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ハーバード流交渉術4戦術~立場でなく利害に焦点を合わせよ

労働者と経営者(使用者)は、”使う者”と”使われる者”の違いが産業革命を経て成立してから、長い年月闘争を繰り返してきました。そしてその闘争は今も終わっていません。

これほど明確に立場が分かれ、双方がぶつかり合うケースも珍しいのではないでしょうか?

ハーバード流交渉術の4戦術の2番目の戦術は「立場でなく利害に焦点を合わせよ」です。しかし、これほど明確かつ対局に立場が分かれる労使の闘いの場において、いかに双方の利害の一致点を見いだしたらいいのでしょうか?

原著では、まずはじめに「利害を見分ける方法」を述べ、その後見つけ出した「利害について話し合う方法」を説明しています。それを踏まえ、以下の3構成で「立場でなく利害に焦点を合わせて交渉する」を労働紛争で活かすためのポイントを詳細していきます。

  • 利害に焦点を合わせることの労働紛争での意義
  • 労働紛争で、利害を見分ける方法
  • 労働紛争で、利害について話し合う方法

原著では、交渉を度々失敗へと導く「立場に固執する」という弊害を克服する方法が詳しく説明されます。この弊害を乗り越えると、相手の態度も軟化し、事態の打開につながることでしょう。

このページでは、「立場でなく利害に焦点を合わせよ」について、その内容と労働紛争での活用法も併せて説明していきます。

利害に焦点を合わせることの労働紛争での意義

労働者と使用者という対立する立場同士であっても、利害に焦点を合わせると共存しうる利害を持っている可能性がある

 先ほども書きましたが、労使の対立は、立場が明確に分かれていて、かつ激しい戦いが予想されます。

 しかし対立する両者の言い分を注意深く観察し、背後にある思惑を推し量ると、意外と互いに両立しうる利害を見いだすことができます。

 ここではっきりとさせておきたいことがあります。それは、「立場がまったく逆同士の相手だからといって、互いの利害が常に共存しえないとは限らない」ということです。

 分かりやすく言うと、労働者と経営者という立場が全く違う者のケースであっても、その言い分を主張することになった思惑を注意深く探ると、双方の思惑を互いに満たすことができる場合がある、ということなのです。もっと理解を深めるために、残業代未払いの労働紛争において、利害に焦点を合わせたことで事態が動いた例(実例)を挙げてより詳しく説明しましょう。

実例:残業代未払いで争う労働者と社長の例

労働者の主張

 仕事が忙しくて、定められた残業時間内ではとても終わらない。納期限もあり、これを破るわけにはいかない。あまりに苦しいしこなせないので、2時間以上残業しようとしたら会社から禁止された。それなのに納期に間に合わせろ、との厳命。だから致し方なくここ2か月あまり1時間早出をして何とかこなしてきた。転職を機に、2か月分の早出の代金をもらいたい。

社長の主張

 こちらは定時間内では仕事が終わらないと思ったから、2時間の残業代を払って仕事をしてもらっていた。それなのに勝手に早出した分の賃金までなぜ支払わないといけないのか?

双方の利害に焦点を合わせ、思惑を探る

 このケースでは、残業代を払いたくない社長と、早出残業代をもらいたい労働者とで真っ向から主張が食い違っています。双方が納得できるような話し合いなど、絶望的ではないか・・・?と思いがちですね。ではここで、双方の利害に目を向けてみましょう。

 なぜ社長は残業代を支払いたくないのか?社長は、経営が楽ではないので、これ以上無計画に人件費に充てる余裕がない、と主張しました。そこでもっと掘り下げて本音を探ってみると、残業があったと事前に予想されればこちらも支払いの準備もできるし、早出までしなくて良くなるような対策を立てることもできる、と考えていました。今回の請求に応じてしまうと、これ以後も自身が把握していない残業の賃金を突然請求され、資金繰りの計画が脅かされる、という懸念があったのですね。

 ではなぜ労働者は、早出をするとき黙っていたのでしょうか?探ってみると、早出した時間からタイムカードを打つと、会社に目を付けられると思っていたようです。

双方の思惑を両立しえるような対策を生み出す

 立場より利害に目を向けた結果、ありのままの労働時間さえわかっていれば、今回の残業代請求のトラブル自体回避できた可能性があります。そこで、それを踏まえて対策を考えてみます。

