目の前の問題を解決することよりも相手を打ち負かすことを優先すれば、どちらに非があるかにかかわらず、他方の反発を招くことは間違いありません。
ハーバード流では、相手を戦いの相手とするのではなく、目の前に横たわる問題を一緒に解決する協力者として交渉せよ、と論じます。
具体的な方法としては、「相手の立場になって考えることをせよ」「相手の主張を正確に理解せよ」「相手を、問題解決の検討過程に参加させよ」などが紹介されています。
立場ではなく、利害に焦点を合わせて交渉する
ハーバード流交渉術では、自分の立場と相手の立場にとらわれたまま交渉することは合意の可能性を低くする、と述べています。
相手から発せられる主張を分析して、「なぜそれを主張するのか?」を考えることが、相手の利害を理解する第一歩となります。そして時に直接、相手に利害の真意を尋ねます。またこちらの持っている利害もしっかりと相手に説明し理解してもらいます。そうすることで、距離感が縮まり、誤解による関係悪化を避け、信頼関係を築く基礎ができていくのです。
そのうえで始めて、互いの利害を満たす方法を共同で探っていくことができるようになります。
複数の選択肢を用意して交渉する
労働紛争における交渉に限らず、他のシーンにおける交渉においても、当事者が互いの持論や案に固執し相手の利益を軽視し、決定を焦り、選ぶべき範囲を狭めて合意に至らない、という特徴が見られます。
ハーバード流交渉術でも、交渉のこうした特徴を詳細に分析しています。
ハーバード流では、合意に至らない原因として、以下の4つを挙げます。
- (1)急いで判断してしまう
- (2)唯一の答えを探そうとしてしまう
- (3)分け合う利益対象の大きさを一定と決めつけてしまう
- (4)相手の利益まで考えず、自分の利益ばかりに気を取られてしまう
そして、上の4つを克服する方法として、4つの段階を説明しています。
- 【1】発案と判断を分離する
- 【2】選択の幅を広げる
- 【3】共通の利害と、異なる利害を把握する
- 【4】相手が「イエス」と言いやすいようにする
客観的基準を強調して交渉する
ハーバード流交渉術の最後の原則として、客観的基準を強調することが提唱されます。
上に述べた3つの原則だけでは、相手の利益ばかりを重視しすぎて必要以上に譲歩してしまう可能性も高くなります。そこでハーバード流は、互いが「認められた権利以下の合意しか得られない、もしくは認められた権利以上の合意を得てしまう」という不平等な結果を避けるための原則を用意したのです。
また、いくらハーバード流が双方の利害の克服を目指す交渉術だとしても、完全に利害が対立し、独創的なアイデアをもってしても対立を解消できないケースもあります。そのような場合、両者が再び立場駆け引き型交渉に戻り、激しい議論・駆け引き・陰湿や手段が用いられる危険があります。このような最悪の事態を避け、両者が納得できる基準を持つことでそれに沿った合意ができるためにも、この原則が唱えられました。
労働紛争の交渉では、事例によって力を入れる原則が変わる
以上の4原則は、ハーバード流ではどれも欠かすことができないものです。それは労働紛争において交渉する場合も同じです。
しかし労働紛争における交渉では、これらの4原則を念頭において交渉する時、特定の原則に特に力を入れなければならないケースが出てくるかもしれません。
例えば、「傲慢な経営者による強引な解雇」について交渉する場合、「凝り固まった考え」と「両者の間に横たわる激しい憎しみやさげすみの感情」を克服しながら交渉しなければなりません。このケースでは、「人と問題を切り離して交渉する」と「客観的基準を強調して交渉する」に時間を割いて交渉を進めていきたいですね。
このように、問題となっている事例に沿って交渉の計画を立てると、どの原則に力を入れた方がいいのかぼんやりとでも分かってきます。
ではページを改めて、各原則を具体的にどのように応用するかについて説明していきたいと思います。