 まず会社側の採るべき対策です。・・・・現状の労働者の仕事時間を正確に把握しておけば、不意の賃金支払い請求を避けられる。そのために、各労働者に正確にありのままの労働時間で労働時間を申告せよ、と通達する。ありのままの労働時間を申告したからといってマイナス査定をしない旨、そして申告していない労働時間に対する賃金は支払わない、とも併せて通達する。それをしておけば、以後、会社側が目安としていた労働時間をひんぱんに超える場合、会社として労働時間短縮のための改善活動をすることができる。

 次は労働者の採るべき対策ですね。・・・労働者は、通達内容通り、実際の労働時間を正確に申告する。そして、上司や同僚らによる会社の予定した残業時間内で仕事が終わらなかったことに対する非難めいた言動があればしっかり記録し、これらの言動がサービス残業の引き金になることを示唆して会社に報告し、改善してもらう。

では、今回の労働者の請求に端を発する労働紛争を、どのように終結させるか?

 問題の所在をはっきりさせ、双方の利害に配慮した対策を打ち立てることを交渉の場で話し合った後は、今回のケースの決着をつける作業に着手します。このケースでは、労働者の必要以上の不安から生じた誤解と、会社の時間把握ミスが原因だと考えられます。そこで、労働者が明確に記録に残していた時間分だけを支払うことで合意しました。その代り、以後会社に報告しないで勝手に行った早出・居残り残業については、記録の無いものとして支払いに応じない、ということで取り決めを行いました。

利害に焦点を合わせ交渉することの最大の目的は、「会社側の合意をとにかく得ること」である

 追記しておきましょう。この実例には続きがあります。

 このトラブル後、当該労働者は退職し、そして記録に残していた早出労働分の賃金の支払いを受けることができました。しかしこの会社では結局、会社が目安として定めた残業時間以上の労働をした労働者に、経営陣らによる間接的な圧力が行われるようになり、サービス残業が当該会社からなくなることはありませんでした。

 では退職した労働者の交渉の努力は空しかったのか?という意見が出てきそうです。しかし労働者は利害に焦点を合わせ交渉することで会社側の合意を引き出し、話し合いだけで未払い賃金分を手にしたのです。この会社からサービス残業がなくなるかどうかは、もはや会社に残った人間(労働者)にかかっています。当該労働者に去った後の職場の健全性まで求めるのは酷な話でしょう。

 労働紛争では労働者の方が圧倒的に不利なケースが多いのです。欲張らず、自らが求める結果だけに絞って、そのための合意を得ましょう。焦点を利害に合わせるのは、ただ合意を得て未払い賃金を得るためだけに行われるのであって、会社に正義の風を吹かすために行うのではないのです。あれもこれも、では、得ることができる結果の内容も変わってきてしまいます。

労働紛争で、利害を見分ける方法

 「立場ではなく利害に焦点を合わせて交渉する」の原則を労働紛争に活用するための第2回目です。このページでは、原著に示された方法を活用して、実際に我らと敵対する使用者の利害を見分ける方法について説明したいと思います。

 原著では、利害を見分ける方法として大きく以下の方法を挙げています。

  • なぜ相手がそのように主張するのかの理由を考えてみる
  • 双方ともが一つの利害だけでは済まないことを理解する
  • 相手の利害を探る時は、「人間の基本的なニーズ」を意識しながら探ってみる
  • 双方の利害をリストアップしてみる

 ではこれらの方法の簡単な解説と、労働紛争の交渉の場でいかにして応用するかのヒントを述べていきましょう。

なぜ相手がそのように主張するのかの理由を考えてみる

概説

 なぜ相手がそのように主張するのかを考えるうえで最も基本的な方法は、自分を相手の立場に置いて考えてみることだと、原著は説明します。

 相手の主張する内容を分析し、そのうえで自分を相手の立場に置き、「なぜ相手はこんなことを言うのか?」の原因を探ってみます。原因から相手の利害を推測するのですね。

 原著では、相手の利害が分かりにくい時、相手に直接質問するのも一つの手だと考えています。

 それに続いて、相手の利害を探る時に、利害を理解するための助けとなる考え方として「相手の主張に理解を示す」姿勢を持つことも手だ、と述べています。この考え方は実はとても重要ですね。我々はともすれば交渉相手の発する主張すべてを否定してしまいがちです。しかし、合理的で理にかなった主張については争いの姿勢を示さず受け入れることで、相手の考え方に近づくことができるかもしれません。

 原著は、相手に質問する時は、殺気めいた「追及」形式は控え、相手の立場・心配事等を知るための建設的な質問態度に徹すること希望しています。

 その姿勢は相手に束の間の安心感を与え、戦いの中でのささやかな歩み寄りを生み出すかもしれません。実際、両者が激しく立場を分けて戦う時ほど、相手を理解したいと発せられた意外な言葉は、予想以上の安らぎと親近感を敵対相手に与えるのです。

「なぜ相手がそのように主張するのかの理由を考えてみる」を労働紛争で活用する

 この方法は労働紛争において実に活用しやすいと思います。まず、会社側が発した通告を分析することから始めましょう。そして、通告だけでなく、話し合いを重ねるたびに相手が発する主張内容も分析の対象としましょう。日頃使用者がつぶやいていた文句・陰口も、分析の対象とします。そうすることで、たくさんの資料に基づいて正確に相手の利害を浮き立たせることができます。

 相手がこちらの主張を受けて反論してくるのには、そうせずにはいられない「核となる理由」があるからです。「核となる理由」はそのまま「思惑」となり、「思惑」は「利害」となって相手の立場を形作ります。

 例えば、毎日3時間残業しているのに「残業代は1時間分しか支払わない」という通告が来たとします。

 通告内容を素直に分析すれば、「3時間も残業していることは明白なのに1時間しか残業代を支払わないということは、人件費の削減をして会社の利益を増やしたいという思惑があるのではないか?」と推測することができます。

 そこでその推測の正否を判断するために、日頃からの使用者の言動に着目するのです。日頃から「経費削減」を口うるさく言ってなかっただろうか?最近会社に経営コンサルタントが来て、意識改革にかかわる新しい職場での習慣を従業員に強要してこなかっただろうか?能力給制度への移行をほのめかす言動をしてなかっただろうか?

 使用者がこちらに通告した内容で、使用者の思惑を推測でき、そこから目的を知り得ます。目的の裏を返せば、高い確率で利害を理解できるでしょう。そして日頃からの使用者の言動の頻繁さ、労働者に対する働きかけの度合いで、利害へのこだわり度をうかがい知ることができます。

 しかしここで注意が必要です。それは、「利害は一つであるとは限らない」という注意点です。そこで次の方法を検討することにしましょう。

双方ともが一つの利害だけでは済まないことを理解する

概説

 原著では、相手の利害を見分ける時のヒントとして「相手の利害は一つだけではないことを心に留めよ」と言っています。

 様々な個人が集まった集団・集合体や同盟組織の交渉担当者はもちろんのこと、一個人が一個人として交渉する場合ですらも、背負っている利害は複数であることが多い注意をうながしています。

 交渉担当者は、ある集合体の代表として参加していることが多いのです。その集合体には様々な意見を持った人間が集まっている。それら複数の人間の要求を一挙に携えて交渉の場に臨むならば、そこには複数の利害が存在することは明らかです。よって相手の利害を探る時は、一つの利害を見つけただけで満足しないことが重要となります。一個人と交渉する場合でも、個人の胸の内にも複数の利害が存在することを心にとどめ、利害を探ります。

 この注意点を労働紛争の交渉でどのように活かすか考えてみましょう。

「相手の利害は一つだけではない」という注意点を留意して、労働紛争の相手方の利害探る

 まず交渉に臨む時、交渉担当者が誰であるか?担当部署(総務課・人事課・法務課等)の一課員でしょうか?それとも担当部署の職長でしょうか?小さい会社であれば、紛争の相手方のトップ自ら(社長・経営者のトップ等)が交渉のテーブルに就くかもしれません。

 交渉の場に出てきた人間が誰であれ、彼(彼女)の心の中には複数の利害が存在します。その傾向が最も顕著なのは経営者が自ら出張ってきた場合でしょう。しかし担当部署の一課員が出てきた場合でも、利害は複数存在すると言っていいでしょう。しかし、経営者から命じられた人間が交渉担者になった場合と経営者自ら担当者になった場合では、利害の性質が違います。

 経験から言って、相手方のトップ自らが出てきた場合の方が利害が探りやすいですね。彼の話す内容や過敏に反応する部分を注意深く探れば、彼の思惑が大体分かります。直接(利害を)聞かなくても分かる場合が多いのです。

 経営者が直接交渉のテーブルに出てこない場合は、利害を知るためにも交渉担当者に質問するのもいいでしょう。担当者も所詮命じられてこの場に来ているだけなので、すんなりと話に応じてくれるかもしれません。ただこのケースでは、最も核となる利害以外は分かりにくいことが多いのです。仕事の一環で来ているだけだから、当該交渉に感情移入をしてないこともあるからです。分かる利害と言ったら、「担当者が、交渉を命じた人間に対して持つ利害」くらいですね。例えば、一課員であれば仕事上での評価を得たいため、社長の望む交渉結果を欲するはずです。その願望がそのまま利害(『任された交渉で、社長の望む結果をなんとしても得る』という利害)につながります。

 上司や経営者から命じられただけで交渉の場に来ている人間とは、まず軽い信頼関係を築くことです。実際に紛争に巻き込まれている人には「信頼関係」という言葉に違和感を覚えるかもしれませんが、軽度の信頼関係であれば築くことは十分可能です。交渉に入る前に、交渉担当者に「あなたとは争う気もない。あなたに怒りの感情もないし、申し訳ないとも思っている。あなたは職務の一環としてこの場に来ているだけだから。だから穏便に平穏に交渉をしたい。」のような趣旨の言葉を投げかけるのです。そうすると相手の警戒心はいくぶんおさまり、「仲良く」とまではいかないにしても穏やかな雰囲気の中で話し合いができるようになります。軽度の信頼関係を基礎に、彼から利害を推測するための情報を聴くことに努めます。

 これらのことを念頭に置き話し合いをしていくつかの利害を知ることができたら、それらをリストアップする過程に進みます(『双方の利害をリストアップしてみる』へ)。しかし利害が分かりにくい場合もあります。一つしか分からない場合や全く分からない場合もあるでしょう。その場合には次のポイントである『相手の利害を探る時は、「人間の基本的なニーズ」を意識しながら探ってみる』を活用してみます。また真の利害を理解するためにも、このポイントは役に立ちます。

相手の利害を探る時は、「人間の基本的なニーズ」を意識しながら探ってみる

概説

 立場から利害を推測する時は、「すべての人を動かす最も基本的な関心」に目を向けよ、と原著は説きます。その”最も基本的な関心”に以下の5つを挙げています。以下の5つを念頭に入れて、相手の切り出してくる要求や反論を分析します。その試行錯誤の繰り返しが、真の利害や分かりにくい利害を推測するために役立つと説明しています。

  • 安全
  • 経済的福利
  • 帰属意識
  • 認められること
  • 自分の生き方を自分で決定すること

 相手方は、これらのうち一つもしくは複数の欲求をもとに形成された利害を携えて交渉の場に臨みます。しかしこれらの基本的な関心事は、基本的であるがゆえに見過ごされやすい、と原著では指摘します。

 我々は、利害と聞くとすぐに金銭的な損得を考えやすいが、実はそれ以外の関心事が様々な交渉の場(国家間の交渉でもしかり)で肝心なポイントとなっていることが多い、と実例を挙げて指摘します。。

『相手の利害を探る時は、「人間の基本的なニーズ」を意識しながら探ってみる』を労働紛争で活用する

 これは分かりやすい指摘ですね。あなたの身近な場で、自分もしくは他人の交渉を眺めてみると、双方が上の5つのタイプの欲求を基にした要求・反論だとすぐにわかるはずです。

 最もわかりやすい例である「賃金カット」を材料にして検証してみましょう。我々が賃金をカットされ反論する時は、なぜ反論するのでしょうか?法律等で賃金の一方的な減額が許されてないから?もっと根本的な理由があります。それは経済的な福利が減少し、生活が困窮する危険が出てくるからです。生活が困窮すれば、穏やかで安全な日常が脅かされます。つまり労働者は、上の5つで言えば「安全」と「経済的福利」という二つの基本的欲求に基づいた反論をしているのですね。

 それはそのまま利害に直結する傾向にあります。この分析で得た基本的欲求を満たしてあげるような、もしくはこれに配慮した提案をすれば、交渉は大きく進展することになるのです。

双方の利害をリストアップしてみる

概説

 原著では、最後に「双方の利害をリストアップしてみる」という作業を提案しています。当ページで今まで述べてきた「利害を把握するための方法」で浮かび上がってきた利害をとりあえず記録しておきます。

 交渉の場で取り上げられ、もしくは表面化した双方の利害をリストアップして視覚化することで、互いの利害の関係性や共存が可能か否かが分かりやすくなる可能性が生まれます。

 リストアップを常にしておけば、リストを後日詳細に吟味することができ、状況打破の妙案が生まれることもあるでしょう。

『双方の利害をリストアップしてみる』を労働紛争の交渉で活用する

 双方の利害をリストアップすることは、労働紛争における交渉を整理するためにとても重要です。話し合いの中で知った利害は当然のこと、人から聞いた利害めいたものまで、逐一リストにアップしておきましょう。

 なぜか?労働紛争の交渉では、数少ない交渉の機会の中で、いかに会社側に聞く耳を持たせるかが重要です。少ないワンチャンスの中で相手の心を引き留めるためには、一番最初の交渉で双方にとって最も納得できる可能性の高い案をちらつかせることが重要です。労働紛争では、2回目の交渉がある保証は全くありません。まともな話し合いもないまま、いきなり交渉の場になるケースもあります。ですから、人から聞いた噂話も参考にして、一番最初からクリーンヒットを狙うのです。

 リストアップした利害が5個あるとします。Aという案とBという案があり、A案は3つの利害を満たし、B案ならば4つの利害を満たす。この場合、最もクリーンヒットとなる可能性の高い案はB案になります。このようにしてリストを活用するのですね。

 この方法がベストの案を選ぶ保障はありませんが、しかし高い確率にかけることはいつも場合もセオリーと言えるでしょう。

労働紛争で、利害について話し合う方法

 利害について話し合う方法について、原著では、以下の6点のポイントを挙げています。

 以下で上記6点について、各自のポイントの説明と労働紛争における活用法を説明していきたいと思います。

「自分の利害を生々しく伝える」の内容と労働紛争における活用法

内容

 今自分がさらされている問題、直面している問題を、具体的に、リアルに、生々しく説明することが重要だ、と本著は述べます。

 具体的な内容を伴った話は、信ぴょう性と迫力を付与します。あいまいで想像することが難しいような話内容では、相手方はあなたの利害・問題を想像することはできないでしょう。

 「答えの前に問題を示す」でも述べますが、ハーバード流交渉術においては相手方に今抱えている問題から話し始めます。その内容が具体的でリアルなものであると、相手方は話し手の訴える問題点について軽視することが難しくなり、否が応でも問題に真摯に向き合わざる得なくなります。

「自分の利害を生々しく伝える」の労働紛争における活用法

 労働紛争においては、相手方(会社側)は労働者と対等に話し合う気が乏しいのが一般的です。こちらの利害を生々しく、切実に伝えることで、相手方の気持ちをこちらに向けることを目指しましょう。

 会社側の行為の違法度が高ければ高いほど、労働者側が受ける不利益は大きくなります。労働者は、今回の行為で受ける不利益について、時間をとって整理し、内容に具体性を付与し、余す所なく伝えていきましょう。

 「今回の賃金の減額は、ギリギリの収支状態で暮らす私たちにとって、とても不安なものです。来春における子供の大学進学のための貯蓄をしていたのですが、貯蓄はもちろんのこと、生活すらままならない状態となってしまいます。」のように、遠慮することなく、自身の現状を話していきます。

「相手方の利害を問題の一部として認める」の内容と労働紛争における活用法

内容

 人は、己の利害については大いに関心を示しますが、相手方(特に、対関係にある相手方)の利害については、真剣に考えることをしない、という傾向にあります。

 本著では、この傾向をしっかり利用することを提案しています。つまり、相手方の話をしっかりと聴き理解している姿勢を示して、以下のように思わせるのです。

 「この相手は、私の利害について理解してくれている。普通、他方の利害など考慮しないものだが、この人は考慮してくれている。この人は、同情心と知的さを備えた人だ。この人の意見は、しっかりと理解しなければならない」

 このように思わせると、相手はこちらの話を理解しようとしてくれるのです。そのうえで、こちらの利害について述べます。その時、相手方の利害と一致している点を絡めて述べることを教えています。その姿勢こそが、「相手方の利害を問題の一部として認める」行為なのです。

「相手方の利害を問題の一部として認める」の労働紛争における活用法

まず、会社側に対して、今回の行為をなぜ行ったのか、理由を聴く

 会社側の利害を知るためには、交渉の場、もしくは話し合いの場において、建前でない本音の理由を聴きだす必要があります。

 労働紛争においては、会社側の人間は、労働者に辞令(もしくは通知書)を出した時点で、問題は片付いたと考える傾向があります。そこで示された通知内容が不利益変更を伴うものである場合、労働者の同意なくして効力を発生することはありません。しかし、それは裁判上の話であって、そこの会社内では有効なのです。

 よほど大掛かりな賃金未払い事案でない限り、労働基準監督署が動くことはありません。私たちは、自らの力で、会社に、今回の行為をなぜ行ってきたのか?を尋ねる必要があります。

聴いた理由を整理して、会社側の人間に、確認を求める

 たとえ聴きだした内容が本音でないと感じても、私たちは、その場で会社側の利害を整理し、相手にその内容の確認を行います。

 「今回の賃金の減額は、私個人に対する嫌がらせの意図で行われたのではなく、会社の経営難からやむを得ず行われたものなのですね。会社側の考えとしては、人件費を削減して経費を浮かせ、あなた方のいう『危機的な状況』を脱する意図なのですね。」のように、会社側の人間から聞かされた回答内容をその場で自分なりに整理要約し、伝えます。

 この作業の目指すべきところは、相手方の利害をこちら側が理解している、もしくは理解しようとしている、という点を示すことです。もちろん、相手方の利害を理解することも重要な作業ですが、相手方が建前で煙に巻いている可能性もあるので、ここで利害を完全に把握することに過度の期待はしません。

 こちら側が理解している、もしくは理解しようとしている、という姿勢を示すことで、会社側の人間は、眼前の人間が「話せば分かる相手」であると感じるようになります。

最後に、こちら側の利害について、会社側の利害と一致する点を示しつつ説明する

 会社側の述べた利害を聴き、それを確認する作業を終えたら、次はこちらの利害について述べる番です。

 注意点としては、こちらの利害を述べる場合は、その一部について、会社側の利害と一致する点を明確に示すことです。そうすることで、会社側にも、労働者側の利害について考慮する気持ちを起こさせるのです。

 会社側の人間に、労働者の利害と一致している点があることを分からせれば、会社側の選択肢に、「労働者の言い分を考慮して、労働者と一致する利害を満たすことでこちらの利害も満たし、問題を穏便に終わらせる」という項目が加わる可能性が生まれます。

 一致している点を述べなければ、いつまでたっても会社側の選択肢には、会社の利益を満たすような選択肢しか存在しません。

 労働紛争が発生し、その手続きの煩雑さやストレスにさらされた経営者は、本来の希望を100%満たすような選択肢よりも、最小限でもこちらも利益を得られる選択肢を採ることを望む可能性が高くなるでしょう。

「答えの前に問題を示す」の内容と労働紛争における活用法

内容

 本著においては、「答えの前に問題を示す」点については、「~すべきである」という強い口調で推奨しています。

 相手方と交渉するとき、こちらの要求を先に述べてしまうと、要求の後に言及する「要求をすることの理由」について、相手方は耳を傾けてくれません。なぜかというと、要求されたことに瞬時に反発心が湧き、心中で反論ばかりを考えているからです。

 要求された相手にとっての最大の関心ごとは「要求された話をいかに確実に拒否するか」であります。反発心を持った時点で、交渉相手の正当な理由など、全くの無関心事と化すのです。

 このような事態を回避するための最大の手段として、本著では、まず先に問題を相手に示すことを勧めているのです。あなたの話す幾多の問題点を聞かされた相手は、そこで事態の切実さに気持ちを揺さぶられるため、問題点の後に聞かされる要求について、正当な要求として耳を傾けざるを得なくなるのです。

「答えの前に問題を示す」の労働紛争における活用法

 交渉という名の場に限らず、上司や経営者と話し合う機会がある時は、この方法を是非とも利用しましょう。実は「答えの前に問題を示す」は、実行が容易で、かつ効果の高いポイントなのです。

 労働紛争が発生した場合は、すぐさま、あなたに降りかかる最大の問題点を整理します。そして、その問題点を箇条書きにします。そして、箇条書きにリストアップされた問題点を、より具体的で生々しい表現に変えていきます(ウソや、話を盛ることは止めましょう)。

 そのリストは、常に携帯しておくとよいでしょう。不意の話し合いの機会に、それを読みながら訴えることができます。

 話し合いの時は、以下のように切り出していきます。

 「今回このような場を設けていただいたことを感謝します。今日は、まず、今回の会社の辞令によってわたくしたち家族がさらされることとなった切実な問題を知ってもらいたいと思います。どうか、一通り聞いてください。」

 間違っても、「今回の会社側の通知は、労働基準法第○○条に反しますよ、撤回してください」のように切り出さないことです。たとえその言及が的を得ていようとも、その言葉が発せられた瞬間、会社側の人間は反発心をあらわにし、あなたの話を聞かなくなるでしょう。

「後ろ向きではなく前向きになる」の内容と労働紛争における活用法

内容

 問題の解決よりも、相手を打ち負かすことにこだわっています。その気持ちが強いので、相手を理解しようなどという考えも湧いてません。相手方が話をしているとき、相手の言動ひとつひとつに対して、どのようにうまく反発して打ち負かすか、ばかりを考えています。

 このような姿勢で相手とうまく合意することなど不可能に近いでしょう。そもそも、多くの人は、交渉において合意すら目指していません。

 多くの人は、交渉とは「対決の場」、または「仕返しの場」であるのです。相手をぎゃふんと言わせるための対応を、常に頭の中で巡らせています。そして、いかに自分にとって有利な合意を取り付けるか、を画策しているのです。

 本著では、過去に行われた言動にとらわれることよりも、未来のためにできることは何かを考えた方が建設的だ、と説いています。それが「後ろ向きではなく前向きになる」ということなのでしょう。

「後ろ向きではなく前向きになる」の労働紛争における活用法

 感情的になりがちな労働紛争における交渉では、不当な行為をした張本人である会社側の方が対決姿勢を前面に打ち出してきます。労働者が反発したことが気に入らないが故です。

 そのような状況で労働者側が同じような姿勢で臨むのであれば、交渉は間違いなく決裂するでしょう。売り言葉に買い言葉になるのは目に見えています。

 不当な行為をしてきた会社と建設的な話をすることは、不当な行為の度合いが激しくて受けている不利益の程度がひどいほど苦痛を伴います。しかしここは交渉の場であります。交渉とは、話し合いによる合意を模索する場です。対決は、交渉決裂後の裁判や労働審判などで行えばいいのです。

 まず我々は、会社側の交渉担当者に、以下のような宣言をします。

 「私は、今回の話し合いにおいて、法律の基準に依った水準に戻してもらうことを希望します。私は、対決など望んでいません。私が望むのは、法律の基準にもとづいた賃金の改定ですから。」

 過去に行われた不当な行為に対する憎しみの感情は、今は置いておきます。過去に受けた仕打ちに対し心を囚われるのは、前向きな姿勢とはいえません。互いが納得出来得る結論を目指す将来に向かった話し合いこそが、前向きな姿勢として活きてるのです。

「具体性と共に柔軟性を持つ」の内容と労働紛争における活用法

内容

 本著では、自分で考えた複数の選択肢を、それぞれ「複数ある選択肢の中の一つ」として扱うこと、そして、自分の希望を満たすような案を多数用意することを説いています。

 そして自分で考えた各案は、問題提起の場合と同じく具体的であることが重要点だとします。

 そして、自分の希望を満たすような案を多数用意すること。その中でお気に入りの案があったとしても、それに固執しないこと。

 

 

「問題に対しては強硬に、人に対しては柔軟であれ」の内容と労働紛争における活用法